第3話 神主は変人

「ごめんください」


 念願の陰陽神社にやってきた。

 すると奥から箒を持った白い着物の渋い感じの中年イケメンが愛想の良い笑顔で出迎えてくれた。


「それで少年、この神社には如何様な目的で来られたのだ」


「あの、俺曰く付き物件に住んでて、それで本当に出て困ってるんで神社に来ました」


 神主はフムと困った様な素振りを見せる。

 あ〜これは信じてないなと思った俺は面倒な問答が始まる前に先手を打った。


「先に言っときますけど冷やかしじゃないですよ」


 本当に出るしと付け加える。

 そしたら神主が何か思い付いたような顔を見せた。


「ああ、もしかして前任者が言っていたサニーガーデン102号室の……そこの新しい住人かね?」


「そうです! それでアイツを祓ってほしくて……」


「成程……。と、スマンが今の一言で疑問に思ったのだがとは? 単純に悪霊をアイツと呼称する者もいるが、少年の言い方からは知人に対してアイツと言っているようなニュアンスだった。これはどういう事だね?」


「自分でも何故かは分からないんすけど、俺にはあの女が見えてるみたいなんです。声も鮮明に聞こえるし……だから知人みたいな感じに聞こえたんだと思います」


 神主は少し考える素振りを見せ、俺に向き直った。


「済まないが少年、私はこう見えて多忙でね。今からの依頼となると早くて十日後に君の家に向かう事になる」


「十日後……そうですか……」


 俺は苦虫を噛み潰したような顔で俯く。


「そう顔を顰めるな。何、私は腕だけは一流と言われている故、期待して待っていると良い」


 神主はニヒルな笑みを浮かべる。

 おいそれ神主がして良い顔じゃねぇーだろ。


「私の血筋は安倍晴明の孫の初めて出来た男友達の姉の娘の初孫の従兄弟の成績不振で高校時代危なかった母親の従姉妹の高校で元クラスメイトだった男子生徒の弟の孫のワンナイトラブのつもりが一発で出来ちゃって授かり婚した不良娘の初恋の女友達の隣の家に住んでる人の男友達の女友達の姉の息子だ。安心して良い」


「果てしなく赤の他人じゃねぇーか! それの何処に安心する要素があるって言うんだっ!?」


「確かに私の母は陰陽師家と何ら縁も所縁も無いが、私の父の方が安倍晴明の直系子孫なのだよ」


 どうだか……。


 しかし、十日だ。

 確かに長いが十日間我慢すれば後は如何様にでもなる……と思う。

 この神主の事は胡散臭過ぎて余り信用出来ないが取り敢えずあと十日の辛抱だ。


「だがな少年、そう不安そうな顔をされると此方も心苦しい。故に……」


 何やら神主がゴソゴソと袖の中を探り始めた。


「この塩と御札を授けよう」


「…………」


 やばい。どう反応していいか分からない。

 百均で見た事ある安っぽい食塩と如何にも怪しい御札を目の前にどう反応しろっていうんだ?


「どうした。要らないのかね?」


「あっ、い、いや、有り難く頂戴します!」


 食塩と御札を手渡された俺は物凄く微妙そうな顔をしていただろう。


「ちなみにこの御札は拗らせた女性、またヒステリックな女性の霊に良く効く」


 えらくピンポイントな効果対象だな……やっぱり胡散臭い。


「ではな。私はこれからゴーストバスターの八作目をクリアして気を高めねば為らぬ故今日はもう帰るが良い」


 神主はそう言い残し、社務所に入ってガチャリと鍵を掛けた。


「ちょっと待てぇえええ! それって今CMで流れたりしてる大人気シリーズの最新作ゲームの事じゃねぇーか! さっき多忙って言ってなかったっけ!? 時間が空くのは十日後って言ってなかったっけ!?」


「少年、今日の受付は終了した」


 それだけ言い残して神主の影は社務所の奥深くに消えていった。

 外には一人ポツンと残された俺……。


「ふざけんなぁあああ! さっきは受付すらしてなかったじゃねぇーか! マジどうすんだよこれぇ……本当にあの神主に任せて良いのか? 任せて大丈夫なのかぁ!? これから十日の間この安っぽい食塩と如何にも怪しい御札でどうアイツをやり過ごせっていうんだぁあああ!!」


 ゲームでゴーストをバーストする時間があんなら俺ん家のゴーストもバーストしてくれよぉ……。

 いや、確かにゴーストバスターVIIIエイト面白いけどさ。

 俺は膝を地面に突いたOTZの体勢で泣きたくなった。


 ふと「言い忘れていたが……」と扉越しに神主の声が俺の耳に届く。


「その御札は本当に危険だと思った時に使うのだ」


「だからっ、その御札が怪しくて信用出来ないって言ってんの!!」


 極め付きに神主さんも! と、俺の魂の叫びは虚空の彼方に消えていった。

 ちなみに結局神主はそれっきり社務所から姿を現さなかった。




 ▼




 折角の休日を無駄にしてしまった。

 俺は公園のベンチで缶コーヒーをグビグビと呷る。


「神主が当てにならないとなるとやっぱしアイツの未練を見つけて解決まで導かないと終わらないのか?」


 俺は綺麗な夕日を携帯でカシャリと撮りながらこれからの事を愚痴った。





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