029  時には夢を見たいと思うことがあるXIII

「それはどうもありがとう。俺は単に集中力を高めながら何も考えずに打っただけだけどな。それに右腕の力はあまり入れないように手だけに集中してたな」

「なるほどね。天道てんどう君だからこそできたスキルなのね」

「これを夏目に今すぐやれと言っても無理があるが練習あるのみだがそれとも別に違う案がないとも言えないんだが……」

「え、他にも方法はあるの」

 夏目なつめは他の方法もあるならそれも教えるよと目が言っているようであった。冬月は冷たい目線で「あなた、何か隠していたわね」と言っているようであった。

「それって、この事とは別に改善かいぜんされる策があるって言うことよね」

「ああ、でも、この練習を毎日やりながらだけどな」

 俺は威張いばりながら冬月に笑い名が言う。

「夏目がどうしても改善したいなら今すぐにでもその人にアポを取るがどうする?自分自身で決めろ」

「天道君にも何かそれなりの理由があるならそれに挑戦してみたい。だから、その案に挑戦させて」

 夏目は頭を下げながら、俺に強い意志いしを向けてくる。

「いいんだな」

「うん」

「分かった。それなら少し時間はかかるがその日になったら必ず連絡を入れる。それまでは冬月ふゆつきのメニューをこなすこと。いいな」

「本当にうまくいくのかしら」

 自分だけ仲間外れにされたのがあまりにも気に入らなかったのかふて腐れて冬月は小言で言う。夏目は目を光らせながら期待の眼差しをこちらに向けてきた。

 なあーに、俺にかかればお茶の子さいさいさ。ま、俺も一緒にやらないといけないが欠点だけどな。

「あ、もしもし。今度のことについて何ですけど。ああ、そうです。決まったのでよろしくお願いします。名前?夏目未帆なつめみほと言うんですけど……。あ、はい。そうですか。では、よろしくお願いします」

 俺は電話越しでぺこりぺこりと頭を下げながら電話の主に頼んだ。

 全ては整った。ショーはこれからだ。

 なんとなく中二くさいことを思った俺はニヤッと笑った。



 それから約二週間たった土曜日。朝から夏目未帆の所に電話を入れ、テニスコートに金と道具を持って来いと連絡を入れた。もちろん、その後に冬月と藤原先生の電話にも連絡を入れた。

 二週間前来た時は、人はあまりいなかったが今日は約百人くらいの人々で賑やかになっていた。俺は場所を確保して、三人が来るのを待ちながら今日のコートの状況を把握していた。

 しばらくすると、三人が揃って俺の目の前に現れた。

「ねぇ、朝っぱらから電話をしてきてすぐにここに来いって言っていたけど……。これは一体何なの?」

 冬月は機嫌きげんが悪そうに俺の方を見てくる。その隣できょとんと首を傾げながら疑問に思っている夏目が何か言いたそうにしている。

「うわぁ——、何これ。テニスをしている人がいっぱいいるんだけど。今日は何かの試合でもあるの? それに私には試合ができる格好をして来いとか。意味が分からないんだけど……」

 意味わからないんじゃないんだよ。お前のために俺がわざわざ用意したんだよ。そんな引かなくてもいいだろ。

「そうだ。今日は混合ダブルスの試合だ」

「混合ダブルス?」

 冬月はあまり反応なしで何を言っているんだ? こいつとしか思っていないだろう。それもそうだ。だって、話していないし。

「それで誰と誰がその大会に出るってわけ?」

「俺と夏目だよ」

「え? 私? ……ちょっ、待ってよ。私はまだ出るって言ったわけじゃ……」

 夏目は困惑しながら口を開く。冬月はああ、なるほどと頷いた。

「夏目さん。まずは天道君の言う通りにしてみなさい。彼には彼なりの考えがあるらしいから。ま、それでも何も得られなかったときはあなたのせいではない。社会が悪いのよ」

 冬月は夏目の方を向いて、温かい目で優しく声をかけた。

 あのね、社会が悪いって言うのはあんまりじゃないですか? 神様もそれは困りますよ。絶対に……。

「まあ、ともかくお前は俺とペアを組んでA・B級の優勝を目指す。これが最短で最高の対策だ」

 夏目はええーと言いたそうな気分でいる。そして、なんでお前とペアを組まないといけないの? と思いながら口を開こうとする。

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