第25話『新しき女神は地獄の門を開く。あらゆる世界に終末が訪れる時、白い人形ルーンは・・・①。』【改訂版:Ⅱ】

 

 私は、女神の複製品。“ルーン・リプリケート”。


 私の中に……二つの魂がある。傲慢の魔女ウルズと……白い瞳のルーン。ややこしいけど、私はレプリカであって、白い瞳のルーンではない。



 私は、“再生の聖痕”ではないから。



 白い瞳のルーンは、再生の聖痕で……私は、白い瞳のルーンの魂を入れる為の器だ。女神の影アシエルでも、再生の聖痕を増やすことはできず、直接改善することもできなかった。


 だから、私を創った。女神の影が操り易い、霧の人形を……。



 私は、名前は同じでも……所詮、白い瞳のルーンの“レプリカ”。私の役目はすぐに終わると思う。恐らく1週間もない。下手をしたら、2~3日だけかも。


 でも……それでもいい。今、私はここにいて、役目を与えられている。なら、その役目を果たそう。それが、私の為すべきこと。


 

 白い霧は、女神のレプリカに、ある未来を見せた。


 地獄の門が開かれた。地獄の悪魔は、霧の中で蠢き……獲物を狙っている。人や魔物の魂を……新しい女神に献上する為に。


 白い霧は、地獄から立ち昇り……霧の世界フォールを拡大させている。本来なら交わることのない、数百……数千……数万の世界が、白い霧にのみ込まれていく。



 終末を告げる白い霧。人や魔物は霧の悪魔と戦い、天上の神々に祈った。でも、天国の助けはない。天国に神様はいないから……。



 赤いリボンと金色の髪―ミトラは、聖フィリスの教会……人溜まりの中心にいた。聖神フィリスと聖母フレイの像が、人々を見守っている。


 今、地獄の門が開き、霧の悪魔が絶望をまき散らしている。聖フィリス教国の騎士団や神官。皆が、新しい枢機卿を頼っていた。


 聖母フレイの代弁者であり、聖神フィリスを復活させた、聖女として……。



「ミトラ、話がある……白い人形のことだ。」



 教会の聖母フレイの像から、青い炎。聖母の魂が現れた。青い炎は……ミトラ枢機卿と同じ姿、人の娘の姿になっていく。


 聖母フレイの姿を見た者。騎士団や神官は頭を下げ、身を低くしている。ミトラ枢機卿だけ、ぺこっと頭を下げた後……ひれ伏すことなく、聖母に向かい合った。



 新しい枢機卿は、自分と同じ姿をした聖母に話しかける。



「聖母様、良い知らせですか?」



「……悪い知らせだ。

 幼い女神は、“天国の鍵”を探している。



 全ての鍵を集め、あの女神が、

 天国に入れば……古い世界は滅び、

 新しい世界が、幕を開けることになる。



 我らは、新しい世界には招待されない。」



「……………。

 

 ノルン様は? どこにおられるか、

 分からないのですか?」




「“異界の門”が、青い瞳の少女を導いている。

 見つけるのは容易ではない。」




「そうですか……。


 聖母様、私たちは勝てますか? 

 新しい女神……ルーン様に。」




ーーーー―――――――――ーーーーーーーーー―――――ーーーーーーーーーーーーーーーーーー―――――ーーーー



 

 女神のレプリカは、白い霧の中に佇んでいる。


 霧が、私を運んでいく。白い霧が、晴れていくと……ここのミトラは、まだ。彼女は眼を覚ました。


 赤いリボンと金色の髪―ミトラ司教は、上空から落ちた。体中が痛い。体が痛くて、動かせない。明らかに前の時より良くない。体に触れて、その感触から……砂に包まれていることが分かった。


 体のどこかが、裂けている様で……赤い血が、砂の中にしみ込んでいく。ミトラ司教は思った。「聖母様……助けて頂いて、申し訳ないのですが……もう少し、痛くない方法で―」



「四の五の言うな。

 雲の高さから、落ちたのだぞ?

 

 命があるだけ、ましではないか。

 

 

 我は、“転移魔術”が苦手だ。

 間違って……地中にとばす可能性もある。



 “岩石魔術”は、意識しなくても操れる。

 ……我が、間違っているか?」



「いえ、そんなことは……。

 ありません……聖……母様……。」



 ミトラ司教は、激しい痛みに襲われ、意識を失った。聖母の柔らかい砂が、傷ついている司教を……優しく、包み込んでいる。「あれは……ノアの……箱舟?」


 彼女が、意識を失う直前……都の上空に浮かぶ、大きな船に気づいた。その飛空船は、全長100mを超える飛空船カーディナルよりも大きかった。



 白い霧は、女神のレプリカに見せる。


 首都バレルの地下―聖母の墓……地下12階。ひんやりとした冷たい石の壁。墓の精霊の淡い光が、周囲を照らしている。気分が落ち込む、悲しくなる場所。



 そこに……軍国の冒険者と荒野のオークがいた。



 最初に体を起こしたのは、軍国の冒険者―レイピアの使い手だった。ミランダは、自分の体……漆黒の槍が刺さった個所を見た。


 血が固まっている。魔女ウルズの槍が、突き刺さっていたのは……間違いない。今は、痛みはなかった。『……ここ、墓だよね? 誰かが、ここまで運んでくれた? 何で、オークも一緒に……。』



 ミランダは焦った。『!? ミトラさんがいない!? ミトラさん……どこ!?』周囲を確認した。巨石によって、造られた通路。両端は闇に包まれていて、先に何があるのか分からない。


 通路の幅は2m程しかなく、自分を含めて冒険者は5人。オークの兵士が6人も倒れているので、ミランダから見て左側の通路の先に行くには……荒野のオークが邪魔。



 皆を起こそうとしたけど、起きてくれなかったので、皆を引きずった。気絶している、オークの兵士からできるだけ離したかったから。


 荒野のオークから……何とか、3mだけ離れた。普段、大剣を使ってるやつ、ロベルトが物凄く重たかったので、これ以上無理。



 右側の通路の先も、真っ暗で……ミランダは、一人で先に行くのは、怖くてやめた。魔術師のミルヴァは、ミランダの横で眠っている。


 ミトラさんのことが心配だけど……ひとりでは、どうすることもできない。皆が起きるまで、待つことにした。




 女神のレプリカは安堵した。


 皆は傷ついているけど……死んではいない。命があれば……魂があれば、まだ何とかなる。


 首都バレルの地下水道、昇降機があった場所―聖母の墓の入り口。あの場所で、皆は……傲慢の魔女ウルズに襲われて、意識を失った。


 聖母フレイの助けがなければ……墓の入り口で、生涯を終えていたと思う。



 冒険者のミランダの次に起きたのは……彼らの中で、一番体格のいい者。茶色の髪で、褐色のオークが眼を覚ました。彼の周りには、金色の斧の破片が散らばっている。


 魔女ウルズの漆黒の槍。傲慢の烙印に壊されてしまった。燃え滾る赤い眼を持つ、若き魔王。大切な斧の破片を見て……急に動揺し始めた。



「……やばい、やばい! どうする、俺? 

 

 よく考えろ。

 この窮地を、何としても乗り切るんだ! 



 斧が……魔女の斧が……。

 壊れた……そう、壊れたんだ。



 ……………。

 終わった……もう、終わりだ。

 


 アメリアに殺される!!」


 


 若き魔王クルドの絶叫が、墓の中にこだました。



 

 ここは、聖フィリス大陸。


 軍国フォーロンドがあった、ロンバルト大陸ではない。女神のレプリカが、天の門の転移魔術で、


 黄色の太陽が、聖神フィリスの聖域に昇る。“テラ・インパクト”―青い星フィリスと青い星テラが、衝突するまで……残り2日。



 聖神の聖域は、聖フィリス教国の中央にあり、広大な草原地帯である。聖フィリス教会が管理しており、教会の許可がなければ入ることもできない。


 聖フィリスの騎士団が、聖域の周辺を警護している為……騎士に気づかれずに、侵入することはとても難しい。


 

 難しいけど、軍国の冒険者と荒野のオークは、とても奇妙な方法で……騎士に気づかれずに、聖神の聖域に侵入した。


 

 聖域の地下にある、“災いの地”の近くに。



 そう、軍国フォーロンドの首都バレルは……聖神の聖域に存在している。広大な草原地帯に、首都バレルが現れた。バレルで暮らしていた人々も一緒に。



 バレルの円形の城壁は、外側に少し傾いているけど……倒れることはない。盛り上がった土砂が、城壁を外側から支えている。


 この場所に、首都バレルがまるごと、無理やり入り込んだ。聖域の土砂が、バレルの城壁の外に押し出されている。



 首都バレルの人々は動揺している。自分たちの都に起こったことが、理解できないのに……さらに追い打ち。首都の上空に、聖フィリス教国の飛空船が、3隻も浮かんでいた。



 その中で、一番大きい船は……全長300mを超えている。


 法王の飛空船―“ノアの箱舟”。首都バレルの人々にとって、飛空船は、恐怖の象徴。幼い子供を抱きしめる親がいれば……武器を手に取って、戦う意思がある者を探す青年もいる。



 バレルの人々は、悪魔の女神の呪いにかかってしまった。


 不幸になる呪い。女神の極界魔術―再生の聖痕で幸福になることはできない。死を回避できるけど、その代わり不幸になる。


 

 聖痕は傷ついて、苦しい時……死さえも奪ってくれる。だけど……楽しく、幸せな時も、一緒に奪ってしまうから。

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