ともに暮らすようになったのが、あやまりの始まりだったのかもしれなかった。ともに暮らす、といっても、職にもつかず方角のない生活を送る彼が、弓子が母親と一人の兄と同居する小さな一軒家に、住みついたのだった。弓子には近所のパチンコ屋の、軽食やジュースを出すところで声をかけたのだった。

 幾人かの知り合いからかき集めるように借りた金をすった。するために借りたようなものだった。縁も金も鬱陶しかった。当たればそれも良いという下心もないではなかったが、負けて諦めがつくことで、綺麗に死んだ。

 そのスペースには、新聞を手に取り四コマ漫画を読むために、立ち寄った。そこに弓子はいた。革の剥げた、毒々しい黄色のソファに腰かけて、テーブルに広げた新聞を見ていた。テレビのラテ欄だった。どことなく希薄だった。といっても、そこにいるのかいないのか分からないというふうにあたりの空間に触れていたのではなく、むしろあまりに馴染んでいたから見落としそうになった。ソファや、棚にずらりと並んだぼろぼろの漫画や、ラックの二・三か月遅れた雑誌らと、よく似ていた。

「おもろいか、それ」

 彼は、当てずっぽうに声を出した。やけくそのようなものだった。そうでなくては、ナンパじみたことなどできるはずがなかった。弓子は、知っている者に声をかけられたように、無警戒に肯いた。

「今日帰ってからなに見るか、考えてんの」

 彼女は、そう答えてから、自分が誰と話しているか知ったように、目を泳がせた。彼は、あわれないじらしさに、そっと、嗜虐心をそそのかされた。

 手を引かずとも、手を引くような素振りをみせるだけで、付いてきた。怯えるようでも、すがるようでもあった。

 そのまま、すがらせ続けているうちに、家へあがりこむようにまでなり、ついに孕ませた。


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