027  時には夢を見たいと思うことがあるⅪ

「何故か、確実に決めに来ているのが少しイラつくわ」

 冬月ふゆつきは上から俺を見下ろして、冷たい視線で俺を見た。

「これは戦術だから。誰でもやっていることだからな」

 お前が上から見下ろしていると悪の女王に見える気もするが……。

 そして、ゲームは続いて行き、3—3スリーオールのイーブンが続いた第七ゲーム目。夏目なつめはどんどんファーストサーブの入る確率が低くなってきた。俺は手を抜かずにどんどんポイントを重ねていく。第八ゲーム目は余裕でゲームを取り、3—5スリーファイブの第九ゲーム目。夏目は又もやミスが連続で起き、最後のマッチポイントではダブルフォルトであっけなく勝ってしまった。

「そこまでのようね。3—6スリーシックスで天道君の勝利ということでまずは休憩にしましょうか」

 冬月は審判台から降りて、早歩きで自分の荷物の場所に行ってしまった。

 冬月は荷物の置いている場所に行くと水筒を取り出し、コップにお茶を注いだ。

 俺も一旦コートを出て、タオルの交換をして新しいタオルで体を拭いた。

「それじゃあ、夏目さんの問題点について意見を出し合いましょうか」

「まず、俺からいいか。第七ゲーム目以降の夏目なつめの動きが鈍くなっていた。それまでは普通に良かったんだけどな」

「なるほどね。私もあの辺からあなたの動きがおかしくなっていっていると思っていたわ」

「なんか、二人が揃って同じ意見を言うとそれしかないと思ってくる」

終盤しゅうばんになるほどミスが多くなっているからな」

「これって単なる体力の限界と考えた方がいいわね。それ以外考えられないもの」

「そんな簡単なものだったの!」

 驚いて聞いている夏目に冬月は肩に手を乗せた。

「大丈夫。体力トレーニングをすれば大丈夫だわ」

「それって、一人でもできるよね!」

 三人の話を聞いていた藤原先生は溜息をついた。

「ちょっと、三人ともいいか。俺が思うに夏目は終盤戦になるほど勝ちにこだわりすぎてミスが多くなるんじゃないか」

「……なるほど。それで先生の意見はどう言いたいんですか」

 冬月は先生の言葉に耳を傾けながら質問をする。

「ああ、勝つという気持ちが高くなっていくほど人間はそれ以上の力を出してしまうんだ。それはどのスポーツでも同じことで、力が入りすぎると体が言うことを聞かないって聞くだろあれは勝ちを意識しているからだ。つまり、夏目の場合、あまりにも勝ちにこだわりすぎてプレーに集中できていないと俺は思ったんだ」

 よく見ているな——。この人……。

「確かに言われてみればその点も視野に入れないといけないわね」

「それでこれからの対策はどうする?課題は見つかったんだ。後はそれをどうするかだろ」

 そう言いながら、冬月に聞いてみる。

「一つ一つの個別の練習ね」

「個別練習ね……」

 俺はどう考えても力身を取らないといけないからこれが最善かと思った。

 時間がないし、彼女の依頼は完璧かんぺきにしないといけない。それは諸刃もろはの剣のようで使いこなせなければ一瞬にして崩れてしまう恐れがある。もしかすると、彼女のこれからの人生に大きく影響してしまうのかもしれない。正しいやり方で尚且つ、慎重しんちょうにやらなければただの時間の無駄である。

「早速だけど、夏目さん。サーブの練習でもしましょうか」

「あ、はい」

天道てんどう君。そのボールかごをサーブの打つときの後ろに置いてもらえるかしら。それと逆コートにこの小さなコーンを四つサービスコート置いておいて」

「俺は雑用かよ」

 冬月は色々と指示をしながら俺に言ってくるのだが、それを当然のように動いて作業をする俺……。

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