第58話『希望の魔女ノルン VS 狂信者デュレス・ヨハン……天の創造主と悪魔の女神は、決闘を終わらせない①』



 悪魔の女神の極界魔術―再生の聖痕。



 正気を失った悪魔の女神は、愛するノルンを癒す。娘の死を認めない。何度でも否定する。そう、何度でも……。




 地獄の悪魔の腐敗魔術―絶命の鮮紅色の沼。



 生物を死滅させる、鮮紅色の沼は広がり続けている。真っ赤な星ラスの灼熱の環境もあわさって辺り一面、真っ赤……。


 灼熱の気温と絶命の沼が、星に死をもたらしていた。




 突然、真っ赤な沼の一部がふきとんだ。



 ドロドロの液体は真っ赤な霧に戻って、霧散していく。鮮紅色の沼の中に、焼け焦げた小石と砂が集まって……小さな島ができた。



 その島の中に、白い霧を纏う者がいる。白い手足に、銀色の髪……海の様に透き通る、青い瞳をもつ少女。


 

 白い霧の翼をもつ、希望の魔女ノルン。



 彼女は、座り込んでいた。頭が垂れている為、ノルンの表情を窺うことはできない。希望の魔女は、聖痕がもたらす苦痛に負けてしまった様だ。



 白い霧を纏いながら……希望の魔女は気絶している。





 天を狂信する、赤い眼の悪魔デュレス・ヨハンは死亡した。



 悪魔の死体は腐って、真っ赤な沼になった。天を狂信する悪魔は亡くなったけど、二人の決闘は……希望の魔女と狂信者の決闘は、まだ終わらない。



 悪魔の女神が、希望の魔女ノルンを癒す。天の創造主が、狂信者デュレス・ヨハンを再誕させるから……ほら、創造主が近づいてきた。




 青い瞳の少女が歩いている。


 彼女は天の創造主、全知全能なるもの。



 白い手足に銀色の髪。海の様に透き通る、青い瞳が見る者を惹きつける。歳は12~13才くらい。彼女は時の女神の娘であり、希望の魔女ノルンより少し幼い。



 彼女は、希望の魔女ノルンに似ているけど……腰から、白い霧の翼は生えていない。幼い頃のノルン―青のお嬢様とそっくりだ。



 青のお嬢様―天の創造主は、ジュエリーを身に着けている。青い水晶をはめ込んだ、プラチナ製のネックレスや腕輪。



 ジュエリーだけでなく、ゆったりとした長袖シャツとスカートにも……時の女神ノルフェスティの神聖文字が刻まれていた。



 青く光る水晶は、上級魔晶石。ジュエリーや衣類に刻まれた、神聖文字もほんのり光っていて……青のお嬢様の美しさを引き立たせている。





 ここは、地獄と化した真っ赤な星、惑星ラス。


 真っ赤な星の気温は300℃以上で、今も上昇し続けている。



 そんな星の中を……青のお嬢様―天の創造主は、静かに呼吸しながら、ゆっくり歩いている。ドロドロに溶けた灼熱の大地でも、彼女の歩みを止めることはできない。



 彼女は全知全能。彼女にできないことはない。注意して、時間をかければ……思い通りに、世界を書き換えることができる。



 青のお嬢様が保有している、唯一のスキル……全知全能(欠落)。青のお嬢様―天の創造主は欠落している。



 世界の外にいる彼女の本体は大き過ぎて、何かを捨てないと世界の中に入ることができないから……今、何かを捨てて、欠落した状態で存在している。




 真っ赤な星ラスに降臨した、天の創造主。


 青のお嬢様は微笑んでいる。彼女は楽しんでいた……思い通りに世界を書き換えて、楽しんでいる。




 今はまだ……天の創造主を止めることができるものはいない。


 青のお嬢様は、惑星ラスで亡くなった数十億の人の魂を集めていく。水の都ラス・フェルトの住人には逃げられてしまったけど……1つの星から、これだけ人の魂が手に入れば十分だった。




 青のお嬢様―天の創造主は、真っ赤な沼の縁にきた。


 この沼は、地獄の悪魔の腐敗魔術―絶命の鮮紅色の沼。天を狂信する赤い眼の悪魔が絶命して、周囲の大地を腐敗させている。




 青のお嬢様―天の創造主は思った。《星は脆い。あっと言う間に壊れてしまう。人の魂も回収できたし……。》




《さて……星を元に戻そう。


 希望の魔女と狂信者の決闘に、

 相応しい舞台を創ってあげないとね。》





 天の創造主にとって、世界とは全て等しいもの。



 世界とは我が子であり、幼きもの。人や魔物も、精霊や悪魔も、そして、神でさえ全て等しい。全てものが、自分を上回ることはない。




 全てが下にあって、自分より下で競い合っている。


 自分には決して届かない……限られた空間に、自分より下のものが集まっている。創造主にとって、世界とはそういうものだった。




 悪魔の女神や狂信者デュレス・ヨハンの様に、稀に役に立つ者はいた。


 だけど、世界全体から見れば、役に立つ者はとても少なく……世界は烏合の衆にしか見えなかった。




 創造主は全知全能であるけれど、人や魔物から見れば、とても残酷な存在だった。


 人や魔物の思いを理解しようとしてくれない。創造主は理解しようと思えば、簡単に理解できるのに……。




 青のお嬢様―天の創造主には願いがある。


 天国から堕ちて、正気を失った悪魔の女神に殺されること。それが、女神の娘の願い。創造主は願っている、自分を超える者が現れることを……。



 自分ではない者が、一時的にでも自分を超えて……創造主を殺して欲しい。新たに、全知全能なるものが現れて欲しい。




 その為に、全てを計画した。


 遥か昔に、天国で時の女神の娘を攫った。時の女神ノルフェスティは、娘を失って……正気を失って悪魔の女神になった。



 ここまでは計画通り。天国から、時の女神の娘の姿で監視して……聖神フィリスの姿で、悪魔の女神の傍にいた。



 聖神フィリスとして、女神と共に堕ちた。


 そこまでして、計画が狂うはずがない。あとは計画通りに……天国で、悪魔の女神が、白い人形のノルンを殺す。



 悪魔の女神、自ら娘の存在を否定することで、女神は時から解放される。




 天の創造主は、時の女神の娘を使って、娘から母へ……スキル・全知全能(欠落)を、悪魔の女神に譲渡しようとしている。



 その過程で生まれたのが白い霧だ。


 白い霧は全知全能(欠落)の力をもって……極界魔術という力で、女神の娘―霧の人形の願いを叶えてきた。




 白い霧は、最後に誰の願いを叶える?



 全知全能である天の創造主か、正気を失った悪魔の女神か、それとも、女神の娘か……再誕のリバースデイは近い。




 終末のあとに再生が訪れる。



 きっと、時から解放された女神は嘆き悲しみながら、創造主も殺すだろう。天の創造主は思った。《新たな女神は、僕を殺せるはずだ。殺してくれないと困る……。》




《僕は他者に殺されて、

 初めて再誕リバースできる。



 僕が再誕リバースして、

 新たな創造主になるかもね。



 僕の計画通りに進むかな……とても楽しみだよ。》




 青のお嬢様―天の創造主は、真っ赤な星ラスに再生をもたらす。創造主は、惑星ラスに語りかけた。




《惑星ラス、君に新たな時をプレゼントするよ。

 もう一度、役目を与えるから……。


 命を育んで欲しい、緑豊かな星でね。》




 青い瞳の少女は、両手を横に広げた。


 天の創造主は、時の女神の娘を使って、女神固有の魔術―時の魔術を行使した。惑星ラスも用いて、時の魔術は極星魔術となる。




《天の創造主の時の魔術、極星魔術―

 我が子、幼き世界の再誕リバース。》




 青のお嬢様の足元、ドロドロに溶けた灼熱の大地が動き始めた。


 地面が割れると、星の空も割れ始める。空と大地が縦に割れた……天と地の隙間から、緑豊かな星が入り込んできた。



 瞬く間に、空は青くなり……緑豊かな大地が、真っ赤な大地を侵食していく。青のお嬢様―天の創造主は、新鮮な空気を吸い込んだ。




 青い瞳の少女が、ゆっくり手を下げると……。


 そこには、緑豊かな星があった。赤い花や青い花、黄色の花……色んな花が咲き誇っている。花畑の上を、たくさんの蝶々が飛んでいた。



 緑豊かな星になった、惑星ラスの空を鳥たちが飛んでいく。犬たちが、木々の間を走っていく……動物たちが、自然を謳歌しているけど、人や魔物の姿はない。




 今、この時……天の創造主によって、動物たちが生を謳歌する、緑豊かな星ラスが誕生した。地獄の悪魔の腐敗魔術―絶命の鮮紅色の沼……真っ赤な沼はもうない。創造主によって否定された。



 見渡す限りの草原……青のお嬢様は、どこまでも続く草原の中にいた。草原の中に、狂信者デュレス・ヨハンの亡骸がある。



 皮膚も肉もない。悪魔の肉体を腐敗魔術に使ってしまい……今あるのは骨だけ。ボロボロの衣類を纏う、狂信者の骸が落ちていた。



 青のお嬢様―天の創造主は、希望の魔女と狂信者の決闘を見守っている。二人の決闘は……まだ終わらない。天の創造主と悪魔の女神が終わらせない。




 希望の魔女ノルンは気絶して、座り込んでいる……草原の中で、再生の聖痕がもたらす痛みに負けて、気絶していた。




 青のお嬢様―天の創造主は、希望の魔女に触れる。


 創造主は、希望の魔女ノルンが背負った苦痛を取り除いた。これで、希望の魔女はすぐに目を覚ますだろう。




《二人の決闘は続く……これで、計画通りに―。》




 天の創造主はとても驚いた。




《!? うそ……ノルン、何で?》




 ここで創造主でも、予想できなかったことが起こった。


 創造主にとって、これ程、嬉しいことはない。願い続けていたことが、やっと起こったのだから……。




《ノルン、君の最後が……見えない?

 

 僕でも……見えないよ。

 こんなことが……。》




 天の創造主は、あらゆる未来を見る。あらゆる者の最後を見て、計画を遂行している。悪魔の女神でさえ……女神の最後は見えるのだ。



 天国で、悪魔の女神は自分の娘と決闘を行う。世界をかけた、最後の決闘を……霧の世界フォールの最強の存在、悪魔の女神の最後は見えるのに。



 希望の魔女ノルンの未来が見えなかった。真っ黒で何も見えない。




 創造主の全知全能(欠落)の力でも、魔女の最後が見えなかった。これは……誰かが、創造主を上回って、創造主の意思を拒否しているから。



 天の創造主は理解した。


 そんなことができるのは、希望の魔女だけだと……。




《そうか、見えないのは……。

 君が拒否しているから。


 

 未来の君は、僕の存在を拒否している。

 僕でも、君の意思に抗うことができない!



 素晴らしい、ノルン……。

 君はなんて、素晴らしいんだ!》




 青のお嬢様―天の創造主は、魂から歓喜した。創造主にとって、こんなに嬉しいことはない。天国と地獄を創ってから、あらゆる者を見てきた。あらゆる未来が見えた。いつも、自分を上回るものはいなかった……。



 悪魔の女神でさえ、創造主を上回ることができていない。それなのに……悪魔の女神とは別の存在が、創造主を上回ってみせた。時間をかけて計画を遂行して……やっと、自分の意思を上回るものが現れたのだ。



 希望の魔女ノルン。


 それが、未来のことであっても……魔女には大きな可能性がある。





 青のお嬢様―天の創造主は、はしゃぎ回った。


 草原を、喜びながら走り回っている。青い瞳の少女は、無邪気に走り回る子供にしか見えない。




《ノルン、ありがとう!


 悪魔の女神、ノルフェスティ様、

 貴方の娘は、とても素晴らしい子です!




 ありがとう、幼き世界よ!

 こんな素晴らしい結末を……。




 幼き世界を生んだ親として、

 君のことを誇りに思うよ。


 ありがとう、我が子らよ!》

 



 天の創造主は立ち止まって考えている。彼女はとても楽しそうだ。




《どうしようかな?

 この結末を消すわけにはいかないから……。》




 その時……気絶していた、希望の魔女の手が少し動いた。暫くしたら、ノルンが眼を覚ます。



 時の女神の娘―青のお嬢様は、あらゆる未来を見て決めた。



《よし、計画を変更する。

 希望の魔女ノルンも、新たな創造主にしよう!



 異界と霧の世界をくっ付けて、

 新たな世界を創って……。


 そこで、ノルンが育つのを近くから見守ればいい。




 悪魔の女神は、精霊の世界で足止めかな。

 聖神フィリスの姿を使って、終焉の時を遅らせて……。



 あとは……そうだ。ノルンとルーン以外に、

 別の白い人形がいた。彼女も使おう。


 悪魔の女神が選んだ、新たな女神に仕えて……。

 



 上手くいけば……最後の決闘で、

 悪魔の女神が勝っても、ノルンが勝っても、

 僕の望む未来がやってくる。》




 青のお嬢様―天の創造主は、白い霧の翼をもつ天使を見た。




《希望の魔女ノルン、君を導くよ。

 偉大な悪魔の女神の様に……。》




 彼女は、希望の魔女ノルン。


 銀色の髪に白い手足……海の様に透き通る青い瞳。魔女の腰から生えた白い鳥の翼。銀のガントレットやグリーブを身に着けていて、両手に騎士の剣を呼んでいる。



 希望の魔女ノルンは、白い霧の翼をたたんで、ふらつきながら立ち上がった。狂信者の骸を悲しそうに見つめている。




 青のお嬢様―天の創造主が近づくと、希望の魔女ノルンは勘違いした。




『!?……わ、わたし? 

 なんで……。

 

 もしかして、ルーン?



 ルーン、瞳を青い瞳にして遊ばないでよ。

 今は、そんな気分になれないから……。



 ねえ、ルーン……この星、変だよね?

 聖神の光の柱で、燃えたのに……。



 あっ、もしかして……これ、ルーンがやったの?

 再生の聖痕で癒したのは、この付近だけ?』




 希望の魔女ノルンは、青のお嬢様を見て、白い瞳のルーンだと勘違いした。だって、その可能性が一番高いから……目の前に、自分に似ている青い瞳の少女がいる。



 気絶して、目を覚ましたら目の前にいた。


 青い瞳の少女のことを……白い人形の夢の中にいた、白い瞳のルーンだと思った。天の創造主だとは考えないし、気づけない。




 天の創造主が……遥か昔に天国で攫って、同化した時の女神の娘。その娘の姿を使っているなんて、思いもよらない。そんなこと、考えたくもない……。




 青のお嬢様―天の創造主は、希望の魔女ノルンに抱きついた。


 希望の魔女は驚いたけど、それ程嫌ではない様で……姉妹がじゃれあっている様にしか見えない。天の創造主は、希望の魔女ノルンに囁いた。




《ノルン……お願いがあるの。

 狂信者に勝って、この決闘を終わらせて。》




『?……ルーン、あいつは死んでるよ?

 ほら、骸になっている……。』




《ノルン、あいつの後ろには、

 天の創造主がいるの。



 天の創造主……聖神フィリス。

 聖神が、狂信者を再誕させてしまう。



 あいつは、何度でも蘇ってくる。

 ほら、ノルン見て……あいつの骸が―》





 青のお嬢様―天の創造主は囁いた。



 狂信者を再誕させながら……。



 青のお嬢様は、希望の魔女ノルンに抱きついている。希望の魔女に秘められている時の魔術を……悪魔の女神の極界魔術―再生の聖痕を使った。



 狂信者デュレス・ヨハン、彼の役目はまだ終わっていない。




《天の創造主の時の魔術―極星極界魔術、

 七つの元徳と大罪の再誕リバース。》





 狂信者の骸が立ち上がった。


 ボロボロの衣類を纏っている。左手や左足はない、片足で立っている。左足がない為、ズボンの左側が風で揺れている。



 希望の魔女ノルンは驚かない。青のお嬢様を庇う為に、一歩前に出た。





 狂信者の骸に左足が生えた。


 ボロボロの衣類を纏った骸が歩き始める。



 両手に騎士の剣を持っている、希望の魔女ノルンに向かっていく。狂信者の左足が元に戻って、なくなった左腕も……。


 天を狂信する赤い眼の悪魔から、人の姿に戻っていった。狂信者の全ての傷が綺麗になくなって……。




 狂信者デュレス・ヨハンは再誕した。



 彼は周囲を見る。どこまでも続く草原を……。




 騎士の剣を構える希望の魔女と、魔女の後ろに隠れている青い瞳の少女を……狂信者デュレス・ヨハンも、希望の魔女ノルンの後ろにいる青のお嬢様のことを、白い瞳のルーンだと勘違いした。




 勘違いするのは当然である。


 だって、青のお嬢様―天の創造主が勘違いする様に、希望の魔女と狂信者の魂を少し操っているから……天の創造主に魂に干渉されていることに、二人は全く気づけていない。



 狂信者の上着はボロボロ。狂信者は上着を捨てた……太い二の腕、割れた腹筋。引き締まった体が露わになる。


 彼は、ズボンについていた砂を軽く叩いて落とした。狂信者は、惑星ラスが……緑豊かな星になっているのを見て確信した。


 

 彼に対峙する、希望の魔女ノルンに語りかける。




《ノルン……理解できましたか?

 悪魔の女神が、貴方を再生させるのなら……。



 天の創造主が、再誕させる。

 あらゆるものが役目を果たす時まで……。》




 天の創造主は、希望の魔女と狂信者の決闘を見守る。


 創造主は、希望の魔女ノルンに抱きつきながら……狂信者デュレス・ヨハンにも囁いた。狂信者は、決闘の場に創造主がいることに気づけていない。




《デュレス君、僕の声が聞こえる?》




《!?……主よ、感謝致します。

 主のお陰で、私は役目を果たすことができます!》



 

 狂信者デュレス・ヨハンは見上げて、緑豊かな星ラスに降り注ぐ光に、魂から感謝した。その場に跪いて両手を広げて、主に対して、絶対的な服従を示す。




 狂信者以外には、創造主の声は聞こえていない。


 突然跪いて、神に祈る男……狂信者の変わらない姿があった。狂信者は、創造主の声を聞く。



《お願いがあるの。

 デュレス君に、力を授けるよ。



 でも、その代わり……僕の為に死んで欲しい。

 何度でも、死んで欲しい。


 デュレス君ならできるよね?》



 

《はい! それが、主の命ならば、

 喜んで命を奉げましょう!》




 狂信者は迷わない、彼は即答した。


 主に対する絶対的な服従……それに、嘘偽りは一切ない。




 希望の魔女ノルンの後ろから、天の創造主は、跪いて天に祈る男を見て……青のお嬢様―天の創造主は微笑んでいる。



 創造主は、狂信者デュレス・ヨハンに力を授けた。七つの元徳の一つ、信仰。狂信者の信仰が、形あるものに変わっていく。




 ヘブンズ・システム……信仰の聖痕、発動。



 狂信者の右腕に刻まれていた、聖神フィリスの神聖文字が解放された。小さな文字が、彼の体の中に入り込んでいく。聖神の魔力が、狂信者の骨や筋肉……そして、皮膚も覆っていく。



 聖神フィリスの魔力は、青く光る水晶となり、狂信者の体を覆っていく。水晶は鎧になり、水晶の鎧は変色して……狂信者は、金色の鎧を纏った。



 全身を鎧で覆われて、彼の皮膚は見えない。彼の赤い眼が光っている……金色の鎧に刻まれた、聖神の神聖文字も怪しく光る。




《天の創造主の極星魔術、

 信仰の聖痕:聖神フィリスの骸の騎士。》




 狂信者デュレス・ヨハンは死亡して……再誕して、人の姿に戻ったけど、創造主によって、再び人ならざる者―金色の鎧を纏う、骸の騎士にされてしまった。




 狂信者―聖神の骸の騎士は、ゆっくり立ち上がった。


 彼は、聖神の剣を呼んだ。黄金に輝く、ロングソード。聖神の神聖文字が刻まれていて、聖神の光を纏っている。




 狂信者―骸の騎士は、人の言葉を発した。




《さあ、ノルン……主の遊びを続けましょう。》




 狂信者デュレス・ヨハンの言葉は聞こえる……不思議なことに、地獄に落ちた聖神フィリスの声、聖神のとても魅力的な声も聞こえてきた。



 狂信者―骸の騎士を……聖神フィリス―天の創造主が操っている様だ




《さあ、ノルン……僕たちの遊びを続けよう。

 

 君も理解できるはずだよ。

 悪魔の女神の偉大さを……。



 貴方は理解するはずです。

 天の創造主の偉大さを……。



 そして、希望の魔女ノルン、

 君の可能性を……。》




 創造主は、全てを計画して遂行する……青のお嬢様―天の創造主は、希望の魔女ノルンの後ろで……無邪気に微笑んでいた。

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