013  時には大罪を犯すⅣ

「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ。そして、どのように。日本では、教育現場で国語や英語の文法や文学作品読解の指導に使われることもあると言われているわ」

「いらない解説までどうも」

「どういたしまして」

 冬月ふゆつきは目を閉じたままこちらを向かずに言う。

 俺はまず、このメールの中から要点を押さえ始める。まずはいつ、これは先週の火曜日。どこで、研究所。誰が、ここの大学の学生。何を、ロッカーで何かをした。なぜ、不明ふめい。どのように、不明。

 六つのうち二つが分からない状態である。俺はそこにあった紙に要点を書くと冬月に聞いた。

「このメールからの情報は、これくらいしかわからなかったが、ほかに研究所で何があるのか分からないか?」

 冬月も何かを考えているように見える。

「火曜日の研究室を使用しているのは医学部薬学科の一年生。生命医科せいめいいかの一年生。医学科の三年生が使用していたらしいわね」

 う……うん。なるほどね。なぜ、そのような情報を持っているのかしら。

「冬月、何でお前が研究所も使わない文学部なのによその学部の行動まで知っているんだよ。研究所になんか用はねえだろ」

 すると冬月はくすりと微笑んでいった。

「あなたと一緒にしないでもらえるかしら、同等な立場でもないし、あなたよりはるか上よ。その上から目線めせんは結構、腹立つのだけれど……」

 そう言うと、冬月は人差し指をトントンと素早く何回も腕を叩きながら、イライラ感を漂わせる雰囲気ふんいきを見せた。

 出たよ。人の嫌なところをついてくるその言葉遣い。ま、それは置いておいて貴重な情報は得られた。

「まあ、なぜ、私がそんなことを知っているのかっていうのは研究上の日程表よ。あそこの玄関には、一か月間ごとの計画表が書かれてあって偶々、偶然に見たからよ。あそこにはバス停があるから」

 と、後から付け足して言う冬月は話し終えると作り笑顔を見せた。

 怖い。

「となると、この中に犯人が潜んでいると考える。まあ、学年で考えるなら医学科の三年は無いだろう。学年が上がることに授業の難易度なんいども上がるからな」

「ふん。私も同じ意見ね。残念だけど……」

 冬月は、溜息をしながらつまらなそうな表情を浮かべる。

「それでそのどちらかに潜んでいる犯人はその火曜日に何かを起こした。学生課が呼んでいるくらいだ。このメールからすると犯人は名乗り出ていないな」

 長々と俺の話を聞いている冬月は、あごに手を当てて、何かを考え始める。そして、目をぱっと開き口を開く。

「なるほどね。でも、犯人は一体、何をしでかしたのかしら。天道君だったら……犯行起こそうとも真っ先に犯人扱いにされそうなのだけれど……」

「おい。なんで、そこで俺の名前が出てくる」

真面目まじめに言っているだけよ。だって、あなた、犯罪はんざいを起こす目をしているもの。それ、直しておいた方がいいわよ」

 そう言う冬月は冷たい視線で俺の方を見てくる。

「これは元々だ。今になってはどうしようもない。それよりも話の続きをするぞ」

 冬月が余計なことを言ってくるので、俺は話を元に戻した。

「『ロッカーの件に関する人物』なんて、どうせロクな事でもしなかったんだろ。それにロッカーと言えば荷物しか置いていない。でも、なんで学生課まで呼ばれるのか。どれくらい悪いことをやったのかだな」

「例えば、窃盗。暴力。いじめ。考えられる点はいっぱいあるわね」

 明らかに警察が動き出そうな騒動そうどうを考える。冬月の表情はやや憂鬱ゆううつなものだ。

 ま、それは置いておいて……。

「ロッカーに関する人物と言うのは、俺の予想では何かを盗んでいったと言う意味を示しているんだろう」

「ま、その中ではそれがまともな意見ね」

「だが、その犯人は一体何を盗んでいったんだろう。それになんで学校全体一斉メールを使って呼び出そうとしたんだ?犯人が分かっているみたいなメールの内容」

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