時の間『遂に、希望の魔女と狂信者の決闘が終わる! その時、白い人形のノルンとルーンは……。』
私は悪魔の女神、その記憶。
私はただの記憶……人形の安息の地にある、大樹の城の中庭に留まっていた。今まで、白い霧が忘れずに覚えていてくれた。
でも、中庭に留まるのももう終わり。
あの子が帰ってくるから……。
私は、二つのスキル―女神の魅了と異界の門を、白い人形に譲渡した。それと、白い人形に再生の聖痕を刻んで……やっぱり、真実は残酷。
あの子に、とても酷いことをしてしまった。
銀色の長い髪に、全てが凍える白い瞳。美しい女神が、透明な根の上に座っていたけど……悪魔の女神の姿が消えていく。
女神の姿はぼやけて、白い霧に変わる。女神は、白い霧の中で自分の娘に謝った。
『あの子に謝らないと……。
ごめんね、ノルン。』
白い霧が、私に教えてくれた。希望の魔女ノルンが、自分自身を否定しようとしていることを……。
あの子は、白い霧に強く願った。『大好きなお母さんを奪った……こいつは、聖神フィリスだけは、絶対に消す! こいつは許さない……白い霧よ、私が消えてもいい。消えてもいいから、こいつを消して!』
ノルンの母である悪魔の女神……私は、そんなこと許さない。
『ノルン、だめよ。絶対に消えてはだめ。
そんな悲しいことを願わないで……。』
私は……今は正気を失っているけど、悪魔の女神も未来を見ていた。自分の願いを叶える為に、あらゆる手を打っている。
女神は、自分の娘を否定したくない。でも、このままだと……天の創造主の計画が進み、天国での母と娘の決闘は避けられない。
女神は自分の娘を守る為に……白い人形を創って、白い人形に再生の聖痕を刻んだ。聖痕は白い人形を、死から何度も救っている。
でも、ただ再生させるだけ? 娘の死を否定するだけ?
重要なことは、悪魔の女神が否定する時を選べること。
悪魔の女神は、白い霧の七つの元徳の一つ、知恵を保有している。元徳の知恵は、悪魔の女神に有効な手を示した。とても残酷な手を……。
再生の聖痕……それは、母の愛・母の呪い。悪魔の女神の魔力が尽きない限り、対象を蘇生させる。
対象の肉体の損傷が激しい場合や、肉体が消滅した場合は……白い霧から、新たに肉体を創り出す。対象の意思は関係ない。創り出すのは、悪魔の女神だから。
対象の魂が消えない限り……何度でも、何度でも新しい肉体を創り出す。悪魔たちが献上した、人や魔物の魂を犠牲にして。
そう、対象の意思は関係ない。
それに、どんな小さな傷でも、再生のトリガーとなる。どんな傷も治すけど……その代わり、楽しくて幸せな時も奪ってしまう。
再生の聖痕は、女神の時の魔術。女神が時を否定している。
遥か昔、悪魔の女神は、愚か者の傷を癒して……やり直す機会を与える為、時を選んで奪っていた。
さっきも言ったけど、悪魔の女神……私は自分の娘を否定したくない。天国での娘との決闘は避けたい。
だから、私は有効な手を打った。
それが、再生の聖痕。
白い人形に再生の聖痕を刻んで、譲渡したスキル―異界の門で人形を運んだ。遂に、私の娘と出会い、娘の傷を治そうとしている。
譲渡したスキル―女神の魅了が、私の娘を魅了する。
いつか、私の娘の魂は魅了されて、白い人形の魂に引き寄せられる。白い瞳のルーンの様に……白い人形は、聖神フィリスではなく、青のお嬢様―全知全能(欠落)と同化する。
それが、自分の娘を否定したくない、悪魔の女神の計画。
真実は……やっぱり残酷。ごめんね、ノルン。
緑豊かな星ラスの中にいた青のお嬢様―天の創造主は、人形の安息の地を見た。白い霧の中にある大樹のお城の一室で……二人の白い人形が話をしている。
『これで大丈夫だと思う。
私の体にも影響するから……。
あまり無茶しないでよ。』
白い瞳のルーンは少し怒っていた。
ベッドの上に、ノルンとルーンの姉がいる。魂を惑わす紫の瞳……地獄に落ちた獣人の星の中にある、白い人形ルーンの体を操っている者。
彼女は、傲慢の魔女ウルズ。その魂だけ……白い人形、星の核から魂だけが離れているので、まさに幽体離脱。
ここに、白い人形の体はない。
精霊の様に魂だけで存在していて……ウルズの体は、白い霧でできている。霧の体は不安定でとても儚い。霧の体は不安定だけど、とても運びやすい。転移魔術との相性は、とても良かった。
白い人形のウルズは、自分の手足を確認している。
白い包帯の代わりに、若葉色に光る透明な根が巻きついていたけど……白い瞳のルーンの再生の聖痕によって、傷は綺麗に治っていた。
地獄に落ちた獣人の星にある白い人形の体にも、効果を発揮しているだろう。魂と肉体は離れていても、深く結びついているから……。
魂を惑わす紫の瞳、白い人形のウルズは妹に声をかけた。
《ルーン、ありがとう。
やっぱり、もつべきは優しい妹ね。
ルーン、アメリアみたいになったらだめよ?》
『ウルズお姉ちゃん……私、もう行くよ?
ノルンが心配だから……。』
《はいはい、行ってら~。》
白い瞳のルーンが消えた。システム―クロノス、異界の門でとんだ。すると、ガチャ……ドアの鍵がかかった音がした。
白い人形のウルズは、部屋のドアまで歩いて……ドアを開けようと、ドアの取っ手を掴んだら、取っ手がとれた。
ドアの鍵がかかっていて、ドアノブも外れて、部屋の中から開けられない。
誰かが、白い人形のウルズを、この部屋に閉じ込めようとしている。
ウルズは嫌な予感がして、部屋の窓を壊そうと魔術を行使しようとしたけど……水晶の根が、部屋の窓を塞いでしまった。
若葉色の透明な根が、部屋のドアや壁を覆って、強度を補強している。白い人形のウルズは、とても嫌な感じがした。
これは、テラの大樹の意思ではない。部屋の外から鍵をかけたメイドも……自分の意思ではなく、誰かに操られている。
そう、私に……私は白い人形も操る。あの子が帰ってくるから……白い人形のウルズは、部屋を覆うテラの大樹や、部屋の外にいるメイドに話しかけた。
《私を……ここから出さないつもり?
ちょっと、テラの大樹……。
邪魔だからどきなさいよ。
子犬ちゃん……フィナちゃん、
怒らないから鍵を開けなさい。》
テラの大樹は、部屋の窓を塞いでいる。
部屋の外……ドアの前に、メイドが立っている。私を
彼女は、獣人のフィナ。
栗色の髪に、白い犬の耳と尻尾がある。以前と比べて、体が少し小さくなっていた。フリルエプロン、青と白のメイド服を着ている、元悪魔のメイド。
栗色の髪のメイド、フィナはノルンにとって大切な存在。フィナは、危ないから避難していてもらおう。
獣人のフィナは答えず、ぼーと立っている。フィナは白い霧に包まれていて……白い霧が、フィナの傍から離れない。
私は、白い人形のウルズに声をかけた。
『ウルズ……ごめんね、お願いがあるの。
あの子が帰ってくる。
ごめんね、ウルズ。
これからは一緒に行くから……許して。』
《!?……お母さん!?》
白い人形のウルズを、白い霧が覆っていく。
白い霧の中で、私はウルズを抱きしめた。白い霧が、ウルズを運んでいく。ウルズの霧の体はとても運びやすかった。
緑豊かな星ラスの中にいた青のお嬢様―天の創造主は呟いた。
《白い人形のウルズを迎えに行ったら、
お母さんに挨拶しないと駄目だね……。
う~ん、どうしようかな?
記憶として留まっているだけみたいだけど……。
まだ、何か隠しているのかな?
怖いね~、悪魔の女神は……。》
青のお嬢様―天の創造主は未来を見た。
希望の魔女ノルンが自身の時の魔術―再生の時で、聖神フィリスを否定したあとの未来を……その未来に、希望の魔女ノルンと聖神フィリスの姿はない。
《ノルン、君自身が消える必要なんてないよ。
私たちの為に、幼い世界が消えて……。
世界が消えたら、また創ればいい。
私たちなら、幼き世界を創れるから、
何度でも、何度でも……。》
これは、一つの未来。
希望の魔女ノルンは、悪魔の女神の様に、聖神フィリスの嘘を信じてしまった。
ノルンの時の魔術―再生の時が……女神の時の魔術―終焉の時を上回れば、希望の魔女によって、聖神フィリスの存在は否定される。聖神フィリスが消えれば、フィリスと同化している青のお嬢様も消える。
時の女神の娘、青のお嬢様―全知全能(欠落)という存在は消えて、青のお嬢様の時の魔術も……大好きな母を狂わしている時の魔術も消える。
悪魔の女神は、大好きな母に戻る。
悪魔の女神から、時の女神ノルフェスティへ……青のお嬢様が母に譲渡しようとしている、全知全能(欠落)というスキルも消える。
全知全能(欠落)というスキルから生まれた、悪魔の女神の白い霧も消えて……白い霧の世界フォールもなくなって……。
新しい世界に、聖神フィリスの姿はない。
フィリスと同化している青のお嬢様もいない。希望の魔女ノルンもいない。
青のお嬢様―天の創造者は、未来を見るのをやめた。
創造主は、この未来は望まない。創造主を上回る可能性がある者が消えてしまう。悪魔の女神も、時の女神ノルフェスティに戻っても……愛する娘を追って消えてしまうだろう。
この未来に価値はない。この未来だと、天の創造主の計画が破綻して……創造主が負けてしまう。
青のお嬢様―天の創造主は呟きながら、転移魔術でとんだ。
《私は、そんな未来を認めない。
ノルン、今から助けに行くね。
自分を否定しなくていい、
一緒に幼き世界を壊そう。》
緑豊かな星ラスの中にある、どこまでも続く草原は、白い霧に覆われている。白い霧の中を、若葉色に光る大きな透明な根が動いていた。
森林魔術―テラの大樹。
白い霧の中に、透明な根が巻きついている白亜の城がある。大樹の城の近くで、希望の魔女ノルンが叫んでいた。
『ルーン! テラの大樹!
誰でもいい……。
誰でもいいから、力を貸して!
こいつを否定しないといけないの!』
希望の魔女は泣きながら、目の前にいる少年を否定しようとしている……銀色の髪に、白い手足。霧の人形の様な姿をした美しい少年。
堕落神―聖神フィリス。彼も泣いている。フィリスはもう何も話さない……眼を瞑って、両手を横に広げて、静かにその時を待っている。
聖神フィリスは、悪魔の女神に……女神の娘に、自分の存在を否定してもらいたい。悪魔の女神が何度殺しても、天の創造主が再誕させてしまう。
彼は、全てを終わらせるには、時の魔術での否定しかないと思った。
聖神フィリスは、時の女神ノルフェスティを助けたい。
その為に、女神の娘ノルンでさえ利用した。悪魔の女神が、天国に辿り着く前に……女神の娘が、フィリスを否定できれば、天の創造主の計画は破綻する。
でも、天の創造主はその未来を認めない。
白い手足に、銀色の髪……海の様に透き通る青い瞳をもつ、希望の魔女ノルン。魔女の白い霧の翼がぼろぼろと崩れて、霧散していく。
千人分の人の魂を食べて成長したのに、希望の魔女ノルンは自分自身を否定してしまった。希望の魔女から、幼い白い人形に……背も縮んで、青のお嬢様に戻ってしまった。
青のお嬢様ノルンは笑った。
白い霧の希望の翼を失ったら……聖神フィリスの白い手足もばらばらと崩れ始めた。聖神フィリスが、時の女神の娘と同化していることが真実だと分かって、悲しくなったけど……。
青のお嬢様ノルンは思った。『こいつ自身を否定したいけど……今の私では、お母さんの時の魔術に勝てない。上回ることができないから、こいつを直接消せない。
でも、私自身を直接否定すれば? こいつは、時の女神の娘と同化したと言った……私が消えたら、こいつも消える? できるか分からないけど、私自身の全てを……星の核さえも否定できれば……。』
青のお嬢様ノルンは、自分の星の核も否定した。
この星の核は、曰く付きのもの。遥か昔に、天国で時の女神の娘―青のお嬢様が、白亜の城から無断で持ち出したものだ。
青のお嬢様は、この星の核を使って、時の魔術を行使した。時は流れて……曰く付きの星の核は、白い人形のノルンの胸の中にある。
ズキッ!……希望の魔女は、自分の星の核を否定してしまった。『とても胸が痛い。痛いけど我慢しないと……こいつだけは、消さないといけない!』
ノルンの星の核には、悪魔の女神を狂わしている時の魔術が刻まれていた。
悪魔の女神は、ノルンの星の核に、再生の聖痕を刻んでいるので、複数の時の魔術が、ノルンの星の核に刻まれていて……母と娘は強く結びついている。
母と娘の絆は、数千年以上の時が流れても切れなかった。
希望の魔女ノルンは時の魔術―再生の時で、自分の星の核を否定した。でも、悪魔の女神……私は許さない。
愛する娘の自分勝手な行いを許さなかった。
悪魔の女神の極界魔術―再生の聖痕。
青のお嬢様ノルンの白い手足がばらばらと崩れていくと……女神の極界魔術―再生の聖痕が効果を発揮して、ノルンを癒していく。
悪魔の女神が、大好きな娘が自ら消えることを赦すはずがない。青のお嬢様ノルンは泣きながら叫んだ。
母の愛が伝わってきて、余計胸が痛くなった。
でも、それでも……聖神フィリスの存在を否定しないといけない。
『お母さん、やめて! やめてよ!
こいつを……こいつを消さないといけないの。
ごめん……ごめんなさい。
お母さん、許して……。
大好きなお母さんを奪った……。
こいつだけは許せないの!』
今、ノルンの時の魔術―再生の時は、悪魔の女神の時―終焉の時には勝てないから、フィリスを直接否定できなかった。
自分を否定しても、悪魔の女神の再生の聖痕が癒してしまう。
青のお嬢様ノルンは、白い霧に強く願った。『私は勝たないといけない。上回らないといけない……お母さんには勝てなくても、もう一人の自分には勝てる。上回ることができる……ごめんね、ルーン。』
ノルンは、再生の聖痕である白い瞳のルーンには勝てた。ノルンの再生の時が、再生の聖痕を上回っていく……。
突然、再生の聖痕が、効果を発揮しなくなった。
青のお嬢様ノルンの白い手足が、ばらばらと崩れていく。ノルンの星の核が否定されて……時の女神の娘―青のお嬢様の時の魔術が消える。
青のお嬢様の時の魔術によって、霧の人形の様な姿になった聖神フィリスもばらばらと崩れていく。
今、この時……ノルンとフィリスは消えようとしていた。
でも、天の創造主と悪魔の女神は許さない。
《ノルン、だめだよ。自分を消したらだめ。
そんな悲しいことはしてはいけないよ。》
泣いているノルンを優しく抱きしめるものがいる。背後からそっと優しく……ノルンと同じ姿の少女だった。
白い霧の中に、白い手足に銀色の髪。海の様に透き通る青い瞳をもつ、双子の青い瞳の少女たちがいた。
青のお嬢様ノルンは勘違いしている。この少女を、白い瞳のルーンだと思った。
『ルーン、ごめん……でも、やめて。
私、こいつを消さないといけない―』
《ノルン、世界が壊れてもいいと思うよ。》
『えっ?……ルーン、なんで?』
《だって、ノルンが犠牲になる必要なんてない。
ノルンが消えたら、お母さんは嘆き悲しんで、
世界を壊すか……ノルンと一緒に消えてしまう。
この方法では、お母さんを助けられないよ。》
『でも! こいつは……。
こいつのせいなんだよ!?
こいつがいるから……。
こいつが、お母さんを……。
じゃあ、かえしてよ! お母さんを元に戻してよ!
お前は、聖なる神なんでしょう!?
神なら、私の願いを叶えてよ!?
私のお母さんをかえして!!』
青のお嬢様ノルンは叫んだ。
抑え込んでいた感情が爆発した。胸の奥に隠していた思いがあふれ出てくる。大好きな母と一緒に暮らすこと、白い人形のノルンの願いは変わっていない。
聖神フィリスは目を瞑って、何も話さない。
彼は嘘を貫き通す。最後まで、悪役として消える。彼には……彼なりの正義だけが、まだ残っていた。
ノルンに抱きついていた青い瞳の少女は……後ろから、ノルンの眼の前にきた。ノルンの体が壊れない様に、白い人形の体を治していく。
《ノルン、私は……幼い世界が壊れてもいいと思う。
私たちが犠牲になる必要はない。
生き残って、お母さんを助けようよ。
私たちなら、新しい世界を創れる。
聖神フィリスがいない。
皆が、笑って楽しく暮らせる世界を……。》
『ルーン、私……もう疲れたよ。
もう何も考えたくない。』
《そっか……ノルン、疲れたね。
ノルン、頑張ったよ。本当に……。
もう休憩してもいいと思うよ。
じゃあノルン、私と同化する?》
『?……ルーン、 どういう意味―。』
《ノルン……私が、新しい世界を創る。
皆が幸せに暮らせる世界を……。》
白い人形のノルンの眼の前にいる青い瞳の少女は、青い水晶をはめ込んだプラチナ製のネックレスや腕輪、ジュエリーを身に着けている。
青い瞳の少女は、泣いているノルンの頬を触って……時の魔術を行使した。
《天の創造主の時の魔術―極星極界魔術、
七つの元徳と大罪の
双子の青い瞳の少女たちが、一人の少女として再誕する。元徳の希望を保持しながら……弱き魂は、強き魂に喰われることになるけど。
青のお嬢様ノルンには、もう一人の自分であるルーンが何をしているのか分からなかった。『ルーンと同化?……でも、ルーンだったら別にいいよ。だって、私たちは生まれた時から一緒だった。
私たちは二人で一人……同化して強くなって、聖神フィリスを否定して、お母さんを助けることができるのなら……。』
『ルーン、別にいいよ。
私たちで……こいつを否定して、
お母さんを助けてね。』
青のお嬢様―天の創造主は未来を見て気づいた。
白い人形のノルンから、手を離して……これは、悪魔の女神の罠。白い人形ノルンのスキル―女神の魅了が効果を発揮している。
ノルンの魂に引き寄せられて……このまま、白い人形のノルンと同化したら、全知全能(欠落)という歪な存在は消えてしまう。
ノルンの星の核に刻まれた、悪魔の女神の極界魔術―再生の聖痕が、女神の娘の欠落している部分も癒してしまうから。
悪魔の女神は、自分の娘を否定しない。否定できないから、白い人形と同化させる方法を選んだ。
悪魔の女神は、時を選んで否定できる。
全知全能(欠落)という歪な存在を消して、青のお嬢様ノルンを残す。白い人形は消えてしまうけど……ノルンは生き続ける。
そうなれば、悪魔の女神……私の勝ちだ。
青のお嬢様―天の創造主は、時の魔術を止めた。
時の女神の娘として思った。《だから……この子に、再生の聖痕を刻んだ。白い人形のノルンを創って操って……私たちが同化したら、お母さんは願いを叶える。言うことを聞く白い人形のノルンを残して、約束を破る私を……。》
《……なんてね。ノルン、
ごめんね……今は同化しないよ。
同化したら、君が……他者が、
創造主を上回ることができないし……。
ノルン、もっと楽に行こうよ。
もっと楽しもう。
後悔しない様にね……。
ノルン、私は楽しんでいるよ。
後悔したくないから……。
ノルンが、天国での最後の選択……。
どんな選択をするのか、
楽しみにしているよ。》
『!?……ルーン!?』
青のお嬢様―天の創造主が、ノルンを手で押した。
白い霧の中から飛び出して、ノルンを捕まえるものがいる。必死になって、ノルンのもとへ駆けつけた様で……息が荒い。
手を伸ばして、ノルンを抱きしめて離さない。
彼女は、白い瞳のルーン。
再生の聖痕である白い瞳のルーンは、ノルンが攫われると思った。再生の聖痕が効果を発揮していたのに、ノルンが聖痕を上回って、自ら消えようとした。こんなに悲しいことはない、自分の存在を否定された気がした。
白い瞳のルーンは泣きながら、ノルンを離さない。『だめ! 絶対にだめ! ノルンは、私が守るの。私が、天国まで連れていくから……私から、ノルンを奪うな!』
白い瞳のルーンは、白い霧に願った。
白い人形のノルンが、自分の傍から離れないことを……最後まで、一緒に歩くことを……白い霧は極界魔術という力で、女神の娘の願いを叶える。
ルーンの極界魔術―強欲の烙印。
青のお嬢様―天の創造主から、白い人形のノルンを守る。攫われない様に、無理やり引き寄せる……奪われない様に、ノルンの魂を喰ってしまった。
以前食べた時より、魂の量が多かったけど……ルーンは必死だったから、よく分かっていない。ノルンとルーンの同化が進行している。
白い人形のノルンは、ルーンに喰われて……胸の痛みが治まらない。ルーンの白い腕の中で、何とか痛みに耐えている。
※テラの大樹、テラ・システム。
希望の聖痕(90) → ノルンの希望(50)、↓減少。
強欲の烙印(10) → ルーンの強欲(50)、↑増加。
白い瞳のルーンは、聖神フィリスたちを睨んだ。青のお嬢様―天の創造主は、白い霧が隠してしまった。もう、どこにいるのか分からない。
白い瞳のルーンも泣きながら叫んだ。白い霧の中で動いている、若葉色に光る透明な根に助けを求める為に……。
『テラの大樹! 気持ち悪いこいつらを消して!
今すぐ……こいつらを吹き飛ばして!』
白い霧が、白い人形のノルンとルーンを隠してしまった。白い霧の中から、青く光る水晶の根が鞭の様にしなって、地面を吹き飛ばしていく。
聖神フィリスは目を瞑ったままだ……テラの大樹の根が暴れまわる。白い人形の敵を排除する為に……。
システム―クロノス、異界の門。白い人形のノルンとルーンは、人形の安息の地に逃げてきた。
大樹の城が見える。白い霧に包まれている街の通りで……ノルンは泣き止まない。白い瞳のルーンも泣きながら、ノルンを優しく抱きしめてあげている。
青のお嬢様ノルンがいなくならない様に……。
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