時の間「テラの大樹は白い人形のウルズを、人形の安息の地へ招く。」


 白い霧の中に、若葉色の光―テラの大樹の根が漂っている。


 テラの大樹は、森林魔術であり……白い霧の中で成長した。人や魔物から、世界と世界に根を張る、“世界樹”と呼ばれる日も近いだろう。



 地獄や霧の世界、それに異界……色んな世界にある星々に、透明な根を巻き付けている。世界と世界を繋ぐ世界樹には、大切な場所が二つあった。


 一つは、故郷である惑星テラ。


 

 一つは、霧の世界フォールにある、白い人形の夢。



 

 ノルンとルーンの夢。


 白い人形の夢は、大樹の様に成長している。人形の夢はどんどん大きくなって……幻ではなく、より確かなものになった。もう、幼い少女だけの夢ではない。


 いずれ、生きとし生けるものの夢に……。



 白い人形の夢は、ノルンの時の魔術の影響を受けた。白い霧の中に現実のものとして存在している。霧の世界フォールに、人形の安息の地として……。



 白い霧の中を、若葉色の光―透明な根がふわふわ浮いている。


 私は、テラの大樹。透明な根っこを動かして、色んなものを集めていた。集めるのが得意……色んなものを、人形の夢の中に運んでいる。地獄や霧の世界、異界で見つけた、古代エルフ文明や神生紀文明の遺物と思われるものも。


 白い人形に役立つものを集めている。ノルンとルーンを守れる様に……。


 


 テラの大樹は、白い霧の中から見た。


 地獄の中層―星々の灰。白き太陽と地獄の悪魔に襲われている獣人の星で、一際大きな木を……大樹の街エラン・グランデ。


 100m以上ある大樹で、猫の獣人の街。テラの大樹は思った。『大樹……私と同じ? 違う、少し違う……精霊? 多くの精霊が集まっている……ここは猫の街で、精霊の憩いの場。』



『面白い……この精霊たちとなら、仲良くできそう。

 この精霊たちは……悪魔ではないから。


 

 私は驚いた……霧の悪魔でも、

 優しい悪魔がいた……。


 姿が変わったけど……悪魔のフィナ。

 

 悪魔の女神の娘……霧の人形、

 赤き魔女アメリア。



 優しい悪魔は変わり者……。

 そうだよね?……傲慢の魔女ウルズ?』



 大樹の街エラン・グランデ……獣人の街の上空で、白い人形のウルズが燃えている。聖神フィリスの極星魔術―白き太陽を避けなかったから。



 人形の手足は燃えて、ボロボロ。燃える人形の肩や腰から、黒い翼ではなく白い翼が生えていた。


 霧の白い翼。霧でできている、とても綺麗な翼。


 人形は全身が燃えて、ボロボロに……まだ、何とか人の形を保っていた。テラの大樹は、白い霧から透明な根をだした。若葉色の光が、白い人形のウルズを包み込んでいく。



 上空から、一匹の白い鳥が落ちていく。テラの大樹は驚いた。『ウルズが……自分を犠牲にした?……傲慢の魔女……絶対にそんなことしない……。』



 テラの大樹は、白い人形を運ぼうとした。


 でも、白い人形はそれを拒否する……ウルズは、獣人の星から離れたくない。この星には、七つの元徳の一つ、節制の保持者がいたから。



 白い人形のウルズは、テラの大樹に念を押した。金色の髪に青い瞳、フェルを支えること、絶対に見捨てないことを……。



『ウルズ……約束する。

 絶対に、フェルを見捨てない……。


 フェル、システムと関りがある。

 天のピースと……私は、絶対に見捨てない。』



 テラの大樹が、ウルズの魂だけを運んでいく。


 魂を惑わす紫の瞳、ウルズの魂は燃えている白い人形の中にいない。ややこしいけど……ウルズの星の核は消えていない。傷ついている白い人形の胸の中に納まっていた。


 白い人形、星の核から魂だけが離れて……まさに、“幽体離脱”。



『人形の体は……獣人の星に置いて……。

 ……ウルズの魂だけ運ぶ。』



 白い霧の中で、テラの大樹が囁く。



『ウルズ、頑張った……。


 今の貴方なら……安心して運べる。

 おいで……白い人形の夢の中へ。


 優しい女神も留まる……人形の安息の地へ。』




 ここは霧の世界フォールにある、人形の安息の地。


 この地にまだ名はないけど……あらゆる世界が終末を迎える、今……白い人形の夢は、唯一の希望になろうとしていた。



 人形の安息の地は、白い人形のノルンによって祝福されている。ノルンの時の魔術は、この地に辿り着いた者を癒していた。


 例えば、テラの大樹が拾ってきた、魂が壊れた死者でさえ……他にも、テラの大樹が集めた、古代エルフ文明や神生紀文明の遺物なども。


 遺物は壊れていて使い物にならない。そう言った物も修復している。




 白い人形ノルンの祝福。


 それは、ノルンが保持している……七つの元徳の一つ、希望がもたらすもの。



 青い瞳のノルンは、初めて……時の魔術を行使した。


 ノルンの“希望の聖痕”は、女神の時の魔術―“再生の聖痕”を上書き。希望と再生の聖痕が重なり合って、新たな時の魔術となった。



『我は再生の時なり、女神に魂を奉げる。

 母なる白い霧よ、我が時を―希望を運べ。』



『極星極界魔術・

 帰天きてんの刻―“再生の時”。』



 ノルンの時の魔術―“再生の時”は、白い人形の夢に効果を発揮して……霧の世界フォールに人形の安息の地を創った。



 人形の安息の地は、女神の時の魔術に呪われることはない。この地は、白い人形のノルンによって祝福されているから……。



 白い人形の夢には、白い霧に覆われた街と大樹の城がある。若葉色に光る、透明な根……惑星テラに生息していた大樹。テラの大樹は、古びたお城に巻きついていた。


 若葉色に光る透明な根は、白い人形のノルンとルーンを守っている。テラの大樹は、この安息の地も根っこで覆い、外敵の侵入を阻んでいた。



 でも、大樹の防衛は完璧ではない。何度か、既に侵入されていた。



 白い霧と共に現れる霧の人形に……テラの大樹は思った。『……霧の人形は、ノルンの姉たち。姉たちはいい……問題ないかな……たぶん。』




 ノルンの姉が、人形の安息の地を訪れる。


 白い人形の夢の中に入ってきたのは、白い人形のウルズ。ウルズは変わって……黒い翼を失ってしまった。


 傲慢の魔女になれない半端者。それが、今のウルズ……ルーンの体を乗っ取っているので、この安息の地に簡単に行き来できる。




 白い人形が倒れている。


 ウルズは何かを呟くと、そのまま眠ってしまった。人形の体は、全身が燃えてボロボロ。人や魔物だったら、もう亡くなっている。


 それぐらいの重傷。テラの大樹は……白い包帯の代わりに、透明な根っこで、ウルズを覆ってあげた。




 白い人形のウルズの傍に誰かがいる。


 栗色の髪に、白い犬の耳と尻尾……獣人のフィナ。以前と比べて、体が少し小さくなっていた。フリルエプロン、青と白のメイド服を着ている……元悪魔のメイドとして、大樹の城の客室や図書室などを、きれいに掃除するつもりだったらしい。



 獣人のフィナは、白い人形のウルズをおんぶした。


 フィナは体が小さくなったけど、白い人形より背が高い。白い人形のノルンやルーンは、まだまだ幼い。ルーンの体を乗っ取ったウルズも……。


 ウルズは、透明な根っこで覆われているので、若葉色に光る不思議なミイラみたい。獣人のフィナは、根っこに覆われたウルズをしっかり担いでいた。



 白い人形をおんぶしながら……フィナは自然と微笑んでいた。

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