第36話『白い人形ノルンは新しき女神ルーンを討つ。終焉のsevendays⑦ (第2章 最終話)』【改訂版:Ⅱ】



 聖神の聖域、惑星フィリスの時が止まった。


 この星の主神フィリスも、獣人のフィナも、青い瞳のルーンでさえ動けない。止まった時の中で、ルーンは呟く。




『?……お母さん?』




 銀色の長い髪に、全てが凍える白い瞳。悪魔の女神は、後ろからルーンを抱きしめた。女神は眼を瞑っている。



 終焉のsevendays、最後の日。


 惑星フィリスの外で、世界を横に切る地獄の門が開かれた。霧の世界フォールの白い霧が解放されて……霧の世界の創造主が、ゆっくり眼を開けていく。



 今、この時……正気を失った、悪魔の女神が眼を覚ました。


 



 眼や口のない、白い霧の幽霊―女神の影アシエルは激怒した。




『フィリス……私を裏切ればどうなるか、

 教えてやる!』



 ここは惑星フィリスの外、宇宙空間。女神の影アシエルは、抱き合って眠っている白い人形のルーン―女神のレプリカを起こした。



 白い人形のルーンは、妹のノルンを離そうとしない。


 仕方なく、そのままにしておく。ノルンに……鋭いレイピアが深く突き刺さったままだ。女神の影は思案した。『……星の時が止まっている。フィリス、何を考えている……私が、有利なのは変わらない。』




『地獄の門よ、二つの星―

 フィリスとテラをぶつけよ!』



 二つの青い星、惑星フィリスとテラが、地獄の門を潜った。テラ・インパクト―二つの星が衝突するまで……残り30秒。




 悪魔の女神は、止まった時の中で見上げた。


 星の外に……凶暴な白い霧、自分の影が見えた。女神は微笑みながら、幼いルーンの手を優しく包み込む。



 娘の手を動かすと……星の外で眠っているノルンの手も動いた。女神の餌―“時の魔術”に喰いついたテラの大樹も操って、テラ・システム―フェンリルを行使する。



 テラ・インパクト―二つの星が衝突するまで、残り15秒、14……13、残り12秒……グサッ! 白い人形のルーン―女神の影アシエルを騎士の剣が貫いた。



 ノルンが、騎士の剣を掴んでいる。


 傲慢の魔女ウルズの極界魔術―“傲慢の烙印”。白い人形の中にある星の核から、黒い小さな文字が解放されていく。


 黒い文字が、騎士の剣に触れると……剣は黒く変色して、ボロボロに壊れてしまった。白い人形のルーンの胸の傷は、再生の聖痕が癒していく。



 二つの星が衝突するまで……残り8秒、7……6、残り5秒。



 白い人形のノルンとルーンは、抱き合っていたのに、今は対峙している。星の外、地獄の門の前で……そして、白き人形のノルンは時の魔術を行使した。



『ノルンの極星極界魔術、

 帰天きてんの刻―再生の時。』




 惑星フィリスとテラ、二つの星の時が止まった。


 残り5秒……ぶつかる寸前で止まっている。これに一番驚いたのは、女神の影アシエルだった。眼の前に、白い人形のノルンが立っている。しかも、時の魔術を行使して、星の衝突を止めてしまった。


 頭が垂れている為、表情を窺うことはできない。女神の影アシエルは、白い人形のルーンを使って、呪いの言葉を紡ぐ。



『!? どうして?

 あり得ない、あり得ない!

 


 お前の魂は……。

 夢の世界に閉じ込めている。



 ルーンの魂は逃げたが、

 まだ、フィリスの聖域内だ。



 何もないはずだ。中身は空っぽだ! 

 なのに……私を拒否して……。

 


 なぜ、お前は勝手に動く! 

 操り人形のくせに!』




 女神の影アシエルに操られた白い人形のルーンも、時の魔術を行使した。




『女神の影アシエルの極界魔術、

 帰天きてんの刻―終焉の時。』




 白い人形のノルンとルーンは対峙している。女神の影は、呪いの言葉を叫んだ。




『消えろ、消えろ!

 私の前から消えろ! 



 私を拒否して、時の魔術も歪めて……。

 再生の聖痕でも消えない。



 お前は、どうして消えないの?

 まだ、痛めつけられたいの?



 ここまで、私を困らせるのなら、

 食ってやる。霧に食われてしまえ!』




 白い霧が、白い人形のノルンを包み込んでいく。


 霧の中で、若葉色の光が動き始めた。テラの大樹の透明な根が、霧を遠ざけていく、霧の魔力を吸収している。


 

 若葉色の光に包まれた、白い人形のノルンは頭を下げたまま……新たに騎士の剣を呼んで、両手に握った。



 女神の影は絶叫した。



『……そうか、お前が、

 拒否しているからか……。


 お前が拒否しているから、

 忌々しい植物の根を、排除することもできない。



 ルーンの魂を喰うこともできない。



 お前が、私を拒否しているからか!



 私を否定する、お前の存在を認めない!

 お前が消えろ! 私は消えぬ! 



 私は、ノルフェスティ様の意思を継ぎ、

 新たな時の女神になるのだ! 


 

 ノルフェスティ様を狂わした、

 お前に邪魔をされてたまるか!』




 白い人形のノルンを操る、悪魔の女神は微笑んでいた。


 白い人形は、だらんと力が抜けた。白い人形は操り人形。ノルンとルーンの魂がいないから、悪魔の女神と女神の影アシエルが操っている。


 テラの大樹は、人形が壊れない様に支えているだけ……操ろうとしても、上手く操ることはできない。



 白い人形のノルン―ノルフェスティが、白い人形の時だけでなく、周囲の時を停止させた。女神の影アシエルも……白い霧を操り、時を停止させる。



『認めない、お前が、

 時の魔術を操るなど!



 地獄の門よ、時を歪める愚か者―

 ノルンを……地獄へ落せ!』



 大樹のシステムが、地獄の門に介入する。


 テラ・システム―クロノス……起動。白い人形のノルンの姿が消えた。周囲の止まった時も全て、地獄へ落ちていく。


 システム―クロノスが、地獄の門に小さな隙間を創った。悪魔の女神は、白い人形の時を加速させて……無理やり、転移魔術の隙間に入り込ませた。



 白い人形が壊れても、悪魔の女神は気にしない。地獄の門の前に、白い人形のルーン―女神の影アシエルだけが立っていた。



『……やっと、地獄に―』 



 ズバッ! ルーンの左腕が切断された。


 白い人形のノルン―ノルフェスティが、騎士の剣を振り下ろしている。白い人形のノルンは、体の半分以上が無くなっていても、まだ動いていて……レイピアは、まだ突き刺さっていた。



『!?……お前、いい加減にしろ!』



 女神の影アシエルは、再生の聖痕で、白い人形のルーンを癒す。


 システム―ノルニルによって、白い人形のノルンも癒されていく。悪魔の女神は微笑みながら、再び周囲の時を停止させた。



 止まった時の中で、白い人形のルーンとノルンは向かい合っている。



 女神の影アシエルは困惑した。『あり得ない、あり得ない! なぜ、ここまで……時の魔術を行使できる!? できるはずがない……いったい、どうなっている? どこで、私は間違えた?』


 

 再生の聖痕が、白い人形のルーンだけでなく、ノルンも癒してしまう為……この戦い、決着がつくか分からない。下手をすれば、永遠に争うことになる。『私はずっと邪魔をされる。この小娘に……時間を稼いでも、私が有利だ……女神の夢が消えれば、お前も消える!』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―――――――――――――――――――ーーーーーーーーー



 ここは異なる時―終焉の時。


 女神の影アシエルが操る、白い霧が全てをのみ込んでいく……何も残らない。霧の世界フォールにある第二惑星フレイ。



 砂の惑星を、白い霧が覆い始めた。


 白い霧から、幾つもの炎の柱が伸びた。憤怒の魔女の極界魔術―“憤怒の烙印”……女神の影は、憤怒の魔女アメリアを呼んだ。



『まだ、私には操れる人形がいる。

 

 さあ、アメリア、

 貴方の怒りを解放して!』




 爆炎に吹き飛ばされて、砂が消えていく。女神の夢の世界も……再生と終焉の時を隔てていた、女神の夢の世界が消える。聖母フレイは祈った。



「時間稼ぎには、ならなかったか。

 

 白い霧が敵になれば……。

 霧から生まれた、我らに勝ち目はない。」



 砂の惑星の堕落神、聖母フレイは依り代の星の中で、ゆっくり眼を閉じた。白い霧が……大量の砂を、聖母を包み込んでいく。




「ルーン、戻りたかった場所に戻れたか?

 双子の白き人形に、幸福が訪れます様に。



 ミトラ、霧から逃げて、生き延びなさい。

 白い霧の愛に選ばれた娘に、幸福が訪れんことを。」




 霧の世界フォールの白い太陽。


 太陽ものみ込まれ……光は消えて闇に包まれた。終末の時……闇に包まれた世界にある第六惑星オーファン。


 歪な騎士―巨大な黒き甲冑が、大地を揺らしながら、行く当てもなく歩いていた。白い霧が、彷徨う歪な騎士ものみ込み始める。



 黒い瘴気を纏う、この星の堕落神は手に持っていた大剣を……グッ! 深く自身の胸に突き刺した。



 始まりの時に、騎士神オーファンは鉄槌を呼んで、肉体を吹き飛ばした。それでも……霧から、女神から解放されることはなかった。


 

 騎士神の大剣は、騎士神の魂に触れて……星の核に侵食されて青く光る、“水晶の剣”となっていく。



 白い霧の中に、テラの大樹がいた。


 大樹の透明な根が、水晶の剣に巻きつき、胸の傷から入り込む。そして、オーファンの星の核を抉り出した。女神の影アシエルに奪われる前に……。



 騎士神オーファンは見つけた。


 希望のない終焉の時の中で、青い瞳のノルンと同じ姿をした白い人形を。【流れ星……幼き子、希望はまだある……儂に、希望を見せてくれたものに、感謝を。】




 もう一度、霧に抗う気力が湧いてきた。



 爆ぜる様な黄色の瞳を持つ、魔女エレナは時の魔術を行使した。時の魔術を行使できない、オーファンでは決して勝てない。


 流れ星―“幼いルーンの魂”を、騎士神の鉄槌で止めることが精一杯だった。女神の影アシエルに、全てを奪われるのなら……勝てる可能性がある者に託した方が良い。【儂の星は死んだ。儂が見殺しにした……しかし、希望はある。】



 騎士神オーファンに、残されている選択肢は少ない。騎士神は、白い霧にのみ込まれていく。騎士神は、真なる極星魔術を行使した。女神の娘を守る為に……。



 青く光る、水晶の剣は分裂して、重なり合っていく。日輪の様に美しい、青く光る輪っかとなった。



【極星魔術・第六の刻―“つるぎの門”。】




【儂は、幼子を守る。

 幼子よ、儂の力を喰え。



 青い瞳の人形よ。

 青く輝く、希望となれ。



 女神よ……娘に、祝福を与え給え。】



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―――――――――――――――ーーーーーーーーー―――


 

 女神の夢は消えた。終焉の時と再生の時が、今一つになる。


 再生と終焉の時の中で……。



 ここは惑星フィリス。聖神の聖域、惑星フィリスの時は止まっている。



 白い人形ノルンとルーンが倒れている。どちらも、魂が抜けているけど……人形のすぐ近くに、幼い魂はいた。


 ルーンの魂は、子犬の娘フィナにくっ付いている。ノルンの魂は……最低の男フィリスの傍にいた。



 女神の時の魔術が消えて、全てのものが、本来あるべき場所に戻っていく。女神の影も例外ではない。地獄の門によって、星の外から強制的にとばされてしまった。



 女神の影アシエルは、本来の場所に戻った。



『!? 聖神の聖域!? 

 ばかな……なぜ、私が―』



『アシエル……。』



 銀色の長い髪に、白い瞳……唯一の脅威度Sランク、悪魔の女神。


 霧の世界フォールの最悪最強の存在がそこにいた。とても冷たい声。その声を聞いて、アシエルは言葉が出なくなった。


 声が聞こえる、後ろを振り向くことができない。でも、何か言わないといけない。女神の影は、必死に言葉を絞り出した。



『ノ、ノルフェ様……お許し下さい。

 私は、ノルフェ様のことを―』



『アシエル……アシエル……。』



『申し訳ございません。

 どうか、お許しください。』




『………………駄目。』




『!? エレナ、私を助けなさい!』




『極界魔術・元始げんしの刻―“時の化身”。』



 女神の影アシエルは、時の魔術を行使したけど……1種類だけの時の魔術は、悪魔の女神には効かない。2~3種類でも、あまり意味がないだろう。



 ノルフェスティは、複数の時の魔術を行使する。アシエルの白い霧の体が、部分的に加速・停止していき……。



 ズバッ!……雷光の魔女エレナが、悪魔の女神の背後から双剣を振り下ろした。雷鳴魔術を行使して、黄色の雷と化している。


 悪魔の女神は、雷を纏う刃をかわして……女神の影アシエルから離れた。一時的に、女神の時の魔術が弱まる。



 しかし、アシエルに残されている時間は少ない。


 部分的に、加速・停止を繰り返している為……白い霧の体がバラバラと壊れていく。女神の影にとって、幸運なことに、白い人形を見つけた。『!?……白い人形! 私の運は尽きていない!』



 ノルフェスティは、魔女エレナの双剣を止めた。


 時の魔術でピクリとも動かない。白い人形のノルンが倒れている。鋭いレイピアが、深く突き刺さったままだ。



 悪魔の女神は、双子の魂―ノルンとルーンの魂を、魔法の糸で運んだ。糸を巧みに操って……レイピアを引き抜き、傷口から侵入させていく。



 白い人形のノルンの体の中に、ノルンとルーンの魂を……。


 そして、プチッ! 女神の影アシエルの糸を切った。




『!?…………!?』



 魔法の糸が、ぷつんと切れて……雷光の魔女エレナは意識を失った。悪魔の女神が、エレナを優しく抱きしめている。



『エレナ……。』




『……ノルフェ様、おやめ下さい。

 今は、終焉の時です。



 地獄の門を開き、

 悪魔の大厄災を引き起こす。



 それが、私たちの役目ではありませんか?』



 白い人形のルーン―女神の影アシエルは、古き女神に問うた。悪魔の女神は応える。もう一人の白き人形を操って……。



『アシエル……アシエル……駄目。』



『仕方がなかったのです。

 ノルフェ様のお役に立とうと―。』




 グッ! 騎士の剣が、再び背後から貫いた。


 白い人形のルーン―女神の影アシエルを……。



 騎士の剣を握っているノルンは、鋭いレイピアが抜けて……血が噴き出ていて、白い服が真っ赤に染まっていた。



 極界魔術―再生の聖痕は、白い人形のノルンとルーンを癒していく。悪魔の女神は微笑みながら、再生の聖痕に介入した。



『ノルン…………。』



 再生の聖痕によって癒され、悪魔の女神に呼ばれて……。



 青い瞳のノルンは眼を覚ました。



『!?……ルーン、大丈夫!? 

 怪我してない?



 重たいけど、いいよ。

 ルーンも、頑張ったんだね。』



 双子の姉妹の再会、白い人形のノルンの中で……青い瞳のノルンに、ルーンの魂がくっ付いている。


 双子の白い人形は、本来の瞳に戻っていた。



『ルーン……夢の中で、

 お母さんに会ったよ。

 


 とても優しい、お母さん。

 落ち着いたら、一緒に会いに行こう。』




 白い人形のルーン―女神の影アシエルが目の前にいた。


 眼や口のない、白い霧の幽霊が背後から……女神のレプリカ、“ルーン・リプリケート”を捕まえている。


 女神のレプリカ、ルーンはとても苦しそうだった。




『?……ルーン、背伸びた? 

 私、伸びてないのに……。



 なんで剣を持っているのか、

 分からないけど……。



 ルーンが、私に引っ付いている。



 私の体の中に、

 逃げないといけなかった。



 白い霧の幽霊。

 お前が、ルーンを苦しめてる。』




 青い瞳のノルンは、騎士の剣を構えた。



 あとは……テラの大樹が支えてくれる。透明な根、若葉色の光に包まれて、とても安心した。だから、全て任せることにした。


 テラ・システム―フェンリル……起動。



『?……植物さん、

 一緒に戦ってくれる?



 ありがとう、

 一緒に幽霊女を倒そう。』




 女神の影アシエルは戸惑い、絶叫した。




『お前は……どうして、諦めない!?』 



 ズバッ! 青い瞳のノルンは騎士の剣を、女神の影アシエルに振り下ろした。白い人形の骨は水晶の様に固くなっている。筋肉は騎士神の魔力によって覆われている。



 騎士神オーファンが戦場で斬って、刺して、撃った……その全ての記憶が、白い人形に受け継がれている。騎士神の星の核は、ノルンの夢の中―大樹の城の中庭に運ばれていた。



 女神の影アシエルには、理解できなかった。




『!?……どうして、消えない!?』

 



 ズバッ! 次第に、剣を振る速度が速くなっていく。


 女神のレプリカ、ルーンではその速度についていけない。ルーンを斬らずに、背後にいる女神の影アシエルだけを斬っていく。



 ルーンは傷ついていないので、再生の聖痕は発動しなかった。



 女神の影アシエルは、ただ叫ぶことしかできない。



『ノルフェ様ではなく、

 お前にやられるなど、認めない!』



 女神の影アシエルは、白い人形のルーンに、舌を噛み切れと命令を下した。ルーンは噛んだ。水晶の指を、がりがりと噛んでいる。



 青い瞳のノルンは右手で、ルーンの自傷行為を防ぎ……左手に槍を呼んで、女神の影アシエルの頭を貫いた。


 ノルンは姉に優しく、声をかける。



『ルーン……私の指、美味しい? 

 美味しくないと思うけど。』



 女神の影アシエルとルーンが少し離れた。女神の影は、ただ怖がった。




『!? 認めない、認めない!』




 騎士神オーファンの星の核が、真なる極星魔術を解放していく。


 青く光る、水晶の剣。



【極星魔術・第六の刻―つるぎの門】




 青い瞳のノルンの背後に、幾つもの剱が重なり合い、輪が形成された。神聖文字が刻まれて、魔力を帯び、青く輝く輪っかとなる。


 ノルンは、女神の影アシエルに告げる。



『白い霧の幽霊、お前の敗因は……。』



 重なっていた、水晶の剱が離れていき……青い瞳のノルンについていく。



『や、やめろ……やめろ―!』



『私たちを馬鹿にしたこと! 

 皆を傷つけた罪、地獄へ落ちて償え―!』



 騎士神のつるぎ。神聖文字が解放されて、限界まで加速した。青い瞳のノルンから離れると、本来の姿に戻っていく。



 オーファンの騎士の軍勢。歪な騎士が持っている大剣かもしれない。とにかく、大きい大剣。オーファンの鉄槌よりも、大きいのは間違いない。



 騎士神の鉄槌よりも大きな威力をもたらす、巨大な大剣が限界まで加速したのだ。



 衝突時に、水晶の大剣は消滅。膨大な爆炎と爆風が発生した。それが、何十本も衝突したわけで……聖神の聖域、広大な空洞が耐えられるはずもなく、一瞬にして崩壊した。


 女神の影アシエルの叫び声は、もう聞こえない。



『!?ーーーー!?』 



 白い閃光。悪魔の女神が、爆炎と爆風……聖域の崩壊を止めた。複数の時の魔術で停止させた為、誰も動けない。



 青い瞳のノルンが、気絶している白い人形のルーンを支えている。


 霧の人形たちが、聖神の聖域に集まっている。


 今いないのは、ウルズとアメリアだけ。気絶している白い人形のルーンの中から、ウルズの星の核の鼓動が聞こえる。



 雷光の魔女エレナも気絶していて……ヘルとヴァルは、仲良く座っている。


 アメリアがいない。女神の影アシエルが、赤き魔女をどこかに隠してしまった。




《極星魔術・第三の刻―“審判の時”。》


 聖神の聖域が崩壊した時……聖神フィリスも、時の魔術を行使した。惑星フィリスの主神は、少しずつ動き始めている。


 だが……もう遅い。悪魔の女神は、彼を逃がさない。絶対に……惑星フィリスの時を、元に戻した。



《!? これが、ノルフェ―!?》



 ドォゴオオオオオォォォ—! 騎士神の剱の門がもたらした爆炎と爆風。白い閃光に……聖神フィリスは襲われた。聖神の聖域は崩壊していく。



 空が赤くなる。惑星テラとフィリスがぶつかりそうだ。



 再び……惑星フィリスの時が停止した。



 悪魔の女神は、呼吸する様に時を操る。正気を失っていても、それは変わらない。彼女は時の化身。人や魔物、悪魔や精霊ではなく、時の歯車だ。



 時を止めたり、時を動かしたりするのが、彼女の役目。天の創造主から与えられた役目は……まだ終わっていない。



 今は終末の時、女神の影アシエルの様に、あらゆる世界に終末を……。




『悪魔の女神の極界魔術。

 帰天きてんの刻―終焉の時。』




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―――――――――――――――――ーーーーーーーーー



 幼いルーンの魂……白い瞳のルーンは、訳が分からず叫んだ。



『!?……フィリスがいない。

 えっ?……あれ、私!?



 フィナもいるけど、

 いったい、どうなってるの!?』



 どこかの森の中だった。恐らく、惑星フィリスか……惑星テラのどちらか。見上げると、ぶつかりそうになっていた青い星は見えなかった。




『狂った聖神が、お母さんを呼んだ?



 起きたら、ぶつかりそうになっていた、

 星が消えて……え~、もう! 



 訳が分からないよ!』




 獣人のフィナは、魔力を使い過ぎて、白い瞳のルーンの隣に座り込んでいる。



 不思議なことに、ルーンの体―女神のレプリカは勝手に自分で動いて、自分の手足を確認している。



 幼いルーンの魂は、白い人形のノルンの中にいるのに……青い瞳の少女ノルンの瞳が、白い瞳に入れ替わっている。



『えっ!? 私、何で動いているの!? 

 あっ、こら……動くな!』



 ルーンの体―女神のレプリカと、ノルンの体を動かしているルーンの魂、二人の眼があった……自分の魂が、自分の体を見ている。


 ルーンの体―女神のレプリカが笑った、とても悪い顔だった。



『!? う、嘘でしょう!? 

 私の体を返せ!』



《私の体? それはおかしいよね。》



『おかしくないから……文字でも、体を―。』



《私の星の核を奪っておいて、酷い。

 ルーンってそんな子だったんだ。》



『!?……も、もしかして、

 ウルズお姉ちゃん!?』



《はい、正解! 


 やった、若い体で蘇れたよ。

 ありがとう、ルーン。



 この体、使わせてもらうから、

 じゃあね。》



 1番目の霧の人形、傲慢の魔女ウルズは……女神のレプリカ、ルーン・リプリケートに星の核を喰われている。女神の影アシエルがいなくなって、長女ウルズでも、白い人形を支配することができる様になった。


 幼いルーンの魂が、自分の体の中に戻っても、幼いルーンではウルズには勝てないだろう。人形の体を取り戻すには……白い人形から、ウルズの星の核を取り出すしかない。



『行かせないから! 

 やめてよ、お願いだから、やめて!』



《私を食べたの、ルーンだよね? 

 女神の影に操られていたとは言え……。



 食っておいて、私を追い出すの? 

 ルーンって、そんなに酷い女なんだ。》



 白い人形のノルンの中に、双子の魂―ノルンとルーンが宿っていた。ノルンの体を動かす、白い瞳のルーンは、女神のレプリカ―傲慢の魔女ウルズに近づいて……。



『ウルズお姉ちゃん、

 私の体を返して!』



《いや! ノルンとルーンで、

 いつも入れ替わっているのに……。


 別にいいでしょう?》




『……分かったよ。それなら、姿を変えて。

 私の姿をしているのが、問題で―

 

 !? あっ、こら見るな!』



 女神のレプリカ―魔女ウルズは、白い服の上あたりを引っ張って……下を覗き込んでいる。捕まえようとする、白い瞳のルーンから逃げて……。



《……子供なんだから、

 気にしなくていいのよ。》



『う、うるさい! 

 もう、早く変えてよ!』



《はい、はい……。》



 女神のレプリカの白い瞳が、魔女ウルズの瞳……魂を惑わす紫の瞳になった。



『……………。

 もうそれでいいや。』




 終焉のsevendays。


 地獄の門は開かれて、悪魔の女神は復活した。女神は正気を失っている。あらゆる世界に終末をもたらすだろう。女神の娘たちは、悪魔の女神から逃げる。



 逃げて、逃げて……数多くの世界に辿り着く。



 再生と終焉の時の中で……。

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