第13話 悪夢からの目覚め

 眠りについていた間、夢を見た。体が重く、まるで鋼の鎖を手足に付けらたような感覚であった。

そして目印のような真っ直ぐな人差し指。


「歩け」

「歩き続けろ」

「お前は、歩き続かなければいけない。」

「それは、お前の業だ。」


「お前たち鬼には、業がある。生まれつき背負っているのではない、背負わなければいけないのだ。だから醜い名を持ち、それを生き甲斐にしなければ息ができないのだ。お前たち鬼は人より美しく、醜くい。

真っ直ぐな心をもち、その心を貫け。醜い名を飾りのように付けてみせろ、何よりも美しい宝石を。」


二つの声は努力せずともわかっていた、人食い慎吾しんご白豹鈴蘭びゃくほうすずらんの声を。

醜い名を飾りのように付けてみろ、夢の中では宝石が沢山置いてあった。


「飾れ、飾りなさい」


どこからも視線を感じた。どこからも指をさされた。目印ではなく、命令を下されていると感じた。

飾れ、そう言われた。台の上に耳飾りのような宝石が置いてあり、重い鋼を引きずるたび、台は遠く離れて行く。これではきりがない。


手を伸ばし、耳飾りを手に取った。もともと暗かった目の周りが、沼のように私を引きずって行く。矢印はまだ私自身を指している。


「お前は醜い」


いつか見た夢の中で聞いた優しい声は冷たく冷え切っていた。目を覚ましたくても、目が刃物で刺されたように押しつぶされているような感覚でもある。

小鬼こおにの頃に殺されかけた時の背中がひどく焼ける感覚も蘇る。


  「君を退治したらこの村では俺も英雄呼ばわれだね」


退治屋の声も蘇る。



「なんでやられているの?私がそこを代わってやろうか?」


『お願いだ、代わってくれ、もう焼け死にしそうだ。』


「へぇ、うーん、でも、私、あなたがつまらないと思い始めてきたの。私もあなたのような腰抜けに力をかしっぱなしというのはいやだし…このまま死んでしまえば、楽よ?」


『待て、どういうことだ。いつも私が死ぬのを避けていただろう、なぜここで見殺しにする。』


「いやね、冗談よ。嘘は女の飾りだけじゃない、私たち鬼の特権よ?ここはなんだと思っているの?」


『夢の中』


「そう、夢の中。今この夢の中で、あなたを私をすり替えてあげましょうか。その方が、あなたも落ち着いていられるでしょう?」


『いやだ。私は行きたいんだ。見てみたいんだ。人の道を。』


「気持ちはわからないわけでもないわ、あの神主と人ならぬものに心を動かされたのもわかる。だってあなたは私、私はあなた。一心同体、気持ちぐらいは把握できる。だけれど最近のあなたは弱っている、何が原因なのかしら?始めて私があなたの体が乗っ取って食べたあの村の赤ん坊?もしかしてあの憎しみに揺らいだ視線?あぁ、それとも妹かしら?」


『…』一人で私は黙った。もう一人の私は沢山の宝石を飾っていて、まるで鬼の女王のように傲慢な目つきをしていた。


「あなた、私をなんだと思っているの?」突如、柔らかい声が凍った。


「ただの影?そんな子役、私は似合わないわ。私はね、あなたの」



  「未来のあなたでもあるのよ?」


柔らかい声で彼女は私の目を見つめた。突如体は軽くなった感覚がした。


・・・・・・・・・・・


目を開けたら静恵しずえの子供達が泣いていた。


「どうしたの?」二人のうちの弟の方の頭を撫でた。二人の子供たちはただしゃっくりをしてまた大きな声で鳴き出し、私を抱きしめた。


「お梅さん、寝ている時息をしていなかったんですよ。体も動かないし、脈を測っても何の音もしないので。二人とも怯えてしまって…」静恵しずえが水を持ってきた。彼女も相当汗を掻いている、申し訳ないことをした。


「…本当に、申し訳ございません。」

「いえ、お梅さんのせいではないのですよ。なにか、病気をお持ちなのですか?確か夜中の時にもお梅さんが星を見ていて、その、お梅さんに見えなかったのです。」

心配そうに水を渡し、子供達の頭を大丈夫、大丈夫よと撫でた。


「私に見えなかった?」

「えぇ、すごく落ち着いた眼差しで、空気も冷たいような感覚でして…悪い意味ではないのですよ?ただすごく、美しくて。突然目があってしまい、私、びっくりしてしまいまして。覚えていらっしゃらないのですか?」

「…覚えていますよ、驚かせてしまいごめんなさい。なんか、星を見ていたら切ない気持ちになってしまいまして。多分それですね。」

「星になにか思い出が?」寝癖がついている静恵しずえの旦那が頭を掻きながら問う。


「私の実家は星が綺麗なんです。家が恋しいなのでしょうかね。今私は一人旅をしていまして、朝秋村あさあきむらは夕焼けだけではなく星も美しいと聞いたもので。」私が笑う。

「ほう、実家とは?」

「…あまりいい噂はないですが、月鬼村げっきむらです。と言っても、13年間しかそこに住んでいないので、実家とは言えませんが、まぁ感覚はそんな感じで。」


「昨夜、悪いことを言ってしまいましたね…」

「いえいえ、大丈夫なんです。と言っても私もあの村に山賊がいるとは聞いたことがなかったので。」


静恵しずえの夫が笑い、茶を啜った。だが、また顔を見上げる突如、何か恐ろしいものを見たような表情を浮かべた。子供達と静恵しずえはそれに気づかないのか、普通に月鬼村げっきむらのことを語っていた。だが、やはり夫が顔を上げても気持ちが抜けてある笑顔しかしないため、不自然な匂いがした。夫は、静恵しずえと少し話がしたいと立ち上がり、外へと出て行った。


「どうしたのかしらね」と子供に話しかけた、子供はまだ少し泣いていたが、会話はできた。

「さぁ、わかんない。それよりお姉ちゃん、大丈夫?どこも痛くない?」

「ええ、大丈夫よ。心配してくれてありがとうね」

「嘘だ、お姉ちゃんの頭に何か刺さってるもん。痛そう…取ってあげようか!」


何か刺さっている?


「え、取る前に何が刺さってるの?抜く前に触ってみて。」

兄の子供の方が私の頭を探った、そして、嫌な予感がして、背中が凍りついた。


  『何かが刺さっている』


それは間違いなく、私の鬼角きかくだった。気づいた瞬間、私はすぐに立ち上がり逃げようとした。あの男の顔色が悪かったのはきっと多分角に気づかれたからだ。角を消し、玄関まで駆け抜けた。だが開けた突如、静恵しずえと彼女の夫が医療道具の箱を持ちながらそこに立っていた。

そこでまた、静恵しずえの夫がまた顔色を悪くし


「ちゃんと休んでいてください!」と声を張り上げた。


私は少々意味がわからぬまま、はい、と戸惑いつつ頷きまた布団へ戻された。ちゃんと休めという言葉に翻弄されつつ、問う。


「あの、静恵しずえさん。私休まなければいけないのですか?」

「あぁ、さっきうちの夫が気付いたらしいんですけど…あぁ。ほら、お腹から血があふれています。まぁ、ひどい傷…」と、着物の上着を脱がせ、血を確認した。


そのほかにも、足、首、手首と腕など出血していた部分が沢山あった。静恵しずえに消毒してもらい、止血のための布を巻いてもらった。静恵しずえの夫はずっと痛み止めの薬を探していて、大丈夫痛くないですよと言っても忙しい手と頭を動かし続けた。子供達も私が起き上がらないようにさっきの『刺さっていたもの』が消えたことを不思議に思いつつ私を落ち着かせつけるために頭を撫ででいた。


やっと治癒らしき治癒は終わり、私も自分自身の疑心暗鬼に反省した。人を信じなさすぎた自分を殴りたいような気分でもあった。自己反省会議が脳内に行われ、私はずっと「あぁ、もっと信じればよかった。」「申し訳ない」「私は阿保だな、馬鹿だ。」と独り言を言っていた。自己反省会を行っていた最中、子供達二人が覗き見をしており「見えているよ、二人とも」と言ったらびっくりして逃げて行った。


  いつの日か、こんなことあったな。


確か、兄様がお怒りになり私が怯えるとすぐ一人でぶつぶつと自己反省会議をしていた。それをよく私は覗き見をし、よく兄様にばれていていた。兄様の悪ふざけの顔を思い出すたび、笑いを堪えられなかった。自分も自分が思っているほど兄様に似ていると自覚をする。歴兄はどうだろうか、似ているのかな?あぁ、確かに意外なところに真面目なところがある。一番似ているのは母上かな、外見そっくり…だとよく言われた。


   「ごめんな、お梅。」


とっさにそう呟いてしまった。

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