時の間「激闘! 傲慢の魔女ウルズ VS 若き魔王クルドと軍国の冒険者たち。」
女神の影アシエルは、黒い瘴気の中……白い霧と共に佇んでいる。けれど……誰も気づいていない。操られている傲慢の魔女ウルズでさえ。
私は観察する。相手は、金色の斧を持つ若き魔王クルド。脅威度Bランク。自慢の斧はひびが入っている……もし、斧を壊したら、赤き魔女アメリアに殺されるかも。
魔女ウルズの脅威になり得るのは、ミトラ司教のみ。
白い瞳のルーンは意識を失って眠っている。軍国の冒険者と荒野のオークは……楽に殺せるから除外。ミトラ司教に、墓の精霊が憑依している。
聖母に操られた墓の精霊が……。
堕落神―聖母フレイ。脅威度Aランク。
もし、聖母フレイが、極星魔術を行使した場合……魔女ウルズの優位性が覆される可能性がある。
あと……ミトラ司教は、霧の七つの元徳の一つ、“愛”を手に入れようとしている。もう少し、司教の目の前でちらつかせたら……きっと、愛を手にする。
そうなれば、私の勝ちだ。
では、より確実な方法を選んでいこう。
女神の影アシエルは、一切容赦しない……転移魔術―天の門。首都バレルの上空にある回転する銀の輪。天の門による転移魔術が行使された。
敵対する愚か者は、ばらばらと崩れていく。惑星フィリスの外へとばす……。
転移魔術―天の門は突然、停止した。
聖母フレイの介入。ミトラ司教の背後に誰かいる。金色の髪と長い耳―聖母フレイは……すぐに見えなくなった。
若き魔王クルドが駆けた。
赤き魔女の爆炎を纏い、魔女ウルズの目の前へ。赤き魔女の斧を、横から力の限り振りぬいた。
ゴォオオオォォォ! 爆炎が、地下水道の奥へと流れていく。傲慢の魔女の姿がない……天の門による転移魔術。
今度は……聖母フレイは介入しなかった。
過度の介入は、危険だと判断している様だ。
《……聖母様、めんどくさい。
何で、邪魔をするのかな~。》
傲慢の魔女ウルズは、ミトラ司教の眼の前に現れた。そのまま……白い手を、ミトラ司教に近づけていく。私は、魔女ウルズに極界魔術を行使させた。
冒険者のロベルトは魂の中で舌打ちした。
敵がミトラ司教の眼の前にいる。この距離で、大剣を振るえば……ミトラ司教を傷つけてしまう。そう判断した後は……彼の行動は速かった。
愛用の大剣を捨てた。握りこぶしを作って、魔女ウルズの顔面を狙って、右ストレート。冒険者のミランダも、愛用のレイピアで魔女の胸を狙った……踏み込んで、右腕を伸ばす。
先端の鋭い、レイピアが……傲慢の魔女を貫かない。
再び、魔女ウルズの姿が消えた。
ミランダとロベルトは止まれない。二人とも全力だ。互いに……ロベルトの拳とミランダのレイピアが迫る。
ミランダとロベルトは止まろうとしなかった。そのまま……次の行動にでる。ロベルトは、左足に力を入れた。体を左側に倒していく。右ストレートが、大振りの右フックに変わっていく。
ミランダは、手首を動かして…‥レイピアをくるっと回転させた。レイピアの柄を持って……勢いを殺さず、腕を右側へ振る。
ロベルトは、ミランダを見ていない。ミランダも、ロベルトを見ていない。彼らは何年もの間、共に冒険してきた。多くの戦闘をこなしてきた。
戦闘時において……言われなくても、相手が考えていることが分かる。もう一人の冒険仲間が、どう行動するかも……。
魔術師のミルヴァは、下級魔晶石を使って魔術を行使している。魔術師のミルヴァは、ミトラ司教の傍にいた。ロベルトやミランダがよく見える。転移魔術で離れた、魔女ウルズも。
氷晶魔術。正確に言えば……“水流魔術”。エルミストの魔術師だけが行使できる。師匠クレストから教わった、一番得意とする魔術。
ここは、バレルの地下水道。若き魔王クルドの爆炎で蒸発したとしても……まだまだ、たくさんある。
ミトラ司教の眼の前……地中から大量の水が噴き出した。水に押されて、ミランダとロベルトの距離が離れた。ロベルトは全力で振りぬいた。右手に衝撃がはしる。それでも構わない。雄たけびと共に、当たったものを殴り飛ばした。
ロベルトが殴ったのは、大量の小石。ミルヴァの水も一緒にとんでいく。魔術師のミルヴァは、ロベルトの拳をイメージして……大きな水の拳を造った。
ミランダは、愛用のレイピアを投げた。レイピアは水に包まれて……大きな、水の槍と化していく。微笑む魔女ウルズに向かって。
師匠のクレストは、最後の仕上げ。氷晶魔術……水が急速に凍っていく。大きな
大きな氷の拳と氷の槍。そして、魔女ウルズの背後から、若き魔王クルドが、再度斬りかかった。赤き魔女の爆炎と共に……。
ミトラ司教の背後に、金色の髪と長い耳―聖母フレイが現れる。
私以外、誰も気づいていない。恐らく……精霊魔術で姿を隠している。聖母フレイは、転移魔術・天の門に介入した。
これで……魔女ウルズは、望んだ場所にとべない。
傲慢の魔女に、氷と炎が迫った。
女神の影アシエルは思った。『どんなものでも、侮ってはいけない。弱い人間でも、努力の結果……霧の人形に傷をつけようとしている。ああ、良かった。やはり、手を抜いてはいけない。最善の手……それは、“極界魔術”。』
脅威度Bランクと脅威度Aランクの差。それは、最強の魔術を行使できるかどうか。この差は、努力では埋まらない。極星と極界魔術は、圧倒的な力をもたらす。
全てが止まった、時の魔術ではない。
魔女ウルズは……遊んでいた為、時の魔術を行使できていない。その代わり……別の方法を手に入れた。傲慢の魔女らしく……全てを見下して、全てを操る。
傲慢の烙印によって……。
《すごい、すごい。
まさか……。
“烙印”を使うことになるなんて。
誇りに思いなよ……。
いい冥土の土産になったね。》
炎と氷が消え失せた。
若き魔王クルドは、金色の斧を振りかぶった状態で止まっている。小さな黒い文字……黒い文字が、魔女ウルズの腰や肩から発生している。
黒い文字は重なり、漆黒の翼となっていく。
傲慢の魔女ウルズの極界魔術―“傲慢の烙印”。若き魔王クルドも、軍国の冒険者も。ミトラ司教も……皆、体を動かせない。
魔女ウルズが、全員の体を支配した。
《霧の人形は、どうして……。
堕落した、“神様”と、
同列に扱われているのか。
気になったことない?
私が教えてあげるよ……その理由を。》
女神の影アシエルは、ミトラ司教の眼の前で白い霧を見せた。『さあ、手を伸ばせ。元徳の愛を手に入れろ。手にしなければ……お前は、全てを失うぞ?』
私の声に、ミトラ司教が反応した。右手をゆっくり……霧の中へ。『そう、それでいい……さあ、ミトラ司教、愛を―。』
「だめだ。人の娘よ……手を伸ばすな。
白い霧は、お主が守りたいものを、
守ってはくれない。
安心せよ、我が……其方たちを守ろう。」
ミトラ司教の手が止まった。
聖母の手が、ミトラ司教の腕を掴んでいる。そのまま……ミトラ司教と同化して消えていった。
女神の影は苛立った。『ああ、聖母フレイ。忌々しい、私の邪魔をする愚か者。お前の星の核は、まだ必要だ……まだ生かしておいてやる。』
『お前はいずれ……私を裏切る。
地獄の門が開いた時、覚悟せよ……私は、容赦しない。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます