043  幼馴染と言うのはそれ以上、それ以下でもないⅧ

「あんたも早く来なさい」

 春は冬月の手を強引に引っ張りながら、立ち上がるのを拒みながらも何としても連れて行こうとしている。この場合、俺はどっち側の立場になればいいのだろうか。冬月も道ずれにする。それとも春を止める。どう捉えても究極きゅうきょくの選択である。

「天道君、少しは手伝いなさい」

 キレた口調で冬月は俺に助けを呼ぶ。一歩後ろに下がり、両手を上げてお手上げ状態をジェスチャーする。どっちに肩入れしようと最終的にはどちらかには責められることは間違いないだろう。

 その後、俺は視線を逸らして事が終わるのを待った。

「だから、私は遠慮えんりょするって言っているの」

「そんなの拒否権に入らないわ。さあ、行きましょう」

 と、二人の論争ろんそうが目の前でまだやっている。引っ張り合いではやや春の方が優勢である。

 そして、二人の激しい衝突からニ十分後、

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 というわけで両者ともに引き分けである。

「ひ、一つだけ分かったことがあるわ」

「何? 是非とも知りたいわ」

「あなたはもう少し人の気持ちを考えた方がいいわよ」

「じゃあ、梓ちゃんはコミュニケーション力を身に着けた方がいいわよ。ああ、でも毎日そんな引きこもりみたいな性格だったら無理だと思うけれどね」

「お前ら、どうでもいいけどさ。そんなに欠点をざっくりと言われて心が折れねーわけ?」

「「うるさい、このクズ」」

 二人同時に揃って俺はご丁寧にクズ呼ばわりされたのだ。

 春は隙を見て緊張を解いた冬月に飛びかかり、

「というわけで、強制連行きょうせいれんこうして行くわよ」

 両手が不自由になった冬月は、溜息を何度もしながら俺の方を何度も睨んでくる。俺はその光景を見ると目をつぶりながら春たちの後ろを歩いた。

 もう、それは仕方が無いことです。我慢がまんすればいいと思います……。

 冬月はそのまま春に連行されながら外に出て目的地に向かった。

 自分のためで人の事なんかお構いなしの少女がこの後、どういう結果になったのかはまだ、知る由もなかった。

 この騒ぎ、早く終わらないか?先生は、あの中で良く怒らなかったものだ。て、それはいいとしてもうどうにでもなれ。



 そして、約一時間後、俺達は研究室に戻っていた。凄く落ち込んで顔を上げようとしていないのは春ではなく冬月の方であった。俺は冬月の肩をポンと叩くと脱力をしているのか体が前後に簡単に動いた。俺は向かい側のソファーに座るとそっとしておこうとバックの中から本を取り出して、スマホで時間を確認すると静かに読み始めた。何一つ事情を聴こうとしない教授。まるで空気の存在のようだ。

 俺が本を読んでいるともうそろそろ時間になるなと思い、本を閉じてバックの中に入れようとした時、春が悔しそうに帰ってきたのだ。

「あ——、もう、なんなの、く——や——し——い——。というか、二対二のタッグ勝負も強すぎよ!」

 地団駄を踏みながら悔やんでいた。

「お前らが協力しなかったのが敗因だろ」

「違うわよ。あいつら絶対シークレットの機能を使っていたんだわ。チートよ、チート……」

 それは違うだろ。正式な、それも最新のゲーム機に細工さいくなどできるはずがない。まあ、一つ前の世代とかだったらそういうソフトがあったんだけどな。

「それに何、あのテクニック。全てにおいてやりこみすぎよ。ボタンの操作は荒いし、やっぱ最新は持っている方が強いということね」

 やりこみすぎはお前も一緒だろう。

「もう嫌、私、今日は帰る。後はよろしく」

「あ、ああ」

 バックを背負うと、勢いよく扉を開け、そして、勢い良く締めた。

 俺は落ち込んでいる冬月を見ると何かぶつぶつと言っている。それに黙っているとこれはこれで面倒くさい。

「この私が負けるなんて……。あり得ない……」

 聞き取りずらいが、確かにそう言っている。しかし、冬月の負けず嫌いは春とどこか似ているらしい。

「……私も疲れたから帰るわ。それじゃ……」

「お、おう……」

 今日は二人とも散々だったらしいな。って……それを見ていた俺はどうすることもできない。

 ゆっくりと立ち上がるとふらふらと歩きながら、研究室の外に出て行ってしまった。それを見ていた俺はちょっと、複雑な気持ちになった。

 これは明日、どうなることやら知ったことではない。まあ、俺にとっては少し罪悪感ざいあくかんもあるが今日の所はここで帰るとしよう。

 俺は先生に挨拶すると研究室を出て、帰宅した。

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