第24話『青い星フィリスが守るのは、主神の聖なる神か? それとも、女神の分体か?⑥』【改訂版:Ⅱ】
女神の影アシエルは思った。『ウルズ、遊んでいるからよ。妹のエレナの様に、努力していれば……“時の魔術”を行使できて、負けなかったのに……。』
仕方ない、ウルズを捨てよう。
魔女と聖母は、互いに……魔力を消耗した。今が一番いい。傲慢の魔女より、有能で……時の魔術を行使できる者が傍にいる。
白い霧は、白い人形ルーンに声をかけた。
夢の中で眠るルーンを起こす為に。
『……脅威を感知。
ほら、起きなさい。』
白い霧の声。女性の声だけど……人や魔物、悪魔の声ではない。夢の中にいると、いつも聞こえてくる。その声に促されて、白い瞳のルーンは眼を覚ました。
魂を惑わす紫色の瞳が見えた。苛立ちを隠せない、魔女ウルズ。傲慢の烙印が、ルーンの手足にくっ付いた。また……霧の声が、聞こえてきた。
『脅威を感知……。』
軍国フォーロンドの首都バレル。上空で回転する銀の輪。天の門は、空間―空と大地を支配する。首都バレルの円形の城壁、それよりも大きい輪の中で……“精霊と魔女”が向かい合っていた。
青い杖を持ち……天の門を操る、精霊―聖母のミトラ。
漆黒の翼を持ち……女神の分体ルーンを抱える、魔女―傲慢の魔女ウルズ。聖母のミトラは、傲慢の魔女に終わりを告げた。
「私が、女神に代わって、
地獄に落としてあげる。」
聖母のミトラは、天の門の転移魔術を行使。傲慢の魔女の手足が、ばらばらと崩れ始める。傲慢の魔女は、漆黒の翼を羽ばたかせ……黒い文字が、魔女を包み込んでいく。天の門の転移魔術に介入……しかし、転移魔術は止まらない。
《!? そんな、何で!?》
白い霧の元徳と大罪の優位性。ミトラ司教は、まだ……白い霧の“愛”を手にしていない。傲慢の魔女ウルズが優先されて……天の門を、聖母のミトラから取り返すことができたはず。
女神の影アシエルが、ウルズを捨てなかったら。
霧のシステム。女神が創った白い霧は、ずっと……白い人形の傍にいた。最初から、青い瞳のノルンが、白い霧を吸い込んだ時から。“脅威を感知”して、白い人形に伝えてきた。
白い瞳のルーン、悪魔の女神の分体。白い霧はルーンのことを……ずっと待っていた様だ。女神の影は、霧の思いを代弁する。『今まで、ずっと……白い人形の中に隠れていた。やっと夢の世界から出てきてくれた。青い瞳のノルンから離れて……。』
『さあ、迎えよう。
白い人形ルーンを、新しき女神に!』
《何で、操れない!?
傲慢の烙印よ、天の門を支配せよ!》
女神の影は、傲慢の魔女を裏切った。正確には……いらなくなったので捨てた。女神の影は、傲慢の魔女を乗っ取って、ウルズの限界を知った。
傲慢の魔女は、白い霧の“憤怒”を手にしていない、赤き魔女アメリアに勝てず……飛空船カーディナルは墜落した。
傲慢の烙印で、天の門の転移魔術を上回ることはできなかった。傲慢の魔女は完璧ではない。悪魔の女神、ノルフェスティ様に遠く及ばない。
だから、捨てた。女神の影の助けが無ければ……魔女ウルズは、天の門を止めることはできない。惑星フィリスの外へとばされてしまうだろう。
天の門を行使している者。聖母のミトラが、それを望んでいる。傲慢の魔女を、惑星フィリスの外へ。遥か遠く、霧の世界フォールよりも下へ……地獄まで落とすつもりだ。
飛空船カーディナルが、首都バレルを砲撃した時のこと。赤き魔女アメリアは、天の門の転移魔術に介入して……極界魔術を、さらに重ねることに成功した。
魔女ウルズも、転移魔術に、極界魔術―傲慢の烙印を上乗せして、天の門の転移魔術の行き先を変えることはできるだろう。
ただ、魔女ウルズの力だけでは……聖母のミトラの望み通り、遠い場所に強制的にとばされてしまう。
力が足りず、天の門を止めることはできないから……女神の影は思った。『ウルズ、怠けているから……自業自得よ。』
《傲慢の烙印よ、なぜ支配しない!?》
魔女の漆黒の翼が、ばらばらと崩れて……黒い瘴気に変わっていく。霧に見捨てられた、“霧の人形”は、もはやどうすることもできなかった。
《黒い霧……白い霧よ、
私を……捨てるの?》
その時……白い手が、魔女ウルズの右頬に触れた。白い手、白い瞳。魔女ウルズに抱えられていた幼い霧の人形。
女神の分体、白い瞳のルーン。
女神の影は思った。『白い人形を動かすには、星の核が必要。ウルズの星の核を使えばいい。それに、今のままだと……女神の分体として、不十分。それなら……創ればいい。もっと、悪魔の女神に近い、操り人形を……。』
女神の影アシエルは、傲慢の魔女の様に、白い瞳のルーンを乗っ取った。白い瞳のルーンは、魔女ウルズに声をかける。
『私が、助けてあげようか?
ウルズ、大丈夫……。
私が守ってあげる。』
白い霧が、傲慢の魔女を包み込んだ。魔女ウルズの体は、ばらばらと崩れて……星の核が、白い霧の中に浮かんでいる。
《……早く助けてよ。》
白い霧に喰われて、傲慢の魔女は……姿を消した。白い霧の中に、白い瞳の少女が浮かんでいる。傲慢の魔女の星の核。その鼓動が、白い瞳の少女から聞こえていた。
《遅いよ、お母さん……。》
天の門の転移魔術は発動した。傲慢の魔女ウルズの姿はない。白い霧の中に……別の霧の人形がいる。
“女神の複製品”は手を掲げた。極界魔術ではなく、もう一つの最強の魔術。極星魔術を行使しながら……。
女神の影アシエルは創った。
女神の複製品、ルーン・リプリケートを……。
幼い霧の人形の時と比べると、少し背が伸びた。大人ではないけど……15~16歳くらいに見える。大人の女性になろうとしていて……立派な、霧の人形だ。
『天の門よ、惑星フィリスよ。
女神の分体―創造主の声を聞け。
我らを、聖神の聖域へ導け。
聖神フィリスよ、聖母フレイよ。
天の門を発動する。
地上に戻りたければ、手を伸ばせ。
私の助けを望まないのなら、仕方がない。
時期に……終末がくる。
それまで、ここで待っていろ。』
女神の複製品ルーンが呟くと……天の門の転移魔術が発動した。聖母のミトラから、いとも簡単に天の門を奪い取った。
回転する銀の輪―天の門が、白い霧に包まれている。首都バレルの上空は、白い霧で何も見えない。
「ルーン様、駄目です!
止めてください!」
聖母のミトラは、目を瞑ったまま……愛する人形ルーンに声をかけた。霧の中から返事はない。白い霧の中に、小さな黒い文字がある。その文字が、聖母のミトラに触れた。
女神の極界魔術―“再生の聖痕”。
時が戻っていくかの様に、人の体を形作っていく。青い炎が、人の手足に戻っていった。聖母のミトラから……精霊から人の娘に戻った。
首都バレルの上空で……。
「……ルーン様。」
「娘よ、ほうけるな!
人間に戻れば、落ちるぞ!」
「!? 聖母様、またですか!?」
上空の白い霧の中から……人間の女性が落ちてきた。赤いリボンと金色の髪―ミトラ司教はまた落ちた。司教は、転移魔術を行使できない。
上空の白い霧は、ミトラ司教を追いかけて……首都バレルを包み込んでいく。バレルは霧に覆われた。白い霧しか見えない。
白い霧が晴れると……首都バレルは存在しなかった。バレルの地下にあった、聖母の墓の一部も存在しない。
そこにあるのは、バレルの大穴だけ。バレルの円形の城壁よりも大きい……穴の底は見えなかった。
バレルの城壁の外にいた、軍国の騎馬兵は……呆然と見つめている。首都バレル。大勢の人が暮らす都が……目の前から消えてしまった。
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