第33話『白い人形ノルンは新しき女神ルーンを討つ。終焉のsevendays④』【改訂版:Ⅱ】

 

 古き女神の時の魔術によって、二つの時の流れが生まれた。


 小さな流れではない。大きくうねり、時の流れは早くなっていくだろう。二つの時は、異界に存在する、数万……数億……数えきれない程の世界をのみ込んでいく。



 青い瞳のノルンが生きている、“再生の時”。


 白い霧の幽霊―女神の影が全ての時を奪う、“終焉の時”。



 再生と終焉の時に干渉する、女神の夢が消えた場合……二つの時は重なり合って、混ざりあうことになる。


 ノルンの夢も、二つの時に干渉しているけど……幼いノルンでは、再生と終焉の時が混ざるのを防ぐことはできないだろう。



 天国に訪れるのは、終焉か……それとも、再生か。


 時を司る天の柱―悪魔の女神は、正気を失っている。その答えを知っている古き女神、時の化身は、その問いには答えない。




 ここは再生の時、青い瞳のノルンが生きている。


 ノルンの夢の中……白い霧の城。時が止まった城の中庭で、1m程の小さな木は、青い瞳のノルンを必死になって捜した。生き延びる為に、惑星テラを救う為に。



 でも、霧の中に隠れてしまっていて、ノルンを見つけられない。そこで、青い瞳のノルンと深く結びついているものを探し始めた。


 娘の記憶として存在する悪魔の女神は、大き過ぎて吸収できない。母と娘は深く結びついているけど……どんな方法なら、時の化身の力を吸収できるのだろう?



 小さな木は、天のピース(天国の鍵の一部)も保有していない。


 魔力も全て奪われていた。テラの大樹だったものは、止まった時に捕まり……根を動かすこともできない。


 でも、小さな木は諦めない。ノルンと深く結びついている、生まれたばかりの白い狼と……女神から譲渡された二つのスキル、“異界の門と女神の魅了”を見つけた。



 母と娘は、深く結びついている。


 女神と繋がっている二つのスキルは、簡単に発見できた。



 スキル・転移魔術―異界の門から、白き狼セントラルを……狼の魔力を発見できた。魂と魔力は識別されて運ばれる。白き狼は、異界の門を行使したことがあった。


 小さな木は思った。『白い狼……姿が変わってる? 霧の悪魔を……助けたの?……どうして?』



 白い霧の中に、獣人の姿が見えた。


 栗色の髪に犬の白い耳と尻尾、獣人のフィナ。惑星テラに……青い瞳の人形を奪い取りにきた、霧の悪魔。白き狼セントラルが食べたはずだけど……。



『仕方ない……仕方ない。

 今は、助けが……欲しい。



 助けて……欲しい。


 白い狼よ……狼に宿る、

 天のピースよ。

 


 私の声を……聞いて。

 私を、惑星テラを……助けて!』




 天のピースは、女神の落とし物。


 天国から女神が堕ちた時……砕けて、“10個の破片”に分かれた。惑星テラに落ちた、天のピース―“テラの大樹”。



 天のピースは、小さな木に宿り……数千年以上、共に過ごした。新しき女神ルーン―女神の影に出会った時を奪われても……魂に刻まれた、大切な思い出は消えることはなかった。



 獣人のフィナに宿った、天のピースは、テラの大樹を保有者と認めている。フィナを保有者に認めていないので……フィナでは、天のピースを使用することはできなかった。これは“ノルンとルーン、星の核”との関係と同じで……“獣人のフィナとテラの大樹、天のピース”が深く結びつくことになった。



 天のピースは、12の星の核と同じもの。


 青い水晶でできている。星の核に及ばないものの、魔力を保有しており……砕けていても成長できる。


 うまく成長させれば、独自のシステム―新たな魔術を確立させることができる。




 ただし、小さな木は、止まった時に捕まっている。


 止まった時の中で、精一杯考えた。あとは、行動に移すのみ。小さな木は……銀色の長い髪に白い瞳、霧の世界フォールの創造主に助けを求めた。



 止まった時の中で、何度も、何度も……。




『動けない……動けない。

 助けて……助けて下さい。』




『私は、何もできない。

 貴方がよく考えなさい。



 私は、娘を待っているだけ。

 娘は霧の中で、迷ってしまったみたい。



 助けたいけど……助けられない。


 私の魂―天の柱はここにない。

 だから、魔術も使えない。



 私は、娘の記憶として存在しているだけ。』




『記憶・思い出は……大切なもの。


 私……大樹にしてくれた、

 天のピース……大切。



 絶対に……忘れない。



 貴方も……。

 お人形さんにとって……大切な思い出。


 だから……ここにいる。』




『……………。』




 悪魔の女神は……ゆっくり歩き始めた。


 落下している状態で止まっている、小さな木に近づいた。中庭の時は動いていない。悪魔の女神は、時の歯車を保有している。歯車を加速させて……止まった時の中でも動けている。



 女神は、時の化身。その正体は、時を司る天の柱。


 女神固有の魔術である、“時の魔術”を行使できなくても、自分自身の時であれば……自由自在に時を操る。時を止め、時を加速し、時を否定する。そして……時を奪うのだ。



 時を奪われたものは、時を戻されたことになる。


 古き女神は、愚か者にやり直す機会を与える為に……魂を読み、時を選んで奪っていた。今は……周囲の時に干渉する時の魔術を行使できない。自分自身では……。



 悪魔の女神は、空中で止まっている小さな木に触れた。



『小さな、小さな木。

 貴方は、私の娘を見つけられる? 


 

 ここに連れてきてくれる? 



 それができるのなら……私の魂を使って、

 時の魔術を行使しなさい。



 ただし……自分の時の歯車だけを動かして。

 周囲の時を奪う、強欲な愚か者になったら、



 凶暴な白い霧、私の影に襲われてしまう。

 気をつけなさい。』



『霧が凶暴なのは……知ってる。

 ……霧は嫌い。

 


 私……テラの大樹。

 時を操る……貴方は誰?』




『私は、悪魔の女神。

 天国から堕ちて、正気を失った。



 愛しい……愛しい、ノルン。

 もう一度……あの子に会えます様に。』




 白い霧が後退していく。


 ノルンの夢の中、古びたお城。今は……霧に覆われていない。霧は、城の周りに広がる街まで後退していて……古びたお城は光を浴びていた。



 青い瞳のお嬢様と悪魔のメイドたちが暮らしていた、お城はいつもと様子が違っていた。霧の代わりに、大樹に覆われている。


 城の中庭から、透明な根が飛びだして……白い霧の魔力を吸収して、巨大化していったのだ。


 “大樹の城”のエントランスホールに、女神の影に導かれた、三人の霧の人形がいた。銀色の髪に、白い手足は同じでも……瞳の色が違った。



 三番目の霧の人形。


 爆ぜる様な黄色の瞳を持つ、“魔女エレナ”。



 黒のミニズボン、黒のニーハイソックス。魔術を得意とする魔女でありながら……近接武器を使用する様で、銀色の小手をつけていた。



 長女ウルズと次女アメリア、三女エレナは……母に似て身長が高い。四女~六女は幼い為、身長が低かった。


 黄色の瞳のエレナは、階段に座っている妹たちに声をかけた。




『ヘル、ヴァル……私、先に行くよ。』




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー――――――――――――――――――ーーーーーーーーー



 

 ここで……白い霧に包まれて、霧の人形の姿は見えなくなった。




 白い霧は流れていく。異界にある惑星フィリスへ。


 再生の時―青い瞳のノルンは生きている。聖神フィリスの聖域……地底の聖フィリス教会。獣人のフィナは、転移魔術―異界の門にとばされた。



「痛い……犬の耳と尻尾が生えてから、

 良いことが、1つもないんだけど。



 ルーン様、ノルン様……。



 教会が燃えてる。

 あれ、火炎魔術かな?」



 栗色の髪に、白い犬の耳と尻尾。獣人のフィナは、小さな太陽の光を浴びていた。大きな空洞……聖フィリス教会が燃えている。教会の入り口付近が残っていたので、聖フィリスの教会だと分かった。


 今にも、崩れ落ちそうな教会から……知っている者たちが飛び出してきた。体格のいい褐色のオークが叫んでいる。



 距離がある為……何を叫んだのか分からない。


 逃げる様に促しているみたいだった。



「!? あっ、ミランダに……ロベルト。

 皆、何でこんな所にいるの? 



 荒野のオークも一緒にいるし……。



 ジョン……若くないんだから、

 無茶しないでよ。」



 軍国の伯爵令嬢は、惑星テラで亡くなった。


 それでも……軍国の冒険者たちとの思い出は、とても大切なもので忘れることはできない。大切な……大切な家族の思い出。


 執事ジョンに怒られたことを思い出すと、怒っている時の白髪の執事の顔がすぐに浮かんだ。



「……全員いるね。

 ミトラさんは、いないけど……。



 あの太陽が、教会を燃やした。

 皆を助けないと……。」




 騎士神オーファンの力、あらゆる武器を呼べる。



 星の外で、ノルン様を傷つける白い瞳の悪魔。


 獣人のフィナは迷わなかった。「白い瞳の悪魔は……ルーン様じゃない。背が少し伸びていたし……似ているけど違う。ルーン様が、ノルン様を傷つけるはずがない……あれは、ルーン様じゃない。」



 獣人のフィナは走り始めた。


 白い狼セントラルから、魔力と記憶を授かった。狼として駆けまわっていたことを覚えている。白き狼の魔力が、手足の先まで流れていく。



 獣人のフィナは、靴下と靴を脱いで裸足になった。邪魔だからいらない。足の裏は水晶に覆われて……水晶の爪で地面を掴んだ。



 骨は、水晶の様に固くなり……狼の魔力が筋肉を包み込み、獣人の体を支える。



 フィナは白い狼となって、どんどん加速していった。




 聖神フィリスの極星魔術―“聖なる火”。小さな太陽は、さらに輝きを増す。聖神フィリスの聖域に侵入した、愚か者を燃やし尽くす為に。



 獣人のフィナは、軍国の冒険者と荒野のオークに見つかった。流石に気づかれた。でも、今は止まって、説明している暇はない。


 明らかに、小さな太陽が爆発する。その前に何とかしないと……燃え滾る赤い眼を持つ、若き魔王クルドの声もはっきり聞こえた。



「おい、ロベルト! その大剣を貸せ! 

 爆発を聞いて、興奮したのか……。


 獣の嬢ちゃんが、突っ込んでくる!」




「……いや、いらないだろ。

 自慢の筋肉で何とかしろ。」




「あの嬢ちゃん以外にも、

 いるかもしれないだろ。


 あ~、やばいな。炎が爆発しそうだ。」




『どうにかしてよ、魔王でしょう? 

 炎鬼なら、何とかできるでしょう?』




「……ミランダの嬢ちゃん、

 

 何で……そんな蔑むような眼で、

 俺を見るかな。



 なあ、ミルヴァの嬢ちゃん。

 俺……何かしたか?」




『知らない……。

 ……あっ、栗色の髪。』



 魔術師のミルヴァは、こっちに近づいてきている獣の娘を見て……気づいた。軍国の伯爵令嬢が幼くなって、犬の耳と尻尾が生えた感じである。


 落ち着いて見たら……似ていることに気づけるだろう。ただ、ミルヴァの声は小さい。皆に聞こえていない。


 燃える教会や、大きな空洞に現れた小さな太陽が気になって……ミルヴァ以外、誰も気づいていない様だ。



「犬! こっちにくるな! 

 炎が爆発する、ここから逃げろ!



 ……駄目か、人の言葉が分からないらしい。

 仕方ない、別に恨みはないが―」



『駄目! ロベルト……やめて!』



 とても大きな声だった。ミルヴァの声が響き渡ったので、皆が……ミルヴァを見た。一緒に冒険を始めて……初めて聞いたミルヴァの叫び声。


 互いに話し合っていた冒険者や荒野のオークは、一斉に黙った。小さな太陽の燃える音がよく聞こえる。


 ミルヴァが小さな声で話すと……冒険者のミランダが、獣の娘を見た。まだ、距離はあるけど……大きく跳躍して、大きな岩を飛び越えている。


 栗色の髪と、犬の白い尻尾が眼に入った。



『あれ……たぶん、フィナお嬢様。』



『!?……あっ、ほんとだ。


 似てると言えば……似てるかな。

 でも、何で魔物に?』




「フィナお嬢様……お嬢様。



 フィナお嬢様! 

 ここから、逃げて下さい!」



 獣人のフィナは、はっきり聞こえた。


 小さな太陽の下で……伯爵の執事ジョンが叫んでいる。「……この姿でも、気づくんだ。嬉しいな。うん、それなら……なおさら―」



「ジョン、ごめんなさい! 

 後で話すから……。


 今は、私のことを信じて!」




 聖神フィリスは気づいた。


 騎士神オーファンの従者が、聖域に侵入したことを……聖なる火から、幾つもの光弾が放たれる。獣人のフィナに向かって……。




 “テラ・システム―フェンリル……起動”。



 今度は、テラの大樹の声がはっきり聞こえた。



 若葉色の光を放つ、大樹の根が……フィナの周りをぐるぐると回っている。「!?……変な木。私を殺そうとして……今度は、私を助けるの? でも、ありがとう……お陰で、私の守りたいものを守れる!」



「フィナお嬢様!!

 そんな、お嬢様―。」



「ジョン! 皆、伏せて!

 お願いだから、私を信じて!」



 砂埃が晴れていくと……2m程の大きな鉄の盾が、地面から顔を出していた。光弾によって、表面は熔けている。でも、光の弾20~30ぐらいなら耐えられそうだ。


 獣人のフィナは、鉄の盾を踏みつけて……大きく跳躍した。長い……長い槍を地面に刺して、上空に上がっていく。大きな空洞の天井へ。



 小さな太陽から、光弾が放たれる。


 非常に長い槍は……熔けて折れてしまった。獣人のフィナは落下しながら……。「……呼べば、武器ならどんなものでもでてくる……それなら、もっと大きくて、強いものを!」



 獣人のフィナは呼んだ。エルムッド伯爵の甲冑を……。


 伯爵の屋敷に飾ってある、伯爵が身に着けていた銀の甲冑。若い頃に、ジョンやクレストたちと冒険して……軍国フォーロンドで、1年に1回だけある武道大会にも出場したこと。


 銀色の甲冑を自慢してくる父。父の大きな手を……すぐに思い出せた。「お父様……お母様……ジョン。皆、どうか……私を信じてくれます様に……。」



 ゴォオオオォォォ—! 光弾は速い。小さな太陽が光ると、目標に一瞬で到達した。巨大な銀色の小手が……獣人のフィナを包み込んでいる。



 小さな太陽が輝きを増す。


 無数の光弾が、銀色の小手を熔かしていった。



 獣人のフィナは握りこぶしをつくって……右手で、小さな太陽を殴った。20mくらい離れているので、小さな太陽には当たらない。



 その代わり、巨大な銀色の小手が……鉄の握りこぶしが、聖なる火に直撃した。


 

 ゴォゴゴゴゴゴ—! 聖なる火―小さな太陽が揺れると……そのまま、白い霧に包まれて消えてしまった。


 獣人のフィナが呼びだした、巨大な銀色の小手も。テラの大樹の根が巻きついて、どこかに持っていってしまった。



 獣人のフィナは落ちた。


 長い……長い槍を呼んで、右腕と右足を水晶で覆っている。槍につかまりながら、ゆっくり下に降りていく。因みに、フィナは白い服を着ている。魔法の糸でできた、白いシャツと長めのスカート。人の時にはなかった、大きな尻尾があるので……尻尾を丸めて、スカートを押えていた。



 今にも崩れそうな、聖フィリスの教会。


 上から見ると、よく見える。小さな太陽が消えた為か、教会の炎も消えていく。たった1つだけ、消えずに燃えていた。



 元悪魔のメイド、フィナにとって、大切な……大切な青い瞳の人形が燃えていた。



 眼や口がない、白い何か―白い霧の幽霊が……手を伸ばしていた。“幼いノルンの魂”は炎に包まれて、ピクリとも動かない。悲鳴もあげない。全身を焼かれて、黒焦げに……。


 なぜか、時が戻るかの様に元に戻っていく。

 

 聖なる火に包まれた状態で……。



 女性の姿をした白い幽霊は、霧でできている。炎が消えそうになると、白い霧が覆い……炎は勢いよく燃える。


 白い霧の幽霊が、幼いノルンの魂を焼き続けているのは明らかだった。



『ノルン、痛いでしょう? 

 ノルン、言うことを聞きなさい。



 悪い子は、聖なる火に焼かれるの。

 ずっと続くよ? 終わらないよ? 


 お母さんの言うことを聞きなさい。』




 獣人のフィナのなにかが切れた。「幼い少女を焼く?……ノルン様を?」



「あ~、駄目だ……お前は、お前は!!」



 獣人のフィナは、怒りに身を任せて……軍国フォーロンドに悲劇をもたらした、“鉄槌”を呼んだ。


 テラの大樹は、ノルンの夢の中で成長している。ノルンの夢は、女神の夢の様に、二つの時、“再生と終焉の時”に干渉して……。


 大樹は、異なる時―終焉の時から、極星魔術―オーファンの鉄槌を呼んだ。




 騎士神オーファンの鉄槌。


 大きな空洞の天井に、巨大な鉄の大剣が現れた。刻まれた神聖文字が解放されて、限界まで加速。白い霧の幽霊に向かって……。



 白い霧の幽霊―女神の影アシエルは呟く。




『?……私から逃げた、獣の娘。

 異界の門が、ここに運んだ。


 なぜ、私が……見えている?』



 白い霧の幽霊―女神の影は……宇宙空間にある、二つの門。その門の間で待っている、女神のレプリカを使っていた。



 女神の極界魔術―再生の聖痕を……。



 ノルンの魂が焼かれても、元に戻るのはその為……女神の影はそう思って、このバグを無視した。



 これは、女神の影の大きな誤り。極界魔術―再生の聖痕。聖痕でも……魂は治せない。なのに……



 影は影でしかなく、悪魔の女神ではない。再生の聖痕が、女神が創れない魂に発動していること。すぐに、このバグを直さなかった。



 ここから、女神の影アシエルの歯車が狂い始めていく……。



 白い霧の幽霊―女神の影は、異なる時―終焉の時から呼んだ。三番目の霧の人形の極界魔術を……。



 三番目の霧の人形、“魔女エレナ”は……終焉の時の中で、騎士神オーファンと戦い、極界魔術を行使した。



 女神に魂を奉げた、霧の人形しか発動できない、真なる極界魔術を。




『極界魔術・元始げんしの刻―“時の化身”』




 ピタッ……オーファンの鉄槌が止まった。


 鉄槌だけではない。落下していた、獣人のフィナも止まっている。周囲の時に干渉する、女神固有の魔術、時の魔術で……。



『エレナは真面目で……いい子ね。


 ウルズも、アメリアも、

 遊んでなかったら、行使できたのに。



 ヘル、ヴァルは幼いし……。


 これからは、エレナに頼みましょう。



 言うことを聞かない悪い子、

 ノルンとルーンのしつけも。』



 極星魔術―オーファンの鉄槌。鉄槌がもたらす、爆炎と爆風……大きな空洞が炎に包まれて崩壊する。



 その時が、否定された。



 白い霧が、オーファンの鉄槌を覆い……大きな空洞の中に、霧が充満していく。霧が晴れてくると、大きな空洞が残っていた。



 鉄槌の爆炎や爆風に襲われていない。


 でも、聖フィリスの教会がない。燃えた木材、砕けたレンガ……廃材や瓦礫が、全て無くなっていた。


 白い霧が否定した時と一緒に、どこかに運んでしまった様だ。



 獣人のフィナは捜した。だけど……どこにもいない。離れた場所に、軍国の冒険者や荒野のオークはいた。



「!?……何で? 鉄槌は?

 ノルン様……ノルン様!?」



 幼いノルンの魂はいない。


 聖なる火に焼かれて、気絶してしまった。白い霧の幽霊―女神の影は、ノルンの魂を夢の中へ……大樹の城に連れていってしまった。



 フィナの相手などしない。そもそも、獣の娘が、聖神フィリスの聖域に現れた時から無視していた。


 フィナは、ただ叫んだ。愛する人形に聞こえる様に、大きな声で……。



「ノルン様――!!」



 聖神フィリスの極星魔術―聖なる火。小さな太陽が、聖神の聖域に再び現れた。聖なる火が……大きな空洞を照らしていく。白い霧が、聖域にまだ残っていた。




《オーファン……なぜ、

 女神の邪魔をするのですか? 



 フレイ、貴方もです。


 こうして、我ら人の神は……。

 女神によって、復活できたというのに。》



 白い霧の中から……白い手足、銀色の髪の少年が歩いてきた。声がとても魅力的な少年。白いローブに金細工。神聖な雰囲気を醸し出している、教会の天使。



 女神の従者であり、この星の主神……聖神フィリス。



「我は、霧が嫌いだ。

 お前も、知っているだろう。」



 赤いリボンに金色の髪、ミトラ司教は眼を瞑って……フィリスから少し離れた所に立っていた。ミトラ司教は、聖母の代弁者。


 極星魔術―天の門によって、聖神の聖域に強制的にとばされてしまった。首都バレルの上空には、ノアの箱舟を含む3隻の飛空船がいる。


 首都バレルに、銃口が向けられ……拒否できなかった。



 ミトラ司教に宿る、堕落神―聖母フレイ。聖母の星の核は青く輝いている。いつでも、岩石魔術を行使できる様に……。



《……貴方も見たでしょう。

 

 女神の影とは言え、

 時の魔術を行使する姿を。



 女神に盾つくなど、

 愚か者のすることです。



 オーファン、フレイ、

 今なら間に合います。


 全てを許して頂けるでしょう。



 答えて下さい……。

 貴方たちは……愚か者になるのですか?》




 聖神フィリスの嘘。


 フィリスは、よく嘘をつく。教会の天使ではなく……悪魔だ。彼の本当の声が、聞こえてくる。《オーファン、よくやってくれました。女神の影に従う必要はありません……さあ、悪魔の女神を呼びましょう。私たちは、愚か者だ……愚か者を罰して頂く為に。》

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