014  時には大罪を犯すⅤ

 冬月ふゆつきはすぐに言ってくる。

「こういうのはどうかしら。犯人は分かっていて、何を犯行に及んだのかはもう分っている。そして、これは最後の警告であるというのは考えられないかしら」

 なるほど。冬月の考え方は一理いちりあるが、果たしてそれがあるとして……。

 ……待てよ。なら……。

「これは冬月が言う通り、犯人は事前に分かっており、どんな犯罪を起こしたのかもある程度は知っていた」

 冬月はふっと勝ち誇ったようにこちらを向いて微笑んでくる。なんだか、少し負けたような気がする。

「『関する人物』と言っているからね」

「まあ、全校生徒共通のメールで名前など公開告白でもされたら立場がなくなるからな。学校側からの甘いみつの誘いだよ。男をだますような女の使い方だ」

 俺は昔のことを思いだしながら話を走らせていく。

 前を向くと、冬月はドン引きしながら、溜息をついた。それに目を細めながら冷たい目線で俺の方を見てくる。

「あ、いや。そうじゃない。女を憎んでいるんじゃなくて……その……なんだ、あれだ。あれは要するに女と言うものは何かのスパイスでできている」

 そう言いだすと、冬月は少し口を開いて、自分の髪の毛を触りながら言い出す。

「自分の過去のことはいいからそれよりもさっさと働きなさい。本当に憎んでいるならそれでもいいわ。早くして頂戴ちょうだい

「ああ?」

 俺は帷幄をする声で言い返すと、冬月は冷たい目線のまま俺を見る。

「……。さて、それじゃあ、もし、俺がこの事件に関しての犯罪者とする。お前が俺を犯人と知っておいて何をしたのかと思う」

「誘拐、いや、ストーカーね」

「おい。違う。この話での例えだ。ストーカーはないだろ」

 深呼吸をして間を取り、冬月は手を口にあて、咳をして言う。

「もういいわ、それではそれぞれの想像でこのメールの真実を言い合いましょうか。それでこの件に関するものは終わりにしましょう」

「ま、そうなるわな。いいだろう。それぞれ考えた後、十分後。最終結論を出そうじゃないか。まあ、俺の話が一番正論だと思うけどな」

「さあ、それはどうかしら。あなたの思考能力ではわたしを追い越すところじゃ、追いつくことすらできないわ」

 冬月は力強い声で、はっと鼻で笑いながら言う。

 さて、俺は小さくなっても頭脳ずのうは大人並みの少年みたいに推理が出来ると思うかな。だって、あれテレビ番組の最短三十分で解決してしまうんだぞ。人並みの頭の回転力じゃないぞ。こら!


「それでは時間も経ったことだから、それぞれの結論を言おうか」

 ちらりと俺は冬月を見る。何事にも動じない冷静でいる冬月が息を飲んだ。

 俺は言う。

「まず、この犯人は何をやったのか」

「……それなら同時に言いましょう。その方が手っ取り早いわ……」

 提案してくる。

 のど辺りで、唾を飲み込んでから……。

 俺たちはそれぞれ息を合わせながら、最初の言葉を同時に言い出す。

「「窃盗」」

 ……俺は溜息をつく。

「はあ、まったく。なんで同じなんだ?」

「ええ、私もよ。まさかとは思わなかったわ」

 冬月は額に手を当てて、呆れた表情でこの世の終わりかのように言ってくる。俺も同様だった。

「次は何を盗んだからだ。もちろん俺は窃盗と言えば、金を盗んだと思っている」

 冬月は唖然あぜんとして、言葉に詰まり、口をごにょごにょと濁らせながら開いた。

「……どうしてあなたと言う人はこうも人と同じ意見と重なるのかしら。私、今度、病院に行って精密せいみつ検査で受けてこようかしら」

 冬月は、右手を膝の上において、左手で額に手を当てながら、何やら悩んでいる様子であった。そして、横を向いて小さく咳をするといつもの冷静な冷たい目線で俺に向かって言った。

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