第7話 晴也は限界
A 4サイズの封筒を開けて中身を取り出した。
封筒に入ってたのは大学ノートで、日記帳と違って此方には表にも裏にも名前は書いてなかった。
取り敢えず読んで見ない事にはと俺は大学ノートの表紙を捲った。
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○月✕日
今日は同じ学科の土佐に告られた。
可愛い顔してるしスタイル良いし仲も良い方だし、となると断る理由も無いからソッコーOK出した。
そしたら土佐の奴、滅茶苦茶嬉しそうにしてやんの。
この子なんで俺にこんなベタ惚れなんだよ……。
追記。
土佐が日記帳に色々書いてるみたいだから俺も日記を書く事にした。
○月□日
今日は土佐に昼飯誘われて一緒に食べた。
俺のはビニの惣菜パンで土佐のは弁当。
毎朝手作りでこの完成度……やっぱコイツ女子力高ぇーな。
○月△日
やべー。寝坊した。
朝はビニに寄る時間が無かったから昼は学食になりそうだ。
……とか思ってたら土佐に弁当を分けてもらった。
土佐の言い分では作り過ぎたから食べてとの事らしい───にしてはちゃっかりと二人分ある気がするんだが……。
今日俺が時間通りに起きて惣菜パン買ってきてたらどーするつもりだったんだコイツ。
まあ、ありがたく頂戴して食べたけども。
○月◁日
ダルい。頭がクラクラする。
昨日の昼過ぎから体調が著しくなかったけど、まさか起き上がる事すら厳しいとは……。
まさか土佐の弁当に何か入ってたとか?
いやいや、まさかな……そもそも俺を苦しめる理由が無い筈……。
……いやいやいや、まさかね。
昼頃まで冷や汗を流してたら熱が上がった。
一応、土佐に休んでるってメール入れとくか。
そしたら今日はもう寝る。
○月☆日
昨日の辛さがまるで嘘のように全快した。
今日は大学行って土佐と昼飯食って帰りにデートしたりした。
やっぱ土佐が食べ物に何か仕込むなんて有り得ないよな。うん。
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彼氏さんの日記は何だか初っ端から不穏な空気が漂いつつあるんだけど……。
あの女の日記はラブラブ感満載でそんな空気匂わせもしなかったんだけどなぁ。
そこからは大体紫苑の日記帳と似たような内容だったからペラペラと流し読みする。
▼
☆月✕日
今日から紫苑と同棲する事になった。
これまで二人で良い物件を探したりちょこちょこ家具を揃えたりしてたから今日は新居でゆっくりと寛ぐとしよう。
しっかしこのアパート、当たりも当たりだったな。
外装とは裏腹に部屋は普通に綺麗だし大学に近いから通いやすいし家賃はかなり安いから優良過ぎる程優良な物件だ。
☆月□日
昨日から紫苑がベタベタ過剰に甘えてくる。
いやまあ、俺も可愛い彼女に甘えられて悪い気はしないから寧ろ嬉しいんだけど。
夜に燃え上がっちゃったけども。
☆月△日
今日は逆に俺が紫苑に甘えた。
いやね? ホントは甘えるつもりは無かったんだぜ?
でも今日の紫苑は何故か包容力があって無性に甘えたくなる空気を出てたというか……。
☆月◁日
今日は友達に遊びに行こうと誘われたが、紫苑が行ってほしくなさそうにしてたから行かない事にした。
まあ、一日くらいは良いだろ。
☆月☆日
今日も友達に遊びに行こうと誘われた。
今回は女子もいるし土佐も一緒においでと言っている。
その事を紫苑に伝えると渋々ながらもOKを出してくれた。
何で渋ってんのか聞いてみたら二人でいる時間が減っちゃうからと答えてくれた。
いや照れるわ!
まあ、こんなにも想ってくれてるなんて彼氏冥利に尽きるな。
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リアルに充実してるなぁ。
しかし、読み進めていくに連れて彼氏くんはあの女の愛に重さを感じる様になった様だ。
いや、重さというよりかは鬱陶しさといった方がしっくりくる。
事ある
しゃーない。
▼
€月○日
今日という今日こそ我慢の限界だ。
俺が友達と遊びに行こうとするとメンバーは誰だの本当にそのメンバーなんだよねだの一々一々細かい所まで確認取ってくる。
それに紫苑が気に入らない相手が一人でもいたら行っちゃダメと行動を制限してくるとか何だよ。
友好関係くらい自由にさせろよ!
ストレスが溜まりに溜まりまくった俺は玄関から友達と遊びに行ってくると紫苑に告げ、返事を言わせる間も無く出発した。
待ち合わせ場所には既にメンバーが揃っていた。
ヒロとレンとカナと佐藤の四人。
俺含めてこの五人は同じ高校に通っていて同じ部活動で切磋琢磨していたメンバーだ。
ちなみにヒロとカナが同い年でレンと佐藤が一個下で全員紫苑の事を知ってる。
その日は日頃の鬱憤を晴らすべくカラオケだったり居酒屋でどんちゃん騒ぎした。
€月%日
あーやべ。頭痛てぇ。
これ完全に二日酔いだ。
取り敢えず顔洗おうと洗面所に着いてから今いる場所に違和感を感じた。
───あり? ここ何処よ?
洗面所の鏡がいつもより一回り大きい。
それに壁紙が一面白じゃなくピンクの花柄になっている。
何か見覚えのある部屋だ。
駅前のLから始まるHOTELっぽい部屋に見える。
俺は止めどなく流れてくる冷や汗に気付かない振りをして部屋に戻った。
この部屋のピンクな装飾にスプリングの良く効いたダブルベッド。
もはや弁明のしようが無い。
何処からどう見てもラブホです。はい。
というか布団が人一人分膨らんでるが誰がいるんだ?
クソッ、昨日の記憶が二十時頃から朧気になってる!
……いや、一緒のベッドで寝はしたが夜のプロレスごっこはしてないかもしれない。
そうだ。きっとそうだろう───と、自分に言い聞かせながら視線を下げると下着すら付けてない俺の姿が見え、一瞬で頭が冷えた。
俺は恐る恐るぎしっと軋むベッドの上でやっちまった相手が誰なのか確認する為に掛け布団に手を掛け、ゆっくりと剥いだ。
すると布団の中には生まれたままの佐藤があどけない寝顔で眠っていた。
よりにもよって後輩に手を出すとか……。
俺は考える事に疲れ、布団に潜って二度寝する事にした。
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なるほど、不本意ながらもここで浮気して気持ちが佐藤っていう後輩に傾いた訳だな。
確かに佐藤某はこれまでのを読んでても石橋の事を心配してたり他の人より妙に優しかったりしてたからな。
で、酒の勢いを利用して既成事実を作った訳だ。
佐藤某は強かだなぁ……。
この二人、読み進めていくまでも無く起きたら起きたでおっぱじめやがったし。
こりゃ、流し読み不可避だな。
▼
€月$日
昨日は一日中お互いの気持ちを確かめ合った。
俺はどうやら、いつの間にか佐藤に惹かれてたらしい。
朝、紫苑の居る家に帰った。
紫苑は「電話にも出ないで二日も何してたの!」と詰め寄ってきた。
まあ、確かに無断外泊した俺が悪かったから素直にごめんと言った。
ただ、ここで浮気してたとかとてもじゃないけど言いづらかったから「友達ん家で酔っ払ってたから携帯も放置してたんだ。悪かったな」と謝った。
その返事に紫苑はほどほどにねと返してきた。
いや、だから何でお前の許しが必要な訳?
紫苑の束縛に嫌気が差した俺は何とかして別れようと画策する事にした。
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うん。まあ、あの女も悪いけどお前も相当クズくなったなぁ。
彼女に隠れて浮気とか二股とか。
別れる決心はついたらしいがそれを言葉にする決心はつかないらしい。
『いつの間にかいなくなったと思ったらこんなとこに居たのね……』
そんな冷たい声が聞こえた瞬間、咄嗟に俺は日記帳と大学ノートを背中に隠した。
これはヤバイ。
背中に隠した二冊をコイツに見せたら最悪家が崩壊する可能性がある。
家が無くなる理由が女幽霊のヒステリーとか理不尽過ぎて嫌過ぎる!
『今、何を隠したの?』
「別に……お前には関係無いだろ」
『そう』
今日の紫苑はやけに物分りが良い。
その事から何だか嫌な予感がする。
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