006  大学生活は現実を壊すⅥ

 今、近くにいる相手の印象は?

 俺を試しているのだろうか。冬月を見ると、彼女はもう、書き終えて紙を裏返しにしてペンを置いた。俺のこいつの印象……。

 嫌な奴で、人を軽蔑けいべつするような鋭い目に殺意を感じる。それに俺にとっては敵そのものでしかない。

「あなたに言われるほど、私は完璧だと思っているから」

「は、はぁ——。どうも」

 ……え、何。今、俺が書いていたのを見ていた?

 普通、個人情報を勝手に見てはいけないだろ。それをやることは中学生くらい。短歌や作文を本人のいないところでこっそり見て、後で、みんなに恥ずかしい所だけを言ってしまう。

 俺は、心の中で彼女に殺意を抱いてしまうもそれを押さえようと顔を引きずったまま座り直す。

 冬月ふゆつきはスマホを取り出すと、電子ブック開いて、何やら読み始めた。読み終えるたびにページ画面を横にスライドしていく。一体何を読んでいるのか横に座っている俺には見えないが大学の試料か何かだろう。彼女は、文芸部だから国語の教科書か、古典の辞書。もしかすると、小説かもしれない。

 冬月は画面から目を放さずに次々とページをめくる。その横の姿は話しさえしなければ完璧な美少女なのだが、年上は、下に対する態度が荒いからな。俺も高校時代、そのせいで巻き込まれそうにもなったな。

 結局の所、先生はこれを基に何を始めるんだろうな。

「そう言えば、あなた、何をやったの?」

 冬月は画面に集中しながら、こちらを向かずに話しかけてくる。

「それは俺が何か犯罪を起こしている前提ぜんていで言っていませんかね」

「違うの?」

「違うぞ。そもそも、なんでそう言う言い方で聞くか? 物事を整理してから追及しろよ。証拠不十分だらけだ」

 俺が言い返すと、スマホの電源を落として、冬月は不機嫌そうにこちらを見る。

「証拠ね……。それを言っているだけで犯人と同じ手じゃない。犯人と一緒にこの部屋にいられるかとかよく見るわ」

「お前はドラマの見すぎだ。それに俺はさっき聞いていたかもしれないがレポートの提出に不備があってこうなった」

 ————あれ? 普通に俺、女子と会話しているような……。いや、待て。こいつは憎たらしい奴だから、それにこれは口喧嘩だ。ノーカンだろ。

 ここは一旦、落ち着かないと取り戻しがつかなくなる。それに自分のペースで話せば相手の手のひらにのせられることはないはずだ。

 俺は深呼吸をして、それから口を開く。

「それでお前は、何で一年生やっているんだ?本当だったら二年生なんだろ」

「……」

 冬月は黙っていて、返事も返してくれない。

「病気か? それともセンターでやらかして、国立一本にしぼっていたとか? 色々と試験には魔物が多いからな。特別なんてないし、時の運だから正直、俺にとってはどうでもいい話だがそこら辺ははっきりしてもらいたいね」

 うむ、これはいい論破だ。ほら、何処かの弁護士にもいるだろ。金を出せば汚い手で勝利してくれる先生。

「あなたには関係のないことだわ。それに知ったところでどうなるのかしら。あなたの人生にでも影響するの? 世界が滅亡めつぼうでもするのかしら」

 冬月は早口で俺を見下す口調で言って、馬鹿にしてきた。

 ……なるほど。このタイプは言い合うほどあらゆる言葉を使って相手を負かす奴だな。それに俺、自分でも恐ろしいほどに不機嫌ふきげんになっているのは何故だろうか。

「分かった。もう、それ以上詮索はしない」

 俺は心を落ち着かせ、苛立ちを押さえながらそれ以上は聞かなかった。

天道てんどう君。人と接している時、あなた、どんな気持ちで接している?」

 何も前ぶりもなく、いきなり聞かれて俺は戸惑った。

 ……何なんだよ。俺に喧嘩でも売っているのか?

 俺は高校時代、最後の三年。クラスメイトと話したのは……二十以下だったな。その時の記憶を思い出すと……。面倒くさい……。

「適当に流して話を切る。長々、話し出すとイライラして息苦しい」

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