034 時には夢を見たいと思うことがあるXVIII
「ま、今日は二人とも疲れただろうから話は後日と言うことでいいかな」
藤原先生帰ってきた俺たちに飲み物を渡しながらそう言った。
気づけば、陽は西の方へ沈もうとしており辺りは暗くなってきた。時刻は午後の五時半。これから少しずつ昼間は長くなっていくが今のこの時間帯は少し冷たい風が吹いて来る。急いで服を変えて持ってきたジャージを着た。
「今回は残念だったわね。見ていたけど、あのゲーム以外、本当に彼女はいい動きをしていたわ」
着替えている時、冬月が近づいてきて声をかけてきた。
「まあな。本当は優勝する気でいたんだけどな。相手のペアがそれだけ息があっていたということだ」
「そうね。急増ペアがここまでやるとは思ってもいなかったし。それに彼女の表情を見て……。あんなにもすがすがしい表情をしているわ」
振り返って、笑顔で先生と話している夏目を見る。
「そうだな。これで良かったんだろうな」
そして、一時話をしながら現地解散となった。
数日後、
スポーツをするときの
「……久しぶりね。元気にしてた?」
冬月から出されたお茶を一気に飲み干す夏目を見つめたまま聞いた。
「う、うん。あの後、少しずつ練習でも試合でも調子が良くて、昨日、県の大きな大会があったんだけど……簡単にはうまくいかないね。結局のところ、ベスト8止まりだったよ」
「すごいじゃない。ちゃんと経験を生かしているわね」
冬月と夏目は楽しそうに話を続ける。
「それで自分的には答えは見つかったのか?」
「ううん……。でも、
「さいで……」
俺は少しうれしそうにそっぽ向いた。
「でも、これで俺の研究も少し進んだことだし今回はこれで良しとしよう。夏目、お前に提案があるんだが聞いてみる気はないか?」
藤原先生はパソコンの電源を切り、俺の隣に座った。
「な、何ですか?」
「お前、うちのゼミに入る気はないか? 人は多い方が俺の研究にも役立つ。
先生はこの研究に関わっている人にはどうしても入ってもらいたいらしい。なんとなくだが先生の考えも分かるような気がした。
と言うことは、毎回、あることにこの部屋には
「まあ、たまに遊びに来る程度ならいいですけど……」
「そうか。いやー、良かった。断られたらどうしようかと考えていたところだ。本当に良かった」
絶対、断られたら無理やりにでもいるはずだったですよね。あんた……。
先生は喜びながらウキウキとコーヒーを入れた。
と、話をしていると扉の方から叩く音が聞こえてくる。ここは四階だ。あまり人は通らない
扉が開くと、一人の少年が入って来た。
「ここに
大声で耳を塞ぎたくなるような挨拶に誰もが引く。
どこかで見たような声に右手には将棋の本を持ってずかずかと部屋に入ってくる。黒髪黒目に長いズボンに薄い長袖の上にパーカーを着ていた。
その様子に
「……誰?」
「おお、これは失礼した……。ひょっとして俺の事を知らないのか?まあ、仕方が無いよな。あっちの世界では有名だけどな……」
冬月が訪ねると大きな声を持つ少年は平然と何も感じずにぺらぺらと口を滑らし、話し続ける。
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