第5話 玲司は物臭
蠱惑的な上嶋さんにドキドキした後、俺は帰宅してからもずっとボーッとしていた。
『ねぇねぇ! パカパカ貸して!』
紫苑が何か言ってるが聞き慣れない喫茶店のBGMの如く右から左へと音が過ぎ去っていく。
端的に言うと此方はそれどころで無い為、聞き流している。
ボーッと携帯をパカパカと開け閉めするのを繰り返していたらピロリンと聞き慣れたメールの着信音が届いた。
俺は怒涛の速さでメールBOXを開き、内容を確認する。
やはりと言うべきか上嶋さんからの着信だった。
目を通してみるとそれは他愛無い挨拶の定型文───では無く、此方を揶揄う様な内容とこれからずっとよろしくとかいう茶目っ気の効いた挨拶だった。
不味いな……さっきから胸の高鳴りが治まらない。
とにかく、返信しないとな……と、思った矢先で紫苑に携帯を奪われた。
『さっきからボーッとしてあたしをシカトした挙句、ようやく動いたと思ったら突然携帯弄り出すとかどういう神経してるのよ!』
突然の事に驚いたが紫苑はいつもの様にただ構ってほしかっただけみたいだ。
「おい、携帯返せ……」
紫苑は俺の言葉を聞き入れず、遂には勝手に
『へー、だからソワソワしてあたしの事シカトしてたんだぁ〜。ふーん、そっか〜、上嶋さんね〜?』
どうやら上嶋さんのメールを読んだらしい。どんだけ常識がなってないんだコイツは……。
心底うんざりしてると紫苑が急に不機嫌な顔になった。
『で? 女の子と遊んでてあたしとの約束はすっぽかしてた訳だ』
約束───それはコイツの未練探し。
そして無事に成仏するまで手を貸すというアフターケアの事だ。
しかし、これは決して約束なんて可愛げのあるものじゃあ無い。
手伝ってくれなきゃ一生取り憑いてやるという脅迫を受けた為、俺は手伝わざるを得なくなっただけだ。
いやまぁ、何やかんや言ったけど今日のところは上嶋さんの事で頭がいっぱいだったから素でド忘れしてたんだけどねっ!
無理矢理手伝わさせてる身分で何様だコイツと
「それについては悪かった。忘れてたんだ。だから今から探すから速く───」
「はぁあああああああああああ!!?」
───携帯返せ。
そう言おうとしたんだが、コイツがいきなり奇声を上げたせいで吃驚して声に出せなくなった。
というか喧しい奇声と共にバキッて嫌な音が聴こえたんだけど気の所為か?
「他の女と遊んでただけじゃ飽き足らずあたしとの約束を忘れてたですって!? 何なのよアンタ! 最低よ!!」
何コイツ彼女気取り?
悪いけど俺は生きてる人間以外は基本NGなんでゴメンなさい……って、コイツ俺の携帯握り潰してやがった……。
うーわ、どうすんだコレ。
上嶋さんに返信出来なくなったし新しい携帯を買う為の出費が……あー、もう何も考えたくない。
あ、そういえば神主さんから貰った御札は拗らせた女性、またはヒステリックな女性の霊に良く効くんだったよな?
あの御札、まさにコイツにぴったりな効能じゃねぇーか。
あーでも胡散臭いしコイツに効く訳も無いだろうから別に使わなくていいか。あの御札の事は忘れよう。
もうコイツは放置でいいや。
後ろでギャーギャー騒ぐ紫苑を放置して、俺は未練の手掛かりを探し始めた。
とは言っても、探す所はもう一箇所しか残されていないんだけど。
その一箇所とはクローゼットの事だ。
毎度の事
ガラガラと開ける。
当然と言うべきか触れる事すら許されなかったから中身は空っぽだ。
不味いな……この家じゃあもうここ以外調べる場所なんか無いっていうのに……。
もう後が無い俺は何かないかクローゼットの中を隈無く探索した。
「……やった」
そしたら隅っこに凝視しないと気付かないレベルの上手い隠し方をされた扉を見つけた。
しかし、その隠し扉には御丁寧に鍵が掛けられていた。
その鍵を俺は───
「ヘアピン何処に仕舞ってたかなぁ……」
───ガチャリと難無くピッキングした。
俺は高校生の時に短期バイトでピッキング作業をしていた。
給料が高くて当時は滅茶苦茶稼がせて貰っていた……と、今はそんな話どうでもいいな。
中身を確認すると、そこにはA 4サイズの封筒と日記帳が入っていた。
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