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第1話 逃亡





べったりと、血を塗りたくられたこの世は、惨劇を産み落とし続ける。た   

えして、天界は悪魔で勢揃いだ。特に孤児を嫌い、人界へとまた突き落と

すのである。

ろくにその孤児を知ろうともしないで、突き落とす。だけれどそのなかには、

くろく染まろうであろうその孤児を捨てた親が紛れている。酷いものだ。く

じけるいい理由にもなろう。孤児は力を手に入れていずれ復讐をこなす。

ゆめうつつ、ゆめうつつ。復讐の雨はゆめのように綺麗なものだろう。そ

うだろうな、そうでなければ復讐は何の意味もないのだから。

よくても、よくなくても、それは孤児次第でもある。これからよーく、か

んがえてみればいいのだ。

でかい野望ほど、人生は意味あるが、天界が嫌う孤児の人生は彼らの目

からは、無に等しい。それをどう塗りかえるか。血で塗るか、削るか。

いや、そんな選択肢はいらないほうがいいのかもしれない。しかし、いく

どもなくそうごねたって、状況は変わらない。今日は復讐の日。みんなが

くるおしいほどに暴れまわる、13匹の神獣たち。












   長い髪の女は、目の裏に焼き付けたくなるほどの美人だった。


もともと、女という人間の種類は苦手なものだった。



小さい頃、嫌な記憶があるからだ。

嫌悪したくなるような記憶。


それは、忘れたいけど、忘れたら何もかも失ってしまうような感覚に陥る恐れから逃げ出そうとする自分。


でも、逃げたらだめだ。


あの日、俺はそう決めたんだ、逃げないと。




あの夜、ある女が俺の家族を殺しにかかった。俺の家族だけじゃない、他の人たちも、苦しんだ。親父も、逃げろと言ったっきり、他に何も言うことはなかった。

母ちゃんも、逃げてって言ったきり。


夫婦揃って最後の言葉は逃げろだった。でも、それが俺の今につながる。



俺は逃げないと決めてしまった。



だれかが俺の家の中の金を盗もうとしたら、逃げない。

だれかがふざけて俺に喧嘩を売ってきても、逃げない。


逃げない生活が、真の生き方だと信じていた。

だから、他人が逃げてばかりのような人生を送っている奴を見ると、つい厳しく当たってしまう。

でも、俺の家族を奪ったあの化け物のような女は、なぜか急に静まり返って、生まれたばかりの俺の弟を抱えた。弟の蓮は、結局、亡くなったのだろうか。最後の姿を見ていなかったため、確認すら取れなかった。


俺は、逃げるのに精一杯だった。あの場所から、あの光景から。いくら息を殺しても、いくら目を閉じたって、何も変わらない。


あの化け物の女を追ってみても、結局、何も変わらなかった。



蓮も、親父も母ちゃんも。



戻ってこない。 




今の俺は21になって妻もいなくて、恋愛する暇もない。

旅商人だからな、俺は。

名も知られてないから、客が来てもこなくても、胡散臭いと言われて立ち去られる。

大道芸ができる人に弟子入りして稼いだ方がよっぽど簡単なのかもしれないが、これでも俺は顔はいい方だし、交渉とかも得意だから、それを活かさないと。



 前の出張商売に行った村のあの髪の長い女は、化け物に襲われていた。

最初おれは、あの夜の化け物のひどい有様を受けた覚えが蘇って隠れていたが、さすがに人間らしい化け物の女で、これは助けられるかなと思って木々から出ようとした。だけどその時おれはあの美しい女の目が見えた。彼女の目には恐れがやっぱりにじみ出ていたが、たとえあの化け物があの女に最後のとどめを刺そうと襲いかかっても、急に、冷徹な美徳が目に炎が灯った。


あの女は、逃げていた。

俺は、逃げる奴は嫌いだ、だけれど、あの目をみたとき、助けねばと体が動いてしまった。




 それに対して、あまりいい反応はもらわなかったが。



仕草もまた、すごく綺麗だった。

手の動き方とか、瞬きの仕方とか。


目の動きも、すごく美しかった。

声とかも通ってて。


人生の中で一番、緊張した日だったのかもしれない。



出張先の村を場所を教えてもらって、あの女は頭を下げ、小走りで森の方へと入っていった。






だけど、おかしいことに、おれがその出張から京へ向かう途中のあの女と出会った道へもう一度向かった時、おれが切ったあの人間らしき化け物のしたいがなかったのだ。


あの女性、大丈夫かな。



しばらく調査してみても、血まみれの足跡は京の方へと向かっている。

もしかして、京に行くのか?あの化け物が?

やはり、ただの人間のおれの力だけじゃだめなのか。



急がないと、ひどいことが起きてしまう。



急がないと、また俺みたいなやつができちまう。


あの女性が危ないのなら、助けたい。




月の下で、体力を温存しながらの走りは、商売道具を持ちながらだと相当大変で、下駄擦れはあの夜だけで10箇所できた。


その次の夜は、足に包帯を巻いて、小走りをし、休憩を挟みながら急いだ。


逃げちゃいられない。


星がおれを導いてくれる。


『星屑に合わせて向きを変えよ、


それゆえに、頭脳を働かせ、手足を急がせよ。


帰るのが家でも、まったく違う新世界でも、それは同じである。

汝、星屑を求めよ、場所を求めよ、汝を否定するものを否定せよ。


帰る場所がなくても、行く場所なら、一歩進んでも、後ずさりしても、全然違うのだから。』


親父と母ちゃんがよく旅路でそうお祈りしていた。

今までおれは祈ったことはないけど、と夜空を見上げた。


目を閉じて、両手で空の圧を感じ取って、一歩前進をする。



ここで馬車とかを捕まえられたら、乗せてもらって五日で京に着く。行かねばならぬのだ。


道のすぐ隣に生きる中くらいの木下で、目をつむり、寝る。














   朝は儚く、幸運で恵まれるものなのかもしれない。まだまだ寝ていたかったけれど、幸運と引き換えだったから、文句は言えない。


 「おまえさん、こんな地面で何をしているんでい」


 「…どなたですか?」

 「わしゃ、旅商売してんでい。おまえさんは?」

 「…同業者です。」

 「ほう、そうかい。じゃぁ、特別にうちの商売品とともに乗せてってやるよ、若い同業者に死なれちゃ、もったいないからね。」中年の男はへらへらと笑いながら手を差し出した。

 「いいんですか?ありがとうございます…!」おれも、手を差し出して、同業者の男に立つのを手伝ってもらった。


 「こりゃひどい足の怪我だね、どうしたんだい?」


 「ただの下駄擦れですけど、昨晩はずっと走ってたから。」


 「こりゃ新しい下駄を買わねば、いずれこいつも壊れちゃうさね。ほれ、おまえさんの足に合う下駄をやるからおまえさんの商品の一つを交換しよう。うちも他の旅商売人の商品目論を勉強したいと思ってたんだ。」おれの下駄を眺めながらゆっくりと足に負荷がかからないように脱いだ。


 下駄と釣り合うおれが今持っている商品といえば… 金属でできたしおり何てどうだろう。綺麗な宝石をつけすぎもせず、つけなさすぎもしない、侘び寂びわびさびが綺麗に保ってあるあのしおり


「これなんてどうでしょう」と差し出した。


「ほほう、これはすごいもんだね、こりゃおまえさんが売れば結構儲かりそうな品物なのにね。顔も整っているし、めんこい女子はこれを欲しがるじゃろうに。」


「それが、売れないんですよ、なかなか。どうやらこの顔と話し方で怪しまれるみたいで。どこかのお嬢様をたぶらかして盗んだ…みたいな。」


「ほうう、大変だねぇ。この高級品をうちの下駄で交換しちまっていいのかい?もったいないと思わんかね、他にも何かやるよ。」男はクックと笑った後に申し訳なさそうな顔をした。


「何もいりません、ですが、京に連れてってくれるなら。」ここは交渉所だ。


男は目を見開いて、少し黙り込んだ。


やはりあれだけ遠いとだめなのか…




「いいさね、元々うちの馬車に乗ってけと言ったのはわしや。こんなに下駄擦れをするまで夜中を走っていたっていうことは急いでいたということやろう。連れってやるさね。」男は、目に光を灯していた、まるでおれの目にも光を灯そうとしているみたいに。



そこから、五日間の旅は始まった。


男の名前は矢左二郎やさじろうで、旅商売を十年以上も続けてきたらしい。

いろんな話や経験を聞かせてもらった。


村のすぐ近くまで来たら一緒に商売をした。



楽しい五日間だった。




京に着いた時、矢左二郎やさじろうは悲しそうにしていた。それでも、力強い眼差しで

「なんでおまえさんがあんなに急いで京へ行こうとしていたのはわからんが、聞かんよ。男には秘密が多いさね。おまえさんはまだ若い、商売の時の交渉も素晴らしかった。わしらは旅商売の身だからいつも会えるわけじゃないが、また会った時に、なんでも相談してこい。頑張って生きるんじゃぞ。」



矢左二郎やさじろうは、とてもいいやつだった。

親父を思い出させるような、いいやつだった。


実際、矢左二郎やさじろうに親父を重ねて見ていたのかもしれない。

とても楽しい五日間、経験になった五日間、誰かに認めてもらえた五日間。



今日、やっと京に着いた、矢左二郎やさじろうに会えてよかった。



彼は手を振りながら京を去っていった。





さて、ここからが本番だ。

もし、あの化け物がここにきているとしたら、危険だ。


あの女性が襲われたように、ここの住人が危ないのかもしれない。


でも京は意外なところで勘が鋭いところがある、誰が入ってきて誰が旅人で、誰が身の無しなのかも、住人に聞けば一発でわかることが多い。これは、五回京で商売したおれの経験で得た知識だ。



でも、さすがに体を休ませないと、体が持たない。

今は夕暮れ時、眠る場所がないときつい。

だけれど、どこの宿に行ったって、眠れるところはなかった。



そのまま太陽が沈んで、月が出た。




空を見ながらまた祈る。



『星屑に合わせて向きを変えよ、


それゆえに、頭脳を働かせ、手足を急がせよ。


帰るのが家でも、まったく違う新世界でも、それは同じである。

汝、星屑を求めよ、場所を求めよ、汝を否定するものを否定せよ。


帰る場所がなくても、行く場所なら、一歩進んでも、後ずさりしても、全然違うのだから。』




小さい丘が見えた、もういいや、あそこで休もう。


背中を木の洞に乗せて、目を閉じる。



おれはこの京が平和だと確かめる義務がある。

あの化け物を逃してしまった。


子供の頃だって、逃げて逃してしまった。



今回は絶対にそうしない。



さぁ、尻尾を出せ、化け物。





  おれはこの京の都が平和だと確信するまでここを一切離れないからな。











モンダイ:イロハウタ、ジュウサン匹ノ神獣タチニ、答エを。

ヒント:物語ニ集中シテハイケナイ、視野ヲ攻メロ、ソレデマダ見ヌ過去ガ解放サレル。


https://www.dropbox.com/s/cqwty7ilt96gjq8/%E6%89%8B%E7%B4%99.pdf?dl=0





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