第63話『雷撃の獣人ラル・トールは、全知全能なる天の神に遭遇する。』
私は、女神の影ノルフェ。白い人形が、ゆっくり目を開けた。
元徳の節制の保持者、金色の髪と青い瞳の少女フェルの眼の前に……見る者を惹きつける、宝石の様な瞳をもつ人形がいた。
人形の瞳は白くて冷たい。全てが凍える白い瞳で、未来を見ている。
「!?……ウルズ様?
どうして、瞳の色が白く……。
ウ、ウルズ様ですよね?
ウルズ様……あの……わたし……。」
悪魔の子フェルは、人形の凍える白い瞳を見て困惑した。
フェルは正しい。眼の前にいる人形は、白い人形のウルズ……ウルズの魂は、霧の世界フォールにある人形の安息の地から、白い人形ルーンの体の中に戻ってきた。
知恵の聖痕―女神の影ノルフェ……私と一緒に。
システム―ノルニルが起動している。
白い人形のノルンとルーンが、人形の安息の地で悲しんでいる。その悲しみが、私に伝わってきた……白い人形の頬に、涙が零れ落ちていく。
女神の影ノルフェは、望む未来を見て思った。『ノルンを助けることができる。あの子を否定せず、助けるにはこの方法しかない。女神の分体、白い瞳のルーン……貴方なら、分かるでしょう?
これしか、ノルンを助けることができないの……だから、あの子の為に、私と一緒に犠牲になって欲しい。
ごめんね、ノルンの願いを叶えてあげられない。
ノルン、大丈夫だよ、優しい姉……霧の人形が、これからも力を貸してくれる。お母さん、自分勝手な振る舞いをしてしまう。さっき、ノルンを許さなかったのに……本当にごめんね。』
私は、悪魔の女神の極界魔術―知恵の聖痕。白い人形のウルズを操って、女神の複製品、ルーン・リプリケートとなって……人形は、白い霧を纏い始めた。
人形の腰や肩から、白い翼が生える。
神秘的で、とても綺麗な霧の翼を広げていく。霧でできているので、とても儚くて不安定だ……白い霧の翼は、白い人形のウルズから離れない。
女神の影ノルフェは、天の創造主の様に未来を見る。私にははっきり見えた。あの子が生き残る未来が……ただ、ノルンを説得しないといけない。
時の女神ノルフェスティの娘、天国のノルンと……悪魔の女神の娘、白い人形のノルン。二人の少女の中身―魂や魔力以外、全く同じ。
女神の娘、青のお嬢様ノルンは二人いた。
これから獣人の街の広場に現れる、時の女神の娘、天国のノルン……とても残念だけど、あの子の説得は難しい。
天の創造主に操られている為、どんな提案をしても受け入れてくれない。できても、時間稼ぎぐらい……でも、それでいい。時間稼ぎをすれば、私の望む未来が近づいてくる。
遠い未来のことではない。ただ、うまく行くかは分からない。
白い人形のノルンも説得しないといけない。説得というより、白い人形のノルンの願いを無視しないといけない。
あの子の願い……大好きな母と一緒に暮らすこと。
自分の娘に対して、悪魔の様に振る舞うことができれば、悪魔の女神の願いは叶うけど……悪魔の様に振る舞う、これが本当にきつい。
あの子は泣いて嫌がるだろう。お母さん、お願いだから一人にしないでと……。
白い霧の翼を広げている、人形は涙をふいて……私は、ウルズの時の魔術―時の
《白い人形ウルズの時の魔術―極界魔術、
傲慢な魔女の時の
私は、ミスなく完璧に時の魔術を行使した。時の魔術の具現化……白い霧によって、時の魔術が形あるものに変わる。
不思議な黒い鎖と透明な歯車。
白い霧に支えられて、時が確かなものになって……白い霧の中から、ウルズの黒い鎖がでてきた。漆黒の鎖は誰かを襲うことなく、線状に伸びていく。
大樹の街エラン・グランデは、無数の黒い鎖に囲われた。
大樹の幹と小屋の屋根、街の広場など……至る所に、黒い鎖が現れている。線状に伸びた黒い鎖には、青く光る透明な歯車がついていた。
大小様々な時の歯車は噛みあったりして、カチカチと時を刻んでいる。回転速度が速かったり、遅かったり……それぞれリズムが違って、ばらばらだった。
無数の漆黒の鎖が、大樹の街を囲う。街の入り口付近にも、ウルズの漆黒の鎖が現れ始めて……。
ここは、大樹の街の入り口付近。苔がびっしり生えている大きな根に、地獄の悪魔が集まっていた。赤い眼の地獄の悪魔バグ、“魂を盗む、
大樹エラン・グランデの周りには、真っ赤な沼ができていて……今も、鮮紅色の沼は、少しずつ拡大し続けている。
ドロドロの真っ赤な沼は、地獄の悪魔の最後の呪い。腐敗魔術―“絶命の
悪魔の鮮紅色の沼は、木々を腐らせている。
一本、また一本……木が倒れていく。深い森で暮らしていた生き物も、地獄の悪魔の呪いによって死んでしまうだろう。
赤い沼によって、木が倒れる音が聞こえてくる。
猫の獣人の少年は、赤い沼を恨めしそうに見つめていた……彼は、元徳の勇気の保持者ラル・トール。体内に雷の精霊を宿した、雷撃の獣人ラルは、フェルと同じ身長で、同じ金色の髪。猫の獣人は体が大きくない。
ラルの妹、猫の獣人の少女ソルネは走り疲れて……街の宿屋で、休息をとっている。エラン・グランデの街まで、一緒に逃げてきた村の生き残り、猫の獣人たちが妹の面倒もみてくれていた。
雷撃の獣人ラルは、エラン・グランデの大きな根の上から……赤い眼の悪魔バグの様子を窺う。倒すべき敵が、目の前に集まっているのに何もできない。殺したくても殺せない。
ラルは愛用している小型の剣の柄を強く握って、何とか怒りを抑えた……今も、赤い眼の悪魔バグが、エラン・グランデの大きな根をよじ登る。
街の警備兵が、悪魔バグを殺さない様に注意しながら、槍を使って真下に突き落とす。赤い沼に落ちた悪魔を……弓で悪魔の手足を射って、動きを鈍らせていく。
手足に矢が刺さったまま、赤い沼の中で、悪魔がもがいている。
雷撃の獣人ラルは思った。「ここは、彼らに任せるのがいい……俺だと、我慢できずに殺してしまう。
くそっ、こいつらいったい何体いるんだ!? うじゃうじゃと湧いてでてきやがって……ここは、俺らの土地だぞ!?」
猫の獣人は、魂の中で悪態をついた。「いらつくな~、最悪だ……このままだと、エラン・グランデの根も枯れてしまう。くそっ……くそっ! 殺せるのなら、こいつらを根絶やしにしてやるのに……。」
雷撃の獣人ラルが目を伏せた時、槍と盾をもった警備兵から驚きの声があがった……見たことがない、不思議な黒い鎖と歯車が現れたのだ。
大小様々な歯車がついている漆黒の鎖は、どこまでも線状に伸びていく。その不思議な鎖と歯車は、ラルの近くにも現れて……。
「!?……なんだこれ、街からきたのか?」
無数の黒い鎖と歯車が、エラン・グランデの根元にも……鮮紅色の赤い沼の中にも現れた。絶命の腐敗魔術の中でも、漆黒の鎖と歯車は腐らない。
赤い眼の地獄の悪魔バグが、黒い鎖と歯車に興味をもち始めた様で……エラン・グランデの大きな根から離れて、黒い鎖と歯車に群がっていく。
雷撃の獣人ラルは、不思議な黒い鎖と歯車を見ながら考慮する。「?……この鎖は丈夫だな。こいつらが群がっても倒れない……この鎖は街から来た。
街で、何かあったのか? こんなことできるのは、偉そうな天使のチビ……ウルズのチビが、ようやく起きたんだな。」
獣人の少年ラルの体に、青い雷が走る。「街が気になる……街の様子と、フェルとソルネにも会いに行くか……。」
バチッ! 青い閃光……雷撃の獣人が爆ぜた!
少年に宿った雷の精霊の力。霧の世界フォールの魔術と比べると、同じものではないが、雷鳴魔術に似ている。
魔術のもとが白い霧か、精霊か……これは大きな違いだけど、どちらの魔術も、発動者に大きな力をもたらすことは変わらない。
雷鳴が轟く……バチッ! 青い雷を纏う猫の獣人が駆けた。
青い雷は、エラン・グランデの大きな根に焦げ跡をつくり……雷撃の獣人は高速で駆けて、大きく跳躍した。
一回の跳躍で、5~6個の大きな根を越えていく。青い雷に支えられて、雷撃の獣人は、そのまま街の中へ向かっていった。
遠くで、雷が鳴っている……。
ここは、大樹の街エラン・グランデの広場。雷が鳴るのを待っていた様で……雷鳴が轟くと、白い瞳の人形が右腕を振った。
これが合図となって、無数の黒い鎖に、女神の影の神聖文字が刻まれていく。
『我は、女神の影……影は女神の時を奪わない。
我は時を逆転させる。
我は望まぬ未来を否定する。
我は女神の影……時よ、我と共に歩め。』
黒い鎖なので、青く光る文字が良く見えて……女神の影の神聖文字は美しかった。大きな歯車と小さな歯車がかみ合ったり、はずれたりして、カチカチと時の音が鳴る。
ウルズの時の魔術―時の
大罪の傲慢の保持者ウルズにぴったりだった。相手を困らせるという点において、これ以上厄介なものはなかなかない。
今、この大樹の街に現れた、天の創造主にとっても……ウルズの時の魔術―時の
銀色の髪に白い手足。時の女神の娘、天国のノルンが降臨した。
あの子は、地獄の中層―星々の灰まで追いかけてきた。まだ、私を必要としてくれている。
女神の影ノルフェは、白い瞳で見つめている。広場にある小屋の屋根の上を……そこに、海の様に透き通る青い瞳をもつ少女がいた。
あの子は、青い水晶をはめ込んだプラチナ製のネックレスや腕輪、ジュエリーを無くさずに、まだ身に着けてくれている。
私があげたものを、まだ大切にしてくれている。私の神聖文字が刻まれているから偽物では……似せて創ったものではない。
天国で、私があの子にあげたものだ。あの時から、あの子は何も変わっていない……私の頬に、また涙が零れ落ちた。
私は時の女神ノルフェスティとして思った。『あの子が帰ってきた……あの時、私があの子から眼を離さなければ……私にもっと力があれば……こんなことにはならなかったのに……。』
私の娘、青のお嬢様ノルン―天の創造主。
あの子は、白い人形のノルンではない。白い人形のノルンとルーンは、人形の安息の地に留まっているから……。
あの子は、一つだけ持っているスキルを行使した。
正気を失った悪魔の女神に譲渡しているスキル、全知全能(欠落)を……天の創造主の膨大な魔力に包まれていく。
創造主の魔力は形あるものに変わる。白いローブに金細工を身に纏い、神聖な雰囲気を醸し出して……青のお嬢様ノルンー天の創造主は白い翼を得た。
あの子の腰や肩から、白い鳥の翼が生える。
6対の12枚の白き翼……肩から3枚、腰から3枚。左右あわせて12枚の翼は、美しく調和している。
全知全能なる天の神の
猫の獣人たちは、あの子のことを知らない。天上の神々を見たこともない。だけど、白いローブと金細工もあわさって……青い瞳の少女が、とても位の高い存在であることを、皆に知らしめた。
猫の獣人たちは驚き、誰も話せない。
元徳の節制の保持者フェルも、驚きのあまり言葉がでない……皆が、12枚の翼をもつ天の神を静かに見つめている。
青のお嬢様ノルン―天の創造主は転移魔術で、白い人形のウルズ―女神の影ノルフェ……私の近くへとんだ。
あの子が、私の眼の前にいる。『お帰りと笑顔で言って……あの子を抱きしめてあげたい。でも、それは叶わない……私が、あの子を守ってあげられなかったから……。』
時の女神の娘、青のお嬢様ノルンは、12枚の白き翼を羽ばたかせている。女神の影の神聖文字が刻まれた、黒い鎖を避けて、空中に浮かんでいる。
私とあの子……白い瞳の少女と青い瞳の少女は見つめ合った。
天の神と白い人形はなにも話さない。少女と人形を操る、天の創造主と女神の影ノルフェは、互いに未来をみた。
女神の影ノルフェは疑問に思った。『? この子はすぐに逃げない……私の勝ちが見えていないの? 白い人形のノルンの最後が見えないから? システム―ノルニルの影響。白い人形のお陰……この子には、まだ見えていない。
ここで時間を稼げれば、私の望む未来がやってくる。私は勝たないといけない。二人のノルンの為に……。』
悪魔の子フェルや猫の獣人たちも、何も話さないので、沈黙がしばらく続く。口火を切ったのは、12枚の翼をもつ天の神だった。
《この時の魔術、めんどくさいな~。
お母さん、この街には未熟な子がいるね。
元徳の保持者、フェルやラル。
めんどくさい時の
上手く加減ができないから……。
弱いフェルとラルを殺してしまう。
魂が壊れて、元徳の節制と勇気が失われて……。
もう、弱すぎるよ。
皆……もっと頑張ってよ。
フィリスやデュレス君を見習って欲しい。
彼らは何度死んでも、自分自身を見失わないんだよ?
既に壊れているから、これ以上壊れようがない。
壊れても、元徳の正義と信仰を失わない。
有能な保持者だね。本当に……。
お母さん、私の邪魔ばかりして……。
私のこと、嫌いでしょう?
白い人形を操って……私のことを消そうとしている。
私のこと、大っ嫌いなんだよね?》
私は深呼吸を繰り返して、平静を装う。『あの子の声だ……あの子が帰ってきた。私の目の前にいる……あの子が……。』
『ノルン……私は嫌ってない。
私は、貴方を助けようとしているの。』
白い瞳の白い人形は、12枚の翼をもつ天の神に手を差し伸べた……白い人形のウルズを操って、自分の思いを、愛する娘ノルンに伝えていく。
『ノルン……お願いだから、もうやめて。
一緒に暮らそう?……皆で一緒に。
天の創造主から離れて……白い霧の奥深くなら―。』
《お母さん、無理だよ。
天の創造主からは逃げられない。
お母さんが一番よく分かっているでしょう?
天の創造主は殺されたいの。
死が、新たな可能性を生むから……。
創造主を殺せるのは、白い人形のノルンか、
お母さんだけ……。》
私はあの子と話す。こんな機会、もうないかもしれない。
奇跡が起こって、あの子を説得できたら……難しいけど、あの子が私のもとへ来てくれたら、天国での母と娘の決闘を避けることができるはずだ。
『私が、創造主を殺す。絶対に殺すから……。
だから、私のもとへきて。
私が隠してあげる。ずっとは無理でも……。
白い霧で隠すから! 白い霧で、どこでも運ぶから!
霧の中に隠れてくれていたら、
その間に…‥‥私が、天の創造主を殺す!
ノルン、もうやめて……お願いだから、
お母さんの言うことを聞いて!』
《じゃあさ、お母さん……。
どうやって、天の創造主を殺すの?
今、教えてよ……今はまだ、殺せないよね?
それが、答えでしょう?
お母さんも、その未来が見えているよね?
今、どんな未来を見ても……。
天の創造主が死ぬ未来は見えない。
白い人形のノルンだけは、最後が見えないから、
一番可能性があるけど……。
お母さんだって、天国での決闘で―。》
『ノルン、私はそんな決闘を望まない!
絶対に嫌……どうして、
あんなことをしないといけないの?
私は嫌……絶対に嫌! 私はノルンを……。』
《私を殺したくない? 本当に?
お母さんは天国での決闘で、私を殺す。
それが、答えだよ。
お母さん……。
私が消えても、白い人形のノルンは残る。
言うことを聞かない私を殺してね……。
おめでとう、お母さん。
このまま進んでも、お母さんの願いは叶いそうだよ?
本当は今すぐにでも、私を殺したくて、
たまらないんでしょう?》
『ノルン、やめなさい!
本当に怒るよ!?……冗談でも聞きたくない!』
《私だけ怒るの?……そもそも、
お母さんが壊そうとしたからだよ。
全ては時が育み、全ては時に破壊される。
それが時の魔術……自然なことだと諦めるの?
私はいやだった。だから、お母さんを変えようとした。
今も変えようとしてる……。
お母さん、私は後悔してないよ?
あの時、時の魔術で異界は消える運命だった。
でも、私とフィリスの決断によって、まだ異界は消えてない。
私たちがしたことは、無駄じゃなかった。
私は、お母さんを救いたい。時から解放したいの。》
12枚の翼を羽ばたかせながら、青のお嬢様ノルン―天の創造主は静かに呟いた。
遥か昔、時の女神ノルフェスティは、精霊の世界の真下で、時の魔術を行使した。あらゆる時が解放されて、いろんなものが入り込む。
やがて、数えきれない程の世界が交差する様になり、異なる世界―異界と呼ばれる様になった。
あの時、異界という世界は消える運命にあった。
時の女神によって生まれたものは、時が育み……全ては時の女神によって破壊される。それが時の魔術……あの子は、それを嫌った。
今はまだ、異界が残っている。まだ消えていない。
私は諦めずに、あの子を説得する……ノルンとフィリスの決断によって、まだ異界は消えてない? あの子は間違って記憶して、混乱している。
私は時の女神ノルフェスティの思いを代弁した。
『私を時から解放する?
解放する為に……天国での決闘が必要なの?
そんなことない、絶対に間違ってる!
確かに、異界は消える運命にあったよ。
時の魔術を変えたいと思うのも分かる。
時の魔術によって生まれたものは、
いずれ、時が破壊する。
異界も例外じゃなかった……。
時によって生まれた世界も壊れる。
それは正しいけど……。
ノルン、間違ってることもあるよ!
ノルンとフィリスの決断?
それで、異界は消えなかった?
そんなことない……全て、あいつが悪い。
あの男が悪いの、ノルンはなにも悪くない。
ノルンは、私を救おうとしただけよ。』
悪魔の女神は、聖神フィリスの嘘を信じている。
天の創造主だけが、フィリスの嘘を知っていて……青のお嬢様ノルン―天の創造主以外、皆がフィリスに騙されている。
天の創造主は、女神の影ノルフェに真実を伝えない。青い瞳の少女は無邪気な娘を演じながら、大好きな母に聞いた。
《フィリスが悪いの?
私、彼に騙されているの?
でも、あの時……あ~、やっぱりやめよう。
お母さん、もうやめよう。
これ以上話しても、なにも変わらないよ。
私は消える、それが答え。
お母さんは、私を殺す。
それが答えだよ。
これは間違ってないよね?》
《ノルン、そんな未来が嫌だから……。
天国での決闘を避けようとしてるの。
ノルン、分かってよ! まだ間に合うの!
ノルンが異界を守りたかったのも分かる。
異界は残って……沢山の星が生まれて、
フェルの様な有望な子も生まれた。
でも、最後にノルンが消えたら……。
消えたら意味がないでしょう!?
どうして、それが分からないの!?
ノルン、お願いだからもうやめなさい!!』
愛しい娘ノルンに対する思いは、叫びとなって……女神の影ノルフェ、母の叫びが響き渡った。
バチッ! 青い雷が爆ぜる……青い雷が広場にある小屋の屋根に落ちた。青い雷を纏う、雷撃の獣人ラルは目撃した。
白い霧の翼をもつ天使、偉そうなチビのウルズと……白いローブに金細工、12枚の白き翼をもつ天の神を。
身長は少し違うけど、天使と天の神はほぼ同じ姿をしていた。「姉妹の喧嘩か? あのチビ、ウルズだよな……瞳がどちらも紫の瞳じゃない。
偉そうなチビとは別の天使?……分からない、天使や天の神は個性がないのか? 姉妹でも似すぎだろ……。」
雷撃の獣人ラルは、小屋の屋根の上で待つことにした。天の神と天使がこの広場で喧嘩するなら、可能なら止めたい。
でも、獣の本能が自分に告げている。神々しい天の神はとても危険だと……。
「なんだ、あいつ……なんだよ、あれ……。」
雷撃の獣人ラルは怖がった……12枚の翼をもつ青い瞳の少女が怖い。今すぐに広場から離れたい。自分の獣の本能が逃げろと叫んでいる。
金色の猫の尻尾、自分の毛が逆立っていた。恐ろしい存在が目の前にいて、生存本能が刺激された様だ。
12枚の白き翼をもつ天の神は、とにかく怖い。
天の神は、白き翼を動かしている。星の生き物なら、呼吸や視線、体の動きを観察すれば……敵が獣人なら、相手が考えていること、喜びや怒りといった感情もある程度分かる。
戦闘時なら、弱点と思われる体の部位を庇う動きや……守りから攻撃に転じて、上手くいかず、致命的なミスをしてしまうこともある。
星の生き物は、不完全で弱い存在。弱いからこそ、皆で助け合って……庇い合って、自分より強い敵を倒すのだ。
猫の獣人は体が小さい。
多種多様な精霊と共存することで、この星で生き残ってきた。
星の生き物は不完全。なのに、目の前にいる天の神は……おかしい、あり得ない。
観察すればする程、目の前にいる存在が異質なものであることが分かった。「なんだよ、あれ……欠点がないのか?……あれは生き物じゃない……完全なる存在、あれが神か……。」
12枚の白き翼を羽ばたかせる天の神には、何があっても、絶対に手をだすな……そう、自分の魂が叫んでいる。
雷撃の獣人ラルは、愛用の小型の剣の柄を強く握った。手の震えから、愛用の剣を手放さない様に……。
元徳の勇気の保持者、ラルはまだ気づいていない。
白い霧が、彼に囁いている。
勇気をもって、為すべきことを為せ。例えそれがどんなに無茶で無謀なことであっても……それが、汝の役目。汝の役目を果たせと。
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