005 大学生活は現実を壊すⅤ
「私は辞退させていただきます。他をあたってください。それなら、彼だけを先生が二十四時間、観察すればいいと思います」
うわ——。……それはそれで嫌だな。
「そうか。レポートの再提出をしなくてもいいし、単位をあげようと思ったのだがそれじゃダメか?」
え? タダで単位くれるの? ……それなら、定期テスト受けなくてもよろしいと?
「ダメです。先生、私は自分の手で単位を取りたいので、そんな
「ま、それでも半ば強制的にやらせるんだけどな。お前ら、ある程度、
「いや、先生は俺の保護者か。どう見ても、仕返しみたいな言いがかりじゃねぇか。それに俺は問題児じゃない。ただ、一人の方が楽なんだ」
「これに関しては私も彼の意見と同意見です。なんで私が……」
「だそうですよ。もういいですか。俺、家に帰りたいんですが……」
「はぁ、分かりました。そこまで粘られると
冬月は本当に嫌そうな表情でこちらを向いてそう言うと、俺も雰囲気に流されて頷いた。先生は、嬉しそうにニヤッと笑いながらガッツポーズをしていた。
「すまんな。でも、お前らに責任があるんだからな……。しかし、それ相応の対価は得られると思うだろう。頑張ってくれよ」
先生はそう言うと、自分の机の引き出しから、二枚の紙を取り出し、一枚ずつ俺たちの前に出した。
俺はその紙に書かれている事に目を通す。中学生や高校生が入学当時に自己紹介で使うような内容だった。先生が何をしたいのか全く理解が出来ない。
正直、こんな事をしてどうなるのか。いくら俺がコミュニケーション不足だからってここまでするかね。ま、合っているんだけど……。
「じゃあ、まず、この質問に沿って思っていることお書いてくれ」
と言うと、先生は少し席を外して外に出ていってしまった。
沈黙の中、二十代前の男女二人が密室に取り残され、黙ったまま作業をする。
次々に一つずつ、書かれている質問にペンを走らせながら回答していく。しかし、先生がいなくなってから一度も彼女は口を開こうとはしなく、俺も手だけを動かして時計の音だけが研究室に小さく響き渡っていた。
……これはあれだ。新幹線やバスで偶々隣同士になった二人が最初は挨拶だけを交わすが結局、話す内容が無くなると手に持っているスマホをつい、操作してしまうあれに似ている。
想像して見ると過去にもこんなことがあったような無かったような気もするがそれは幻でしかないのだろう。俺にとっては、青春や女子との付き合い方なんて遠い出来事でしかないね。社会人になっても俺は一人で入れる自信がある。待てよ。俺はそもそも集団行動のできる人間じゃないし、将来ニートってこともないわけではない。
よって、結論付けると要するに俺は人間としてクズなのでは? いやいや、そんなの認めるには早いぞ。
俺はネガティブになりながら、最後に質問にたどり着くと手が止まった。
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