008 大学生活は現実を壊すⅧ
「お前ら、このままいくと確実に社会に飛び出せないぞ。現在の日本は弱肉強食の世界。落ちこぼれはどんどん外されていくぞ。特に天道。お前は……ダメ人間になるな。だから、俺がお前らの再提出を利用して、俺の研究のついでにカウンセリングしてやろうと言っているんだ」
「今、利用とか、とんでもない言葉が聞こえたような」
「ああ、何か言ったか?」
「いや——、俺の聞き間違えかな。そうかな——。……なんでもないです」
ターゲットを逃さない視線で俺は段々、声が小さくなり、そして、顔を下向くとそれを見ていた
「冬月。お前もだから毎日、この研究室に来いよ。ああ、それとこの研究室が空いてないときのことを思って、お前たちにはそれぞれ合鍵を渡すからしっかりと通えよ」
「あの、この捻くれた人間のクズ男と一緒にいないといけないんですか?」
「いいだろ。あいつと協調すればどんな人間だろうと対処法が出来るだろ。ま、練習相手と思って色々と利用することを俺は許可するぞ」
「なるほど……」
先生はニヤニヤしながら話すのに冬月は微笑んで納得する。
……あの、俺の対する評価がどんどん落ちて言っていませんかね。話を聞いていると俺が使い捨てのマスク扱いに聞こえる。
そ、そんな扱いしなくても……。
「すみませんが、さっきから人を振り回すようなことしないでもらえますかね。利用するとか、練習相手とか。勝手に話を進めないでもらえますかね」
俺がそう言うと、冬月は首を傾げて微笑んだ。
「ふっ」
「何がおかしい。言っておくが、俺はお前と協力しなければ、口もききたくない。単独行動をお勧めするね」
「……
冬月は鋭い
「自分がそう思っていなくてもお前は本当のことを言わないんだな」
「何をかしら」
「だってそうだろ。お前、俺のことを嫌がっているのにさっきなんて言った? 素直に受け入れる? 馬鹿かお前」
「あなたには言われたくないわ。私は効率を考えて言っているだけよ」
「
俺は冬月に強い口調で言い返す。こいつが言っていることは正しいことなのかもしれない。しかし、俺の意見も正しいのかもしれない。
「それはやってみないと分からないでしょ」
「やってみないと分からない……ね。やらなくても、分かるのもだってあるんだよ」
「そう、でも、私は……いいえ、世界であなたの事が憎たらしくて嫌いよ」
「同意見だ」
冬月は気迫のある声で言うと、俺もそれにつられて言い返す。これが友達同士だったら、縁を切っている自信あるな。
でも、俺にはそんな奴いないからその気持ちわからんけど……。それに真正面で喧嘩をしたのはいつ以来だろうか?妹とした以来か?
「お前ら、いい加減に研究室内で言い合いをするのはやめろ」
嫌な空気を引き裂いた藤原先生はこちらを睨んでくる。それに口調は怒っているようだが表情が怒っているのは意外と珍しい。
「廊下中に響き渡っているぞ。もし、他の教員が来たらどうするんだ。俺が怒られるんだぞ」
先生はいつもなく真剣に俺たちを叱った。それから、表情をいつも通りに直すと、眼鏡を整えて話し始めた。
「まあ、お前らの犬猿の仲は凄く分かった。だからこうしよう。まず、互いを認めろ。これは誰にだって簡単にできる事ではないが時間をかけてもいい。意識しろ。そして、知恵を使え。これからは二人で協力しろ。天道。冬月。お前ら二人に言っているんだぞ。俺からは以上だ。この二つを守ってくれりゃあ面白いことになるからさ。しっかりとやってくれよ」
先生は一人だけウキウキと嬉しそうに盛り上がっていた。いい大人が二十代手前の少年少女をいじるか?普通……。
「は、はぁ……」
ま、協力って言っても形さえそれなりにしておけば、後はどうなっても大丈夫だろ。陰でこそこそとやっていればバレやしないしな。
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