第60話『希望の魔女ノルン VS 狂信者デュレス・ヨハン……天の創造主と悪魔の女神は、決闘を終わらせない③』



 希望の魔女ノルンは黙って、何も話さない。


 魔女は、聖神フィリスの嘘を信じている。希望の魔女は、聖神フィリスの声を聞いて……騎士の剣を強く握った。聖神フィリスが、悪魔の女神を狂わした。



 魔女は、魂からこの屑を殺して消そうと思った。



 システム―クロノス、起動。希望の魔女は異界の門で、狂信者デュレス・ヨハン―骸の騎士の背後にとぶ。


 

 全力で、騎士の剣を横から一閃!



 骸の騎士の首付近に、魔女の剣をあてて、そのまま金色の鎧の騎士を吹き飛ばす。



 吹き飛ばされた、骸の騎士は身を翻して地面に着地する。聖神フィリスは話すことをやめなかった。




《ノルンお嬢様、申し訳ございません。

 僕は、貴方に伝えないといけないんです。



 最初に何があったのかを……。


 

 そう、始まりは……ずっと前のことでした。

 

 貴方が良く知っている関係者……。

 皆が、天国にいました。



 異界では、古代エルフ文明、

 魔術に長けていたエルフの文明が栄えていました。



 まだ、霧の世界フォールも存在しません。

 時の女神が、天国から落ちる前のことです。



 神生紀文明も起こっていないから、

 堕落神や霧の人形も存在しない。



 天国には、天の創造主が最初に捨てた光と時。

 元始の神がいました。



 光の女神フェルフェスティと、

 時の女神ノルフェスティ……貴方の母親です。》




『黙れ……何も話すな!』




 希望の魔女は、白い霧の翼を羽ばたかせた。


 ノルンの時の魔術―時の加速によって、希望の魔女は加速する。羽ばたきながら、騎士の剣を振り続ける。



 狂信者―骸の騎士は後退しながら、黄金の剣で……希望の魔女の剣を受け流した。聖神フィリスは謝りながら、話し続ける。




《ノルンお嬢様、お許しください。

 僕は、貴方に伝えないといけない。



 僕は、ノルフェスティ様の白亜の城、

 城の警備を任されていました。



 この姿は、とても懐かしい。

 この金色の鎧は、大切な友が作ってくれたものなんです。



 黄金の鎧を纏う騎士。

 僕がまだ人間だった頃の大切な記憶です。




 時の女神の白亜の城。

 ノルンお嬢様は、霧の城が好きでしたよね?


 今は大樹の城……お嬢様の夢の中にある、あのお城です。



 ノルフェスティ様が堕落した時、全て一緒に落ちました。

 城のメイドたちも、城の警備を任されていた騎士たちも……。


 そして、白亜の城も……。



 白亜の城を警備していた騎士たちが……。

 白亜の城に暮らしていたメイドたちが……。



 殆どの者は、悪魔になりました。

 フィナ……あの悪魔のメイドも素晴らしい。


 今も、お嬢様の夢の中で……大樹の城で、

 自分の為すべきことを為している。




 ノルンお嬢様、覚えていますか?


 堕落神や霧の人形に選ばれた者たちも、

 最初は人や魔物だったんです。



 アメリアも、エレナも、ウルズも……。

 オーファンやフレイも、白亜の城にいましたよ? 



 貴方を嫌っていた、女神の影……。

 ノルフェスティ様の付き人だったアシエルもね。




 聖フェルフェスティ教を知っていますか?

 僕は聖人として、古代の文明を救おうとしました。



 昔の僕は……人間だった頃は、

 ノルンお嬢様の様に、世界を救いたかった。》




『うるさい、黙れ!

 何も聞きたくない!』



 希望の魔女ノルンの剣が、骸の騎士の肩を破壊した。金色の鎧が砕けて……青色の水晶が飛び散った。金色の鎧の中は、青く輝く水晶しかない。



 骸の騎士の壊れた肩を、青く光る水晶が覆い始めた。


 水晶は変色して……元の金色の鎧に戻ってしまう。骸の騎士―聖神フィリスは謝罪する。でも、話すことをやめない。




《ノルンお嬢様、本当に申し訳ございません。

 

 ノルフェスティ様を救う為に、

 僕は、お嬢様を利用しました。



 そして、今も利用しています。




 ノルンお嬢様、貴方は知りたいと思っています。


 どうして、ノルフェスティ様は天国から落ちたのか?

 どうして、天国から青のお嬢様は消えたのか?



 時の女神には、一人の娘がいました。

 銀色の髪に白い手足、海の様に透き通る青い瞳。


 皆から、青のお嬢様と呼ばれていました。




 ノルンお嬢様、覚えておられますね?



 天国から消えた時の女神の娘は……。

 貴方と同じ名前でした。》




『フィリス、お前の言葉は信じない!』




 聖神フィリスは光を操る。



 骸の騎士―聖神フィリスは光を呼んだ……宙から無数の光が降ってくる。聖神の光は降り注ぎ、そして、無数の光は空で止まった。



 無数の光球が、空中に浮かんでいる。




 骸の騎士―聖神フィリスは、光球の形を変えて……無数の光の剣を生み出していく。骸の騎士は右腕を、希望の魔女に向けた。




《聖神フィリスの極星魔術―

 降り注ぐ太陽の宝剣。》



 

 無数の光の剣が、四方八方から発射される。


 希望の魔女ノルンは、白い霧の翼を羽ばたかせて、何とかかわす。両手に持っている騎士の剣で受け流していく。



 聖神フィリスは、希望の魔女ノルンに告げた。




《ノルンお嬢様、貴方には僕を殺す権利があります。

 僕は貴方を攫った、貴方の存在を否定しました。



 ノルンお嬢様、思い出してください。

 僕は、貴方と約束した。


 あの約束を果たさなければいけません。



 ノルンお嬢様、貴方は見てしまった。

 時の女神、ノルフェスティ様の恐ろしさを……。



 時は全てを育み、全てを破壊します。

 貴方は、全てを破壊する時の女神を見てしまった。



 大好きな母が悲しんでいるのを……。

 だから、貴方が……僕も願ったんです。



 時の女神―ノルフェスティ様が、

 時から解放されることを……。》




『!?……黙れ……。』




『ノルンお嬢様、貴方と僕が、

 天の創造主に願ったんです。



 時の女神ノルフェスティを、

 時から解放して欲しいと……。

 


 その為に、自分たちが犠牲になると……。》




『黙れ……。』




 希望の魔女ノルンはシステム―フェンリルを用いて、可能な限り、騎士の剣を呼び続ける。聖神の宝剣と魔女の騎士の剣がぶつかりあい砕けて……。



 見渡す限りの草原に、無数の剣が突き刺さっていく。




 希望の魔女は、白い霧の翼を羽ばたかせて加速する。


 致命傷を避けながら、前へ突き進む。両手の騎士の剣で、襲ってくる宝剣を砕きながら前へ進んだ。



 悪魔の女神の極界魔術―再生の聖痕が、宝剣による傷を治してくれる。




《ノルンお嬢様、思い出してください。

 そう、あれはとても美しい花畑でした。



 僕は天の創造主に従い、貴方を導いた。



 そして、貴方にお渡ししました。

 光の女神フェルフェが創った星の核を……。


 

 僕は、貴方に伝えました。

 これは、どんな願いも叶えると……。》




『黙れ……黙れ……。』



 無数の光の剣が降り注ぐ中、希望の魔女と骸の騎士―聖神フィリスは、互いに斬りあった。希望の魔女は、手にもっていた騎士の剣が砕けても……地面に突き刺さっていた魔女の剣を掴んで引き抜き、何度でも骸の騎士に斬りかかる。



 骸の騎士―聖神フィリスは、黄金に輝くロングソードと……光でできた宝剣を手にして、希望の魔女と斬りあう。



 骸の騎士―聖神フィリスが、無数の光球から、新たに光の宝剣を創り出せば……聖神の光の宝剣を、希望の魔女が呼んだ、無数の騎士の剣が撃ち落としていく。



 希望の魔女ノルンと骸の騎士―聖神フィリスは、美しい舞踏を舞っている。命を、魂をかけて……二人には、守りたいものがまだあるから。




《貴方と僕は、星の核に……天の創造主に願いました。

 時の女神ノルフェスティ様の解放を……。

 


 天の創造主は、あの約束を果たそうとしている。

 ノルンお嬢様の願いを叶えようとしている。



 ノルンお嬢様、ご安心ください。

 もう少しで叶います。



 もう少しで、女神は時から解放されます!

 僕たちが望んだ時が……ようやく、やってくるんです!》





《うるさい、黙れ——!》




 空から、無数の光の宝剣が降り注ぐ。



 今の状況は、希望の魔女ノルンが不利だった。天の創造主と比べれば、保有している魔力の差があり過ぎる為……呼べる剣の数では、希望の魔女は勝てない。



 希望の魔女は、降り注ぐ光の宝剣に押され始めた。聖神の光の宝剣が、希望の魔女に迫る!



 希望の魔女ノルンは叫んだ。


 骸の騎士―聖神フィリスを、このまま勝たせるわけにはいかない。ノルンが大切にしているもの、全てを壊そうとする堕落神を……。




『オーファン……力を貸して。

 こいつを殺したい。



 こいつの存在を否定したい。


 お願い、力を貸して!!』

 



 騎士神オーファンは応えて、希望の魔女は、騎士神のつるぎを呼ぶ。


 青く光る水晶の剣……白い霧の翼を羽ばたかせている、希望の魔女の後方でたくさん重なって、日輪の様な輪っかになった。




『希望の魔女ノルンの極星魔術、

 騎士神オーファン・第六の刻―つるぎの門。』




 希望の魔女ノルンは前へ進む。


 青く光る水晶の剣が、希望の魔女についていき……無数の光の宝剣が、希望の魔女を襲う!


 希望の魔女は、青く光る水晶の剣を掴んだ。青く光る水晶の剣には、騎士神の神聖文字が刻まれていて……。




【我は剣となり、愚かな者に裁きの炎を与えん。

 我は希望を守り、我の剣へ導かん。】




 希望の魔女は横から振りぬく。そのさ中、水晶の剣の形が変わっていく。


 水晶の剣-騎士神の剣の形が変わり、柄が長くなり刃も伸びて……そり返ったはばの広い長い刀に、長い柄をつけた武器。



 大薙刀おおなぎなたに変わった。


 大薙刀に刻まれている、騎士神の神聖文字が解放される。刀身が赤く熱せられて……振った方向に、灼熱の衝撃波がとんでいく。



 極星魔術―騎士神の鉄槌の様に、無差別な破壊を生まない。希望の魔女ノルンは、制御された力をふるい、聖神フィリスの光の宝剣を砕いていく。



 希望の魔女は空中で、身を翻して……全身を使って、大薙刀を振り下ろした!




 骸の騎士―聖神フィリスは横に回避して……彼は、大薙刀を破壊しようと、光の宝剣を発射したけど、もう大薙刀はない。


 

 青く光る水晶の剣―騎士神の剣に戻って、希望の魔女を追いかけている。




 希望の魔女は、降り注ぐ光の宝剣を避ける。


 白い霧の翼を羽ばたかせて……時の加速、一気に加速した。骸の騎士―聖神フィリスとの距離が近づく。



 希望の魔女は、青く光る水晶の剣を、骸の騎士に目掛けて放った。



 骸の騎士―聖神フィリスは、後方に跳躍して避ける……その時、青く光る水晶の剣に刻まれた、騎士神の神聖文字が再び解放。




【我は剣となり、愚かな者に裁きの炎を与えん。

 我は希望を守り、我の剣へ導かん。】




 騎士神の剣による転移魔術。


 白い霧の翼を羽ばたかせていた、希望の魔女ノルンの姿が消えた。



 希望の魔女は、投擲した水晶の剣が突き刺さった場所……草原の中に現れて、希望の魔女は構えている。



 ノルンが持っていた水晶の剣は、既にその形を変えて、剣から銃へ。希望の魔女は、大きな狙撃銃を手にして……。



 両手で狙撃銃を持って、狙いを定める。



 降り注ぐ、聖神の宝剣から……青く光る水晶の剣―騎士神の剣が変化して、水晶の盾となって、希望の魔女を守っている。



 希望の魔女が引き金を引こうとすると、骸の騎士―聖神フィリスが消えた。




 これは転移魔術、希望の魔女から数キロ離れた場所に……草原に、骸の騎士―聖神フィリスが現れた。




 システム―クロノス、異界の門。



 希望の魔女ノルンも、騎士神の剣とは別の転移魔術でとんだ。希望の魔女も、骸の騎士―聖神フィリスを逃がさない。




 骸の騎士は振り向きながら……黄金に輝くロングソードを振りぬく。


 骸の騎士に後ろに現れた魔女は、大きな狙撃銃で、黄金の剣を受け止めようとしたけど……受け止めきれずに、黄金の剣に斬られてしまった。



 希望の魔女ノルンの白い首に剣が……。



 その時、骸の騎士―聖神フィリスは赤い眼で見た。


 

 骸の騎士から数キロ先で動く、巨大な兵器を……若葉色に光る、透明な根が何かを運んでいる。



 テラの大樹は、古代エルフ文明の兵器を運んだ。


 巨大な大砲……雷鳴魔術によって、高速の荷電粒子を撃ち出す兵器……とても長い砲身をもつ、荷電粒子砲かでんりゅうしほう


 

 これは、テラの大樹が見つけたものを修理したもので、古代エルフ文明のもの。テラの大樹が、人形の安息の地から持ってきて……騎士神オーファンが、神生紀文明の飛空船の技術を応用して動かした。



 10m程の長い砲身に雷が走る。


 テラの大樹は、透明な根で運んで……雷を纏う長い砲身を、骸の騎士―聖神フィリスに向けている。


 

 そして、希望の魔女に代わって、荷電粒子砲かでんりゅうしほうの引き金を引いた。




 速すぎて、音は聞こえない。


 光速に近い速度で発射されて……高速の荷電粒子は、目標物を粉々に砕き、星の外までとんでいった。




 若葉色に光る透明な根……テラの大樹は、使用済みの荷電粒子砲を、人形の安息の地へ運んでいく。




 希望の魔女ノルンの首が斬れた、赤い血が滴り落ちている。



 希望の魔女の手が、白い首の切り傷に触れると、首の傷は消えて……悪魔の女神の極界魔術―再生の聖痕が癒して、綺麗に治っている。




 狂信者―骸の騎士は粉々に砕け散った。



 黄金に輝く鎧は、ばらばらになっていて……。



 骸の騎士を操っていた聖神フィリスは、白い霧の元徳を手にしている……聖神が手に入れたのは、七つの元徳の一つ、正義。



 青のお嬢様―天の創造主が、時の魔術を行使する。元徳の正義を再誕させる為に……聖神フィリスの役目は、まだ終わっていない。




《天の創造主の時の魔術―極星極界魔術、

 七つの元徳と大罪の再誕リバース。》




 荷電粒子砲かでんりゅうしほうによって、ばらばらになった金色の鎧が集まり始めた。


 希望の魔女ノルンは、青く光る水晶の剣を投擲する。狂信者―骸の騎士との決闘を終わらせる為に……。




 青のお嬢様の時の魔術によって、骸の騎士が再誕する。



 壊れた鎧が集まってできた歪な鎧の騎士に、希望の魔女ノルンが投擲した水晶の剣が突き刺さった。


 希望の魔女は、歪な骸の騎士に手をかざす。



 天を狂信する赤い眼の悪魔デュレス・ヨハンを……全てを狂わした聖神フィリスの存在を否定する為に、希望の魔女ノルンは、時の魔術を行使する。




『極星極界魔術・

 帰天きてんの刻―再生の時。』




 希望の魔女ノルンは、骸の騎士―聖神フィリスの存在を否定した……。





 否定したのに、歪な鎧の騎士が消えない。



 それどころか……歪な騎士の姿が、白い手足や銀色の髪―霧の人形の様な姿に変わっていく。希望の魔女ノルンが否定できない、何かが邪魔をしている。



 時の魔術を狂わすのは……妨害できるのは、時の魔術だけ。





『ノルン、駄目……。

 否定せずに逃げなさい。』




『!?……お母さん!?』




 希望の魔女ノルンは驚いた。白い霧から、大好きな母の声が聞こえた気がした。自分の時の魔術を妨害しているのが、誰か分かったから……。




 希望の魔女ノルンは大きな声で叫んだ。



 白い霧の中にいる、大好きな母に聞こえる様に……。




『!?……お母さん、どうして!?

 なんで……どうして……。



 こいつを消さないといけないのに!

 どうして、こいつを助けるの!?』




 再生の時とは別の時が、聖神フィリスの存在を認めている。その時は、終焉の時……悪魔の女神が、終焉を天国に運ぼうとしている。




『悪魔の女神の極界魔術。

 帰天きてんの刻―終焉の時。』




 悪魔の女神の終焉の時と、希望の魔女ノルンの再生の時がぶつかりあう。



 希望の魔女の時は、悪魔の女神の時を上回ることができない。希望の魔女が望む未来がやってこなかった。



 歪な鎧を纏う騎士は否定されず……消滅せずに、銀色の髪の少年に変わった。



 霧の人形の様な姿をした少年は、元徳の正義を保有している。声がとても魅力的な少年、狂信者―骸の騎士を操っていたもの。



 白いローブに金細工、神聖な雰囲気を醸し出している。この少年は、悪魔の女神の従者であり、悪魔の女神に殺されることだけを望むもの。



 堕落神―聖神フィリス。



 聖神フィリス―天の創造主は、希望の魔女に伝える。なぜ、悪魔の女神は、聖神フィリスの存在を否定できないのかを……。




《ノルンお嬢様、ノルフェスティ様は、

 世界よりも貴方を選んだ。



 ノルフェスティ様はまだ、僕を否定できない。

 ノルンお嬢様……僕には、まだ役目があるんです。



 それを果たさなければいけません。

 天国で消えた、ノルンお嬢様に代わって……。



 僕を否定すれば、僕と同化したノルンお嬢様も、

 否定してしまうことになってしまう……。



 ノルフェスティ様は、

 貴方を否定したくないんですよ。

 


 ノルフェスティ様は、僕を殺したがっている。

 だから、僕は女神に殺されることを願う。



 何度も、何度でも……僕は何度も殺されても、

 女神に否定されなかった。



 正気を失っているのに、それでも僕を否定しない。 



 ノルンお嬢様、ノルフェスティ様の愛は、

 本当に素晴らしいですね。》




 聖神フィリスは微笑んでいる……彼の頬を流れるものがある。彼は微笑みながら泣いていた。今回も、悪魔の女神が否定してくれなかったから……。



 希望の魔女ノルンは、聖神フィリスの嘘を信じている。



 彼に騙されている希望の魔女は憤り……気持ち悪さが限界を超えて、なにも考えたくなくなった。『こいつと同化?……時の女神の娘が?……もう何も考えたくない。気持ち悪い……気持ち悪い……お母さん、聖神フィリスが気持ち悪いよ。』




 希望の魔女ノルンも泣いている。



 魔女は泣きながら、再生の時を呼んだ。



 この気持ち悪い存在を、世界に残してはいけない。例え、自分の存在を否定することになっても……こいつだけは消さないといけない。『こいつが、時の女神の娘を攫ったのに……こいつは、お母さんの思いを利用している……。


 女神が否定できないと分かったうえで、女神の目の前に何度も現れて……許せない。どうして、そんな酷いことを……。』




 白い霧が、希望の魔女ノルンを覆っていく。どこまでも続く草原も霧に覆われて……霧の中に、何かが現れ始めた。



 若葉色に光る、透明な根……テラの大樹の根が巻きつく、お城。希望の魔女が呼んだ、再生の時が形あるものに変わっていく。




 緑豊かな星ラスに……白い霧の中に、人形の安息の地が現れたのだ。



 希望の魔女ノルンを支える様に、魔女の後ろに大樹の城が現れる。希望の魔女は泣きながら叫んだ。聖神フィリスを拒絶する為に……。




『お前は気持ち悪い。

 お前は、どの世界にも存在してはいけない!

 


 お前が、お母さんの思いを利用しても……。

 


 私が、女神を上回って……お前を必ず否定する!



 自分を否定することになっても、

 お前だけは許さない。』




 青のお嬢様―天の創造主は、二人の決闘を見守る。


 時の女神の娘として、青のお嬢様は思った。《真実は残酷……フィリスが、時の女神の娘に喰われた。そう、私が……青のお嬢様が、彼を喰った。私が、フィリスの全てを奪ったのに……。》




《自分を否定する? ノルンお嬢様、

 そんな悲しいことを言ってはいけません。


 

 自分で、自分の存在を否定するなんて……。


 

 ノルンお嬢様、自分のことを大切にしてください。



 ノルンお嬢様、おやめください。

 ノルフェスティ様が、嘆き悲しみますよ?》




『黙れ―! お前が、お母さんを……。



 例え、自分が消えても……。

 自分を否定することになっても、お前を必ず消す! 



 お前なんか、大っ嫌いだ!!』




《それが……ノルンお嬢様の答えですね?

 では、僕を否定して下さい。



 悪魔の女神の意思を……。


 女神の時―終焉の時を上回って、

 僕を否定してみせて下さい。

 



 ノルンお嬢様、貴方が始まりです。

 

 貴方と僕が願い……創造主に願った僕たちが消えれば、

 天の創造主は正常な時を取り戻す。



 青のお嬢様……全治全能(欠落)という歪な存在は消えます。

 あらゆる世界は救われるでしょう。



 さあ、ノルンお嬢様……。

 僕を否定して下さい。』




 これは真実。聖神フィリスが消えて、青のお嬢様―全知全能(欠落)も消えれば……天の創造主は、正常な状態に戻ることができる。



 全知全能(欠落)という歪な状態から……。




 正常な時を取り戻した天の創造主は……全ての興味を失い、世界に干渉しなくなるかもしれない。


 天の創造主が望む未来がやってこないから……。



 自分を上回る可能性があるものが消える。この結果は、天の創造主の計画が破綻したこと……創造主が負けたことを意味する。




 時の女神の娘―青のお嬢様が消えれば、正気を失った悪魔の女神も絶望して、娘と一緒に消えることを選ぶだろう。



 悪魔の女神は、あらゆる世界を道連れにするだろうか?



 もし、悪魔の女神が娘と一緒に消えて……世界を壊さなかったら? 希望の魔女ノルンの時―再生の時を残そうとしたら?




 終末のあとに再生が訪れる。



 世界を滅ぼそうとする存在はいなくなり……世界は救われる。真実は残酷。白い人形ノルンの物語は、悲しい物語。



 時の女神の娘、青のお嬢様……ノルンが消えれば、この悲しい物語も終わり、世界は救われる。


 そう、この物語の名は、白い人形が不幸になれば、世界は救われます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る