第41話『水の都ラス・フェルトの悪魔①』
青い星―惑星テラが現れた。ゆっくり……惑星ラスの周りを回っている。水の都ラス・フェルトの住人達は驚き、ただ恐れた。分からないこと程……怖いものはない。皆が、光の女神フェルフェスティに祈っているさ中……。深紅の礼服を纏った、青年は……ただ一人恐れず、笑みを浮かべている。
眼は茶色で、蔑んだ眼。黒髪は短く綺麗に整えられていた。彼は……転生しても、魂は変わらなかった。実際に、自分の姿のままで、若返っている……。歳は、25~30歳くらい。惑星フィリスにいた時の様に……年老いていなかった。新たな生を受けても、本質は何も変わっていない。彼の魂は歪み、壊れている。生まれ変わっても、治らない程に……。
狂信者、デュレス・ヨハン。聖フィリス教の元枢機卿であり、聖神フィリスの忠実な僕。聖神フィリスの時の魔術によって……彼は、転生した。青い瞳の少女が生きていない、終焉の時の中で……。
聖神フィリスに、少女の星の核を献上し、自分の魂も奉げた。再生と終焉の時が混ざりあい……再び、生を受けることになった。《……役目を果たしたと思ったのですが……。》
役目を果たした……いや、果たしていない。私の勘違いだ。あの少女はまだ生きている。生きて、この都にいる。この手で、少女の魂を抉り出したのに……。
あの時のことは、よく覚えている。私が生きてきた中で、最高の瞬間だった。《年老いた、肉体を捨て……転生して、まだ生きている。》
彼の両腕には、神聖文字が刻まれている。一つは……聖神フィリスの神聖文字。もう一つは……最初の霧の人形の神聖文字。魔女の文字が反応している。どうやら、この都に彼女も来ている様だ。
悪魔の様な笑みを浮かべ……青年は、呟いた。
《……こうして、またお会いできるとは。
我が主の導きに、感謝致します。
青い瞳のノルン……もう一度、遊びましょう。
今度は、鬼ごっこではなく
……何をして、遊びますか?》
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「※※―! ※※※※※※―!」
若い男性が叫んでいる。通りの奥にある、お店の2階から……外に体を出して、大きな声で叫んでいる。彼は手すりを持って……長銃(銃身が長い)を肩からかけていた。盛り上がった筋肉、太い二の腕や太もも。よく鍛錬されていることが窺い知れた。この都を警備している、集団に所属しているのかもしれない。
人が集まっているので、よく見ないが……声をかけられた、住人たちは、必死になって走っている様だ。彼らは、何かから逃げている。言葉は分からなくても……住人たちの恐怖と不安は感じ取れた。
『お腹すいた……でも、
今はそれどころじゃないし……。』
白い手足、銀色の髪に青い瞳。青い瞳のノルン。私は、目の前に座っている短い金色の髪の少女を、立つ様に促した。彼女も、私と同じ青い瞳。不安からか、視線は泳いでいる。身長は、彼女の方が大きい。彼女の母親かな?……金色の髪の少女を決して離さない。疲れた表情をしていても……瞳はぶれない。真っ直ぐ、私を見つめてくる。少女を守るという強い思いが……ひしひしと伝わってきた。『……お母さんは、強いね……本当に……。』
「わ、私は……フェル・リィリアです。」
『……フェルさん、
通訳をお願いしてもいいですか?
皆さんは、何から逃げているんですか?』
「……霧です。ここは、水の都ラス・フェルト。
白い霧に襲われています。
最悪なことに、強国グルムドが、
都を包囲しています。
都の外には出られません。
このままだと……霧にのみ込まれるか……。
霧から逃れても、グルムドの兵に……。
私たちは、何も悪いことをしていないのに……。
天使様、私たちが弱いからですか?」
『…………。』
若葉色の光……大樹の透明な根が、周囲に広がっていく。テラの大樹は、色んなものに触れて情報を集めてくれる。私の周りに集まっていた人たちは、まだ逃げていない。若葉色の光や、私への興味が、不安と恐怖に勝っている。今なら……まだ、私の話を聞いてくれるかもしれない。
今、私がいる通りは、都の中心部から離れていて……東側(太陽が昇る方位)の郊外付近。都を包囲している、グルムドの兵の音も聞こえるし……郊外から、白い霧に襲われることになる。
教会の前の通りは、人でいっぱい。転倒している人や……もう走れない様で、息が上がっている人。逃げられない人は、女性や子供、高齢の者が殆どだ。フェルの言う通り、弱い人から先に犠牲になってしまう。『天使?……どちらかと言えば、悪魔だけど……言っても、不安にさせるだけだね。』
ラス・フェルトの言葉。ルーンが、知らない言葉。ルーンは神聖文字であり……夢の世界で、女神のシステムの神聖文字をずっと見てきた。そのルーンが、知らない。ここは……霧の世界フォールとの関りがない。その可能性が高い。
霧の世界から……どれぐらい、離れているのかな? 白い霧が、地獄から上がってきている。異界の知らない星を、霧が襲っている。ルーンを操っていた、白い霧の幽霊―女神の影が、白い霧を解放した。あらゆる世界に終末をもたらす為に……。
『白い霧の幽霊……あいつは、許せない。
……あいつの思い通りには、させない。
霧から……あいつから、
ラス・フェルトを救いたい……。』
悲鳴が大きくなった。白い霧……通りの先は、霧に隠されて何も見えない。霧はどんどん……こちらに近づいてくる。住人たちの恐怖が、一気に高まった。他の人を転倒させてでも、逃げ出そうとしてしまうだろう。私は……テラの大樹、大樹のシステムを起動した。
テラ・システム―クロノス……起動。回転する銀の輪が現れると、私の姿が消えた。これに一番驚いたのは、金色の髪の少女だった。自分の眼の前にいて、話しかけていたのに……突然、目の前から消えた。空中に、不思議な銀の輪が浮かんでいる。
『……フェルさん、私はここですよ~。』
「えっ!? どこですか!?」
『通りの奥……白い霧を見て下さい……。』
短い金色の髪と青い瞳。フェルは、振り返って白い霧……通りの奥を見ようとした。集まっている人たちが邪魔で見えない。母と一緒に、住人たちの横を通り抜けていく。通りの奥が見えてきた。「あれ? 悲鳴がやんだ。誰も叫んでいない……どうして?」
ラス・フェルトの住人たちは逃げずに、立ち止まっている。短い金色の髪のフェルも、動かなくなった。ただ、ぼーと眺めている。
銀色の髪と青い瞳の天使が、白い霧の前に立っている。天使は、若葉色の光に包まれていた。透明な大樹の根は、霧の魔力を吸収して……巨大化していく。瞬く間に大樹となり、白い霧を遮った。
ノルンは、大樹に導かれて……両手を広げる。テラの大樹は、白い霧の縁をどんどん進んで……郊外の建物に、しっかり根を巻きつけていく。大樹の防壁を創っていった。テラの大樹が、ノルンに話しかける。『お人形さん……この都は大きい……白い霧の侵食が―』
『植物さん、駄目だよ!
守れるのなら、守ろうよ!』
『…………。
いいよ、お人形さんが……望むのなら。
でも、霧の悪魔に……気づかれる。
……極星魔術、大きな印。
霧の悪魔がやってくる……この星、
惑星ラスは……いずれ霧に食われる。』
『……惑星テラに運べないかな!?
異界の門で―』
『……この都を?……この星の魔力、
少ない……システムが存在しない。
この星の命を使えば……。
転移できるだけの魔力が……集まるかも。
いっぱい……殺さないと。
都の外にいっぱいいる……。
お人形さん……殺すのなら急いで。
間に合わなかったら……。
フェル・リィリア、あの子を。
霧に取られてしまうから……。』
『惑星ラス……システムがない。
……魔術が存在しない星。』
若葉色に光る、大樹の根。テラの大樹は、水の都ラス・フェルトを覆っていく。でも、白い霧の魔力だけでは足りず、霧の侵食が速いこともあり……都の全てを覆えない。大樹の防壁は、都の東側にしか創られていなかった。
どうにかして、不足している魔力を得る必要がある。『守れる範囲だけにする?……都の全ては、諦める? だめ、それだと……この都を救ったことにはならない。住人たちは、私を信じてくれなくなる……。』
『……植物さん、グルムドの兵の魂で、
ラス・フェルトの全てを覆える?
全部、惑星テラに運べるの?』
『……時間をかけ過ぎたら、
運べるものも……運べない。
だから、急がないと……。』
『………………。
……分かった。』
都の西側(太陽が沈む方位)から、白い霧が侵食し始めた。レンガ造りの色鮮やかな建物……都の住人が消えていく。迷っていたら……私と大樹しか残らない。残されている時間は少ないのだ。
『………………。』
《……ノルンちゃん、困ってるね。
魔力を使い過ぎたら、駄目だから……。
グルムドの兵も……省エネで、
殺さないといけないね。
難易度、高い~。》
『……ウルズお姉ちゃん、
困ってると思うのなら……助けてよ。』
長い間、女神の影に操られていた長女。女神のレプリカに喰われて……。今は……逆に、ルーンの体―女神のレプリカを支配している。
女神のレプリカ―傲慢の魔女ウルズ。私より少し背が高くて、魂を惑わす紫の瞳を持つ、姉は……ラス・フェルトの悲劇を楽しんでいる。根っからの悪魔。霧の人形、姉は皆……生粋の悪魔なのかな? 私が変なのかも……霧の人形―悪魔になれない、半端者。星の核が応えてくれても……まだ、一人前になれていない。
転移魔術、異界の門を行使した。短い金色の髪のフェルの前までとんだ。都を包囲している、グルムドの兵のことは知らない。野蛮な奴らで……私が罰しなければいけない、愚か者なのかな? グルムドの兵、全員がそうではないと思う。兵の中にも良い人はいるだろう。
でも、世界は残酷。女神の影がより、住みにくい世界に変えてしまった。ラス・フェルトを救う為には、誰かを殺して……人の魂を得ないといけない。答えは決まっている。自分にそう言い聞かせた……。
『フェルさん……グルムドの兵を殺せば、
ラス・フェルトを救えると思う。
グルムドの兵は、最低の奴らで、
欲深い愚か者?』
「!?……わ、わたしは……。
最低な奴らだと聞いています。」
『そっか、じゃあ―』
「……でも! どんな人でも……。
殺されていい人はいないと思います。
罪を犯したのなら、償うべきです。
その機会は……。
どんな人間にもあるべきです。」
『……………。
フェルさん、この通りの近くに、
できるだけ多くの人を集めて下さい。
都の東側は、テラの大樹が覆っているので、
暫くは……持ちます。
お願いしてもいいですか?』
「……はい。
……天使様は、どちらに?」
『………私は―』
《……ノルンちゃん、迷ってるね。》
姉の声が……後ろから聞こえてきた。しかも、なぜか……私の体が勝手に動いて、振り向いていく。
『えっ!?……!?』
白い人形―魂を惑わす、紫の瞳を持つ、姉と……キスしている。唇と唇が触れていた。短い金色の髪のフェルが、手で口を覆って驚いている。周りの人達も……一番驚いているのは、私だけど。
ゴクッ……勝手に動いて、何かを飲み込んでしまった。甘いハチミツ……の様な味がした。この味……どこかで食べたことがある。不覚にも……お腹が減っていたので、美味しいと思ってしまった。
《きゃ~!
ノルンちゃんとキスしちゃった~!
ノルンちゃん、唇柔らかいね!》
私から離れて、姉が燥いでいる。女神のレプリカ―傲慢の魔女ウルズ。羽毛のない、鳥の翼を生やしていた。黒い翼は、小さな黒い文字でできていて……。傲慢の烙印。女神が創れない、魂以外全て操れる。例え、私の体であったとしても……。性格の悪い姉には、ピッタリだと思った。意地悪をして、相手を困らせて、喜ぶ姉には……。
私は、手の甲で唇をふいて……飲んでしまったものを吐き出そうか迷った。甘いハチミツ?『……惑星オーファンで飲んだ、青いハチミツ?……あれと同じ味……。』変な感じはしない。毒ではない……たぶん。吐き出すのはやめて……私は怒って、姉を睨みつけた。
『……何で、飲ませたの?』
《安心して……変なものじゃないから。
私の口に含んでも、大丈夫なもの……。
そう聞いたら、安心したでしょう?》
『全然! いい加減にしてよ!
何でこんな―』
また、姉が眼の前に来た。短い距離を転移してくる。大樹のシステムを利用して、転移魔術、異界の門を行使した様だ。姉は……顔を近づけただけ。そっと、人差し指を、私の唇に触れさせている。ただ……それだけで、私は、自分の体を動かせなくなった。
《ノルンちゃん、
またキスされると思った?
私はキス魔じゃないから、
そんなことしないって……。》
体がピクリとも動かない。傲慢の烙印によって、体を支配されている。こんな姉だけど、強い……。長生きしている分、魔術の技量も凄いし……。『……大樹のシステムを掌握されて……いや、女神の影を拒否できた。同じ様に拒否すればいい……。』
うん、拒否できそう。その時を否定できそうだった。ただ、自分の体から、また魂が離れるかも……仕方ない。このままは、ムカつくから嫌!
《ノルンちゃん、ストップ。
ストップ! 拒否しないの……。
もうこれ以上は、何もしないから……。》
『……………。』
《……拒否するってずるくない?
体を支配しても、意味ないじゃん。
もう……私が口移しであげたのは、
魂を消化して食べやすくしたもの。
お腹減っていたでしょう?
それに……助けて言ったじゃない?
だから、助けたのに……。》
姉が、指を唇から離した。傲慢の烙印から解放されて……。お腹は……確かに満たされている。でも、あんなやり方はおかしい。うん、絶対におかしい。
『助けた!? 今のが!?
……ただ、キスして……。
私を困らせて……。
楽しんでるだけでしょう!?』
《ノルンちゃん……反抗期だね~。
うん、分かるよ……私もあったから。
ムカついて……。
お母さんの神殿を壊しまくったよ。
……いや~、懐かしいな~。》
『……………。
ありがとう、もう帰ってくれる?』
《帰っていいの?
……ラス・フェルトの住人を、
助けてあげようと思ったのに……。
あっ、都を包囲している、
兵士の相手は嫌。
めんどくさいし……私が殺したら、
ノルンとルーンの為にはならないからね。》
『……………。
霧の相手をしてくれるの?』
《……霧の悪魔が来たら、
誤魔化すことはできるかも。
時間稼ぎならできるよ……私は、
ノルンとルーンの支援に徹するから。
頑張って……。
グルムドの兵を殺してきなさい。》
『……………。
フェルさん。』
「!? はい、ここにいます!」
ラス・フェルトの住人たちは、天使の言葉は分からない。私―短い金色の髪のフェルは……分かった。突然、現れた……黒い鳥の翼を持つ天使。堕天使を思わせる、その姿。魂を惑わす紫の瞳。青い瞳の天使様に似ていても……中身が異なっている。とても違う。今の状況下で、無邪気に遊んでいる……それが分かって、ただ怖かった。
『……見ての通り、変態だから。
もし、話しかけられても、
無視していいからね。』
《酷い! ノルンちゃんが、
そんな酷いことを……。
悲しくて……。
ここの住人を殺してしまいそう。》
『もし……ここの人たちを傷つけたら、
二度と口を利かないから。』
《しません、しないから……。
もう、冗談だって、冗談。
ほら、ノルンちゃん……。
ルーンと入れ替わって。
私が送ってあげるから。》
『……………。』
青い瞳の天使様が消えた。魂を惑わす、紫の瞳の天使様だけが、目の前にいる。天使様は……私を見て、微笑んだ。全然ほっとしない。むしろ……不安と恐怖が高まった気がした。
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『……ノルン、大丈夫?』
都の外……遥か上空。私は落下している。眼下には……街の明かりではない、別の光が動いている。数えきれない程の何かが、暗闇の中を蠢いている。
もう一人の自分、ルーンの声が聞こえてきた。今は喧嘩中だけど……。都を包囲している、グルムドの兵を殺さないといけない。地面にぶつかるまで……私は答えず、否定もせず、ルーンの言葉を聞いた。
『……入れ替わって、
私が、グルムドの兵を殺す。
汚れるのは、私の方がいい……。
そんな気がする。
ノルン、食べてごめんね……。
あとで、叱ってよ。』
『……………。』
『……テラの大樹は、情報を集めてくれる。
できるだけ……いい人を見つけてみる。
……いるかどうかは、分からないけど。
騎士神の星の核も使ってみるね。
騎士神にも、働いてもらわないと。
さすがに、一人だと疲れるから……。』
『……………。』
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『ルーン……一人じゃないよ、
私がいる……私が、ルーンを守る……。』
ラス・フェルトの東側、郊外付近―都の外。強国グルムドの野営。約十万の歩兵部隊が、水の都を包囲している。戦車も数百台ある……相手は霧に襲われて混乱している。我々が負けるわけがない。グルムドの兵は、さっきまでそう思っていた。
地響き。空が揺れた。誰も知らない、青い星が宙に浮かんでいる。グルムドの兵は動揺した。特に、都の東側を包囲していた、歩兵部隊―服役隊は、地獄をみることになる。青い星に加えて……霧の中から、光る大樹が現れ、部隊の侵攻を中止せざるおえなくなった。大樹の情報は、西側を包囲している部隊にも伝わり……全てのグルムドの侵攻が、完全に止まっている。
「くそっ……聞いてた話と違うだろ!?
どうなってんだよ!?」
若い男は、怒りに身を任せて……自分の足元に置いてあった、誰かの荷物を蹴り飛ばした。コロコロ……銃弾を防ぐ、ヘルメットが転がっていく。歩兵部隊―服役隊。屑の集まり……ほぼ全員が、罪を犯した服役囚。真っ先に、前線に突撃する。命令に背いた場合は、後方に陣取っている……味方の部隊から発砲される。味方からも嫌われた、人間の盾の様な部隊だった。
彼らは兵士ではあるが……服役囚ということは変わらない。グルムドの女性の兵士は、絶対に……服役隊には近づかない。屑は屑でしかない……統制がとれるはずがない。前線で死ぬ、服役囚よりも……命令に背いて、射殺される服役囚の方が多かった。どいつもこいつも……死んだ眼をして、疲れ切っている。沈黙は続かず、誰かが話した。
「そうだぜ! 今頃、俺らは
……街の中だろ!?
あそこに、女がいるのによぉ~。」
「ああ、最悪だ……最後は、
楽しめるって話だったろ?
だから、不味い飯を食わされても、
ここまできたのに……。」
「でもよ……隣の国は良かったな。
あれは、最高だった……。」
「ああ、たまんねぇよ。
ああ、頼むから……霧よ、どいてくれ。」
「……確か、早い者勝ちだよな?」
「馬鹿言うな!……皆で楽しむんだ。」
下品な笑い声が、聞こえてきた。こいつらの言葉は、分からない。分からなくて良かった。テラの大樹は伝えてきた。ここにいる、奴らは屑。全員が真っ黒だと。
若葉色の光が、ある少女の感情を運んできた。こいつらによって、滅ぼされた国の少女の感情を……。気持ち悪い……ただ、気持ち悪い。うん、全部は知りたくない。
水の都ラス・フェルトには、フェルの様な優しい子がいっぱいいる。こいつらは死んでもいい。こんなに……殺したいと思ったのは、久しぶり。あとは……ルーンに任せよう。私では……感情を抑えきれず、暴走させてしまう。
『……気持ちが悪い。
本当に、気持ちが悪い……。
屑は、皆死ね……。』
『……※※※※、※※※※※※。』
一斉に、長銃を構えた。一人の少女だ。何か呟いた様だが……聞こえなかった。歳は10~12歳くらいだろうか。銀色の髪に、冷たくなる様な白い瞳。天使の様な、綺麗な少女が立っていた。周りには……俺らしかいない。
気持ち悪い……笑い声が、また聞こえてきた。男たちが、少女に近づいてくる。
「……どうした、嬢ちゃん?
迷子か? 俺らが……。
お母さんの所に連れていってやるよ。」
白い瞳の少女は、俯いている。男の問いかけに応えない。
「嬢ちゃん……無視すんなよ。
おい、聞いてのか?
……応え方が分かんねぇのか!?
俺たちが、教えてやるよ!」
男が、少女の肩を乱暴に掴んだ。白い瞳のルーンは、ぽつりと呟いた……。
『……私に、触れたから……。
それなりのものをもらうね。』
「!?……!?」
男は、少女の言葉が分からない。分からないまま、体が動かなくなった。赤い血が舞う……。
白い瞳の少女に触れていた、男の首がとんだ。ゴロゴロと転がって……。テラ・システム―フェンリルによって呼ばれた……剣や鎌が、男の首を刎ねたのだ。首から先を失って……気持ち悪い、言葉をもう喋らない。
『……感情が、落ち着いていく。
こいつらに殺された……。
全ての魂が、癒されます様に……。』
白い瞳のルーンは、血に染まっている。血だまりの中を歩いていく。両手に、騎士の剣を呼びながら……。
男たちの悲鳴が上がった。銃声がこだまする。白い瞳のルーンは、テラ・システムを駆使して……欲深い、愚か者を殺していく。若葉色の光が、真っ黒の魂を集めていく。フェンリルによって呼ばれた槍が、頭を貫き……鉄の矢が、目を射抜いていく。
兵士の銃弾が、白い瞳の少女の肩を射抜いた。不思議なことに……流れ出た血が消え、傷が消えていく。これには……兵士たちは、心の底から恐怖した。白い瞳の少女は呟く。
『……地獄で、罪を償え。
弄んだ女性の苦痛を……味わえ。』
全てのグルムドの兵に、ある情報が伝わった。都の東側に……。兵士に殺された、女の悪霊―悪魔の少女がいると……。
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