第39話『水の都ラス・フェルトの救世主②』【改訂版】

 

 一台の馬車が止まった。聖フェルフェスティ教会の近くに……。白髪の司祭様に促されて、私と母は降りた。短い金色の髪と青い瞳、フェル・リィリア。水の都の民族衣装を着ている。ふわふわとした白いスカートと緑色の帯。かわいいので、私は気に入っていた。風が吹いて、白いスカートがふわふわと揺れている。


 馬車から降りると、右を向いても、左を向いても人だらけ。でも、教会の前に集まっていた人たちが、私たちから少しだけ離れてくれた。人が一人なら、何とか通れそう。司祭様のあとを追って……母に引き寄せられながら、私は歩いていく。



「!? かわいい……白いお人形さんだ。」私は、天使様を見た時にそう思った。

 


 銀色の髪に、海の様に透き通る青い瞳。白い手足が、美しさを引き立たせている。幼い少女に見えた……明らかに、私より幼く見える。人でいえば、10~12歳ぐらいかな。白いお人形さんが、豪華な椅子に座って。紙とペンを持って……必死になって、何かを描いている。お人形さんの周りには、沢山のペンや、色とりどりの絵の具が置いてあった。


 さっき、司祭様は、天の言葉を理解できなかったと仰った。天使様の御告げを、紙に描いてもらおうと……急いで、誰かが用意したもの。天使様の近くにくると、誰もが……跪いて、敬意を表している。表面が平らな敷石―石畳の上で……白髪の司祭様も同じ様に跪いて、話を始めた。私と母もそれに倣った。



「天使様……どうか、我らに慈悲を! 

 水の都ラス・フェルトをお救い下さい!」



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「※※※……※※※、※※※※※※! 

 ※※※※※・※※※※※※※※※※※!」



 うん、分からない。白髪のお爺さんは、何て言ったの?……それにしても、お腹すいた。『……仕返しに、ルーンの魂を食べてみようかな……。』


 私は、ノルン。霧の城(今は、大樹の城)のメイドさんからは、青のお嬢様と呼ばれていた。銀色の髪に、海の様に透き通る青い瞳。白い手足は細く、体はとても弱かった。ふらつくから、一人で歩くことも難しい。すぐに熱がでて……痛みで意識を失って、自分の部屋から出ることもできなかった。1週間前までは……。


 1週間、たったの7日で、世界は大きく変わった。私自身も……。私の星の核は、私に応えてくれている。そう感じた。今までは応えてくれず、触れても冷たかった。でも……今は違う。


 ドクッ、ドクッ……胸の辺りに手をあてると、星の核の鼓動がよく聞こえる。とても温かい。やっと、自分の心臓を取り戻せた。この温かさは、私に安心感を与えてくれる。とても心地よくて、前に踏み出す勇気を、私に……。何もなかった、私は少しだけ……自分を信じることができた気がした。


 ルーン。白い瞳のルーンは……もう一人の私。悪魔の女神の極界魔術―再生の聖痕であり……神聖文字(神生紀の文字に魔力が付与されている)に魂が宿った、変わった存在。今、白い人形の中に二つの魂が入っている。


 ルーンは、私の星の核を使って、夢の世界を創った。何もできず、暇だったから。その夢が大いに役に立っている。大好きなお母さん。優しいお母さんが、夢の世界に留まってくれているから、会いたい時に会うことができた。会いに行く為には、ルーンと入れ替わる必要があって。もし、ルーンと一緒に会いに行く場合は、霧の人形―別の姉に頼めばいけそうな気はする……けど。



 私は、ルーンと喧嘩している。今は入れ替わらない。ついさっき、ルーンが私を食べたから……変な意味じゃなくて、噛まれて、私の魂が削れてしまった。だから、今は怒っている。すぐに許したら、また、同じ目に遭うかも……。



『ノルン、ごめんね。


 でも、こうしないと、

 私は……ノルンを喰ってしまう。


 私が望まなくても……。

 だから、こうするしか―』


 

 ふと、思い出した。軍国フォーロンドの首都バレル。亡くなった人たちを助けた時、ルーンは私にそう言った。だから、自分から消えるのだと。私は泣いて止めた。一人が嫌だったから。ルーンに喰われない様に強くなると約束した。


 今まで……ずっと、ルーンに助けてもらった。ルーンがいないと……何もできなかった。でも……今は違う。私の星の核が、私に応えてくれている。


『……そっか、そうだね。


 私は、ルーンに言った……。

 魔術は行使できる様になったでしょう?


 もっと強くなるから……。

 もう少しだけ、待って……。


 自分で、抑えられなくてもいいよ、

 大丈夫……。


 今度は、私がルーンを助けるから。』


 

 最近、私達の夢の世界に入ってくるものがいた。殆どは、勝手に……。霧の人形や惑星テラの大樹。栗色の髪、白い犬の耳と尻尾―獣人のフィナも。


 フィナは別にいい。夢の世界には、霧の城…今は、大樹の城がある。フィナは、霧の城に住んでいた悪魔のメイドさん。夢の世界で、埃がたまるかどうか知らないけど、フィナなら綺麗に掃除をしてくれるはず。悪魔のメイドから、軍国フォーロンドの伯爵令嬢―フィナ・リア・エルムッドになって……幼女化して、犬のコスプレをしている。ルーンがそう言ってた。



『?……フィナが怒ってる。

 たぶん、ルーンに……。


 ……ルーン、私達の夢。

 随分と賑やかになったね。』

 

 青い瞳のルーンは、豪華な椅子に座って……微笑みながら、絵を描いていた。周りに集まった、人達の言葉は分からない。もしかしたら、神聖文字であるルーンなら、解決策を見つけるかもしれない。でも……今は喧嘩中。お腹はすいているけど、まだ我慢できる。ルーンが泣きついてくるまで……頑張ろう。ノルンが、大きな大樹や白い狼の絵を描くと……。



「※※※、※※※※※※※※※※※※! 

 ※※※、※※※※※※※!」


 

 うん、ごめんね。白髪のお爺さん。やっぱり、何て言ってるか分からないよ。とりあえず……私は、微笑んだ。周りの人達から、なぜか歓声が上がった。


『……うん、とりあえず、

 微笑む……笑顔で……。』

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