「ここがな、ギュンってするねん」

 弓子がベッドで、服など知らない獣のように裸のまま仰向けになって、鳩尾の辺りを指した。

「ギュンてするて、どんなんやねん」

 彼は、ベッドの縁にやはり裸体の尻をかけて、缶ビールを一口に半分ほど飲んだ。弓子に酒を乞い、貰った。彼女の兄のものらしかった。

「ギュンは、ギュンやよ。昔からやけど、あんたと会ってから、ひどい」

「なんでおれのせいにされなあかんねん」

「せめてへんよ」

 彼は、その疼くという弓子の鳩尾を眺めた。微かに歪な、どことなく切ないへこみがあった。生まれつきのものだろう。

「ほんまにせめてへんのよ。痛いんちゃう」

「きもちええんか」

「ううん。ギュンてするだけ。からだが、からだって感じ、するだけ」

 彼は、自分の身体を、自分の身体のように感じたことは、ない。機械のように思う、といったこともない。身体などというものは、信じていない。

ふと、弓子の言葉を、いや、彼女のなかに湧く実感を、うんと茶化したくなった。

「アルコール消毒したろ」

 彼はビールを口に含んで、ゆっくりと鳩尾に垂らした。ビールは泡立ちながら凹みに溜まり、やがて崩れ、流れた。穴から横腹にかけて、静かに光った。弓子が、目を閉じた。

「あ、また、ギュンってした」

 弓子は、あどけなく笑った。


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