012  時には大罪を犯すⅢ

 ……いやね。俺もさっきそう思っていたところですよ。

「悪かったな……」

「本当にね」

 また、冬月はにっこりと口元を手で隠して、微笑んでくる。

 この女、名にそんなに楽しそうに笑っていやがる。その笑顔は可愛いけどな……。

 いや問題はそこではなくてね。と反論しようとしたが、冬月ふゆつきは微笑んだままいつもの口調で言う。

「どうして、あなたは頭の回転がそんなに捻くれているのかしら、それにもう少し、言葉には気を付けた方がいいわよ。炎上えんじょうするわよ。蒔いた種には毒があるって思っていた方がいいわよ」

 俺は冬月の言葉を考える。ま、確かに一理ある。

 しかし、冬月の言い分を簡単に認めることは俺の負けになるのではないのか?

「冬月。それはお前の理想論りそうろんだ。例え、そんな事になったとしても名前を出さなければいい。何ならニックネームでも書いておけば誰だか分からないだろ」

「そんなの当てになるのかしらね」

 にこりと笑顔でこちらを見る冬月に対して、俺はその笑顔が笑っていないのが怖くて苦笑いをしながら笑みを浮かべる。

「分からん。ま、俺もやったことないからな……」

「それは天道てんどう君が考えることは単純すぎて面白くないのよね。私にとっては子供っぽい」

 冬月は威張って言い返しながら、即座そくざに返してくる。

「子供っぽい、ね……。まだ、十八だしな」

 俺は改めて思いながら、こいつは人を見下すの、好きだよな。その性格さえなければ俺は好きになっていたかもしれんな。って、何を言っているんだ?俺……。

「冬月、ここで一つ何か勝負でもしないか?どうせ暇だろ、お題はお前に任せる」

 俺は冬月梓ふゆつきあずさに何か認めさせたいのか。自ら勝負を吹っ掛けた。でも、ここで引くわけにはいかない。俺にはプライドがある。

「面白そうね。退屈しのぎにはなるかしら。あなたの想像力がどこまであるのか知りたいしね」

 冬月はまた、にっこり微笑んで笑顔を見せた。

 冬月はスマホを開き、何かを見ていると俺のスマホに何か通知が来た。


『学生課より全校生徒にお知らせ。先週の火曜日、研究所のロッカーの件に関する人物は文系学部棟の学生課まで』


 その言葉だけがメールで送られてきた。冬月も同じメールが来たのだろうか。俺は冬月の顔を見る。

「何かしら?」

「お前もこのメールが届いていたのか?」

 と、俺は冬月に聞いてみると微笑んでいるのに気付いた。これは来ていたのだろう。そして、俺は予想していたことが冬月の口から発せられた。

「それなら、このメールについて想像してもらいましょうか。それとも、私を説得することが出来ないのかしら」

 でしょうね。

 その様子を見て俺は言う。

「分かった。お題はそれでいいんだな」

「ええ、よろしく」

 俺が問いただすと、冬月はふいっと視線を横にそらした。

 なら、それでは俺の知識と経験を生かして説明してやろう。そして、お前は俺の説明を理解できるはずだ。同じ、ぼっちだからね……。


「おほん。それではこのメールについて議論を始めようか」

 俺がそう言うと、冬月は教科書を閉じてリュックの中に入れようとしていた。そして、足を組んでこちら見てきた。

「それは議論と言うのかしら、推理披露すいりひろうと言った方がしっくりくるのだけど……」

「あー、そうね。そんなのどうでもいいわ」

 指摘してくる冬月の言葉をスルーして、俺は充電器じゅうでんきを取り出し、コンセントに差し込んだ後、スマホに繋いでから机において見下ろし、考え込んだ。

「まずは5W1Hの確認だ。冬月、どういう意味か分かるよな」

「あなた、私をバカにしているのかしら、小学生でも分かる事よ」

 冬月は不機嫌そうに言いながら、そっぽ向いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る