第20話『青い星フィリスが守るのは、主神の聖なる神か? それとも・・・②』【改訂版:Ⅱ】


 女神の影アシエルは観察する。


 軍国の首都バレル……地下が騒がしい。墓に潜む精霊たちが……聖母の墓の精霊たちが騒いでいる。


 広大な墓の上にある都、バレルのエルムッド伯爵家。伯爵の執事ジョンは、応接間のソファに座って、頭を抱えていた。



「……………。」

 


 執事のジョンは高齢で、自分の子供はいない。自分の娘の様に愛している、フィナお嬢様が姿を消した。


 人や魔物が使う、ただの転移魔術ではない。女神の娘―霧の人形の転移魔術。フィナお嬢様は、惑星フィリスの外に飛ばされた……惑星テラへ。



 執事のジョンには分からなかった。異界から下に落ちて……地獄に近い、霧の世界フォールに戻ってしまったかもしれないと思っている。



 転移魔術―異界の門。赤き魔女アメリアと、青い瞳のノルンも姿を消して……白い瞳のルーンは眠り続けている。



 極界魔術を行使できる霧の人形なら、白い霧に願うことができるけど……白髪の老人には、どうすることもできなかった。



「……フィナお嬢様、

 どうかご無事で……。」



 ドン!……応接間の扉が勢いよく開けられた。


 軍国を想う者たちが、一斉に……乱暴に扉を開けた者を見た。白い霧が、応接間の中に流れ込む。森林魔術―若葉色の光が部屋の中を駆け巡っていく。



 皆が声を詰まらせると……金色の髪と赤いリボン、ミトラ司教が、伯爵の執事に駆け寄った。眠っている白い少女を抱えている。


 司教は応接間まで走ってきた為、呼吸を乱していた。



 ミトラ司教は視線をそらさず、真っ直ぐ見た。「嘘はつかない。ただ、信じて欲しい……。」白髪の執事は、司教が話すまで待ってくれている。



「ジョンさん、この屋敷の地下から、

 エルフの地下墓地へ行けますか?」



「……ミトラ司教、

 なぜ、バレルの地下へ?」



「……傲慢の魔女が、ここに来ます。

 

 ここにいたら、

 ルーン様を攫われてしまいます。



 絶対に、そんなことはさせません。

 聖母の墓に行けば―」



「傲慢の魔女から逃げる為に、聖母の墓へ? 


 魔女に殺されてもいいと仰るのであれば、

 私で良ければ……喜んで、ご案内致します。」




「……お願いします。

 私は、ルーン様を守ります。



 攫われるくらいなら……。


 私は……殺されて、

 墓から出られなくなっても構いません!」




「……承知致しました。 

 皆、悪いが―」



「おい、ジョン……俺らを置いていくなよ?」


 もう一人の伯爵の盟友、クレストは笑いながら近づいて……親友の肩を叩いた。冒険者のロベルトも話に加わる。



「そうですよ。

 ジョンさんとミトラさんが抜けたら……。

 

 ここに残っても、

 間違いなく殺されますよ?

 


 残ってるメンバーを考えて下さい。」



 大剣の使い手ロベルトは、執事に声をかけながら……いつでも出発できる様に、荷物の確認を始めた。レイピアの使い手ミランダは、屋敷の厨房から食料と水を勝手に持ってきている。魔術師のミルヴァは、屋敷の新しい置物となった惑星オーファンの機械の蜘蛛に……別れの挨拶をしていた。



「ジョン……俺らを舐めるなよ? 

 

 冒険が好きでたまらねぇ、

 いかれた馬鹿どもだ。



 エルムッド伯爵の盟友……お前が、

 一番分かっているはずだぞ?」




「……ああ、そうだな。

 我々は、冒険者だ……。

 


 命知らずの軍国の冒険者。



 では……皆様、行きましょう。

 軍国の首都バレルの地下へ。」




 エルムッド伯爵の屋敷の地下。


 伯爵の執事は、軍国の冒険者たちを案内した……地下にある部屋へ。真っ暗で何も見えない。


 執事のジョンは、手持ちのランプに火をつけた。ワインの貯蔵庫。酒場の店主?クレストは、ワイン樽を見ていい酒だと呟いている。



 奥の壁まで来ると、壁の表面にワイン樽の影が伸びていて……執事のジョンは、地面に十字の目印を見つけた。


 ジョンは、冷たい岩の壁に触れながらゆっくり歩いていく。何かを探している。5~6歩、歩いて止まった。


 人の目では暗くてよく見えないけど、岩の壁に、“鉄の杭”が埋め込まれている。鉄の杭の頭にも、岩の小さな塊がついているので……知らなければ、鉄の杭を見つけるのに時間がかかる。


 眼の前の壁に、100本以上の鉄の杭が埋め込まれていた。




 執事のジョンは、鉄の杭を一本抜いた。


 正解だった様で……壁の後ろにあった、鉄の歯車が動き始める。ガチャッ……足元から、何かが動いた音が聞こえてきた。


 

 地下のワイン貯蔵庫自体に、金属の歯車や動く壁。大掛かりな装置が隠されている。ここは、秘密の避難経路の一つ。


 ここから、“バレルの地下水道”へ出られる。執事のジョンが、ランプの小さな炎を消すと……地下の貯蔵庫が、森林魔術―若葉色の弱い光に照らされている。



 ガチャッ……しばらく待っていると、また……何かが、動いた音がした。今度は、岩の壁から、湿気を含んだ風が吹き始める。


 

 案内人の執事が、白い瞳の少女を抱えているミトラ司教を見ながら……。



「ミトラ司教、この魔晶の木を操れますか?」



「……ごめんなさい。


 呼ぶことはできましたが、

 苦手で操れません。」



 若葉色の光が、ミトラ司教や執事の間を通っていく。


 白い霧の中を自由に動き回っていた。軍国の冒険者たちは、若葉色の弱い光のお陰で……相手の顔を確認することができた。お互いにぶつからずに歩くことができる。


 

 案内人の執事は、軍国の冒険者たちに声をかける。



「これだけ……。

 照らしてくれていれば、十分です。

 

 

 ここからは、

 狭い道を通ることになります。

 


 分岐路もあるので、

 注意して行きましょう。」



 数分経過すると、ガチャ……壁の後ろにある、鉄の歯車がまた動き始めた。岩の壁とワイン樽。地下のワインの貯蔵庫に、軍国の冒険者たちの姿はなかった。




 ミトラ司教が、バレルの地下へ足を踏み入れた時……首都バレルの上空に、回転する銀の輪が現れた。


 これは、異界の門ではない。惑星フィリスの転移装置―天の門。首都バレルの人たちは、再び歓声をあげる。奇跡をもたらした異界の門と勘違いして……。


 

 上空にある、天の門は……人々に絶望を与える地獄の門だと知らずに。



 天の門による転移魔術。エルムッド伯爵家、屋敷の中庭に……紫色の瞳を持つ、女性の神官が現れた。辺りを見渡している。



《?……あれ? 分体ちゃんは?

 

 ?……おかしい。分体ちゃんの所に、

 転移したはずなのに……。》



 この時、聖神フィリスの極星魔術に、“聖母フレイ”が介入した。聖母は、もう隠れるつもりはないらしい。


 女神の影アシエルは魔女ウルズを操る。聖母フレイに、表舞台に出てきてもらう。




 首都の地下―バレルの地下水道。


 ひんやりとした風が吹いてくる。執事のジョンが先頭に立って、一列になって、地下通路を歩いていた。



 ミトラ司教は、眠っているルーンを抱えている。お姫様抱っこ。「うん、ルーン様は可愛い。ルーン様は、若葉色の弱い光に照らされて……眠っている。」



 伯爵の執事の手には、ランプがあるけど……火はついていなかった。ミトラ司教は疑問に思ったので、執事に聞いてみた。司教の後ろを歩いていた、酒場の店主?クレストが教えてくれた。



「ジョンさん、ランプはつけないんですか?」



「?……ミトラさん、知らないのか? 

 エルフの精霊は、魔術以外の光を嫌う。 



 この地下水道から、

 エルフの地下墓地―“聖母の墓”へ行ける。



 墓の守護霊は……ランプの炎を見たら、

 容赦なく襲ってくるぞ? 

 

 

 精霊の怒りは、なるべく買いたくないだろう?」




 これを機に、軍国の冒険者たちも話し始めた。




『……やっぱり、聖母の墓に行くんだ。

 嫌な思いでしかない。』




「墓の魔物は……殆ど骨だからな。

 出てきたら、俺が叩き折ってやるよ。」




 軍国の冒険者、レイピアの使い手ミランダと、大剣の使い手ロベルトは辺りを警戒しながら……昔の冒険話をしている。




『……魔晶石が欲しい。』



 魔術師のミルヴァは、目を凝らして……奇跡的に、魔晶石が落ちてないか探している様だった。ここは地下水道、魔晶石は落ちていなかった。




 女神の影アシエルに、白い霧が伝える。


 軍国の首都バレル。その地下には、エルフの地下墓地―聖母の墓がある。この墓は、神生紀以前の……古代のエルフ文明のもの。



 この墓はとにかく大きい。惑星フィリス最大の墓―地底都市どころか、地底世界の方があっている。軍国と周辺国が協力して、調査を行っているけど……人間たちは、どれぐらいの大きさか分かっていない。


 

 実際、ロンバルト大陸だけでなく、海を越えて……聖フィリス大陸にも墓の入り口がある。墓の研究者が知ったら、歴史を揺るがす発見と大喜びするだろう。



 聖母の墓はとにかく広大だ。逃げ隠れるには、いい場所かもしれない。ただ、墓には守護するものがいる。骨の魔物や腐った魔物、そして、エルフの精霊。



 エルフの精霊のもとは……この墓を造らされた奴隷。死してなお、この墓に留まり、聖母を守っている。この墓のどこかに封印されている、聖母フレイを。



 人の調査でも、黒い瘴気は何度か確認されて……墓の奥深くで、“災いの地”が発見された。数百年前に、人と魔物で人魔協定が取り決められて、地下の災いの地に足を踏み入れなくなった。



 未だ、聖母の神殿は発見されていない。



 

 地下の広大な墓は、数多くの冒険者を集めている。


 墓の入口は大陸中に無数にあり、気軽に潜ることができた。墓の上に住むバレルの冒険者にとって……聖母の墓の上層はよく通った場所だった。


 

 バレルの地下水道の中心部に、地下へ伸びる縦穴。古びた昇降機がある。“雷鳴魔術”で動き……地の底へ、50m以上降りていく。


 この縦穴、昇降機には、墓の魔物がバレルに上がってくるのを防ぐ役割もあった。空に浮かぶ精霊には効果はないけど。


 

 精霊は、地下の墓に留まっている。上がってくることは滅多にない。




 墓の主である聖母フレイは、墓の精霊を操る。女神の影アシエルが、霧の人形を操る様に……“聖母フレイの憑依”。



 ミトラ司教を観察して、分かったことがある。


 聖母は悪魔の女神に気づかれてもいい様に……聖母の魂を、ミトラ司教に憑依させていない。司教に憑依しているのは、“墓の精霊”。


 

 聖母フレイは、“憑依している精霊”を操っているのだ。


 例え、女神にばれたとしても……消えるのは、ミトラ司教と墓の精霊だけ。聖母は傷つかない。




 雷鳴魔術で動く、古びた昇降機。もし、この昇降機が止まった場合……冒険者は自力で、別の出口を探さないといけない。


 

 入口は無数にあると言ったけど、別の入り口まで、数十㎞程離れていることが殆ど。安全面を考えて……バレルの地下水道には、入り口は1つしかなかった。




 古びた昇降機が見えてきた。


 入口付近は開けていて、地下の飲み屋が3軒もある。いつもならここで必ず、酔っぱらっている冒険者に会う。



 テーブルに置かれた食器、下に落ちて割れたコップ……人は誰もいなかった。




 ゴォォ—―。ひんやりとした風が、垂直の縦穴から吹き上げてくる。昇降機は、下に降りている様だ。



 魔晶石を探していた弟子のミルヴァは、師匠のクレストに近寄って……。



『師匠……魔晶石が欲しい。』



「ああ、そうだな。

 だが……この様子だと、



 ギルドで保管していた魔晶石も、

 残ってないだろうな。



 さて……どうしたものか―」



 

 ゴォ、ゴォ、ゴォ、ゴォ……。


 

 突然、古びた昇降機が動き始めた。


 冒険者は、一斉に身構える。手持ちの魔晶石はない……大剣の使い手ロベルトは、仲間の魔術師より前に出た。大剣を上段に構えて、両手に力を込める。


 黒い眼が、より一層鋭くなった。すると、魔物の声が聞こえてきた。




「いやー、ボス。やばかったすね。」



「運よく、魔晶石が見つかって良かった。」




「だから言ったろ? 俺は……。

 魔女の炎でも、死ななかった男だぞ? 



 女神が、俺に微笑んでいるんだよ。

 ……これぐらい、俺が―」



 荒野のオーク、5~6人のオークの兵士だった。


 昇降機の扉が開き……体格のいい褐色のオークと、ミトラ司教の眼があった。茶髪で褐色のオークは、燃え滾る赤い眼を持っている。



 ミトラ司教は驚いた。「赤い眼!?……何で、ここに!?」司教は、軍国の冒険者に声をかけたけど……大剣の使い手は踏み込んだ。



「!? ロベルトさん、待って―」



「オークの侵入者ども、くたばれ!!」




「!? おい、ちょっと待て!?」



 キィ—―ン! 金属と金属がぶつかって、甲高い音が鳴った。燃え滾る赤い眼を持つ褐色のオークが、ロベルトの大剣を受け止めている。


 

 1m以上ある両刃の斧。金の斧に刻まれている、神聖文字が赤く光っていた。手元に呼び出すことができたのは、この文字の力だろう。


 よく見ると……無茶な使い方をしたのか、金色の斧にヒビが入っていた。



「危ないだろうが……いきなり、

 斬りかかってくるんじゃねぇよ!!」



 ゴォォォ—―! 金色の斧の神聖文字は、燃え盛る炎となって……襲撃者を退けた。近くにいた部下の兵士は、昇降機から降りて、斧の炎から逃げている。


 斧の炎は褐色のオークに操られることなく、自由に暴れまわる。体格のいい褐色のオークは炎に包まれ……炎鬼となった。



 彼は三大魔王の一人、炎鬼クルド。脅威度Bランク。




「ボス! その炎が危ないっすよ!」



「……仕方ないだろ? 

 魔女の炎は操れねぇ。

 


 さて、軍国の冒険者ども……。


 

 魔王であり、炎鬼の俺に、

 喧嘩を売って、無事に帰られると―」



「クルドさん、

 ここで何をしているんですか?」



 白い瞳のルーンを抱えているミトラ司教が、若き魔王クルドに声をかけた。さらに前へ踏み込もうとしていた軍国の冒険者たち、ロベルトとミランダの前に出て……。




「……嬢ちゃん、ここは……俺が、

 魔王のとしての力を見せつける所で―」



「クルドさんは、優しい方です。

 似合わないことはしないでください。」



「似合わないって……。

 一応、俺は魔王だぞ?」



「? はい、知っていますよ?

 若き魔王、炎鬼クルドさん。」



「いや、だからな……。

 あ~、もういい。分かった。」



 若き魔王クルドは、両刃の斧をおろした。神聖文字の光は消え、赤き魔女アメリアの炎も消えていく。


 白い霧と若葉色の光。森林魔術を見た若き魔王クルドは……司教に抱えられて眠る、白い瞳の少女に眼を移した。



「魔女の妹、大丈夫か?

 赤き魔女に会っただろ?



 フィナの屋敷に、

 向かったはずだが……。」



「……アメリア様は消えました。

 クルドさん、助けて下さい。お願いします。」




「? 魔女が消えた? 

 

 転移魔術か……それなら、

 戻ってくるまで待って―」



「待っていられないんです! 

 傲慢の魔女が、ルーン様を攫いに……。」




「待て、ちょっと待て。

 俺は、アメリアから……。



 傲慢の魔女は去ったと聞いたぞ? 

 何で、また戻ってくる? 



 あと……ルーンって誰だ? 

 魔女の妹は―」



 森林魔術―魔晶の木が、ミトラ司教にまた警告した。『……逃げて……早く逃げて……。』


 

 女神の影は観察する。


 若葉色の光。これは森林魔術―テラの大樹。それは間違いない。どうやら、聖母が、テラの大樹も利用している……流石、堕落神。聖母も有能だ。



 テラの大樹は、霧のシステムと似ているけど異なるもの。異界に存在する惑星テラに育まれたことを考えれば……当然のことだ。


 世界が違えば、魔法が存在しない場合もあり得る。




 “惑星テラの森林魔術”を分析して……既に利用している。


 聖母フレイを褒めよう。聖母は操ることに長けている……ミトラ司教は、人や魔物に避難を促した。



「!? 皆、昇降機に乗って!


 

 オークの兵士さんも降りずに、

 一緒に乗ってください! 



 ほら、ミランダも乗って!」



『ミトラさん、本気で言ってるの!?

 荒野のオークだよ!?』



「おい、嬢ちゃん。

 悪いが、俺らは降りるぞ? 


 手に入れた魔晶石を届けないと―」




「クルドさん! 

 助けてくれなかったら……。


 

 クルドさんが見捨てたから、

 ルーン様を攫われた。



 アメリア様にそう言いますよ!?」



「……魔王を脅迫すんのか?

 嬢ちゃん、いい度胸だな。」




「クルドさん、私は……。


 

 ルーン様を守る為なら、

 人や魔物でも殺します!


 お願いです、助けて下さい!」



 テラの大樹は、ミトラ司教に何度も警告する。『逃げて……傲慢の魔女がくる……早く逃げて……。』



 若き魔王クルドは答えた。



「お前ら、墓に潜るぞ。後で……。

 赤き魔女に、殺されたくないだろ?」



「……仕方ないっすね。」



「ボスって……女運ないよな。」




「!? クルドさん、ありがとう―」




「嬢ちゃん、条件がある。

 知っていること全て話せ。



 墓に入ったら……嫌でも、

 俺の指示に従ってもらう。


 共に行動する間は……。

 互いに、殺し合いは―」



 若き魔王クルドは話すのを止めた。


 何かに気づいた様だ。地下水道の奥を……暗い、暗い闇を、燃え滾る赤い眼で睨んでいる。



「嬢ちゃんの判断が正しいな。

 今すぐ、全員乗れ! 



 人間、お前らの中に魔術師はいるか? 

 墓で見つけた魔晶石、少しくれてやる。



 それで、昇降機を動かせ!」



 魔術師のクレストとミルヴァは、オークの兵士から小さな魔晶石―下級魔晶石を受け取った。師匠のクレストは、本物かどうか確かめてから……人を助ける、おかしな行動をする若き魔王を見た。



「命令せず、お前がやったらどうだ? 

 その斧の文字……神聖文字だろう?」




「爺さん……俺は、

 あれの相手をするから無理だ。



 急がないと……全員死ぬぞ!?」




《あれ~、こんな所に集まって悪だくみ? 

 悪い子たちだね……。



 悪魔の女神がいないからって、

 好き勝手にできるとでも思った?



 私のルーンちゃんを……。


 

 隠そうとする悪い子には、

 罰を与えないと。》



 地下水道の闇の中から、白い手足に銀色の髪の人形が現れた……魂を惑わす紫の瞳を持つ霧の人形。


 彼女は最初の人形、傲慢の魔女ウルズ。脅威度Aランク。



 女神の娘である霧の人形は微笑んでいた。欲しかったものを手に入れた、幼い子供の様に……若き魔王クルドは、傲慢の魔女に声をかける。



「傲慢の魔女……赤い眼の妹と話しただろ?

 戻ってこないで欲しいな。」



《……あっ、若き魔王? 

 私の手をぶった切ってくれたよね? 

 


 アメリアちゃんとは話したよ。

 


 これ以上の犠牲は、

 必要ないってことで……。

 


 仲良くなって……別れた。



 でもさ、後で思ったんだよね~。

 私の手をぶった切った、斧。



 あれ……お前のだよね?


 そのお返しをしないで帰ったら……。

 やっぱり、駄目だと思うんだよね。




 ああ、もちろん……。

 ルーンは連れて帰るからね?


 司教のお嬢ちゃん?》



 ミトラ司教は睨んだ。傲慢の魔女ウルズを……。


 白い瞳の少女ルーンを両手で隠しながら、司教は思った。「どんな手を使ってもいい。例え、ここにいる皆を……犠牲にしてでも、ルーン様を守らないといけない。」




 ドクッ……ドクッ……。


 また、小さな鼓動が聞こえてきた。最愛の人形を守る為に、手を伸ばせと……誰か、何かに言われている。「悪魔の女神よ……ルーン様を守る為に、白い霧に全てを奉げます……どうか、お力を……。」



 ミトラ司教は、白い霧の中にあるものを手に入れようとしていた。



 白い霧の中にある、七つの元徳の一つを……。

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