015  時には大罪を犯すⅥ

「いつか、殺す」

 はいはい、そうですね。そんなに俺と同意見が嫌みたいだったらしいですね。それはもう、俺からも言わせてもらいたい。

「ま、ともかくだ。これでこの事件のメールについてはこれでいいな。それにしても、なんでまだ、五時まで一時間もあるんだ? この時計壊れていないだろうな」

 時計を見ながら、自分のスマホを確認する。画面にはまだ、四時二分と表示されていた。

「そ、私はてっきり話す話題が無くなってホッとしているのだけれど。それより、何? まだ、私とお話ししたいの?」

 なに? それ……。私とお友達にでもなりたいのでも言っているのかしら。ご冗談じょうだんを……。こんな上から目線の女と誰が友達になるだって? そんなことできるはずがない。

「お前さ、高校時代でもいいけどさ。誰かとまともな会話でもしたことあるか?」

 俺はそう言うと、冬月は目をつぶったままこちらを見ずに答える。

「……そうね、私が今の二年生の同級生とまともに話したのはあまりなかったわね。でも、あなたぐらいよ。退屈に長話をしたのは……」

「あ、そう。その話し方だとお前、高校時代あまり思い入れがないことが伝わってくるわ。泣きそうで疲れるわ」

 まぁ、俺も修学旅行や体育祭などの行事イベントで隅っこに一人で行動していたから結構、話していませんね。

 だってね。フォークダンスの時なんかね。俺を嫌っている女子なんか嫌な顔をしながらも人先指一センチぐらいしか触れてこなかったもんね。あの時、親があの場にいなくて本当に良かったと思っているよ。これ、実話……。

 他には修学旅行中、東京ネズミランドで自由行動で一人は寂しく一個ずつ回ったとかね。あの遊園地、一人だと夜のイベントなんか虚しいほどじゃないぞ。

「でも、なんで俺と話すとき、言葉の数が多いんだ?嫌っているのは分かるけどさあ。想像できないんだけど……」

「そうね。あなたに対して話すと日頃のストレス発散になるのよ」

 口元に手を当てて、にっこりと微笑んでいる冬月ふゆつきを俺はその笑顔はずるいと思った。

「あ、うん。ま、そ、そうね……」

「その感じじゃ、人文科でも同じなんだろ。ああ、もういいよ。話さなくて。分かっているから」

 俺が言うと冬月はきっ、と睨みつけてくる。そして、不機嫌ふきげんそうにふて腐れて、頬を膨らませながら言った。

「……天道てんどう君には分からないわよ。もう少し、人の気持ちを考えると進歩するんじゃない。あなた程度だと相当努力をしないといけないわよ」

 いらないことを言わなければ、可愛いものもそうやって、後々色々とヒトの嫌なところを付け足して言ってくるところをお前は直せばいいんじゃないのか?

「でも、今更。お互い、自分の性格は直せないことは分かっているのだからその……」

「少しずつ、変えろとでも言いたいの? お断りよ。私は私のまま、突き進んでいくつもりよ。決して誰も邪魔はさせないわ」

 そう言って、冬月は怒っているのを必死に隠そうとしている。

「だから、程度の問題だろ」

「私の態度が少しでも変われば、世界はきっと変わるみたいなおとぎ話でも言うつもりなの。それはただの現実逃避よ。私には合わないわ」

 そう言うと、冬月は口を閉じて小さく息を吐いた。

 これ以上、空気を悪くしてはなるまい。でも、やっぱり、冬月とはいくらいい雰囲気で話をしようともお互いを認めるのが嫌で衝突しょうとつしてしまう。

 でも、これはある意味、どこか似ているところがあるからそうなるだけで、……。

「ねぇ、こんな話を知っている? ある小さな少女が大きな小学校に通っていました。その少女は、昔、一人だけ友達と呼べる女の子がいました」

 冬月はどこか悲しい目をしながら、話し続ける。

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