031 時には夢を見たいと思うことがあるXV
「あなたって本当に最低な男だわ。女に全て責任を負わせるなんて、とんだ根性のあるようね。考えがおかしすぎて笑ってしまったわ。そんなのどんな社会でもあることよ。人を罵ることはね……」
冬月は腹を押さえながら笑いを必死にこらえようと手で押さえながら話す口調は確実に笑っていた。
「うるせえ!」
「あなたが何を考えて、何を企んでいるのかがようやく分かったわ。でも、これだけは言わせてもらえるかしら」
「なんだよ」
そう言うと冬月が真剣な表情ではっきりと言う。
「失敗は許されないわよ。私たちは失敗を次に生かせるのかもしれないけれど、相談者にとっては失敗されたら後がないの。これだけは覚えておいて」
どこかの名言なのだろうか。冬月がそう言うと、なんとなく説得力あるのはなぜだろうか。
すると、近くにあったスピーカーから音声が流れた。
『ミックスダブルスに参加するペア選手は開会式が始まるので6・7番コートに整列してください』——————
近くにいた選手たちはぞろぞろと開会式の場所に移動を始めた。
それからというもの開会式が終わり、予選ブロックが始まった。俺達は一試合目から出場し、三試合全ての試合は危なげなく余裕の予選を突破していた。
「今のところはいいペースね」
「ああ、恐ろしいくらいだ。俺の想像より遥か上を行っている気がする。このまま、何もなければいいんだが……」
「そうね。でも、これからが修羅場よ。私は蚊帳の外だから手出しは出来ないのだけど、出来るだけのことはするわ」
冬月は微笑みながら俺を見る。その言葉をそのまま夏目に言ってあげると物凄く喜んでくれるはずだ。
しかし、本当にここからがつらい本選トーナメント戦だ。県北の実力のある選手と当たるのは避けられないのだ。
例えば、このAブロックの一位通過のペアはどちらとも県内ランキング三十位に入っている選手だ。当たるとすれば決勝だがそれでも二回勝たないといけない。
「ねぇ、天道君。このままいくと優勝できちゃうかもね」
夏目はうれしそうに声をかけてくる。
「はぁ?優勝なんかそんな浮かれているようじゃ一回戦負けだってあり得るんだぞ」
「そ、そうだね……」
「そうだ。テニスなんて例えるなら将棋だ。クロスに打つとしたら角道をあけるだろ。ストレートだったら飛車、
「訳わかんない」
?マークを浮かべながら首を傾げた夏目が言う。
「いや、分かれよ。頭のいい奴は大抵理解するぞ。アホでも分かるように説明してやったのに……」
ふと嫌な思い出がよみがえる。
『あ、あのこれとこれやっておいてくれないか?』
『あ、うん。分かった』
『俺は何か名所になる場所を探しておくから』
そして、次の日————
『昨日のあれ、やっといてくれたか』
『ごめん。時間がなかったの』
『あ、これ。俺が押さえておいた資料。目を通しておいて』
『あ——、その話。私がやっておいたの。それに名所なんてどうでもよくない』
以上。
修学旅行と言ったら名所めぐりだろ。それにその担当を受け持ってやったのに勝手にやられていたこの屈辱。あの女、その後には色々と現場で変更していったり挙句の果て、教師には怒られるはで散々な旅行の思い出がある。
「それに私、アホじゃないし。大学入るくらいだから普通程度の能力はある」
夏目は俺の目を見ながらそう言ってくる。
「じゃあ、なんでここに入学できたんだ?」
「それはスポーツ推薦で……」
「だろ?」
俺は両手をあげてやれやれと呟く。
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