第7話『“白き人形”の二つの糸と、“魔女”の赤い糸が交差する時。』【改訂版:Ⅱ】

 

 悪魔の女神に霧が伝える。堕落神や霧の人形の魂―星の核の鼓動を……微かな鼓動がある。本当に小さな鼓動。


 

 赤き魔女アメリアも気づいた。ドク……ドク……騎士神オーファンの星の核の欠片。赤き魔女の手の中にある。魔女は手に伝わってくる、鼓動に耳を傾けていた。


 

 荒野の山脈の麓には……“死の雨”から避難し南下してきた、オークたちの拠点ができていた。岩石魔術で造られた土の壁が拠点を囲っている。


 星が顔を出しても、オークの魔術師や職人は作り続けていた。急ごしらえのテントやベッドが全ての避難者にいきわたるまで。


 オークの狩人は、二手に分かれ……“荒野の山脈”と“女神の雫”の幸―山脈から薬草と飲み水を、海から魚や貝を手に入れて拠点に届けていた。


 城から運んだ食料と水は、氷晶魔術で凍らせてあるが……残り2日で無くなる。2日以内に、雫の近くにもう一つの拠点を造り、荒野の山脈を超えなければならない。


 

 聖フィリスの枢機卿の言葉―脅迫に屈して、この地で生きるのであれば、その必要はない。餓死者は多数。飢えで半数以上が亡くなる。彼ら、彼女らの絆は断たれ……生き残った者で、山と海の幸を奪い合うことになる。



 その心配は必要ない。オークの兵士は、拠点の周辺を警備している。聖フィリス教国の飛空船が、いつ戻ってくるか分からない。あの狂信者が現れてから、荒野のオークはより団結した。枢機卿の窮迫に屈することはない。


 “デュレス・ヨハン”―あの“ロリコン”に落とし前をつけさせるまで、決して諦めないと……。



 赤き魔女アメリアは、木のベッドに座り……星を眺めていた。狂信者が消えてから、騎士神の星、第六惑星オーファンをすぐに探した。


 あの男の言葉を信じたわけではないけど……妹を転移させたのは、騎士神だ。第三惑星フィリスにいないのであれば、依代の星にいる可能性が高い。『違うかもしれない……でも、今はこれしかない。』


 依り代の星は、昼間にはどこにもない。夜まで待てば、向こうからやってくる。白い霧で文字を書きながら……極界魔術を構成しながら、ずっと待ち続けた。



 惑星オーファンが見えた時、星の核の欠片から……小さな鼓動が聞こえてきた。最初は、騎士神のものかと疑った。でも、騎士神の肉体は消え、魂は依り代の星へ帰っている。


 赤き魔女は考慮する。『どうして、オーファンの星間循環システムは、この鼓動を……第六惑星オーファンから、第三惑星フィリスに届けるの?』鼓動だけでは何も分からないけど……。『星の核を持つ者に……伝えようとしている? これは、いったいなに? どうして、私を惑わすの?』



 この鼓動は、妹のノルンの鼓動ではない。


 生き物ではなく、物体からのシグナル。まったく、関係のないものかもしれない。今は、妹の状況が何も分からない。



 狂信者の飛空船は、軍国フォーロンドへ向かった。荒野で亡くなった、第5騎士団―彼ら、彼女らの魂を無視して救おうともせず……そのまま去っていったのだ。


 狂信者にとって自分自身も、全て聖神のものであり、復活の為の贄としか思っていないのだろう。あの男は必要になれば躊躇せずに、妹に手をだす。



 再生の聖痕によって、妹は死ねない。


 聖痕の存在に気づけば、何が何でも手に入れようとするはず……聖痕が刻まれた妹の魂、星の核を。



 まだ、聖フィリス教国に捕まっていないかもしれない。


 でも、もし妹が敵の手に落ちていたら? 聖フィリス教国や軍国フォーロンドに侵入して、狂信者にばれたら、妹のノルンが……。


 

 最悪の場合、私も躊躇しない。


 手段を選ばない。霧の人形の役目を果たし、“悪魔の女神”を呼ぶ。どんな手を使っても、第三惑星フィリスを破壊する。『私自身も、魔力が尽きて星の核に喰われてしまうけど……。』それでも構わない。妹を犠牲にする世界など……存在してはいけないのだ。


 赤き魔女アメリアは決めた。『私がノルンの為に、今できることを……よし、準備は整った。白い霧に聞いてみよう。私の願いを叶えてくれるかどうか。』




『白き霧よ、我の声を届けよ! 

 

 霧の人形ノルンよ、

 その声を水晶に響かせよ!』



 極界魔術は、霧の人形の願いを叶える。現実的に不可能なことを願うと……魔力を奪われ、白い霧に喰われてしまう。


 願いごとは、より具体的なものが良い。問題はその範囲。願いを小さくし過ぎれば、意味がなく……大きくし過ぎれば、不可能なものになってしまう。


 今回は時間をかけて魔術を構成した。『できるだけのことはやった。後は、白き霧が私に示すだけ……。』



 白い霧が文字となって、夜空に広がっていく。騎士神の星の核から、小さな鼓動が……再び、聞こえてきた。



 その時だ……。


 赤き魔女の願いが通じた。手の中にあった星の核の欠片から、神生紀の文字が生まれ、微かに震え始めたのである。



『……ザッ……。』



『ザッ……まだ、大丈夫……だよ。

 ここなら、蜘蛛も……来ないし……。』



『鏡を……探す? ザッ……。


 今の自分の姿を……見てみたら?

 ……血だらけだよ。』



『……そうだね。あの銃、痛いね。』



 『!?……妹の声! 神生紀の言葉で、誰かと話している?』二人いる様に聞こえるけど、どちらも妹のノルンの声だった。



『ノルン! 聞こえる!? 

 聞こえるなら、返事をして!?』

                                   



 ここは、第六惑星オーファン。


 青い瞳の人形ノルンは、無数の銃に撃たれて血だらけ。傷は、再生の聖痕によって治っていたけど、着ていた服は真っ赤に染まっている。


 電気のついていない部屋、入口はベッドの一部で塞がれ……ベッドがあった場所には、丸い穴があいている。聖痕の少女が、“異界の門”で無理やり運んだので、ベッドは丸く切り抜かれていた。


 ノルンは、鉄の壁にもたれかかって蹲っている。『“管理者”……許さない。あの声……絶対に忘れない!』



 ノルンは、変質し始めていた。


 堕落と言っても良い。自身の魂ではなく、堕落神によって……黒い瘴気の中で、騎士神は白い人形と契約した。この世界が終末を迎えるまで守ると。


 ノルンは気づいていない。自分が、神生紀の言葉を理解できることを……堕落神の力が、徐々に大きくなっていた。



 聖痕―白い瞳の少女は、夢の中で“女神の魅了”と“異界の門”を発動し……1日以上、ノルンを逃がし続けた。


 遺跡の内部を文字にして記憶し、安全な場所を探したけど……無数のきかぐも(大)に見つかると、すぐに撃たれた。ノルンは悲鳴をあげる。何とか気絶しなかった。



 聖痕の少女は不思議に思った。『お嬢様はよく頑張ってる……と言うか、どうなってるの? いつもなら、痛みで気絶するのに……それに神生紀の言葉、何で分かるの? 理解できていることに気づいていないよね? 怒りで、本来の悪魔の力が目覚めた?……ないない。そんなことで、ひ弱な体が強くなるのならもうなってるよ。』



 青のお嬢様ノルンは撃たれても、撃たれても……異界の門で逃げ続けた。


 でも、それも……もう限界。お嬢様が気絶してしまう。聖痕の少女は、人形の夢の中に、遺跡の内部の大まかな地図を作った。


 今は、比較的安全そうな部屋に立てこもっている。良い発見もあった。医務室でもらったドロドロの青い液体―“青いハチミツ”が、天井にある丸い管の中を流れていることに気がついた。


 このハチミツでお腹を満たしたけど……この管、遺跡の大きな装置に繋がっていた。もしかしたら、遺跡を動かす燃料かもしれない。『飲んで大丈夫だったかな? お腹がすくのだから、仕方がない。今の所は問題ないし……。』



 それにしても、あの魔導銃。『弾がかなり速い。撃たれる前に、異界の門を発動しないと……。』2m以上ある大きな蜘蛛―きかぐも(大)の足には、8個の魔導銃がある。


 なぜか、撃たれた時に魔術反応がなかった。『あり得ない……あれは、魔導銃だよね? フィリスの魔導銃とは、仕組みが違うのかな?』



 白い人形、二人の少女が一番困っていることは……どうやっても、この遺跡の外に出られないこと。異界の門で転移しても、遺跡の中に戻されてしまう。


 強制的に戻す力が働いている。それは間違いない。なのに、魔術反応がない。『ここは、神生紀の文明の遺跡。神生紀文明は、星間循環システムによって成り立っていた。上級魔術と下級魔術が土台のはず……。』


 実際、遺跡にあるものは、全て……上級・下級魔術で動いていた。遺跡も……機械の蜘蛛も。魔術で動いているのに魔術反応がない。あり得ない、訳が分からない。『……オーファンのシステムに、異常があるから? とにかく、情報が欲しい。』 




 人形の夢の世界に、小さな鼓動が聞こえ始めた。


 ドク……ドク……。



『!? 何これ……何かの信号?』


 聖痕―白い瞳の少女は、その鼓動に耳を傾ける。確かに聞こえる。大量にある神生紀の文字の中から……。『……フィリスのシステムが、何かを見つけた? いや……なにかある。』



 小さな水晶の欠片がある。水晶の欠片には、神生紀の文字でこう書かれていた。


 騎士神オーファンと……。



『!?…………。』



 聖痕の少女は怒った。『あの狼、勝手なことして! 私のシステムに文字を刻むな!』人形の夢の世界を創っているフィリス・システムに、騎士神の神聖文字が刻まれていた。



 聖痕の少女は考える。『黒い瘴気の中で……あの狼は、私たちのことを守ると言った。これのこと? 全然守ってくれてないけど。神でも、堕落した神……信用できない。でも、この遺跡から出るにはこれしかないかも……。』



 聖痕―白い瞳の少女が、騎士神の神聖文字に触れる。


 その文字は少女に告げた。



【現在、第六惑星オーファンのシステムは、

 循環システムのみ機能しています。】


 

 聖痕の少女は焦った。『?……もしかして、これ……オーファンのシステム? まさか、あの狼!? フィリスのシステムに、オーファンのシステムを上書きしたの!? 何てことしてくれたのよ!?』



 “再生の聖痕”は、騎士神の神聖文字―オーファンのシステムも癒している。


 青のお嬢様には、同じ神聖文字にしか見えなかった。今も、騎士神の神聖文字が、ウィルスの様に増殖し続けている。『!?……不味い! このまま増殖したら、フィリスのシステム……私の夢が壊されてしまう!』



 しかも、騎士神のシステムは夢の中だけでなく、ノルンにも影響を与えていた。堕落神の力は、どんな結果をもたらすか分からない。強すぎる力は、ひ弱な体に副作用を起こすことになる。『……守るって、このこと? あのくそ狼! 捜し出して、やめさせないと!』



 ドク……ドク……。


 この小さな鼓動が手掛かり。これが、オーファン・システムなら……騎士神が、今どこにいるか分かるはず。


 聖痕の少女は、本来の神聖文字となり……騎士神の神聖文字―オーファン・システムに侵入した。



 第六惑星オーファンの星間循環システム。


 膨大な神聖文字が、空中を飛び交っている。殆どの文字は壊れて、読むことができなかった。オーファンのシステムの損傷は激しい。


 これでは、聖痕でも完全に修復するのに時間がかかる。最悪1年以上かかるかもしれない。オーファンの神聖文字で読めるのは……根幹のシステムのみ―魂と魔力を運ぶことだけ。


 聖痕の少女は考慮した。『それなら……なぜ、この遺跡は動いているの? あの蜘蛛たちは、いったいどうやって?』



 その答えは、すぐに分かった。


 管理者だ。管理者は遠く離れた場所から、この遺跡に神聖文字を送っている。その文字が……この遺跡を動かしていた。『別の惑星から?……しかも、この文字……フィリス・システム。』



 魔術反応がない理由……正確に言えば、魔術反応を感知できない理由は、オーファンのシステムが殆ど機能しておらず、管理者のシステムで動いているからだ。


 管理者のシステム内には、魔術反応はある。『私たちは、管理者のシステムに属していないから、システム内で起こる反応に気づけない。でも、これは光明だ。管理者も、システムに属していない私たちのことが分からないのでは? 私たちがどうやって、魔術を行使しているか分からないはず……。』推測はできるだろうけど、正確な情報は得られない。



『オーファンは? どこかにいるはず……。』



 オーファン・システムの中で、騎士神を探していると……。


 青のお嬢様ノルンが、微かに動いたことに気がついた。鉄の壁にもたれ掛かって、眠っていたけど……眼を覚ましたみたい。お嬢様は、痛みを堪えて動こうとしている。『もう、危ないってば……。』



 聖痕の少女は、ノルンに意識を向けた。


 ドク……ドク……小さな鼓動。これは、騎士神オーファンのものではない。ノルンが、騎士神と出会った時、オーファン・システムも復活した。


 再生の聖痕が、人形の夢の中にあるオーファン・システムを癒し、目覚めさせた。聖痕の少女は気づいていない。



 オーファンの神聖文字が重なり合い……大きな何かを形作っていく。5~6m程の大きさ。白い体毛。美しい白い狼だった。


 オーファン・システム―セントラル。始まりの時に、白き狼は永い眠りから目覚め……白い人形を不思議そうに見つめている。



 聖痕の少女は、オーファン・システムの外に出て……ノルンの夢の中に戻ってきた。『少し……試してみようかな。』


 聖痕の少女は、ノルンが分からなかった言葉、神生紀の言葉で話しかける。



『お嬢様、入れ替わろう。』



『聖ちゃん、約束したでしょう? 

 ここに、隠れていたら―』


『気絶するよ?……もう少し、

 夢の中で休まないと、持たないよ? 


 だから、入れ替わって。』



『……まだ、大丈夫だよ。

 ここなら、蜘蛛も来ないし……。』



『鏡を探す? 今の自分の姿を見てみたら?

 ……血だらけだよ。』



『……そうだね。あの銃、痛いね。』





『ノルン! 聞こえる!? 

 聞こえるなら、返事をして!?』




『!?……誰!? 誰かいるの!?』


 青のお嬢様はびっくりした様で……部屋に誰かいないか、きょろきょろ見ている。『私もびっくりした。お嬢様、やっぱり神生紀の言葉が分かっている。それに、今の声……聞いたことがある。えーと、どこで聞いた? それに、ノルン?』


 白い人形、二人の少女は人形の夢の中で、秘密の会話をする。



『聖ちゃん! 今の声、だれ!?』



『……ごめん、聞いたことはあるんだけど、

 よく思い出せなくて……。』



『聞いたことあるの!? 

 それなら、霧の城のメイドさん!?』



『……メイドさんかもしれないけど、

 白い霧の中で聞いた声かも。


 昔、暇だったから、夢の中の文字をずっと、

 聞いてたことがあるから。』




『……………。

 

 聖ちゃん、いま寂しいの? 

 だから、夢の文字を聞いてたの?』



『なっ!? 今のは、

 私じゃないってば!?』





『………………。

 えっと、ノルンよね? 


 お願いだから、怖がらずに答えて。』




『……ノルンって誰ですか? 

 私は知りません。』

                                    



 ここは、第三惑星フィリス。


 赤き魔女アメリアは困った。『母さん、どういうことですか? 何で、自分の娘に……名前を教えてないの?』


 あの女神なら、何となくと言いそうだ。『何の為に、白い霧の中に籠ってのよ?』


 赤き魔女アメリアは焦った。こんなピンチ、生まれて初めてかもしれない。いつまで、極界魔術が続くか分からない。『急がないと……でも、今の状況でどうすれば、信じてもらえる? 母がいても、霧の城でノルンに会うべきだった……いや、まて。城の霧には、少女の精霊がいたはず……。』



 赤き魔女アメリアは何度も、妹のノルンに声をかける。


『それなら、霧の城の精霊は? 

 たぶん、会ったことがあると思うけど。』



 ノルンと聖痕の少女は、秘密の会話を続ける。



『あっ!? それ、私のこと……。

 じゃあ、アメリア姉さんかな?』



『アメリア姉さん?……歳の離れた姉? 

 再生の聖痕って呼んだ?』



『たぶん………。

 ノルンって、お嬢様のことじゃない?』



『………………。


 私には教えてくれなかったのに……。

 お姉ちゃんには教えていたってこと!?』



『……うん、そうなるね。

 お母さん、変わってたから……。』


 


 女神は悲しんだ。『皆、酷い……こんなにも、愛しているのに……。』ノルンが、姉のアメリアに声をかけた。



『……アメリア姉さんですか?』



『!? そうよ、覚えていてくれて、

 良かったわ。ノルン、今は―』


『本当に!?……アメリア姉さんですか?』



『………………。

 

 ノルン、今は信じられなくてもいい。

 だけど、よく聞きなさい。

 

 騎士神オーファンも、聖フィリス教国も。

 ……悪魔の女神も、霧の人形も、

 誰も信じては駄目。



 今は……霧の城の精霊―

 “再生の聖痕”だけを信じなさい。』



『……お母さんも、お姉ちゃんも、

 信じるなってことですか?』



『今はね……ノルン、大丈夫?

 誰にも捕まっていない?』



『……うん、何とか逃げてる。

 機械の蜘蛛が襲ってくるから。』



『……………。

 あと、どれくらいなら、耐えられる?』



『そんなこと、分からないよ!? 

 銃で撃ってくるんだよ!? 

 

 今はまだ……気絶してないけど……。』



『……………。』



『あいつ、管理者は許せない。

 蜘蛛たちを、道具の様に使ってる!』



『……管理者?

 その管理者は、何か言った?』



『?……なぜ、抵抗するのかとか。

 

 なぜ、主の命に従わないのかとか、

 言ってたと思うけど……。』



『男の声で、嫌な声で、命令口調だった?』



『?……うん、そうだったよ。』



 “デュレス・ヨハン”―あの“ロリコン”の死刑は、ほぼ確定だ。


 主の命に従う。『狂信者は主の命に従い、私の裁きを受け入れるらしい。そうか……なら望み通り、聖神フィリスのもとへ送ってやる!……だけど、まずはノルンの安全が一番。どうにかして、フィリスに転移させてあげないと。』



 赤き魔女は、妹のノルンに優しく伝えた。


『……とりあえず、

 遺跡の情報を集めなさい。


 神生紀の言葉を話せるのなら、

 文字も読めるでしょう? 


 ほとんど、壊れて―』



『えっ!?

 私、神生紀の言葉は話せ……。』


『あっ、不味い!』



『どうしたの!? 

 今、神生紀の言葉で話しているわよ?』



『ごめん、アメリア姉さん!』



 ぷちっと……通信がきれてしまった。


 どうやら、ノルンが切ったらしい。『私、なにか可笑しなこと……言った?』手の中にあった星の核の欠片は魔力を使い切り、ばらばらに砕けていった。



 考えていても仕方がない。今は行動あるのみだ。


 魔女のテントの前を通りかかった、オークの兵士に声をかけた。兵士は魔女に一礼したあと、急ごしらえのテントを避けながら駆けていく……若き魔王のもとへ。



『今は、まだ……ノルンは捕まっていない! 

 ロリコンめ、覚悟しろ!』


 


 軍国フォーロンドに白い太陽が昇る。


 西の空は黒い雲に覆われていた。遥か上空まで……。



 黒い空の中に白く輝くものがある。空に浮かぶ金属の船、“カーディナル”。デュレス・ヨハン枢機卿の船。カーディナルは徐々に高度を下げ、軍国の領空に侵入した。


 “死の雨”が西から近づいている。残り5日……。

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