第57話『希望の魔女ノルン VS 天を狂信する地獄の悪魔デュレス・ヨハン……水の都ラス・フェルトでの決闘③』


『極星魔術・

 帰天きてんの刻―“惑星招来”。』



 テラの大樹は、希望の魔女の様に成長して……人の魂を犠牲にして、迷い星テラの星間循環システムを確立させた。


 例え、それが一時的なものでも……。




 迷い星テラの下にある星……惑星ラスの大空に、希望の魔女がいた。


 希望の魔女の眼下には、暗闇を照らす水の都ラス・フェルトがある。光の大樹に覆われた希望の都が……。



 白い霧の翼をもつ、希望の魔女ノルンは大空から落ちた。



 システム―クロノス、異界の門で巨大な光弾を避けて、惑星ラスの上空から落下している。白い霧の翼をたたんで……。



 希望の魔女は思った。『水の都ラス・フェルトの上空……ここから放てば、水の都への被害は少ない……熱と衝撃波から、テラの大樹が守ってくれる。』



 希望の魔女は、人形の夢の中にいる騎士神に語りかける。騎士神オーファンが裁きを下すべき存在……狂信者デュレス・ヨハンが惑星ラスにいた。




『騎士神オーファン、

 貴方は裁きを下すべきだった。



 今からでも遅くない。

 貴方を崇拝している国……。



 軍国フォーロンドを襲った男に、

 裁きの鉄槌を!』



 希望の魔女ノルンは、星の外に騎士神の大剣を呼んだ。魔女の依り代、迷い星テラの魔力が、巨大な鉄の柱を形作っていく。



 惑星ラスの外に……希望の魔女の神聖文字が刻まれた、巨大な大剣が現れる。



【我は剣となり、

 愚かな者に裁きの炎を与えん。】




 狂信者デュレス・ヨハンは、飛空船カーディナルで、軍国フォーロンドに被害をもたらした。あの時に、騎士神オーファンは……騎士神を崇拝する軍国の国民の為に、愚か者に鉄槌を下すべきだった。



 残念ながら……騎士神は人の神であっても堕落している。堕落神は、神の裁きを下さなかった。それなら、堕落した神に代わって……。



【我は幼き子らを守る。

 我の星へ導かん。】




 今この時、希望の魔女は狂信者に鉄槌を下す。迷い星テラの魔力を受けて、騎士神の大剣は加速する!



『希望の魔女ノルンの極星魔術―

 騎士神オーフェンの鉄槌。』



 天を狂信する地獄の悪魔が、元徳の信仰に手を伸ばした。ヘブンズ・システムを用いて、信仰の聖痕を発動……騎士神の鉄槌から生き残るつもりだ。



 地獄の悪魔となった狂信者が呼ぶのは、異界の門に似せて創られた偽物ではない。異界の真上にある、精霊の世界に存在する正真正銘の天の門だ。



 ヘブンズ・システム……信仰の聖痕、発動。




 闇が消えた、天の光が射し込んできた。


 迷い星テラと惑星ラスを照らしている。天上の光は、星々の外……遥か上、天国から降ってきていた。



 天上の光が現れると、狂信者の黒い右腕に刻まれた、聖神の神聖文字がより強く光った。空が眩しい、次にくる光弾……いや、光の柱が惑星ラスに向かっている。




 聖神フィリスの極星魔術―白き太陽。次にくる光の柱は、惑星ラスを……星をまるごと、包み込んでしまうだろう。


 水の都ラス・フェルトの住人も……他の国の人間たち、誰も助からない。聖神の光の柱が襲って、惑星ラスは焦土と化して星の生命は絶える。




 聖神の光が消えたあと、皆死んでしまう。



 何十億……数えきれない程の命が……。




 希望の魔女は、宙からくる光の柱に気づいた。『私は……グルムドの兵士、2万人殺して……千人分の人の魂を食べて成長した。私はもう迷わない……迷ったら駄目。私は、為すべきことを為す。為さないといけない……悪魔の女神に代わって、天国に希望の時を届ける。』



『狂信者デュレス・ヨハン、

 大勢の人や魔物を殺して……。

 

 お前は、どうして……笑っていられるの?』



 空から落ちながら、希望の魔女は、赤い眼の悪魔を見た。距離が離れているから、狂信者の表情は分からない。



 テラの大樹が教えてくれた。



 天を狂信する、赤い眼の悪魔は笑い続けていると……。 




 希望の魔女は憤った。躊躇せずに、多くの命を虐殺して……それでも笑っていられる、狂信者が許せない。



『星の命を……簡単に殺すな。

 どうして躊躇せずに、ここまで……。』



 テラの大樹が気づいた。狂信者は、天の門を使って転移しようしている……彼だけ、この星から離れて生き残るつもりだ。



『!? ノルン……あいつ、逃げる!


 天の光を呼んで……逃げる。

 あいつだけ……逃げようとしている!』




『ここまでやって……。

 お前だけ逃げるの?

 


 許さない……。

 そんなこと、絶対に許さない!』




 希望の魔女は……狂信者を、惑星ラスから逃がさない。


 システム―クロノス、異界の門でとんだ。天を狂信する地獄の悪魔の真上へ……狂信者が呼んだ、天の光が降り注いでいる。



 天の光を浴びながら……希望の魔女は上空から落下する。魔女の白い霧の翼は魔力を解放して、限界まで加速する!



 狂信者は感服した。


 白い翼を持つ希望の魔女を見て……魔女は、主の光を浴びていた。



《!?……ノルン、美しい。


 貴方は、天の光と共にあるべきです。

 天に選ばれた天使なのだから……。



 貴方には……主の偉大さに気づいて欲しい。》




 騎士神の大剣、天から落ちる巨大な鉄の柱も……迷い星テラから供給される魔力によって限界まで加速して、炎の柱と化した。


 

 聖神の極星魔術―白き太陽……巨大な光の柱が、惑星ラスに迫っている。惑星ラスは、聖神の光によって滅びるだろう。




 希望の魔女は、惑星ラスから逃げない。


 加速して落下しながら、両手にある騎士の剣を絶対に離さなかった。騎士の剣と一緒に落ちる、さらに真下へ……。



 元徳の信仰に手を伸ばした、赤い眼の地獄の悪魔に向かっていく。




 希望の魔女と赤い眼の悪魔の距離が近づいた。


 赤い眼の悪魔の肩から、20本以上の漆黒の鎖がとびだした。狂信者は、希望の魔女を迎え撃つ。彼は見上げながら……降り注ぐ、天の光を浴びながら叫んだ。



《ノルン、貴方に説きましょう!



 再生をもたらすのは、

 悪魔の女神だけではない。



 ノルン、主の偉大さを知りなさい!》




 希望の魔女は、勢いよく右腕を振った。


 握っていた騎士の剣を全力で、システム―フェンリルを用いて放った。希望の魔女の魔力を受けて、騎士の剣は一気に加速する!



 高速で剣を放った反動で、右腕や右肩に痛みが走る。腕や肩が折れてしまったかも……それでも構わない。『痛みは克服できる……あとは恐怖だけ……こいつに勝つんだ!』




『うるさい……狂信者、

 お前はここで消えろ―!!』



 天を狂信する赤い眼の悪魔は、黒い鎖を重ねて……黒い盾を造る。希望の魔女の騎士の剣が、悪魔の黒い盾にぶつかった。




 魔女の騎士の剣は砕け散った。悪魔の黒い盾も……。


 システム―クロノス、発動。希望の魔女は、白い霧の翼を羽ばたかせた。天を狂信する、赤い眼の悪魔の目の前で……。



 狂信者は、希望の魔女の剣を受け止めて体勢が崩れた……彼はよろめいている。



 ここで初めて、狂信者から笑みが消えた。




 希望の魔女は止まらない……もう一つの騎士の剣を、左手から全力で放った。



 赤い眼の悪魔は、黒い左腕から黒い鎖を呼ぶ。漆黒の鎖で、何とか魔女の騎士の剣を逸らそうとした……。



 希望の魔女の剣が、黒い鎖に衝突した瞬間、



 赤い眼の悪魔が吹っ飛んだ。




 希望の魔女の魔力が強い。狂信者は黒い鎖ごと、吹き飛ばされて地面を転がった。何とか起き上がって、赤い眼の悪魔は、左腕の黒い鎖で反撃しようとした。



 だけど、反撃できない。左腕がなかったから……。



 黒い左腕は千切れて、赤い眼の悪魔から離れた所に落ちている。ただ、黒い左腕は切り離されても……魔女の神聖文字は効果を発揮している。



 傲慢の魔女ウルズの神聖文字が、怪しく光っていた。




 希望の魔女は白い霧の翼を羽ばたいて、さらに前へ……すると、負傷した右腕や右肩が治っていく。これは女神の極界魔術―再生の聖痕。



 空の光が強くなってきた。


 星の外から騎士神の大剣が落ちて、さらに聖神の光の柱が惑星ラスを包む。




 希望の魔女は諦めない。


 白い霧の翼で加速して、左腕を失った悪魔に近づく。



 狂信者は、もう笑っていない。その余裕はなかった……。



 青い瞳の魔女は、何度でも赤い眼の悪魔と対峙する。『両手から騎士の剣がなくなったのなら、また呼べばいい……右腕や右肩が負傷したのなら、元に治せばいい!』



 システム―フェンリル。魔女の右手には、新たな騎士の剣が握られていた。『これで、こいつを……狂信者を殺す!』



 希望の魔女は、笑みが消えた赤い眼の悪魔に向かって……もう一度右腕を振って、全力で放った。魔女の騎士の剣は、赤い眼の悪魔が新たに呼んだ、漆黒の鎖と鎖の間を通っていく……。



 希望の魔女の魔力―時の魔術の影響を受けて……ノルンの思いを受けて、騎士の剣は、限界を超えて加速した!




 狂信者は叫んだ。


 希望の魔女の剣と、騎士神の大剣が悪魔の体を砕いても……惑星ラスを、聖神の光が包む。彼は死が近づいても迷わない。



 彼の魂は、主と共に歩む。最後の役目を終える時まで……。



《天の創造主に、主に栄光あれ―!!》





『これで、消えろ―!!』



 希望の魔女も叫んだ。


 魔女の騎士の剣は、限界を超えて加速して砕けていく……砕けながら、天を狂信する地獄の悪魔に直撃した。


 

 黒い鎖の様に固い悪魔の体も砕いていく。



 そして、遂に……魔女の騎士の剣が、狂信者の心臓を破壊したのだ。




 希望の魔女は止まらない。狂信者の存在を否定する為に……青い瞳の魔女が呼んだ、騎士神の大剣が落ちる……狂信者に鉄槌を下した。




 騎士神の大剣は、大地と接触。


 巨大な大剣は崩壊して、膨大な熱と衝撃波を生んだ……炎に包まれながら、テラの大樹は、迷い星テラから可能な限り魔力を運ぶ。



 水の都のラス・フェルトの東側を覆う、大樹の防壁をより高く、より強固にした。衝突時に発生した膨大な熱と衝撃波から、水の都の住人を守る為に……。




 そして、騎士神の大剣に刻まれた、神聖文字が解放されていく。



 堕落神の大剣は、機械の星オーファンの転移装置だった……テラの大樹は、騎士神の大剣に刻まれている、希望の魔女の神聖文字を受け取った。



【我は剣となり、

 愚かな者に裁きの炎を与えん。】



【我は幼き子らを守る。

 我の星へ導かん。】



 システム―クロノス、異界の門も重ねて……テラの大樹は、保有していた2万人の人の魂を消費した。


 水の都ラス・フェルトが、若葉色の光―透明な根に包まれていく。




 空が眩しくて、見上げることができない。



 宙から聖神の光の柱が、惑星ラスを襲った。水の都ラス・フェルトは、光の大樹と共に消えて……希望の魔女の依り代、迷い星テラへ。




 強烈な閃光が……聖神の光の柱が、惑星ラスを包み込んでいく。



 もう一つの青い星、迷い星テラには直撃しなかったけど、被害はでている。迷い星も光の柱によって焼かれていた。




 惑星ラスは……青い星まるごと、光の柱に包まれてしまった。



 聖神の光は地表を焼き、全てを燃やし尽くした。逃げる手段をもたない人々は、天の光に焼かれていく。あらゆる星の命も……森や山が燃えてなくなり、川の水は蒸発して干上がった。


 青い星の海の水位は、急激に減少していく。




 宙から襲った光の柱が消えたあと、奇跡的に、水深が深かった所では海が残った……だけど、惑星ラスの山々はドロドロに溶けてしまった。



 もう青い星はない……。


 聖神の光の柱で焼かれた、真っ赤な星ができた。





 テラの大樹は、希望の魔女も守る。


 真っ赤な大地。ドロドロに溶けて、あらゆる所が燃えている。真っ赤な星ラスで、まだ生きているものがいた。




 光の大樹と、白い霧の翼をもつ希望の魔女。


 光の大樹の根が重なり、大樹の繭ができていた。繭はボロボロ……透明な繭の中にいた希望の魔女もボロボロだった。



 星の温度が異常に高い。


 聖神の光の柱に焼かれて、気温が上昇し続けている。




 希望の魔女は、白い霧を纏った。


 白い霧が教えてくれた。真っ赤な星ラスの気温は300℃。さらに上昇していることを……女神の極界魔術―再生の聖痕が、天使と光の大樹を癒し続けている。



 そして、今も……損傷していた手足が、元の状態に戻っていく。希望の魔女ノルンは、ふらつきながら立ち上がった。



 聖痕がもたらす苦痛で、限界が近い。



 希望の魔女は気絶する前に、狂信がいた場所を見て驚いた。『!?……うそ、まだ消えてない……こいつ、なんで……。』




 赤い眼の地獄の悪魔は、完全に消滅していなかった。狂信者の信仰の聖痕が、オーファンの鉄槌の力を削いだらしい。


 狂信者が呼んだ天の光は、狂信者の死体を燃やさなかった……。




 天国から降る光は、迷い星テラと真っ赤な星ラスを……星々を照らしている。



 狂信者デュレス・ヨハンは体の半分、左側がなくなった状態で絶命していた。魔女の騎士の剣を受けて……騎士神の大剣によって、赤い眼の悪魔は死んだ。



 狂信者は死んだけど……。


 最悪なことに、地獄の悪魔の死体が残ってしまった。




 これは腐敗魔術……ドロドロの赤い眼の悪魔バグと同じ。地獄の悪魔、“魂を盗む、ただれた亡者”の様に……。



 天を狂信する、赤い眼の悪魔が絶命した時に放たれる魔術がある。




 悪魔の死体が腐り始めた。赤い眼の悪魔の死体がトリガーとなって、最悪の腐敗魔術……絶命の腐敗魔術が発動した。




 地獄の悪魔の腐敗魔術―“絶命の鮮紅色の沼”。



 狂信する悪魔の死体が、腐敗してはじけた。腐って塵となり、赤い霧に変わっていく。赤い霧は周囲を腐敗させて……。



 真っ赤な霧は、希望の魔女ものみこんだ。




 大地は腐り……奇跡的に、地中で生き残っていた生き物も死滅する。周囲は真っ赤、絶命の鮮紅色の沼ができてしまった。




 その沼に……絶命の鮮紅色の沼に、近づくものがいる。



 真っ赤な星、ラスの気温は300℃以上……白い霧も纏わないで、地獄と化した星を歩いていた。


 白い手足に、銀色の髪……海の様に透き通る青い瞳。彼女は、希望の魔女より少し幼かった……それに、白い霧の翼をもっていない。



 彼女は、希望の魔女ノルンに似ている。


 青い瞳の少女は、幼い頃のノルン―青のお嬢様にそっくりだった。



 地獄と化した星に、天国と地獄を含めたあらゆる世界の最高神……天の創造主が降臨した。希望の魔女と狂信者、二人の決闘を見守っている。



 彼女は、時の女神の娘―天の創造主。



 希望の魔女ノルンと、天を狂信する地獄の悪魔デュレス・ヨハンの決闘は……まだ終わらない。

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