007  大学生活は現実を壊すⅦ

「なるほどね。私は今、非常にイライラしているの。あなたのおかげでね」

「は?」

「あなたみたいな人と話していると反吐が出るの。その口調、ひねくれた性格。そして、何よりもその性格」

 冬月ふゆつきは平然と俺を見下すようにさらりとひどいことを次々と言ってくる。本当に嫌っているのが心底伝わってくる。

 それよりもあなた、さっき、二回も性格のこと言っていませんでしたか。ひどくないですか。いやね、そんなに怒っているんじゃないんですよ。その……あなたも相当捻くれていると思うんですけど……。

 だが、ここで選ぶ選択肢は三つある。一つは言い返す。二つは話を変える。三つは無視をする。最初の言い返すはま、俺が一方的にダメージを受けるだけだ。これはボツ。と言うことは、この中で最も友好的なのは、話を変える。つまり、逃げたいものからは逃げる。最善の措置そちだ。

「それにしても藤原ふじわら先生。遅いな。どこに行ったんだろうな。俺、もうそろそろ帰ろうかな」

「話を変えても無駄よ。どうせ、頭の中で面倒だから話でも変えて嫌なことから逃げる。頭の悪そうなことが考えそうなことね」

「頭の中まで読んでいるのかよ。このアマ……」

 恐ろしい女だ。俺の考えることまで先回りして読んでいたとでもいうのか。冬月梓ふゆつきあずさは底知れずの謎の女だ。先生は一つ上と言っていたがその理由も話そうとしない。

 でも、容姿だけは認めるしかない……。こればかしは馬鹿にできんからな。

 俺たちの言い合いを横から止めるかのようにドアが開いて、藤原先生が戻ってきた。

「すまんな。少し、手間取って遅れた」

「俺、もう疲れたんですけど帰ってもいいですかね」

「ダメだろ。冬月も待たせて悪かったな」

「いえ、別に……」

 藤原先生は目の前の席に座ると俺たちの書いた紙を受け取り、それを見ながら交互に俺たちを見てくる。

「なるほど。お互いに面白い回答をしているな」

 先生は満足そうに笑いながら、満ちあふれた笑顔になる。

「ま、この最後の欄が俺の目的であったんだけどな。それにしてもお互いに面白いこと書いているよな。まとめれば、お互いに噛み合わないって受け取れるな」

「それで、先生はこの後どうしたいんですか?」

 質問しようとした俺はいきなり目の前に指で指された。

 俺は怖気づいて、後ろに退いた。そして、先生は手をひっこめてくれる。

「おお、そうだった。お前らには今後、俺の監視のもと、悩み相談を引き受けてもらう。言っておくけど、これは授業の一環であるからしっかりとやれよ」

「それっていつまでだよ。一週間か? それとも二週間か?」

「質問が多いな……。卒業までだよ」

「はぁ?あんたの頭おかしいだろ。それって、残り三年と十ヶ月も縛られ続けられるのかよ。それになんでこいつと共に行動しないといけないんですか。俺のモットーは単独行動ですよ。大体、こんな女と一緒にいたら俺のヒットポイントいくらあってもたまったものじゃないですよ」

 俺が論破すると藤原先生は「はぁ」と溜息をついて、額に手をやって呆れる顔になる。

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