第56話『希望の魔女ノルン VS 天を狂信する地獄の悪魔デュレス・ヨハン……水の都ラス・フェルトでの決闘②』


 聖神フィリスの極星魔術―白き太陽。


 宙から降る無数の光弾が、惑星ラスを襲っていく。光弾の落下地点には、無数のクレーターができていた。



 今、この時……異界にある惑星ラスに終末が訪れた。


 この星に終わりをもたらしたのは、悪魔の女神の白い霧ではなく……天を狂信する赤い眼の悪魔と、宙から降る聖神の光だった。



 白い霧の翼を羽ばたかせて、希望の魔女ノルンは大空を舞う。


 青い瞳の魔女は上昇して、赤い眼の悪魔から離れた。彼に近づけば、最初の霧の人形の神聖文字……傲慢の魔女ウルズの黒い鎖が襲ってくる。



 惑星ラスの大空を飛んでいれば、漆黒の鎖は届かない。宙から降る光弾も避けやすい。希望の魔女はそう思った。上空なら漆黒の鎖は届かないと……。



 赤い眼の悪魔の黒い体は、漆黒の鎖の様に固い。


 システム―フェンリルで剣や槍を投擲しても、速度が遅かったら簡単に弾かれてしまう。希望の魔女は思案した。『あいつの黒い体を砕く。もっと速く……もっと強く放てばいい。上空から、星の外から……星を破壊する悪魔は、私が否定する。』



 彼女は白い人形。白い手足に銀色の髪。海の様に透き通る青い瞳。銀のガントレットやグリーブを身に着けていて……両手に、騎士の剣を呼んでいた。



 白い霧の翼は、神秘的でとても美しい。



 白い人形は成長して、白い霧の翼を得た。


 魔女の腰から生えた白い鳥の翼は、魔力を解放……希望の魔女の魔力―時の魔術の影響を受けて加速する。


 希望の魔女は白い鳥になって、加速と停止を繰り返した。大空で上昇と下降も繰り返して、無数の光弾を避け続けている。




 惑星ラスの大空を舞う白い鳥を……水の都ラス・フェルトの住人は目撃した。住人たちは、皆見上げている、皆祈っている。水の都に奇跡をもたらす青い瞳の天使に。



 そう、これは水の都……希望の都ラス・フェルトの奇跡。


 水の都は、強国グルムドの兵士に包囲された。白い霧が襲い、都の西側の人や建物が霧の中に消えた。ドロドロの黒い悪魔バグも、都の中を徘徊した。



 そして、宙から無数の光が降り注ぐ。




 それでも、水の都は滅びなかった。


 この都は、希望の魔女ノルンに祝福されている。のちに、この都は希望の都と呼ばれ……希望の都ラス・フェルトの奇跡は、住人たちによって、幾代に渡って語り継がれた。



 ラス・フェルトの奇跡の続きを見てみよう。


 無数の光は降り注ぐ……水の都ラス・フェルトにも光弾が迫った。




 白い霧の翼をもつ希望の魔女は、光の大樹を呼ぶ。


 青い瞳の魔女は、千人分の人の魂を食べた。人の魂を消費すれば、光の大樹は水の都を覆うことができる。都の東側だけでなく、水の都の全てを……。



 テラの大樹は、希望の魔女の魔力を消費して、若葉色に光る透明の枝や葉っぱを広げた。都の東側から、透明な大樹が成長していく。



 無数の光弾が、大樹の枝や葉を破壊する。


 聖神の光弾は、流れ星の様に空から降り注いだ。



 テラの大樹は燃えても気にしない。希望の魔女が、水の都を守ることを望んでいる。それなら可能な限り、水の都を守るだけ。



 テラの大樹は、どんどん成長していった。


 都の東側に大きな根を張って、透明な幹を大きくしていく。大樹の幹は、都の中心地で曲がり、空に向かって枝や葉っぱを広げた。



 宙から降る光を弾く、大樹の傘の様だ。


 光の大樹の傘は、水の都の住人が燃えない様に、無数の光弾を受け止めている。その光景を見て、ラス・フェルトの住人たちは歓喜した。



 宙から降り注ぐ光を憎み……白い翼の天使と光の大樹を讃えた。



 住人たちは、水の都を覆う光の大樹を……かつて、惑星ラスを祝福した光の女神、聖フェルフェスティ様の加護だと信じた。



 宙から降り注ぐ光は、聖フェルフェスティ様によるものではなく、悪しき神によるものだと……これは正しい。降り注ぐ光は、聖神フィリスによるもの。



 水の都の住人たちは祈る。光の大樹を呼んだ、白い翼の天使に。




 希望の魔女ノルンは、惑星ラスの大空を舞っている。彼女は光弾が直撃して、右腕が吹き飛んでも……白い霧の翼を羽ばたかせている。



 白い腕が元に戻った。光弾で熔けた銀のガントレットも直っていく。



 希望の魔女は、テラの大樹の三つのシステムを全て起動している。システム―ノルニル……もう一人の自分、白い瞳のルーンとの結びつきが強くなって、女神の極界魔術―再生の聖痕が癒してくれる。



 ただ、聖痕がもたらす苦痛は耐えるしかない。ノルンとルーンは、悪魔の女神の様に、再生の聖痕を制御できないから。



 無数の光弾を避けながら、希望の魔女は思った。『痛い……痛いけど、耐えないと……耐えられなくなったら、私の負け……水の都に災いをもたらす狂信者に、こいつには負けたくない!』



 苦痛に耐えて、希望の魔女は、水の都の上空を飛び続けた。




 天を狂信する、赤い眼の悪魔デュレス・ヨハンは、ドロドロの黒い液体に覆われている……悪魔の黒い右腕は、聖神の炎を纏っていた。



 狂信者の漆黒の鎖が解放された……だけど、彼の黒い左腕から、漆黒の鎖はとびだしてこない。彼の左腕に刻まれた、傲慢の魔女ウルズの神聖文字は、効果を発揮している。



 漆黒の鎖は、悪魔の左腕から直接現れず……傲慢の魔女の小さな黒い文字のまま、希望の魔女の周囲に現れたのだ。



 希望の魔女は大空を舞っているのに、傲慢の魔女の小さな黒い文字は、希望の魔女を追いかけてくる。


 進む先々に、小さな黒い文字が現れた。そして、黒い文字は……漆黒の鎖となって、希望の魔女を襲う!



『!? 空中から鎖が……この鎖、邪魔!』



 希望の魔女は白い霧の翼を羽ばたかせて、四方八方から襲ってくる黒い鎖を避ける。上昇と下降を繰り返して、何とか避けた。




 狂信者の漆黒の鎖は、希望の魔女を捕まえようと追いかけてくる。


 空中から現れる黒い鎖は、神出鬼没。傲慢の魔女のお気に入り、霧の龍ウロボロスの様に、突然とびだしてきた。


 

 避けても、ずっと追いかけてくる。『漆黒の鎖が、魔女の霧の龍の様に……あれは、魔女の神聖文字……ウルズお姉ちゃんの意地悪!』



 テラの大樹が教えてくれた。傲慢の魔女……白い人形のウルズは、私たちの夢―人形の安息の地を訪れているらしい。


 宙から降る光弾と、狂信者の漆黒の鎖に追われながら……希望の魔女は、長女への不満をもらした。



『もう!……この鎖、いや!

 ウルズお姉ちゃん、この鎖……どうにかしてよ!



 なんで、こいつを助けるの!?

 妹の私を助けてよ!?



 助けてくれなかったら、

 二度と口を利かないからね!』 



 無数の光の雨が降って、惑星ラスの上空で黒い蛇が、白い翼の天使を追っている。青い瞳の天使は、漆黒の鎖から逃げる為に、システム―クロノスを起動。



 希望の魔女は、異界の門でとんだ。


 水の都の外に……白い霧の翼を羽ばたかせる。加速と停止を繰り返して、降り注ぐ光弾を避けた。



 狂信者の右腕に刻まれた、聖神の神聖文字が解放された。宙から降る光弾が、狂信者の黒い右腕に集まっていく。


 希望の魔女は、地上に現れた膨大な光に気づいた……もう一度、テラの大樹のシステムに手を伸ばす。



 そして、聖神の光は放たれた。



 大空を舞う希望の魔女に向かって……ドッ! 光の本流、巨大な光弾が大地を抉っていく。星の揺れ、惑星ラスが何度も揺れた。



 真っ直ぐ放たれた光弾によって、とても深い谷ができた。


 星の外から惑星ラスを見れば、その大きな谷を見ることができる。それ程の大きな谷ができてしまった。



 惑星ラスの海を越えて、別の大陸にも深い谷ができている……直線に続く谷の入り口で、星を破壊する、赤い眼の悪魔は叫んだ。



《ノルン、見ましたか!? 

 これが主の力です!



 主は天国と地獄を創った……。


 天の創造主を超えるものなど、

 この世には存在しない!!



 さあ、貴方も―。》



 天を狂信する、赤い眼の悪魔が黙った。


 宙から降る主の光が遮られたから……太陽の光が遮られて、惑星ラスは真っ暗になった。水の都ラス・フェルトの街の明かりが……都を覆うテラの大樹が、暗闇を照らしている。



 その時……希望の魔女ノルンの言葉が、夜空に響き渡った。



『ノルンの名において命ずる。

 我が依り代よ、我の声を聞け。』



『我は光の大樹となり、星を統べる。

 我が依り代よ、我が敵を撲滅せよ。』



 天を狂信する、赤い眼の悪魔は見上げて気づいた。惑星ラスとは別の星が、主の光を遮っていると……白い霧の中から、別の青い星が現れる。


 この星は光の大樹の故郷であり……希望の魔女ノルンの依り代、迷い星テラ。希望の魔女は極星魔術を行使した。白い人形の敵を撲滅する為に。



『極星魔術・

 帰天きてんの刻―“惑星招来”。』


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