042  幼馴染と言うのはそれ以上、それ以下でもないⅦ

 二日後の放課後、とうとうこの日が来たと思いながら、授業で疲れきった体を運びながら研究室へと足を運んだ。

「こんにちは」

 研究室には本を読んでいる冬月梓ふゆつきあずさと、必死になって仕事をしている藤原先生がいた。

 俺が思うに冬月はいつも本を読んでここにいるが、他に趣味とかないのだろうか?

 俺は挨拶をして入ると冬月は後ろを振り返るがすぐに本に集中し始めた。……でも、久々の静かさに俺は感動したりするんだけどな。

 そう言えば、この頃はいろんな奴に散々振り回されてきましたからね。

「今日は冬月だけか?」

「そうね。私たち以外の三人は誰一人来ていないもの。でも、人数が少ない方が私もあなたも静かな時間が過ごせていいでしょ」

「確かにそうだな。しかし、春の場合はどうなる。あいつは今日、道場破どうじょうやぶりとかで来ていると思っていたんだけどな……」

 いつもよりホッとした表情でいる冬月に、俺はそう言った。

「でも、これ以上至らなぬ点に触れているとそれが現実になってしまうかもね。それでも、私には関係ないし巻き込まれる要素がないからいいのだけれど……」

「お前、悪魔あくまだな」

 微笑みながら少し首を斜めに傾げる冬月にイラッとしたがそれでも何故だろうドキッとしないのは俺の悪い心がそう言っている。

「あら、それは誉め言葉と受け取っていいのかしら」

「想像にお任せします」

 俺は下らないことを言いながら、ソファーに座ると自然放射性崩壊しぜんほうしゃせいほうかい、アインシュタインの質量などを頭に浮かべながら余計なことは考えないようにしていたが……。

「こんにちは!」

 そして、即終了。俺の今日の癒しの生活はものの十分もかからなかった。春は元気よく研究室に入って来た。

「……今日は二人だけ? 他の二人は?」

 いつも通りの通常運転で春はノリノリで訊いてくる。

 たぶん、善政は今日が面倒なことになると思って、あえて回避かいひしたのだろう。頭のずる賢い奴だ。

「知らん。それで今日は遅かったな。どこで何をしていた?」

「普通に授業受けて、……と言っても後ろの席で隠れながらゲームをしていただけだけどね。それに今日は外部の人間の講演会こうえんかいだったからつまらなかったわ」

 それでゲーム機を片手に持っていたというわけか。

「それに今日はとうとうこの日がやって来たわ。さあ、何処へ」

 生き生きとした春は、ソファーに自分の荷物を置くと先生に借りていたものを返し、鞄の中から何かを取り出した。

「これがこの三日間で私が試行錯誤しこうさくごして考えた資料よ。どこでどのような状況の時でも対処できるわ」

春は俺の目の前に普通の教科書並みの厚さのA4用紙の束を出した。この三日間でどれだけやりこんでいたんだよ。よく見ると目にクマが出来ているような……。それに細かく分析しているよな。これだからガチ勢は理解できない。

「それじゃあ、行くわよ」

「誰が、何処に?」

「そうね。私とあんたがゲーム部に」

 やっぱりそうなるのね。拒否権は無しということか。

「そして、善政の代わりに梓ちゃんも追加でね」

「え……?」

 本を読んでいた冬月が小さく声が漏れた。

「だって、あいつたぶんだけど逃げたんだわ。この脳にビビッと来るのよ」

 どこの電波少女だよ。まあ、合っているには合っているんだけどさあ。それにね、巻き込まれる方の身にもなってみなさいよ。俺は何もあらんことを祈るしかありませんね。

「何で私まで巻き込まれているのかしら?」

 冷たい視線を送る冬月。

「えーいいじゃん。どうせ暇でしょ」

 軽いノリで言う春は冬月など怖くないのだろう。

「はぁ————、ちょっと考えさせてもらうかしら。何の意図いとも分からないし。そもそも、私には意味のないことよ」

「いやいや、私には意味があるんだって」

「お断りよ。私にはマイナス要素しか考えられないわ」

「そんなの関係ないわ。さあ、行くわよ」

「だからって、強引に引っ張らないでほしいのだけれど……ね、ちょっ……聞いているの?」

「言い訳は後で聞くわ」

 ああ、冬月の冷たい態度が全く聞いていないというか無力化されているような気がするが、あいつの天敵はこういう性格の奴なのだろうか。でも、これはこれで見ている方にとっては面白い状況である。

「は、放しなさいってば」

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