第10話『風雲急を告げる! 聖フィリス教の司教と軍国の伯爵令嬢の守りたいものとは?』【改訂版:Ⅱ】
白い霧は、悪魔の女神に軍国の首都バレルの悲劇を見せる。
聖フィリス教のミトラ司教と軍国のフィナ伯爵令嬢。愛しいノルンと……いずれ出会う、大切な仲間たち。
金色の髪の女性、ミトラ司教は体を起こした。「屋敷? オークの……拠点じゃない。ここは……どこ?」
屋敷の一室。見るからに、高そうな家具や絵画がある。「私の服がない。私の杖も。お気に入りの赤いリボンもない……。」
ゆったりとしたワンピースを着ていた。白のカジュアルなワンピース。白い寝間着は長めなので、はしたなくなかった。手足の包帯が、新しいものに変わっている。
ミトラ司教は、ベッドから足を出して、ゆっくり立ち上がった。「焦っても、仕方ない。」荒野のオーク、若き魔王……そして、赤き魔女のことを思い出してみた。
「荒野のオーク……可笑しな連中ね。」
燃え滾る赤い眼のオーク。あれが、三大魔王らしい。若き魔王―炎鬼クルド。
若いと言っても、千年程前のフィリス教の聖典に“ハイオーク”―オークの上位種として登場する。魔王として現れてからは、100年も経っていないけど……。
「若き魔王を従える、赤き魔女。」
黒いローブを纏った赤き魔女には、誰も逆らわない。若き魔王でさえ……魔女に初めて会った時は、黒い布を纏っていたので、顔はよく見えなかった。
「……燃え滾る赤い瞳の魔女が、私の命の恩人。」
上空から落ちて、全身(背部)打撲、手足の深い裂傷。手や足の骨にひびが入り、腰骨や大腿骨も折れていたらしい。
荒野のオークたちに会わなければ、砂場から動けず……死の雨を浴びて、亡くなっていたと思う。
手足の白い包帯。手足の裂傷は酷く……回復魔術でも、完全に治癒できなかった。赤き魔女が、手足に包帯を巻いてくれた。
その時、赤き魔女と少しだけ話をした。「私が、聖フィリス教の司教であること。飛空船カーディナルに乗船していたこと。転移魔術で、飛空船の外に放り出されたことを話したら……赤き魔女は、私を避ける様になってしまった。」
それでも助けてくれたお礼を言おうと、魔女に話しかけようとした。
「死にたくなかったら、やめとけ」と若き魔王に止められてしまい……まだ、お礼を言えていない。
飛空船カーディナルへの乗船は、偶然だった。
病気で倒れた者がでて、欠員が生じたから。デュレス・ヨハン枢機卿から……広大な海、女神の雫の上空で今回の遠征のことを知らされた。
霧の人形を捕まえることが、我が主の命だと。「あの男が、まさかここまで……愚か者だったなんて。」あの男が招き入れた者……。
霧の人形、傲慢の魔女ウルズ。
狂信者デュレス・ヨハンは、白い人形の少女を捕まえる為に、最初の人形の力を得ようとしている。それが、どれ程愚かなことか。
傲慢の魔女は、間違いなく人の敵。悪魔の大厄災を起こし、神生紀文明を滅ぼした。魂を惑わす紫の瞳を持つ人形に……慈悲はない。「……傲慢の魔女が、枢機卿を狂わせた?」
あの男のことは分からないし、分かりたくないもない。
あの男はもう……引き返せない。
ミトラ司教が出会った、荒野のオーク。彼らは、50名程の別動隊だった。荒野のオークの本隊は、荒野の拠点で待っている。別動隊の兵士たちが、食料と水を届けてくれるのを……。
若き魔王クルドは、本隊の山越えを見送った。
賢明な判断だと思う。荒野の山脈には、死の雨が降っている。この状況下での山越えは、オークの兵士にとっても命懸けの行為だから。
本隊の為に、命を懸けて山越えを行う50名程の別動隊は……赤き魔女アメリアの指示に、全員が従った。
人や魔物なら絶対に選ばない、山越えのルート。黒い雲に覆われた山脈の頂き付近へ。人や魔物なら黒い雲に突っ込むことになり、ほんの数秒で死に至る。
でも、魔女アメリアは、人や魔物ではない。
彼女は星の核を保有する、霧の人形。堕落神と同列の脅威度Aランク。赤き魔女は、爆炎を呼んだ。
黒い雲の中で幾度となく爆発が起こり、黒い霧が吹き飛ばされていく。風の通り道ができた。オークの兵士たちは、黒い雲の隙間を進む。
黒い瘴気が、オークの兵士に近づけば……赤き魔女の爆炎が、黒い瘴気を退ける。魔女アメリアに先導されて、オークの兵士たちは黒い雲を突破した。
無事に、山脈の頂き付近に辿り着くと……騎士神の槍(ロンバルト大陸最高峰)には、膨大な黒い瘴気が溜まっていて、西の空は真っ黒で何も見えなかった。
不思議なことに……。
ドン!……ドン!……と鈍い音が、山脈の頂きから聞こえてくる。何かが、体をぶつけている様な音。偵察として、頂きに限界まで近づいたオークの兵士がいて……。
軍国フォーロンドの兵士には言わないと約束したら、教えてくれた。
「じきに、荒野の山脈を越えられなくなる。
頂きを迂回する道も、駄目だろうな。
頂きが崩れて、溜まっている黒い瘴気が、
山脈中にばらまかれる。
魔女さんは……例外だ。
西からの強風は、やみそうにない。
軍国は滅びるかもな。
……あと、黒い瘴気の中に何かいる。
かなりでかい……もしかしたら、
霧の龍かもしれないぞ。
絶対に、頂には近づくなよ。」
オークの兵士たちは山を下り、軍国フォーロンドの領土に侵入した。軍国の軍隊―騎馬兵に遭遇していない。
荒野の山脈が崩れる……騎馬兵は、軍国の西側は危険と判断し、軍国の中央―首都バレル付近まで撤退していた。軍国の国民も、東へ逃げていたので……誰にも見つからない。
赤き魔女は、そう思っていたはず。山脈の麓で、軍国の冒険者に見つかった時……明らかに、魔女は驚いていたから。
軍国の冒険者。若い娘と男が二人。若い娘は、魔晶石が埋め込まれた杖を持っている。神官か、魔術師のどちらか……。
二人の男は、娘の護衛。鉄の小手に、神聖文字が刻まれた古の剣。二人の男は、娘を庇う様に前に出て、剣を構えている。
三人の冒険者は、山脈の麓にある洞窟から出てきて……荒野のオークの別動隊に遭遇した。この人たちはついていないと思った。
黒いローブを纏った赤き魔女は前に出て、軍国の冒険者に話しかけた。
『貴方たち、馬鹿? どうして、
荒野の山脈から離れていないの?』
「………………。」
冒険者たちは答えない。赤き魔女は止まらず、どんどん近づいていく。
『答えなくてもいい。
別に知りたくないし……。
もう、会うこともないから。』
「!? 魔女さん、やめて下さい!」
「おい、嬢ちゃんやめろ。
お前が、殺されるぞ。」
ミトラ司教は、赤き魔女に近寄ろうとした。体格のいい褐色のオーク―若き魔王に腕を掴まれて、止められてしまった。それでも諦めずに肩を、足を動かして……。
「痛い! クルドさん、痛い!
離して下さい!」
「駄目だ。痛いのは……嬢ちゃんが、暴れるからだ。」
軍国の冒険者には、“聖フィリス教の白いローブを纏った女性の神官が、荒野のオークに捕まっている”……この様に見えた。ミトラ司教を助けようと……冒険者の若い娘の杖が光り輝く。彼女は魔術を構成した。
赤き魔女アメリアは、燃え滾る赤い瞳で冒険者を軽く睨んだ。
すると……軍国の冒険者が消えた。辺りを見渡しても……どこにもいない。
「!?……魔女さん! どうして―」
「嬢ちゃん、落ち着け。
転移魔術だ……殺してない。」
殺していない。若き魔王はそう言った。
「私は転移魔術で、死にかけたけど……。」
魔女アメリアは転移魔術で、三人の冒険者をとばした。若き魔王を信じれば、冒険者たちは死んでいないらしい。
転移魔術。自分自身が転移する場合でも、幾つもの上級魔晶石が必要で……空間把握で、ミスすることは許されない。
他の上級魔術より、高度に魔術を構成しないといけない……にも拘らず、赤き魔女は同時に、三人の人間を転移させた。
脅威度Aランク―正真正銘の化け物。
星の核を保有しているから、神様かな。「冒険者が、幾つもの試練を乗り越えて、実力をつけたとしても……脅威度Aランクの存在に勝てるのかな? 隣にいる若き魔王―脅威度Bランクとは、次元が違う……。」
神の魂―星の核は、人や魔物の世界にあってはいけないもの。私はそう思った。赤き魔女は、冒険者が出てきた洞窟へ向かう。
オークの兵士たちは、魔女の後を追い……山脈の麓(軍国側)にある洞窟に、小さな拠点を造ることになった。
軍国の冒険者が出てきた洞窟。ひんやりとした風が、洞窟の奥から吹いてくる……地下から上がってきていた。広大な地底都市―“聖母の墓”から。
聖母の墓は、地底世界とも言われている。
この墓は神が生まれた神生紀以前の……古代のエルフ文明のもの。とにかく大きい。軍国フォーロンドと周辺国が協力して、数百年前から調査を行っているけど……どれぐらい大きいのか、未だに分かっていない。
ロンバルト大陸どころか、海を越えて……聖フィリス大陸にも、墓の入り口があると言う研究者もいるぐらい。
ロンバルト大陸、地下の広大な墓は、数多くの冒険者を集めている。命の危険はあるけど……未踏の通路や部屋も、数多く残っている。エルフの古代文明のものを発見できれば、報酬も大きい。
墓の入口は大陸中に無数にあり、気軽に潜ることができた。山脈の麓にある、この洞窟もその一つ。墓の上に住む軍国の冒険者にとって……聖母の墓の上層は、よく通った場所だった。
オークたちは軽く休息をとった後、すぐに行動にでる。
荒野側の拠点で、氷晶魔術で凍らせている、食料と水は残り少ないらしい。何が何でも食料を確保しないといけない。最悪の場合、軍国や周辺国に攻め込むしかないとのこと。
赤き魔女は別動隊から、2~3人を選んで……転移魔術を何度も行使した。軍国の西側にある各都市は、ゴーストタウンと化していたので……水は、井戸から簡単に手に入れることができた。
問題は食料。難民が持てるだけ持っていってしまっているので、何も残っていない。この時、普段のミトラ司教なら絶対にしないことをした。
なぜ、そうしたのか……分からない。あの男と出会い、ミトラ司教の中にある主に対する思いが、少しずつ変わり始めている。「なぜ、主は……あの男を裁かないのですか? 主は……聖フィリス教会は、間違っている。」
ミトラ司教は、赤き魔女の転移魔術でとんだ。
軍国の首都バレルへ。聖フィリス教国に対する抗議のデモ。彼ら、彼女らの中に紛れ込んだ。ここで難民から……食料を奪うという物騒な話がでてきたので。
ミトラ司教が、若き魔王に教えた。
聖フィリスの教会の施し―非常時に備えて、教会の地下に蓄えていることを。どんな教会でも内部を見れば、どこに蓄えているのか……ある程度、推測できる。
ミトラ司教が協力する条件は、誰も殺さないこと。彼らは、それを守ってくれた。人通りのない路地で……ある程度、食料が確保できると、赤き魔女は最強の魔術―極界魔術を行使した。
上空に鎮座する、飛空船カーディナルに対して……。
『白き霧よ、我に示せ!
我が裁く、罪人―デュレス・ヨハンを!』
魔女アメリアに従い、白き霧は神生紀の文字を紡いだ……だけど、白き霧は魔女に、狂信者の存在を示さなかった。
魔女が、自ら神聖文字をかき消した。
初めて見た。あれが極界魔術。聞いた話では……白き霧が、霧の人形の願いを叶える。でも、不可能なことは叶えてくれない。
今回は、不可能なことだったらしい。魔力を多く奪われ、魔女は呼吸を乱してしまった。若き魔王が声をかけている。「あの男は、飛空船にいない?……どこかで、儀式を?」
《ミトラ司教! 貴方には言ったはずですよ!
騎士団を犠牲にしなければならないと!
彼らの魂を贄にして、
悪魔を呼ばなければならない!
我々の背後には、赤き魔女がいる。
時間を稼がなければ―》
あの男、狂信者デュレス・ヨハンは、騎士団を犠牲にして悪魔を呼ぶと言った。「黒い瘴気の中にいる、何かは……見捨てられた騎士団? それとも、腐敗した悪魔? 騎士団を贄にして、巨大な龍を呼んだの?」
「火事だ! 氷晶魔術を……
使える魔術師はいないかー!?」
叫ぶ声が聞こえてきた。
人だまりへ足が動いていく。聖フィリス教会が燃えている。
「……私たちが襲撃した教会。」
赤き魔女の炎は、まさに怒りの象徴。駆けつけた魔術師たちが、氷晶魔術を行使しても……魔女の炎の勢いは衰えなかった。
教会は燃え尽きて倒壊する。自然と涙がでてきた。弱き者を守る為に、力をふるってきたのに……。「こんなはずではなかった……いったい、どうして?」
多くの神官たちは途方に暮れて、うなだれて座り込んでいる。女性の神官―ミトラ司教は、涙を浮かべながら……空を睨んだ。
首都の上空に鎮座する飛空船を……。「許せない。あの男も……傲慢の魔女も許さない!」
夜になる頃には、多くの食料を確保できていた。
だけど、荒野のオークの拠点は―荒野の山脈の麓(軍国側・荒野側)。それと新たに女神の雫の近くに、全部で三つあるらしい。
これからも、食料を確保していかないといけない。流石に、赤き魔女の魔力も限界に近かったみたい。食料を持った兵士たちを転移させたあと、ふらっと倒れてしまった。
若き魔王に抱えられている。「私も疲れた。心も……ボロボロ。」ふと……遠く離れた荒野の山脈を見た。頂きは、黒い雲しか見えない。
黒い瘴気の中に何かいる。それが、何かを知りたかったけど……若き魔王に尋ねる前に、痛みと疲労で眠りに落ちてしまった。
こうして、ミトラ司教は、赤き魔女と若き魔王に出会い、共に行動した。荒野で飛空船から降りていれば、もう少し早く……山脈の麓(荒野側)の大きな拠点で会えていた。
ミトラ司教は、狂信者についていかなかった。オーファンの鉄槌が起こった直後で、多くの神官が、第五騎士団の死を悲しんでいたし……。
白い人形の少女の監視を任されていたから。
赤き魔女と若き魔王の脅威度は、AランクとBランク。実際に会って、共に行動してみると……なかなか確信が持てない。
傲慢の魔女ウルズと同じとは思えなかった。脅威度Bランク―人の国を滅ぼす存在だと。特に、若き魔王クルドは優しかったから……。
朝になって、ふらつきながら起きると……赤き魔女が待っていた。黒い布を後ろに下げているので……銀色の髪に、白い手足。天使の様に美しい、霧の人形が目の前にいた。
若き魔王に忠告をされたけど……お礼は言いたい。
「魔女さん、遅くなって御免なさい。
貴方に、助けられ―」
『お礼なんて、別にいいわよ。
貴方の役目を果たしてくれたら
……それでいい。』
「えっ!?……。」
燃え滾る赤い瞳の魔女は、微笑んでいる。魔女の手は、下に向けられていた。魔法の糸を垂らして……。
「!?……精霊魔術!?」
気がつくのが遅かった。赤き魔女の魔法の糸が……背後から、ミトラ司教の首にくっ付いた。意識を失っていく……霧の人形は、微笑んでいた。
どこかの屋敷の一室。ミトラ司教は思い出すのをやめた。
部屋の窓から、白い光が入り込んでいる。よく手入れがされている、古い箪笥。その上に、写真立てがあり……写真の中で、栗色の髪の少女が色鮮やかなドレスを着て、微笑んでいた。
窓の外では、白い太陽が顔を見せ始めている。
顔を少し上げると……今、最も見たくないものを見てしまった。飛空船カーディナル。まったく動かず、上空に鎮座している。「軍国フォーロンド、首都バレル。可哀そうな人たち……。」
東から白い太陽が昇る。“死の雨”が、荒野の山脈に降り……黒い瘴気の中で、何かが蠢いている。山脈の崩落―騎士神の槍の崩落……決壊まで、残り3日。
首都バレル、この都は滅びると思う。ミトラ司教はそう思った。愚かな男が招いた……“傲慢”と“憤怒”によって。
コン、コン、コン、コン。
「?……礼儀正しく、
ノックしなくても良いですよ。」
「……………。
一応、お客様だからね。今の所は……。」
栗色の髪の少女、16歳くらいかな。ミトラ司教の杖を両手で持っている。白いベッドの上に腰かけて……。
「私は、フィナ・リア・エルムッド。
エルムッド伯爵の娘よ。貴方は?」
「私は、ミトラ・エル・フィリアです。
聖フィリス教の司教をしています。」
「司教様でしたか……。
どうして、野蛮なオークの人質に?」
「フィナお嬢様、
荒野のオークは野蛮ではありません。
彼らがいなければ、死の雨を浴びて……。
私は亡くなっていたでしょう。」
「……………。
荒野の祭壇にいたら、
助かっていないから……。
もしかして、
あの飛空船に乗っていたの?」
「はい、飛空船カーディナルに乗っていました。
転移魔術で、強制的に、
外に放り出されてしまって……。」
「……………。」
「私は、転移魔術を行使できないので、
即死しなかったのは……偶然です。」
我が主の奇跡ですとは言えなかった。あの男のせいで、迷いが生まれている。決定的なことは、教会の施しの強奪に関与したこと。「もう……以前の私には戻れそうにない……私も、人のことは言えないかな。」
「落ちて、重傷を負った。
オークの魔術師に治してもらったの?」
「いえ、魔女です。黒いローブを着た魔女に、
助けてもらいました。」
「……そう。その魔女は、
貴方に何か言った?」
「お礼はいらないと。
私の役目を果たせばいいと。」
「……………。
私の知り合いの政治家や、
将校にお願いして、
……デュレス枢機卿がどこにいるのか、
調べてもらっているの。
でも、1日かけても、
いい情報を得られていない。
時間がないのに……。
私は、この都―首都バレルを守りたい。
ミトラさん、力を貸してくれませんか?」
「……フィナ伯爵令嬢。
今すぐ、バレルから避難して下さい。」
「? 聞いてなかったの?
私は、守りたいの! ここから逃げたら―」
ミトラ司教は近づいて……伯爵令嬢を抱きしめた。急に抱きつきたくなった……そうしないといけない気がした。
「なっ!? なによ、急に!」
フィナ伯爵令嬢は、ミトラ司教の杖の星の核……その欠片の魔力を消費して、精霊魔術を構成しようとした。
「御免なさい。ごめんね。
でも、もう……この都は滅びる。
あの男が……あの愚かな男が……。
招き入れたから、傲慢の魔女ウルズを。」
「!?……えっ!?
魔女は……赤き魔女だけでしょう!?
何で、最初の魔女がいるのよ!?」
「あの男は、最初から……。
白い人形の少女を捕まえる為に、
全てを犠牲にするつもりだった。
第五騎士団も、荒野のオークも……。
そして、この都バレルも。
霧の人形の赤き魔女や、
騎士神オーファンさえも、利用して……。」
その時だった……。
首都バレルに、けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。上空に鎮座する飛空船カーディナル。鉄の装甲が動き、船内から無数の魔導砲が顔を出した。
さらに、飛空船の真ん中から変形していき……船内から、とても大きな筒が現れた。この船の半分くらいの長さはあるだろうか。
50mにも及ぶ巨大な魔導砲―星間転移・魔導砲。
フィリスの星間循環システムは、聖神フィリスの意思に従い……巨大な魔導砲に、魔力を供給し始める。狙いは、すでに定められていた。
“星間転移・魔導砲”。聖神が眠る場所―聖フィリス大陸の聖域にある、転移装置を使い……対象を強制的に転移させる。
白い霧が存在する、魂や魔力を運ぶことができる場所なら……例え、星と星の間。宇宙空間でさえ可能だった。
騎士神オーファンが、白き人形を第六惑星に転移させた様に……今度は、第三惑星の神、聖神フィリスが強制的に転移させようとしている。
狙いは……堕落神オーファンの黒い瘴気ではない。
聖神フィリスは、人を救わない。黒い瘴気を遮り……軍国フォーロンドを救っていた、荒野の山脈―騎士神の槍に狙いを定めていた。
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