第59話『希望の魔女ノルン VS 狂信者デュレス・ヨハン……天の創造主と悪魔の女神は、決闘を終わらせない②』
世界は残酷……真実は残酷だよ。
私は、青のお嬢様―天の創造主。創造主として……時の女神の娘として、希望の魔女ノルンと狂信者デュレス・ヨハンの決闘を見守る。
天の創造主が使っている、青のお嬢様と聖神フィリス。私と彼には、圧倒的な力の差がある。天国で私が奪ったから、フィリスの全てを……。
聖神フィリス、彼は白い霧の元徳に選ばれている。
元徳の正義に……。
時の女神の娘として、青のお嬢様は、黄金の鎧を纏う骸の騎士を見た。希望の魔女ノルンに聞こえない様に、魂の中で呟く。
『ノルン……フィリスは、
元徳の正義に選ばれている。
彼は冷酷。自分の願いの為なら、
どんな方法でも用いる。
でも、彼には……彼なりの正義がある。
どうして、彼が霧の正義に選ばれたのか……。
ノルン、気にならない?
真実は残酷……本当に残酷だよ。』
青のお嬢様と聖神フィリス。
私たちは、天の創造主に願ってしまった。創造主は、自分を上回る存在が現れることを望んでいた。
天の創造主は、全知全能(欠落)という歪な存在になって、私たちの願いを叶えようとしている。
時の女神ノルフェスティ、女神を時から解放することを……。
天の創造主も望んでいる、新たな創造主が現れることを……。
私は、希望の魔女ノルンと骸の騎士―聖神フィリスを近くで見て……遥か昔、天国での出来事を思い出していた。
フィリスではなく、私が全ての元凶。
私は、時の女神の娘。皆から青のお嬢様と呼ばれていた。
緑豊かな惑星ラスに、青のお嬢様がいた。
白い手足に銀色の髪。海の様に透き通る青い瞳……青い水晶をはめ込んだ、プラチナ製のネックレスや腕輪、ジュエリーを身に着けている。
ジュエリーだけでなく、ゆったりとした長袖シャツとスカートにも……時の女神ノルフェスティの神聖文字が刻まれていて……。
青のお嬢様は、希望の魔女ノルンにくっ付いている。希望の魔女は、私のことを……もう一人の自分である白い瞳のルーンだと勘違いした。
白い霧の翼をもつ、希望の魔女ノルン。
彼女は再生の聖痕による痛みに負けて、気絶してしまったけど……何とか、目を覚ました。どこまでも続く草原の中にいる。
希望の魔女ノルンは思った。『眠ったら、痛みがなくなって……。』
白い手足に銀色の髪、希望の魔女の体は軽い、まだ動く。魔女が振り向くと、自分に似ている青い瞳の少女、青い瞳のルーンがいた。『ルーンが、痛みを取り除いてくれたのかな?……そのせいで、ルーンは本来の白い瞳から、青い瞳に? 今は、聖痕の痛みはない。私は、ルーンのお陰でまだ戦える……。』
『ありがとう、ルーン。
大丈夫、心配しなくていいよ。
今度は、私がルーンを守るから……。』
希望の魔女ノルンが、時の女神の娘である青のお嬢様に声をかけると……青のお嬢様―天の創造主は頷きながら微笑んだ。
《ノルン、少し離れるけど……私は傍にいる。
私も一緒に戦うから、頑張って!》
青のお嬢様―天の創造主の姿が消えた。
希望の魔女ノルンは……もう一人の自分であるルーンが、システム―クロノス、異界の門でとんだと思った。
希望の魔女ノルンは勘違いしている。
傍にいた青のお嬢様を、もう一人の自分であるルーンだと……全知全能(欠落)を保有している、時の女神の娘―天の創造主だと気づいていない。
希望の魔女と青のお嬢様はとても似ている。
姿はほぼ同じだけど、中身が違う。魂や魔力が異なっている。青のお嬢様の時は、遥か昔に天国で止まっているので……時の女神の娘は、全く成長していない。
悪魔の女神の娘、希望の魔女ノルンは成長した。
千人分の人の魂を食べて、身長が少し伸びた。悪魔の女神の白い霧を纏って……希望の魔女は、白い霧を操る。
極星魔術―希望の聖痕。
宙に浮かぶ迷い星テラが、希望の魔女を助けている。テラの大樹も……ノルンとルーンの夢、人形の安息の地から何かを運ぼうとしている。
青のお嬢様には、白い霧の翼は生えていない。
希望の魔女ノルンは、迷い星テラの魔力を受け取って、極星魔術を行使して……腰から、白い霧の翼が生えた。
白い霧の翼は、魔力を解放している。
魔女の体が軽い。成長する前と比べるとより速く、より自由に動ける。時の加速……魔女の時の魔術―再生の時が、ノルン自身の時を加速させている様だ。
魔女の白い手足を、銀のガントレットやグリーブで保護していて……希望の魔女ノルンは両手に騎士の剣を握り、倒すべき敵を見た。
聖神フィリスの骸の騎士。
狂信者デュレス・ヨハンの変わり果てた姿……全身が、金色の鎧で覆われていて、黄金に輝くロングソードを手にしていた。
女神の白い霧が、希望の魔女ノルンに教えている。
狂信者は金色の鎧を、ただ身に着けているだけじゃない。狂信者の皮膚が、金色の鎧に変わってしまっている。だから、二度と鎧を外すことはできない……。
狂信者デュレス・ヨハンは赤い眼の悪魔になったけど、希望の魔女が殺した。狂信者は人として再誕しても、また化け物になった。
聖神フィリスは、狂信者デュレス・ヨハンを、黄金の鎧を纏う骸の騎士に……。
この騎士の姿が……黄金の鎧を纏う騎士の姿が、聖神フィリスの本当の姿。神になる前、フィリスが人間だった頃の姿。
フィリスは、異界の古代エルフ文明を救おうとした若者だった。弱き者を守れる心優しき少年だった。
フィリスは神になって、白い手足に銀色の髪……霧の人形の様な姿になった。あの姿になるのは、時の女神の娘と同化しているから……。
フィリスは、今まで無視してきたけど、やっと白い霧に手を伸ばした。七つの元徳の一つ、正義を手にする為に……。
フィリスはよく嘘をつく。
この行いは、彼なりの正義だ。
全てを失った者でも、自分を犠牲にすれば……最後まで悪役を演じて、嘘を貫き通せば、守れるものもある。
フィリスは、天国での出来事……真実を隠している。
悪魔の女神の白い霧が、希望の魔女ノルンに教える。
骸の騎士の鎧の中は、聖神フィリスの魔力で満たされていて、狂信者デュレス・ヨハンの体は何も残っていないことを……。
狂信者にとって、今の状態は苦痛ではない、狂信者は魂から喜んでいた。聖神フィリス―主と共に歩めているから……。
金色の鎧を纏う、骸の騎士は言葉を発した。
その声は、狂信者デュレス・ヨハンではなく……聖神フィリスの声だった。
《ノルンお嬢様、貴方は素晴らしい。
幾つもの試練を乗り越えて、
6番目の霧の人形になりましたね。》
白い霧が、希望の魔女に囁く。『希望の魔女、すぐに避難を……人形の安息地へ避難を……聖神フィリスに敵対せずに避難を……。』
『敵対しない?……それは無理。
こいつは、狂信者を操っている。
こいつをどうにかしないと―』
白い霧が、希望の魔女ノルンに告げた。大好きな母のことを……。『聖神フィリスに敵対せず、避難を……悪魔の女神、聖神を殺して正気を失った。希望の魔女、すぐに霧の世界フォールへ……人形の安息地へ逃げなさい。』
『!? お母さんは、こいつを殺して?
どういうこと? だって、聖神は―』
《ノルンお嬢様、白い霧は正しいですよ。
間違ってはいません。
悪魔の女神、ノルフェスティ様は……。
僕を殺し続けて、正気を失ってしまった。
白い霧は、女神を守ろうとしたけど……。
ノルフェスティ様は、世界よりも貴方を選んだ。
娘への愛が、偉大な悪魔の女神を生んだのです。
ノルンお嬢様、親子の愛は素晴らしいと思いませんか?》
金色の骸の騎士が、聖神フィリスの声で喋った。フィリスは、真実に嘘を混ぜる。時の女神が、世界よりも愛する娘を選んだことは真実だ。
だけど、悪魔の女神が、聖神を殺し続けて正気を失った……これは嘘。時の女神が変貌して、悪魔の女神になった。
天国にいた、時の女神ノルフェスティは時そのもの。
時は、聖神フィリスを何度殺しても……フィリスの死が、時の女神が狂う原因にはならない。
時を狂わすことができるのは、時の魔術だけである。
骸の騎士―聖神フィリスは、希望の魔女ノルンをこの星から逃がすつもりはなく……希望の魔女との決闘を続けようとしている。
希望の魔女ノルンは、フィリスの嘘を信じて、気持ち悪くなった。『堕落神―聖神フィリス、こいつは狂っている……私たちの夢の中で、お母さんが、聖神は最低な男だと言っていた。絶対に信じてはいけないと……。
お母さんとの約束は守れそう。ある意味、狂信者デュレス・ヨハンより異常。狂信者には信仰というものが、まだ残っていた。でも、こいつには……。』
希望の魔女ノルンは勘違いしている。
フィリスのことを……彼の嘘に騙されている。彼の嘘を見抜けていない。『悪魔の女神に殺されることを願い、女神に殺され続けた者……きっと、お母さんが殺しても、こいつは狂信者の様に再誕した。
神生紀に殺しても、また再誕するから……お母さんはこいつを封印した。こいつには何が残っているの? 今、封印から解かれて……。』
希望の魔女ノルンは、骸の騎士―聖神フィリスに聞いた。
『フィリス、貴方は人の神だった。
母に仕えていたのでしょう?
それなのに、どうして?
母に殺されることを願うの?』
《僕は、悪魔の女神に殺されたいんです
ただ、それだけですよ。
それ以外、何もありません。
僕にとって、世界とは、女神に殺される場所です。
残念なことに……ノルフェスティ様は狂ってしまった。
とても嘆かわしいことです。》
『……母に殺される以外、
本当に何もないの?』
《ええ、ありません。
女神に殺されること、それが全てです。
女神の封印から解かれて、地獄、霧の世界、
異界……色んな世界を見ましたが、何も変わっていません。
女神に殺されること以外に、この小さな世界に、
どんな価値があるのですか?
何もありません。女神に殺されない世界など、
無価値ですよ。》
フィリスはよく嘘をつく。
彼は、最後まで悪役を演じ切るつもりらしい。時の女神の娘―青のお嬢様の罪を、全て背負うつもりだ。
『………………。』
希望の魔女ノルンは、フィリスが全ての元凶だと判断した。『ああ、分かった。デュレス・ヨハンがどうして、狂信者になったのか……こいつを信じたからだ。こいつは、誰よりも狂っている。
だから、こいつに関わったらおかしくなってしまう。大好きなお母さんも、こいつに……。』
《ノルンお嬢様、悲しむ必要はありません。
悪魔の女神は、天国を目指しておられます。
天国を破壊して、全ての者に終焉を届けようとされています。
ノルフェスティ様は、役目を果たそうとされているのです。
正気を失っても、まだノルンお嬢様を―》
『聞きたくない……。
お母さんのことは話すな!』
聖神フィリス、こいつが元凶だ。
希望の魔女ノルンはそう思っている。『こいつのせいで、全てがおかしくなってしまった。こいつが、全てを狂わせた。惑星フィリスも……霧の世界フォールも……今、天国と地獄を含めた、あらゆる世界を狂わせようとしている。
悪魔の女神に殺されることしか考えていない。たぶん、この決闘も……正気を失った悪魔の女神を誘い出す為のもの……。』
希望の魔女ノルンは怒った。
本当に許せなかった。大好きな母を、こいつが奪ってしまった。微笑んでくれる優しいお母さんはもう……。『赦せない、許さない……聖神フィリス、こいつは私たちの敵。殺しても、何度でも再誕してくるのなら、二度と再誕できない様に否定してやる……私の時の魔術―再生の時で!』
こうして、希望の魔女ノルンも……悪魔の女神の様に、フィリスの嘘を信じてしまった。彼は、自分の役目を果たそうとしている。
時の女神の娘、青のお嬢様だけが、彼の嘘を知っている。
青のお嬢様―天の創造主以外……皆が、フィリスに騙されている。フィリスの役目は、女神に仕えて、嘘を貫き通すこと。
彼の願いは、新たな悪魔の女神に仕えることだった。どんな犠牲を払うことになっても、聖神の望みは変わらない。
彼は冷酷だ。どんな犠牲を払うことになっても……どんな方法を用いても、嘘をついて悪役を演じ切る。
最後に、敬愛する時の女神と女神の娘を守る為に……。
天の創造主は、あらゆる未来を見る。
青のお嬢様―天の創造主は、緑豊かな星ラスの中にいた。どこかの海岸を裸足で歩いている。広大な草原から、この海岸まで転移魔術でとんだ様だ。
この海岸からでも、希望の魔女と狂信者―骸の騎士の決闘がよく見えていた。天国からでも監視できる青のお嬢様―天の創造主にとって、些細な距離の違いは障害にならない。
星の外であっても、別の世界であっても……天の創造主には見える。
《
テラの大樹が、人形の安息の地から運んで、
すぐに撃てるのは一門だけ。
極星魔術・第六の刻―
騎士神オーファンも、希望の魔女を助けて……。
悪魔の女神が、この星に来てしまうね。
ノルンの時の魔術と……聖神フィリスの姿のせいかな。
聖神フィリスは別にいいけど、
時の女神の娘で会うのはまだ早いし……。
白い瞳のルーン……強欲の烙印。
聖神フィリスの同化を防がれてしまうけど、
ルーンが、ノルンの魂を食べてしまうから……。
この未来が良いかな……。
白い人形のウルズを迎えに行こう。》
青のお嬢様―天の創造主は、海を眺めている。
緑豊かな星ラスの自然を満喫していた……時の女神の娘として、青のお嬢様は未来を見て呟く。
《フィリスが、元徳の正義に手を伸ばして……。
彼はよく嘘をつく。
時の女神ノルフェスティと、
女神の娘を敬愛しているから……。
ノルン、彼は……嘘をついているよ。
フィリスが、全ての元凶?
彼が、天国で時の女神の娘を攫った?
それは違う、それは彼の嘘だよ。
天の創造主が、私と彼を使っているのは本当のことだけど、
でも、それは、私たちが創造主に願ったから……。
彼は普通の人間だった。
異界の古代エルフ文明を救おうとした、若者だった。
ノルン、よく考えて……どうすれば、ただの人間が、
時の女神に気づかれずに、大切な娘を攫うことができるの?
無理だよ、できないよ。
フィリスは、異界の古代のエルフ文明を救う為に、
君に助けを求めた。
ノルン、君が……ノルフェスティとの約束を破った。
君が、白亜の城に保管されていた星の核を盗んで、
無断で持ち出したんだ。
そして、あの時……綺麗な花畑で、フィリスに会った。
彼は跪いて、天の創造主の言葉を聞いた。
星の核は、どんな願いも叶えると……。
ノルン、君は星の核を使って、時の魔術を行使した。
極星魔術―時の魔術を……。
これが、全てを狂わした。
ノルン、君がフィリスの魔力を奪った。
君が、フィリスを喰ったんだよ。
フィリスと同化した君は、天の創造主に願った。
時の女神ノルフェスティの解放を……。
世界は……真実は残酷だ。
ノルン、それが真実。
フィリスではない……君が元凶だよ。
フィリスは、君の罪を背負った。
それが、彼の正義……。
ノルン、君は……真実を知ったら、
フィリスを否定できるの?
君の代わりに、罪を背負った若者を……。》
青のお嬢様―天の創造主は、希望の魔女と骸の騎士の決闘を見守る。
緑豊かな星ラスの中、どこまでも続く草原……金色の骸の騎士―聖神フィリスは、希望の魔女ノルンに語りかける。
聖神フィリスは、嘘を貫き通す。
《ノルンお嬢様、貴方に伝えます。
貴方が一番知りたいことを……。
時の女神ノルフェスティ様……。
天国にいた、女神と娘の話をしましょう。》
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