第2章 異界の霧の人形―新しき女神の座は・・・誰の手に?【改訂版:Ⅱ】

第16話『異界の二つの青い星フィリスとテラ。 二人の少女ノルンとルーンは異界で何を思い、何の為に生きる?』【改訂版:Ⅱ】

 

 私は、女神の影アシエル。眼や口のない霧の女性。悪魔の女神、ノルフェスティ様は、霧の世界フォールで眠っておられる。


 悪魔の女神が目覚めた時、あらゆる世界に終末が訪れる。『ああ、ノルフェスティ様、どうしてですか? どうして、あの娘を? 私は……あの娘を認めません。あの娘は、ノルフェスティ様の娘ではない。』



 白い霧が私に見せる。あの娘―青い瞳のノルンを……私は、ノルンを観察する。


 


 ここは異界。空を見上げれば、青い星が見える。宙に浮かぶ青い星が徐々に大きくなっている。青い瞳のノルンはそんな気がした。



 ノルンがいる青い星フィリスは、悪魔の女神の極界魔術によって、“異界”へと辿りついた。異界は、霧の世界フォールの真上に存在し……あらゆる時が、交差する場所。数えきれない程の世界が存在する。



 因みに、霧の世界フォールの真下は、地獄。異界の上には、精霊の世界。精霊の世界のさらに上に……天国があった。


 白い霧に覆われ、崩壊していく世界―霧の世界フォールがどこにあるのか。ノルンには分からなかった。




 青い瞳のノルンは、軍国の馬車に乗っている。


 今は黒髪の少女。銀色の髪と白い手足はどうしても目立つ。そこで……栗色の髪の元メイド―フィナが、精霊魔術で髪の毛と肌の色を変えた。



 黒髪のカツラをつけて、小麦色の薄い肌を着ている感じに……黒髪の人間の少女に見える。本当は……フィナは、自分と同じ栗色の髪にしたかったけど、聖フィリスの司教―ミトラ司教に反対されて、しぶしぶ諦めた。



 馬車の窓から眺めていると、軍国フォーロンドの首都バレルが見えてきた。軍国の冒険者たちが、軍国の西方にある街から、ここまで無事に来られたのは……ノルンの夢の中にいる、白い瞳の少女ルーンのお陰。


 白い瞳のルーンは、転移魔術―異界の門を行使して、首都バレルの近くに運んだ。それから……伯爵令嬢のフィナが、軍国の騎馬兵を見つけて交渉して……。


 馬車に乗って、首都バレルに向かっている。



 ノルンは……異界の門を行使しようとしたけど、やっぱりできなかった。オーファン・システムである、白い狼セントラルは、ノルンが声をかけても返事をしない。



『聖ちゃん……ルーンがいないと、

 何もできないね。

 

 ルーン、無事で本当に良かった。』


 


 軍国の首都バレルの城門は、変わり果てた姿だった。


 軍国の伯爵令嬢フィナは、ただ見つめている。愛する第二の故郷を。首都警備隊が、瓦礫を退かして……馬車1台だけなら何とか通れる様になっていた。



 城門の中は、悲惨な光景。燃えた建物もそうだけど……亡くなった者が多すぎて、大通りにも遺体が安置されている。遺体の列は、首都の中心部近くまで続き……聖フィリスの神官たちが、魂が迷わない様に祈りを奉げていた。



 フィナは、遺体の列を見て……言葉がでない。考え込んでしまう。「飛空船は落ちた。傲慢の魔女ウルズが、霧の龍ウロボロスを呼んだ。」



 軍国の騎馬兵の話では、飛空船カーディナルが墜落すると、霧の龍ウロボロスが現れ、多くの建物を破壊したらしい。地中に潜ったまま……姿を見せなくなったので、今どこにいるかは分からないとのことだった。



 傲慢の魔女ウルズと狂信者デュレス・ヨハンは、間違いなく……フィナの敵だ。「傲慢の魔女は? アメリア様……今、どこにおられるのですか?」



 

 狂信者は、聖フィリスの司教が倒した。


 狂信者の信仰は消えていない。白い霧は、女神の影アシエルに教える。彼の魂は、聖神フィリスのもとへ帰ったことを……。


 ずっと続いている遺体の列。青い瞳のノルンは、沈んだ表情で見ていて……フィナに話しかけた。



『栗色のメイドさん、

 ここで、馬車を止めて。』



「? ノルン様、申し訳―」



『お願い……ここで止めて。』



 フィナの隣に座っていた、黒髪の少女。黒髪の少女の瞳が、青い瞳から白い瞳に変わっていく。何もかも凍える冷たい白い瞳が、フィナを惹きつけた。


 青い瞳のノルンから、白い瞳のルーンに入れ替わっている。



「………………。

 ジョン、馬車を止めて。

 


 ルーン様、私の手を離さないで下さい。


 精霊魔術の糸が、

 切れてしまう可能性があります。」



「フィナお嬢様、

 別に手は握らなくても……。」



 ルーンの前に座っている、金色の髪と赤いリボン―ミトラ司教が、不満を声にだした。馬車に乗る時、ノルンの横に座ろうとして、フィナに止められていた。


 フィナは思った。「ミトラさん、私の邪魔をするつもり? どれ程、青のお嬢様にお会いしたかったか……二度と、お嬢様の傍から離れないから!」



「ミトラさん、念の為です。」



「逆に目立ってしまうと思います。」




「手を握るだけです。

 

 誰かさんみたいに、

 抱きついたり致しませんので。」



「フィナお嬢様の年齢だと……。

 

 確かに……。

 可笑しく見えるかもしれませんね。


 でも、私なら親子に―」



「可笑しく見えません。


 精霊魔術を行使すれば……。

 姉妹がスキンシップをとっている様に―」



「あれ、フィナお嬢様? 

 

 ノルン様とルーン様に、

 抱きついたりされるんですか?」




「……だいたい、貴方が誰彼構わずに、

 すぐに抱きついたりするのが問題です。」




「失礼ですよ? 私は……。


 ノルン様やルーン様の様に、

 愛している方しか―」



「私に、抱きついたことをお忘れなく。

 

 ……私のことも、

 愛していることになりますけど?」




「ええ、フィナお嬢様のことも好きです。

 ですが、一番はノルン様とルーン様―」




「私だって!

 ノルン様とルーン様を愛して―」




『もう、二人ともやめて!

 ……二人は降りてこないで。』




「ルーン様!?」


「ミトラさん、貴方のせいです!」



 白い瞳の少女、ルーンが馬車から降りると……フィナとミトラ司教の横で、静観していたミランダとミルヴァも降りた。


 大人しいミルヴァは思った。『これ……何回やれば、気が済むんだろう? 大きな声を出したら、疲れるのに……。』


 因みに、男性陣は、馬車の前部に座り……伯爵の執事ジョンが馬を操っている。



 執事ジョンが馬車を止めた。


 ルーンが降りて、続いて、馬車の反対側からミランダとミルヴァ。伯爵の執事の隣にいたロベルトも降り……辺りを警戒している。


 ミトラ司教とフィナが、馬車の中で言い合っている。その声が聞こえてきた。執事ジョンの隣に座っている、彼の冒険仲間クレストが、笑いながら話しかけた。



「ジョン。フィナお嬢様に、

 いい友達ができて良かったな。」



「……………。


 クレスト、フィナお嬢様のことは、

 誰にも言うな。」



「言わねえよ。

 言えば、首が飛ぶだろうが……。


 フィナお嬢様は、

 俺の酒場の大切なお客様だからな。


 安心しろ、俺はお客様の味方だ。」




「いつから酒場になったんだ。


 お前、エルミストに帰って、

 

 新しい店でも……。

 開いた方がいいんじゃないのか?」



「それもいいな。

 よしっ! なら、また勝負しないか? 


 もちろん、船のレースで、

 有り金全部、賭けてだ!」



 ガチャ、ガチャ……惑星オーファンの機械。30㎝程の機械の蜘蛛が、袋の中から出てきた。言い合っている、フィナとミトラ司教ではなく……馬車の窓に近づき、外を見た。


 黒髪の少女が、多くの遺体の前で立ち尽くしていた。

 



 今、白い瞳のルーンが、白い人形の体を操っている。


 白い瞳のルーンは、もう一度、入れ替わって欲しいと頼んだ。白い人形の体を操って、遺体の前まで来た。


 もう一度、入れ替わる必要がある。体を操れても……ノルンの夢の中にいないと、スキルや魔術を行使できないから。



 青い瞳のノルンと白い瞳のルーンは、夢の中で秘密の会話を始めた。



『聖ちゃん……ルーン、どうしたの?』



『ノルン、もう一度……入れ替わって。』



『……何をするの?』



『賢い……私のこと、姉ということだけで、

 信用したら駄目だよ?



 魔術を使って……。

 亡くなった人たちを助けたいの。』



『私も助けたいけど、大丈夫なの?』



『安心して、絶対に大丈夫だから……。』



 黒髪の少女が眼をつぶった。


 暫くして、目を開けると……透き通る、海の様な青い瞳に変わっている。青い瞳の少女ノルンは、きょろきょろと辺りを見渡した。



『ノルン、私、ずっと考えていた。

 どうすればいいか……。

 

 傲慢の魔女と話して、

 やっと、分かったよ。』



『傲慢の魔女……嘘つきだから嫌い。』



『あの子は、悪くない……。

 悪いのは、私だよ。』



『えっ!?……ルーン?』



 白い瞳の少女ルーンは、夢の世界にあるノルンの魂―星の核に触れた。魔術を行使する為に。ノルンの夢の世界には、フィリスとオーファンのシステムがある。


 12種類の上級魔術。その中の1つ、招魂魔術。ルーンは、霧のシステムと繋がっている魂を呼んだ。霧の世界フォールで、眠りについている悪魔の女神を。



 しかし、悪魔の女神は現れなかった。


 狂信者デュレス・ヨハンと対峙した時の様に、女神は宿らない。ここは異界、霧の世界フォールではない。異界に悪魔の女神は存在しない。存在しないものは、呼べないのだ。『……女神が呼べないのなら。女神の代わりに、似ているもの……私を解放して!』



『!? ルーン、やめて!』



 青い瞳の少女ノルンが、突然叫んだ。その声を聞いた、ミトラ司教とフィナ伯爵令嬢は、急いで馬車から降りる。フィナの精霊魔術が消え、黒髪の人間の少女が……銀色の髪、白い手足―悪魔の少女に変わっていく。



「ルーン様!?」、「ノルン様!?」


 ガチャ、ガチャ……機械の蜘蛛も、馬車から降りて、白い人形をじーと見つめている。白い瞳の少女ルーンは、何度失敗しても……何度も、招魂魔術を行使し続けた。


 

 そして、白い瞳の少女の望みが、叶えられる時がくる。


 ズキッ! 心臓がある体の真ん中が痛い。招魂魔術は、システムと繋がりのある魂を呼ぶ。悪魔の女神は、異界に存在しない為、呼べない。


 女神の代わりに、女神に最も似ているもの―女神の分体、ルーンの魂が呼ばれた。




 青い瞳の少女、ノルンに刻まれた神聖文字が解放されていく。


 “再生の聖痕”。黒い文字の魔力が解放。聖痕は、空中に解き放たれ……文字が重なり合っていく。白い手足、銀色の髪。


 惑星オーファンの花畑で……初めてあった時の様に、青い瞳の少女の前に、白い瞳の少女が現れた。


 その姿は霧の人形。すぐに悲鳴があがり、首都バレルの人々は、白い人形から離れていく。死者を弔っていた、聖フィリスの神官たちは蹲っても……祈り続けていた。



『ノルン、ごめんね。

 情けないけど……。

 


 こうでもしないと、

 守りたいものも守れないから。


 ノルン、女神に頼まれたことを覚えてる?』



 ノルンは、胸の痛みでふらついて……駆けつけた、ミトラ司教とフィナお嬢様に支えられている。青い瞳の少女は、もう一人の自分を見ながら……。



『……お母さんから、頼まれたこと?


 6つの災いの地に、

 私と同じ様に苦しんでいる者がいて……。


 彼らを苦しみから解放できれば、

 私も痛みから解放される。』



『……………。


 堕落神を解放すれば、

 星の核の封印も解かれる。


 星の核が、霧のシステムに戻れば、

 システムは改善される。



 霧の世界フォールは崩壊を免れる。



 だけど……堕落神が解放されたら、

 大いなる災いがもたらされる。


 オーファンの鉄槌の様に。

 人や魔物は死ぬけど、霧の世界は救われる。



 霧の人形、娘を守りたい。

 狂って壊れた、女神の最後の悪あがき。』



 女神の影アシエルは驚いた。白い瞳の少女の成長を……ルーンは成長して、霧の人形になっている。女神の分体として、役目を果たせるかもしれない。


 ルーンは、私の気持ちを代弁した。



『悪魔の女神は狂っている。

 

 いったい何が……。

 創造主を狂わせ、壊したのか。



 私には、分からないけど……。

 女神が壊れているのは、間違いない。



 霧のシステムは、

 女神から解放されることを望んだ。


 私も、システムの一部だからよく分かる。

 女神と一緒にいれば、壊れてしまう。

 


 そんなの嫌……。

 だから、新しい女神を望んだ。



 封印されていない、星の核。


 霧の人形の魂を使って、

 霧のシステムを改善する。



 傲慢の魔女ウルズを……。

 新しい女神にしようとしている。』


 

 白い瞳のノルンは話し続ける。今度は……悪魔の女神の気持ちを代弁した。



『女神の最後のあがき。


 娘同士で殺しあう必要なんてない。

 私が解放すればいい。


 

 解放する為に……。

 この星フィリスを、“異界”へ転移させた。



 全て……私が悪い。

 皆、私から解放されないといけない。』



『待って!? ルーン、お願いだから―』



『ノルン、君もね。』



 悪魔の女神の極界魔術―再生の聖痕。


 悪魔の女神が創れない魂以外、全て治せる。大通りに安置されている、多くの遺体に効果を発揮した。


 突然、飛空船カーディナルや、漆黒の龍ウロボロスに襲われて殺された者たち。まだ未練があって……神官の祈りに導かれて、人の神のもとへいった者は少ない。


 死者のもげた腕や焼けた足、時が戻るかの様に治っていく。


 双子の少女、青い瞳のノルンは叫んだ。



『ルーン、やめて! 

 人数が多すぎるよ!』



『ノルンは、大丈夫だよ。


 私が、夢の中にいなければ、

 ノルンは傷つかない。


 この都は……。


 私とシステムの争いに巻き込まれて、

 多くの者が亡くなった。



 でも、私は結局、解放を選んだ。

 それなら……ここで死ぬ必要はない。』



 転移魔術―異界の門。首都バレルの上空に現れて……都にある魔晶石を利用して、見る見る巨大化していく。バレルの円形状の城壁が、輪の中に入る程の大きさ。



 上空で銀の輪が回転している。


 異界の門は、真下を女神の聖域にした。再生の聖痕は、あらゆる物に効果を発揮した。焼けた建物や崩壊した城壁、無数の遺体。全て治していく。あらゆる人や物の時を奪っていった。



 蹲っていた神官は……彼は、飛空船カーディナルの魔導砲が止まった時のこと。絶望の中でも助け続けていた。彼には信じているものがあった。


 だからこそ、最後まで傷ついている者を治療し続けた。


 でも、多くの者が目の前で亡くなった。


 


 聖フィリスの神官は、顔を上げて見た。


 上空に異界の門を呼んだ、美しい少女を……まさしく、天使だった。両手を広げ、全てを癒していく。


 彼が助けることができず……眼の前で亡くなった兵士が、微かに動き始めた。再び息を吹き返した。彼が祈りを奉げた者たちにも、再び魂が宿っていく。「……ああ、女神よ。感謝します。美しい霧の人形よ……貴方は、天使だ。」


 聖フィリスの神官は……堕落神に祈るのをやめた。




 再生の聖痕は、対象の時を奪う。


 奪った時は、発動者に溜まっていく。青い瞳のノルンが、幼い頃、痛みで苦しんでいた様に……。


 白い霧は何でも運ぶ。奪った時でさえ……悪魔の女神は、霧で運んで、霧の奥深くに夢の世界を創った。



 女神自身が、奪った時で苦しむことはない。これは……ノルンとルーンが幼いから。再生の聖痕を制御できていないため。


 女神の影アシエルは思った。『ルーンも未熟……ノルンより可能性がある。でも、このままだと……消えてしまう。残念、有能だったのに……。』



 白い瞳の少女ルーンは、首都バレルが過ごした時を……たった一人で受け止めようとしている。受け止められるはずがない。白い瞳の少女は創造主ではない。


 女神の幼い分体なのだ。広げていた両手が、ばらばらと崩れ始めた。奪った時に耐えられず……ルーンの魂が壊れ始めている。




 白い瞳の少女、ルーンの願い。


 古き女神から解放されること。その望みが叶えられ、ルーンはたった一人で……消えようとしていた。



 パチッ—! ルーンは、ノルンの白い手でほほを叩かれた。青い瞳の少女は泣きながら……逃がさない為に、もう一人の自分に抱きついた。



『うそつき! 諦めない限り……。

 

 少しでも前に進んでいけば、

 いつか何とかなるよって言ったよね!? 



 私が死にたいって言ったら、

 怒ったくせに……自分だけ消えるの!? 



 そんなの許さない! 

 絶対に許さないから!!』



『ノルン、ごめんね。

 

 でも、こうしないと、

 私は……ノルンを喰ってしまう。


 私が望まなくても……。

 だから、こうするしか―』



『私が強くなればいいんでしょう!?


 ルーンに喰われない様に。

 自分で魔術を行使できる様になるよ!


 

 私、強くなるから……。

 お願いだから、一人にしないで。



 お母さん……。』



 青い瞳の少女ノルンの願い。


 痛みが無くなって、女神と一緒に暮らすこと。その望みは、女神の分体であるルーンが消えれば、“異界”で叶えることはできなくなる。悪魔の女神は、異界には存在しないのだから。



 青い瞳の少女ノルンは、無我夢中で、自分の魂―星の核に触れた。


 ルーンの魂が壊れていくのを止めるしかない。



 ノルンの魂―星の核は、やはり……自分自身を拒否した。ノルンの意思では、魔術を発動できない。白い瞳の少女、ルーンの魂はばらばらと崩れていく。



 白い瞳の少女ルーンも、涙を溜めながら、ノルンに声をかけた。



『ノルン、“再生の聖痕”は、

 私の魂が消えるまで……効果を発揮するよ。』



 青い瞳のノルンは、ルーンを助けられない。自分で魔術を行使できないから。幸運なことに、ノルンを助けるものがいた。悪魔の女神以外にも……。 



『再生の聖痕は……。

 私の魂―星の核に刻まれてる。


 どうすればいい? どうすれば―』



【貴方は、次から次へと……。

 厄介ごとに巻き込まれますね。】



『!? セントラル!? 

 機械の蜘蛛!?

 

 今まで、どうして、

 返事をしてくれなかったの!?』



 青い瞳の少女、ノルンの右足に……機械の蜘蛛が前足をくっ付けていた。オーファン・システム―セントラル。その声は間違いなく、白き狼の声だった。



【我らの星、惑星オーファンから、

 遠く離れすぎてしまった。


 短い時間、機械の蜘蛛など。

 

 条件が揃わないと、

 起きることもできません。


 ですが、幸運でした。

 後で、この子に感謝して下さい。】



『後じゃなくても、

 ありがとう、蜘蛛さん。


 セントラル……。

 お願いだから、ルーンを助けて!』



【女神の極界魔術は、時を奪う。


 奪った時を……。

 我らの星に送りましょう。



 我らの星が……。

 代わりに、その時を過ごします。



 残されている時間は、殆どありません



 霧の世界、我らの星オーファンも、

 最後は滅びます。



 助かるかどうかは……。

 ルーン、貴方次第です。】




『……私は、皆を解放しないと―』



【何か、勘違いしていませんか? 


 貴方は、創造主ではない!

 思い上がりも甚だしい! 



 貴方の様な小娘は、目の前のことだけを……。

 見ていればいいのです。



 答えなさい、貴方は……。

 死にたいのですか?】



 白い瞳の少女、ルーンの両手は消え、足もばらばらと崩れ始めた。ノルンが支えないと……ルーンは倒れてしまうだろう。ノルンは必死にしがみついた。



『生きたい……私は……生きたい。

 ノルンと一緒に生きたい!』



【分かりました。

 

 では、決して……。

 こちらに来てはいけません。


 何が何でも、この地に留まりなさい。】



 白い人形から白い霧が現れて、ノルンとルーンを包み込んでいく。白い霧の中から、巨大な狼も現れた。5~6mくらいの白い狼。人狼ではなく美しい狼。


 オーファン・システム―セントラル。白い狼セントラルは、上空の異界の門に呼びかけた。騎士神オーファンに代わって、最強の魔術―極星魔術を行使して……。



【異界の門よ、我らの星オーファンよ!

 我らを崇める者―軍国の民を守り給え!



 騎士神オーファンよ! 大いなる器で、

 女神が奪った時を受け止め給え!】



 異界の門と騎士神オーファンが応えた。


 白き狼セントラルが、役目を終えてばらばらと崩れて……白い霧の中に帰っていく。上空の銀の輪―異界の門も、白い霧に変わっていった。



 異界の門の真下、女神の聖域だった場所には、美しい街並みが広がっている。軍国の首都バレルは……双子の白き人形と、崇拝する騎士神に救われたのだ。



 白き狼セントラルを目撃した、軍国の国民から……騎士神への賛辞がやまなかった。もちろん、白い狼を呼んだ、双子の白い人形に対しても。


 歓声の中で……二人の少女は泣きながら抱き合っていた。決して離さない様に。




 空を見上げれば、青い星が見える。


 徐々に大きくなっている。青い星フィリスと青い星テラ。互いにひっぱりあい……このままだと、二つの青い星はぶつかってしまう。

 


 最初の人形も、再生の聖痕によって癒された。首都バレルの中心部―飛空船の墜落現場にいた。


 最初の人形、傲慢の魔女ウルズは右腕を取り戻した。右手を確認したあと……空を見上げて、もう一つの青い星テラを見ている。




 その時、赤き魔女アメリアの爆炎が発生した。


 ドォオオオォォォ—―! 地下で発生した爆炎が、飛空船の残骸を吹き飛ばしていく。転移魔術だろうか……爆炎の中から現れる者がいる。


 

 赤き魔女アメリア。赤き魔女も……再生の聖痕によって、手足を癒された。傲慢の魔女は、妹に話しかける。



《一難去ってまた一難。



 古き女神からも、解放されたし……。

 仲良くしようよ? 


 アメリアちゃん?》



『………………。』



 赤き魔女アメリアは……返事をせず、ただ睨んだ。


 最初の人形の言葉は、霧のシステムの言葉。赤き魔女アメリアは、女神の影アシエルを信用していない。


 赤き魔女の声が聞こえてきた。『決して信用してはいけない、女神を裏切った者を……。』


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