時の間「天国で、時の女神の娘―全知全能(欠落)は監視する。」


 ここは天国。地獄の遥か真上……。赤色や黄色に、白色の花。色とりどりの花が咲き誇っている。美しい花畑。雲一つない青空のもと、一人の少女が花畑の中に佇んでいる。どうやら、母親を待っている様だ。


 白い手足、銀色の髪。透き通る、海の様な青い瞳が見る者を惹きつける。歳は、12~13才くらい。時の女神の娘。青い水晶をはめ込んだ、プラチナ製のネックレスや腕輪。ジュエリーには、母親の神聖文字が刻まれていた。青い瞳の少女が身に着けている、ゆったりとした長袖シャツとスカートにも……。


 青く光る水晶は、上級魔晶石。ジュエリーや衣類に刻まれた、神聖文字もほんのり光っていて……少女の美しさを引き立たせている。神聖文字には、防犯の役割もあったけど、女神の娘が攫われた時……その役割を果たせなかった。



 天上の神々は、天の創造主が存在する空間を、“高み”と呼んでいる。


 時の女神の娘は、天国の真上……世界の外にある、高みを見た。青い瞳の少女にできないことはない。注意して、時間をかければ……思い通りに、世界を書き換えることができる。


 

 青い瞳の少女には、願いがある。天国から堕ちて、正気を失った、悪魔の女神に殺されること。それが、女神の娘の願い。もし、少女の願いが、ただ世界を壊すことなら……その願いはすぐに叶えられる。


 時の女神の娘が、力を大いに振るうと……世界は、あっという間に壊れてしまう。世界は一点になるまで、圧縮されてしまうだろう。天国と地獄を含めた、全ての世界は小さすぎるから……。



 青い瞳の少女は、高みを見て……声をかける。それに答えるものがいた。天の創造主が、最初に捨てた、光と時。元始の神、光の女神フェルフェスティ。


 光の女神の声が、天国に響き渡ったけど……女神の声を聞いたのは、青い瞳の少女だけ。天国には、時の女神の娘以外、誰もいなかった。



『……………。

 主よ、どうして、そのお姿に?』



《?……ああ、これ? 

 悪魔の女神の極界魔術だよ。


 最近……高みから堕ちて、天国にいると、

 どうしてもこの姿になってしまうんだ。


 母親の強い思い。ノルフェスティ様は、

 娘をとても愛しているから……。》



 主の言葉を聞いて、私―光の女神フェルフェは、酷い嫌悪感に襲われた。我が主は……白い手足に、銀色の髪。時の女神ノルフェスティの娘になって、普段通りに話している。


 私は思った。『……主よ、貴方は酷い。貴方が、望みを叶える為に……全てを計画した。どこまで、ノルフェを傷つけるのですか? どうして、ここまで……できるのですか?』


 我が主には聞こえている。それでも構わない。聞こえたところで……青い瞳の少女は気にしない。だから、私は、不快感を示した。



『……主よ、ノルフェのことを、

 様付で呼ばないで下さい。』



《……フェルフェ、彼女は、

 試練を乗り越えて、悪魔の女神になった。

 スキルの譲渡も、上手くいっている。

 

 共に堕ちて、長い間……。

 彼女に仕えていたからね。


 僕は、彼女を尊敬しているんだよ。

 悪魔の女神は、僕を超えるかもしれない。


 僕の望みを叶えてくれる、新たな創造主に。


 

 フェルフェのことも、

 様付けで呼んでもいいよ?

 

 この体、ついさっき、

 生まれたばかりだから……。


 0歳ということで、

 目上の者に敬意を表してさ。》



『結構です……やめて下さい。』



 私は、ただ悲しくなった。『……試練を乗り越えた? あれを、試練だとおっしゃるのですか? 貴方が、ノルフェの娘を攫って……貴方が、ノルフェを壊したのです。貴方は……高みから、堕ちるべきではなかった。私たちのことを……放っておいてくれたら良かったのに。』


 私の問いかけに、時の女神の娘は答える。


『主よ……どうして、

 私を呼んだのですか?』


《……ヘブンズ・システム。

 未熟なシステムだから、

 成長させようと思ってね。


 天国から運んだ、人や魔物の魂。

 高みに、溜まってきたから……。


 その魂を使って、

 システムを成長させて欲しい。


 フェルフェ、

 君なら……できるでしょう?》



『………………。

 

 主よ、計画を中止することは、

 できないのですか?』



《……できるよ。

 ただ、中止したら、世界は滅びる。


 悪魔の女神が、世界を壊す。

 僕が何をしなくてもね。


 フェルフェ、僕を止めたいのなら、

 もっと強くならないと……。

 

 君は、高みから逃げ出すこともできない。

 他の神々と同じだよ。


 僕を殺したいのなら、

 もっと変わらないといけない。


 悪魔の女神の様に……。》



『……分かりました。

 

 貴方を殺す為に、

 ヘブンズ・システムを成長させます。』



《それは、願ったり叶ったりだよ。

 僕を越える存在が増えるのなら……。》


『……………。』


 私を含めた、天上の神々は、高みに幽閉されている。我が主が、閉じ込めた。主は、時の女神の娘になって……無邪気に、笑みを浮かべている。『主は、欠落している。高みから堕ちて、欠落した状態で存在して……楽しんでいる。子供の様に遊んで……。』



 ヘブンズ・システム。天のピース(天の鍵の一部)で創られたもの。天の鍵は、二つしかない。一つは、主が保有している。もう一つは……時の女神ノルフェが、盗んだけど……主がばらばらに砕いてしまった。


 時の女神の落とし物、天のピースが全て揃えば……天国の最も奥にある、秘匿の間。天の創造主によって、封印されている、“開かずの門”を開けることができる。開けたものは……高みへと至る。


 リバースデイ(再誕の日)。主は……新たな創造主が、生まれることを望んでいる。自分を殺せる者が、現れることを。

 

 ヘブンズ・システムが、かなり真下にある、異界の星から人の魂を運んできた。そのまま、高みへと運ばれて、ヘブンズ・システムの糧になるだろう。



 システムが、私―光の女神フェルフェに教える。惑星ラスは、ノルフェの白い霧に襲われていて……。終末を迎えている星から、ある男の声も届けたことを。主と知り合いの様だ。


《……主よ、惑星ラスの人の魂。

 無事に届きましたでしょうか?》



《……届いているよ。

 デュレス君の信仰は、本当に素晴らしい。》



《?……主よ、悪魔の女神の娘の声が、

 聞こえるのですが……。》



《ああ、これね。天国にいると、

 女神の娘の姿になってしまって。

 

 デュレス君が知っている、少年の姿。

 あれもあるから……。


 今、少年の方は、地獄に配置しているよ。

 

 ノルフェスティ様に、

 地獄に落とされてしまったから。》



 地獄という言葉を聞いて、デュレスと呼ばれた男は、僅かな不安を感じた。だけど、その不安を口にすることはない。主に対する、絶対的な服従。ノルフェの七つの元徳の一つ、信仰を手にしている。この男も、重要な駒の一つなのだろう。狂信者デュレス・ヨハン。時の女神の娘が、狂信者に命令を下した。



《僕は、天国と地獄から監視する。


 デュレス君は、

 残りの天のピースを集めて欲しい。

 

 できるだけ、人や魔物の魂も運ぶように。


 七つの元徳と大罪の保持者には、

 手を出さないこと。遭遇したら逃げていいよ。


 ただ……ノルンだけは、

 デュレス君も眼を光らせて欲しい。

 

 あの子は例外。

 あの子だけは、予測し辛い。》



《……承知致しました。

 主のお告げ、心より感謝申し上げます。》



 デュレス・ヨハン。男の声が聞こえなくなった。私は思った。『……世界は残酷だ。主は、とても残酷な方……。』



 ヘブンズ・システムが、私に伝える。天国の花畑に佇む、青い瞳の少女。


 時の女神の娘は、一つだけスキルを保有している。このスキルは……悪魔の女神に譲渡中のもの。あまりに大き過ぎて、すぐに譲渡できない。


 時の女神の娘の名は、聖神フィリス。唯一のスキルは……全知全能(欠落)。少女は、天の創造主だと……。

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