第40話『水の都ラス・フェルトの救世主③』【改訂版】


「天使様、どうか我らをお救い下さい!

 どうか、罪なき魂に光を!」


 短い金色の髪と青い瞳、フェル・リィリア。今日は、前夜祭なので……ふわふわとした白いスカートと緑色の帯、水の都の民族衣装を着ていた。


 聖フェルフェスティ教会の前は、歓声に包まれている。天使様が、微笑んで下さった。白髪の司祭様の祈りに応えて下さった。恐怖と不安に襲われている、ラス・フェルトの住人たち……私は、天使様の可愛らしい笑顔を見て、少しほっとした。


 銀色の髪に、青い瞳の天使様。豪華な、教会の椅子に座って……大きな、大きな木や白い狼?の絵を描いて下さっている。「これが、お告げ?……大樹や狼。ラス・フェルトには、大きな木はないけど……狼もいない。」


 水の都ラス・フェルト。幾つもの運河が流れていて……数㎞下ったところに海がある。貿易で繁栄した都。外国の人もよく見かける。私の生まれ故郷で、大好きな都なのに……。野蛮な奴らに襲われている。今はまだ、都を包囲されているだけだけど。


 強国グルムド、最低のハイエナ。今も、都の外で待っている……ラス・フェルトの住人が、霧に襲われるのを。霧に襲われて、混乱するのを……。「……どうして、霧は、グルムドの兵を襲わないの? どこかに連れていってくれたらいいのに……惑星ラスから。」


 石畳み―表面が平らな敷石の上に跪いていたので、足が痺れて痛くなった。失礼にならない程度に、足を少し崩して、母に体重を少し預けると……。重たいのに、母は嫌がらずに支えてくれた。私を引き寄せている、母の手の力は緩みそうにない。見上げると……母は疲れた表情をしていたけど、天使様と同じ様に微笑んでくれた。


 歓声がやんだ。天使様が絵を描くのを止めてしまった。空を……見上げている。皆も同じ様に空を見た。今は……夕暮れ時なので、雲は赤く染まり、雲の隙間から光が差し込んでいる。その光も、直に……白い霧に隠されてしまう。


 突然、天使様が椅子から降りた。何も持たず、まだ、見上げたまま……。ラス・フェルトの住人たちは、急いで立ち上がった。離れすぎない様に……こけても手を差し伸べられる様にしている。天使様は下を見ていないので、危ない。石に躓いてこけてしまいそうだった。


 天使様は、天の言葉を仰った。



『※※※※※※※※※※※※。

 ※※※※※※、※※※※※※。』


 言葉の意味は分からない。何かに語りかけている? そんな感じだった。たぶん、空にあるものに……。それが、いったい何なのか、私には分からなかった。


 だけど……直ぐに知ることになる。私も……水の都ラス・フェルトの住人も。都を包囲する、グルムドの兵も……そして、惑星ラスに住む、全ての人がそれを見ることになった。



『※※※※※※※※※、※※※※※。

 ※※※※※※、※※※※※※※※。』


『※※※※・※※※※―“※※※※”。』



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『ノルンの名において命ずる。

 我が依り代よ、我の声を聞け。』



『我は光の大樹となり、星を統べる。

 我が依り代よ、我が敵を撲滅せよ。』



『極星魔術・

 帰天きてんの刻―“惑星招来”。』



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 ゴォゴゴゴゴゴゴゴーーーー地響き……いつもの地震とは違う。揺れが……地面からこない。不思議なことに、空からきた。私は座り込みながら、見上げる。雲の隙間から、森が見えた。「!?……幻覚!?……でも、この揺れは空から……。」


 森だけでなく、山や海が見えた。空に浮かぶ何かは、動いている様で……雲の中に隠れて見えなくなった。暫くすると、都の中から悲鳴が上がった。グルムドの兵に包囲されていて、次は……この揺れ。さらに、空に森や海が現れたのだから……無理もないと思う。たぶん、グルムドの兵も目撃して、混乱していると思う。混乱してくれないと困る。「諦めてくれたらいいのに……。ラス・フェルトは、他の国とは違うって……!?」


 私は、驚いた。天使様が……私に手を差し伸べている。恐る恐る、天使様を見ると……銀色の髪の少女は、にっこり微笑んでいた。「……早く握らないと……。」失礼なことをして、天使様の機嫌を損ねることだけは、絶対にしてはいけない。眼の前にいる、天使様が助けてくれなかったら、私たちは地獄に落とされてしまうから。



 天使様の白い手を……そっと握った。すると……不思議なことは終わらず、何度も起こる。声が聞こえてきた。天使様は話されていないのに……。


 しかも、最初に聞こえてきたのは……天使様の声ではなかった。人の声ではないけど、優しい声だった。


『……お人形さん、その子……。

 その子、システムと……関係がある。


 その子、必要……テラに連れてきて……。』



『植物さん、勝手には連れていかないよ?

 ……私も攫ったよね?


 懲りずに悪いことしたら、地獄に落ちるよ?』



『お人形さん……。

 地獄に落ちない様にするのに……。


 その子が必要なの……。

 その子は……システムと関りがある。

 天のピースと……。』


 天使様と誰かが、話をされている。今……天使様には誰も話しかけていないのに。天使様は、口を動かしていないのに……。ここで、さらに私を困らせることが起こった。話している人が、3~4人増えたのだ。


《……大樹ちゃん、貴方使えるわね。

 無理やりでも、集めようとする所は好きよ。》



『私は、集めるのが好き……。

 でも、私は……白い人形、紫の瞳。


 ……お前は嫌い……私を……。

 惑星テラを傷つけた……。』



《え~、酷い……そんなこと言わないでよ。

 ……終末の世界を旅する仲間なのに。》


 大樹?と、白くて、紫の瞳の人形?が話をすると、次は……誰かが怒られていた。怒っている声が聞こえてくる。



「ルーン様、何てことしたんですか!? 

 どうして……。

 

 ノルン様を食べたんですか!? 

 悪いのはこの口ですか!?」


『いたぁい、いたい!

 フィナ、ひっぱらないでよ! 


 だから、ごめんって謝ったよ! 

 私だって、我慢したんだよ!? 


 お腹すいている時に……。

 ノルンが、美味しそうな匂いを……。

 しているのが悪いの!』



主様しゅさま、ルーン様、

 反省の色が見えません。」


『そうね……じゃあ、ノルンも一口、

 ルーンを食べたらいいのよ。


 ……そうすれば、お相子に―。』



『ちょ、ちょっと、お母さん!?』


「そうですね……。

 そうするしかありません。


 ノルン様が、こちらに来られた時に―。」



『ごめんなさい、私が悪かったです!

 

 ……逃げないから、

 せめて、この縄を解いてよ!』



 私は、天使様の手を離して……咄嗟に耳を塞いだ。塞いだのに、声はまだ聞こえてくる。私が蹲ると、母が心配して、何度も私に声をかけた。頭が混乱してきた。頭が割れそう……。


 ぷつん……声がやんだ。急に聞こえなくなった。その代わり……私の眼の前に、若葉色の光が現れた。綺麗な透明な何かが、ぐるぐると私の周りを回っている。天使様は屈んで、優しく、私の頭を撫でながら……。


『ごめんなさい、煩かったですよね?

 

 今は……植物さんが、

 私と貴方だけを繋げてくれています。


 これなら……言葉を、

 お互いに理解できるそうなので……。


 私の言葉……分かりますか?』



「……はい、分かります。」


『私は、ノルン……貴方のお名前は?』

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