第27話『新しき女神は地獄の門を開く。あらゆる世界に終末が訪れる時、白い人形ノルンは・・・①。』【改訂版:Ⅱ】
白い霧は私に……女神のレプリカ、“リプリケート”に見せる。テラの大樹が、青い瞳のノルンを攫った、“過去の時”を。
軍国の伯爵令嬢フィナもとばされた。
惑星テラに……惑星テラは大樹の世界、森林魔術―“テラの大樹”。若葉色に光る透明な根。透明な幹に、透明な葉っぱ。神秘的で、とても大きな木だった。
大樹の根は、大陸を包み込み、惑星テラを覆っていた。テラの大樹の声が聞こえてくる。
『見つけた……やっと、見つけた。
白い狼さん……青い瞳の……お人形さん。
テラが……危ない、この星を助けて。』
人や魔物とは違う、機械の声でもない……優しい声だった。テラの大樹の中に、懐かしいものがある。時の女神ノルフェスティの落とし物―“天の鍵”。
天の鍵は、天国の最も奥にある秘匿の間……天の創造主によって、封印されている“開かずの門”の鍵だ。
天の鍵は、天国と地獄を含めても、数えきれない程の世界にたった二つしかない。一つは、天国と地獄を創った天の創造主が保有している。
もう一つは、古き女神が天国から堕ちた時……天の鍵も、ばらばらに砕けて落ちてしまった。
天の鍵の一部(天のピース)は小さな木に宿り、小さな木はテラの大樹に成長した。
青い瞳のノルンの夢の中で、白い狼セントラルは眠っている。
オーファン・システム―セントラル。騎士神オーファンは、依り代の星と共に、霧の世界フォールで眠りについている。
オーファンの星間循環システムが完全に停止している為、騎士神や依り代の星に呼びかけても意味がない。
テラの大樹―若葉色の光が、白い霧の中を流れていく。淡く光る透明な細い根は、白い狼セントラルの周りをぐるぐる回り……狼の白い毛にくっ付いた。
テラの大樹は、停止しているオーファン・システムを動かそうとしているけど……うまくいかない。白き狼セントラルは起きなかった。
そこで、テラの大樹は無茶なことをした。惑星テラが危機を迎えている。どんな方法を用いても、この星を守らなくてはいけない。そう思っている様だ。
天のピース(鍵の一部)を、白き狼に宿した。
天のピースは、時の女神が天国から持ち出した、“十二の星の核”と同じ……青い水晶でできている。
『白い狼さん……助けて下さい。
白い霧が……テラを壊してしまいます。
白き狼さん、助けて下さい。』
“天のピース”は、オーファン・システムを再構築し始めた。惑星テラを依り代にして……森林魔術―テラの大樹を利用する、“新しいシステム”を創る為に。
暫くすると……白い狼セントラルが微かに動いた。透明な細い根が、白い毛にくっ付いている。白き狼は、ゆっくり体を起こして……。
【貴方は本当に……不幸ですね。
次から次へと……。】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー――――――――――――ーーーーーーーーー――――――
惑星テラとフィリスは互いに近づいている。
“惑星テラ”に……まだ、“魔物の大陸”は現れていない。小鳥の鳴き声が聞こえる、テラの森の中で。
「ノルン様!
聞こえたら、返事をして下さい!」
栗色の髪と精霊の糸……フィナです。皆さん、忘れてないですか? 軍国の伯爵令嬢です。元悪魔のメイドの……。
軍国フォーロンドの首都バレル、屋敷の応接間にいたのに……気がついたら、知らない森の中。鳥や虫の鳴き声が聞こえる。蝶々が飛び、青い花や金色の花が咲き誇っていた。
視線を感じる。少し離れた所……フィナの後ろ、草や木の影の中に、二つの眼が見えた。フィナは奥の手を使って、周囲に精霊魔術の糸を展開……前と比べて、胸の痛みが酷くない。「奥の手……この痛みにも、慣れてきたのかな。」
精霊の糸が、鳥や虫の鳴き声や犬の足音を聞き……触れたものの感触も教えてくれる。ゴツゴツとしていて固い木の皮。暖かくて柔らかい犬の毛。
色々な情報を伝えてくれる。どうやら……野良犬は6匹いた。
フィナが止まると、野良犬も動かない。
伯爵令嬢が歩くと……フィナの速度に合わせて歩く。一定の距離を保って、追いかけてくる。「もう、何でついてくるのよ!? 私は美味しくないから、追いかけてこないでよ!?」
野良犬に意識を向けて、歩いていたら……波の音、海の音が聞こえてきた。森が終わり、森の出口に光が射し込んでいて、森の中より明るかった。
雑草に覆われた、平らな高台に出た。
塀の様なものに囲まれていて、中央に2つの石の台と銅像がある。銅像の少女が佇み……左手を差し伸べている。左手の先には誰もいない。もう一つの石の台があるだけ。
もう一人の銅像の少女は、どこかに行ってしまった様だ。銅像が設置されてから、かなり時間が経っているので錆びてしまっている。
雨風の侵食によって、幾つもの線が入り……銅像の少女は泣いている様に見える。石の台には、何か文字が刻まれていたけど、台はボロボロで文字は読めなかった。
平らな高台から海が見えた。鉄の遺跡も……フィナは呟いた。
「!?……鉄の遺跡。フィリスに、
こんな遺跡あったかな?」
塔の様な鉄の遺跡。鉄の遺跡が幾つもある……でも、殆ど壊れていた。鉄は錆び、石は崩れて……遺跡の中に光が射し込んでいる。
ツル系の植物が遺跡に絡みついていて、見渡す限り森と海……雄大な自然が広がっている。伯爵令嬢は少し混乱した。
「えっと……あの時、
ノルン様が、異界の門を行使されて……。
それで、私が精霊の糸を、
ノルン様とルーン様に結んで……。」
ふと、フィナが見上げると……空に青い星があった。
宙に浮かぶ青い星は、前より大きくなっている。海と大地がはっきり見える程に……。「あれが惑星テラ? あれが……惑星フィリスっていうことは……ないよね?」
フィナは誰かに話しかけた。伯爵令嬢以外、誰もいないのに。不安に駆られて……誰でもいい、応えて欲しかった。
「誰か、違うと言って……。
誰でもいいから、お願い。」
フィナのお願いに応えるのは……ワン! ワン! 伯爵令嬢の後をついてきていた、野良犬が鳴き始めた。高台に……10……12匹もいる。
茶色や黒色の犬。灰色がかった白い犬が、フィナをじっと見ている。襲ってくる気配はない。「数が多い……油断させて、襲うつもり?」
ワン! ワン! また、野良犬が鳴いた。でも、襲ってこない。フィナの横を通り過ぎていく。犬たちは怒っていない……たぶん。崩れた塀を乗り越えて、平らな高台から降り始めた。海の近くにある鉄の遺跡に向かうみたい。
「?……とりあえず、良かった。
あの数に襲われたら―」
ワン! ワン! 汚れて灰色がかった白い犬が、塀の上で止まって、フィナを見ながら鳴いた。じっと、伯爵令嬢を見つめている。「……ついてこいってこと? 何で、私がついていかないと―」
ワン、ワン、ワン! ワン、ワン、ワン!
フィナの注意をひきたい様で、間を開けずに続けて鳴いた。2匹の野良犬が、平らな高台に戻ってきた。白い犬は塀の上で座っている。
戻ってきた犬たちは、フィナに近づいて……触れることができる距離。「うっ、臭い……襲ってこない、変な犬ね。」
犬たちは牙をむかず、唸り声もあげない。
フィナが高台から降りてこないことに気づいて……3匹の野良犬も戻ってきた。今は、白い犬を含めて6匹。
伯爵令嬢が動かずにいると、野良犬が体をくっつけてきた。
「!? ちょっと、やめなさい!
服が汚れるから、やめて!」
ワンワン、クゥーン……。
犬たちは諦めた様で、鳴かなくなった。ただ、フィナから離れようともしない。伯爵令嬢の精霊の糸が、何かを見つけた。
犬の毛に……小さな不思議な植物がついている。
透明なツル系の植物。小さくて透明な為、よく見ないと発見するのも難しい。透明なツルはとても長く……ふわふわと空中を漂ったあと、地面に落ちた。
辺りは雑草に覆われているので、どこから生えているのか分からなかった。
「透明な植物……“森林魔術”?」
フィナは屈んで、犬にくっ付いていた透明なツルを手に取った。少し力をいれただけで、パキッと砕けてしまう。
その時だった……霧の様に現れる。5m~6mくらいの狼。人狼ではなく、美しい白い狼。フィナお嬢様は気づいていない。
巨大な狼は、フィナお嬢様をじっと見つめたあと……白い霧となって消えた。その白い霧の中に誰かいる。
白い人形……透き通る、海の様な青い瞳を持つ少女だった。
『フィナさん、私を守ってくれますか?』
女神のレプリカに白い霧が教える。青い瞳のノルン……これは“招魂魔術”。堕落神―“不死なる名も無き神”のお遊びだと……フィナは驚いた。「えっ!? 今の声……ノルン様!?」
「ノルン様!?
ノルン様、どこにおられるんですか!?」
フィナはすぐに振り返った。でも、誰もいない。急いで辺りを見渡しても……。雑草に覆われた、高台には野良犬と小鳥がいるだけ。
石の台には、泣いている少女の銅像があるだけ。愛する青い瞳の少女は、高台にはいなかった。
ワン、ワン、ワン! ワン、ワン、ワン!
崩れた塀の上にいた、白い犬が続けて鳴いた。フィナの傍にいた、犬たちが走り出して、塀を越えていく。
白い犬は、伯爵令嬢をじっと見つめたあと、塀を降りた。白い犬の姿は見えない。「誰かが犬を操っている。ノルン様?……フィナさん、私を守ってくれますか……間違いなく、ノルン様の声だった。」
フィナは意を決した。
崩れた塀を乗り越えて、白い犬のあとを追っていく。
フィナは、雑草に覆われた遺跡の通りを歩く。錆びた鉄の遺跡。鉄の塔が幾つも建っていた。この遺跡を造った者は、この場所にはいない。
皆、亡くなっている……ここには、滅んだ文明があった。
植物に覆われた、遺跡には誰も住んでいない。フィナは思った。「ここは、惑星フィリスではない……最悪、本当に最悪。ノルン様を見つけられなかったら……私は、バレルの屋敷には帰れないし……助からない。」
「ノルン様、必ずお守りします。
どこにおられるのですか、ノルン様?」
鉄の奇妙な物を見つけた。錆びた鉄の箱? 鉄の箱には扉らしきものもある。外から、箱の中を見たけど……中は錆びてボロボロ。鉄の棒みたいなものが、前と後ろについていた。
扉があるので、開けて中に入るのは分かる。ただ、鉄の箱の中は狭い。もし、三~四人が、この鉄の箱の中で横になったら……窮屈だと、フィナは思った。
女神のレプリカは、伯爵令嬢を見ている。フィナは分からなかったけど、錆びた鉄の箱……これは車。テラの人が造った乗り物……その成れの果て。
一~二人用の就寝ボックス?……何に使うか分からない。この鉄の箱が、鉄の遺跡の通りに幾つも置いてあった。「?……こんな物を通りに置いたら邪魔。高い鉄の塔を建てることができるのに……何で、邪魔になる物を造るの? あれ? 犬以外の動物もいる。」
狐と狸が、遺跡の通りを歩いていた。
猫やウサギに、アライグマもいた。不思議なことに猫とネズミ……狐とウサギが仲良く歩いている。動物たちが争っていない……鉄の遺跡の通りは、多種多様な動物たちで溢れかえっていた。
「ここが、動物の王国だと言われたら、
信じてしまいそう。
でも、人や魔物はいない……。」
ピカッ!……突然、閃光が走った。
眩しくて、左手で覆い目をつぶる。遺跡の上空で光ったみたい。眼を凝らしてみると、何か透明なものがある。
それは、鉄の遺跡を覆う程、巨大なものだった。フィナはまた驚いた。
「!?……うそ、まさか……透明な植物?
大き過ぎるでしょう!?」
白い霧は、女神のレプリカに見せる。
森林魔術―テラの大樹。“天のピース”によって成長した大樹は、惑星テラを覆っている。テラの大樹が生存する為には……森林魔術である為、魂や魔力の循環が必要。
未来で、テラの大樹は、霧のシステムとは別の……“星間循環システム”になる。今はまだ、システムと呼べるものではない。
惑星テラの貴重な魂や魔力。
昔……惑星テラの大樹は、巨大な透明な根で覆い、テラに存在する魂や魔力が失われない様にした。テラの大樹は失われない様にしたつもりだった。
地獄の近くに封印されている白い霧は……大樹の根を掻い潜り、テラに住んでいた人々を攫った。悪魔の女神が、人々を悪魔へと変貌させた。人々の魂と魔力は、白い霧に喰われてしまった。
惑星テラの数少ない“生き残り”は、テラを離れて……大気のない、衛星に逃げてしまった。
白い霧は……今度は、惑星自体を破壊しようとしている。
動物たちにくっ付いている小さな植物。フィナは傍から離れない犬たち……犬の毛についている、小さな植物の声を聞いた。
『白い霧……悪魔の霧……許さない。
消えろ……霧は消えろ!』
惑星テラの怒り。テラの大樹の怒りを……元悪魔のメイド、フィナは少し戸惑った。「私は、どうしたらいい? 私は―」
『フィナさん、私を守ってくれますか?』
また、ノルン様の声が聞こえた。フィナの魂が、誰かに呼ばれている。「これは……招魂魔術? ノルン様が、私を呼んでいる?」
青のお嬢様の声を聞いて、フィナは迷うことをやめた。「ノルン様を見つける。ノルン様をお守りするだけ! それなら―」
女神のレプリカは思った。フィナは気づいていない。ノルンの魂は、自分の夢の中にいる。これも……堕落神、名も無き神のお遊び。名も無き神は楽しんでいた。
堕落神の招魂魔術の影響を受けて、フィナは伯爵令嬢……人をやめようとしている。悪魔に戻っても、青い瞳のノルンを守りたいから。
フィナは、透明な植物の根―テラの大樹に精霊の糸を絡ませた。
「ノルン様、聞こえますか!?
返事をして下さい!」
『?……貴方は、誰?
貴方は……誰?』
「貴方こそ、誰ですか?
私は、ノルン様を捜しているんです。
邪魔をしないで下さい!」
『ノルン?……青い瞳のお人形さん?』
「!? 知っているんですか!?
ノルン様は、どこにおられるんですか!?」
『だめ……教えない。
青い瞳のお人形さんは、
女神の……落とし物。
だめ……渡さない。』
元悪魔のメイド、フィナは混乱した。「渡さない? 渡さないって言った?……ちょっと待って……渡さない? ノルン様を……捕まえている? 落ち着け……私。情報が少ないから分からない。」
フィナは目を閉じて、何度か深呼吸した。深呼吸をしたけど、効果はなかった。伯爵令嬢は……次の言葉で、我を失った。
『お人形さんは……白い霧に嫌われている。
お人形さんも……白い霧を嫌っている
でも、私がお人形さんを使えば、
魔術を……行使できる。
女神の……異界の門で、この星を……救える。』
「!?……ねえ、貴方の名前は?」
『私? 私は……テラの大樹。』
「そう、テラの大樹ね。
じゃあ、もう1つ教えて欲しいんだけど……。
貴方が、異界の門を行使したの?」
『うん……私が、お人形さんを呼んだ。
惑星テラには、お人形さんが……必要。』
「うん、そっか。
分かった、ありがとう。」
フィナは精霊の糸を消した。
そして、もう一度……奥の手を使う。自分の魂に触れて、精霊魔術を行使した。今度は、新たに糸を創らず、自分自身にかけている、精霊魔術の糸を解放した。
精霊魔術の解放……体がぼんやりして、精霊の様に淡く光っている。無数の精霊の糸が、フィナから生まれていき……沢山の動物たちにくっ付いている、透明な植物に絡みついた。
精霊の糸に魔力を吸収され、透明な植物は枯れていった。テラの大樹が、フィナの正体に気づいて叫んだ。
『!? 悪魔……霧の悪魔……。
白い霧は……許さない!
霧の悪魔も……消えろ!』
「お人形さんを、使うって言ったよね。
悪いけど、ノルン様を返してもらう。」
『人形は……惑星テラに必要。
絶対に……渡さない!』
鉄の遺跡の上空。巨大な透明の根が、ゆっくり動き始めた。上空から落ちてくる。鉄の遺跡の通りで……空中に漂う精霊。フィナは眼を瞑って、無数の糸に集中した。
愛する白い人形、ノルン様を見つける為に。
「テラの大樹……。
お前は、ノルン様を利用した。
お前を絶対に許さない。」
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