004  大学生活は現実を壊すⅣ

 ————早く、滅びろ。

 それにしても俺と同じく罰を受けるのは一体、どういう奴なのだろうか。例えば、ニート、不登校、凡人ぼんじん……。考えるとどれも同じ言葉に聞こえる。それじゃあ、美少女。あり得ない。現実じゃあるまいし、そんな展開があったら俺に教えてほしいね。マンガのような出会い方を……。

「あの、待たされて三十分も経っているんですが、来ないようなので帰ってもいいですかね。ほら、俺、帰ったらやることあるし」

「どうせ、家に帰っても親のすねかじって何もせずにいるんだろ。自宅通いの生徒のありがちなあるある情報だから帰れないと思えよ」

 藤原ふじわら先生はニコッと笑った表情で俺を見た。

 なるほど。ぼっち生徒の考えは、長年ぼっちの先生には通用しないと言うことか。皮肉だな。

「来たみたいだな」

 先生が立ち上がり、ドアの奥を見る。ガラス越しには人影のようなものが写っていた。

 そして、ドアをノックする音が聞こえてくる。

 先生は返事をし、俺はそのドアを不満そうに眺めていた。

 ドアが開かれると、廊下の光と照らされながら、一人の少女がそこで立っていた。小さな吐息をしながら、右手には手提げバックを持ちながら、後ろにはリュックサックをからっていた。

 俺の目には、一瞬、女神がそれから舞い降りてきたのかと思うほどの印象で、思わず見とれてしまいそうになった。

 彼女は俺に気づくと嫌そうな表情をして研究室に入って来た。

「失礼します。藤原先生、これは一体、どういうことでしょうか。私は何も聞かされていないのですが……」

 きれいな顔立ちに腰まで長い黒髪。そして、何でも着こなせるそのファッションセンス。どこからどう見ても、容姿端麗である。

「あれ——そうだったか? 俺、言ったような気がしたんだが言っていなかったか」

 藤原先生は、言葉を誤魔化そうと必死に言う。

「そうですか。それで、彼は誰ですか?」

 彼女は不満そうに俺の方を向いて来る。目が人を見下すような感じで見る。

 俺はこの少女が誰なのか全く知らない。当然だ。学部が違うのだから。藤原先生によると彼女も先生の教え子らしい。

 文学部人文科一年、冬月梓ふゆつきあずさ

 彼女はその学科でトップの成績を持ちながら誰とも関わろうとしない。友人もいない。いつも一人でいるらしい。

 しかし、何でこんな美少女が普通に友人もいなく。一人なのか、俺と正反対の世界で暮らすはずの彼女がどうもなった句が出来ない。

 それに話しかけても無視されるとこっそり先生は俺の耳元でささやいた。

 ま、俺の彼女と似ているところがあるから、今まで一人でいるんだけどね……。

 それにしても、その上から目線やめてもらえませんかね。俺が負けているみたいで少々、イラっと来ますよ。ええ、それはもう、ギリギリのラインぐらい。

「俺は……」

「彼は理工学部情報科一年、天道信司てんどうしんじ。君と同じく、レポートの再提出者だ」

 俺より先に藤原先生が自己紹介をして、俺はそのままの流れで彼女に挨拶をする。それより、何であんたが俺より先に話し始める。今の流れでは普通、俺だろう。

「どうも」

 俺は席を横に移動して、彼女を座らせてあげようとすると、又もや。嫌な表情をされて嫌々と端っこに座る。

 そんな嫌がることは無いですよね。俺は病原菌じゃないですよ。

 俺達の状況を何も言わずに観察していた藤原先生は、ようやく口を開いた。

「お前ら、初対面のくせに仲が悪いな。いや、それが普通か。天道。言い忘れていたが、冬月はお前より一つ年上だぞ」

 そんな爆弾発言を聞かされた時、一瞬、この空間は時が止まったように感じた。俺は先生が何を言っているのか理解できなかった。

「……は? 今なんて……」

 俺は彼女を見ながら、先生に言う。

「だから、彼女はお前より一つ年上で本当だったら一つ上の先輩。二年生だ。ま、色々と事情があってこれ以上は言えないけどな」

 なるほど。それなら今までの彼女の行動に理解できるね。

「それで、お前らには俺の研究に付き合ってもらうわけなんだが、その内容は二人が人との付き合い方がどれだけ成長するかというのが俺の研究。つまり、人間を人間が互いに観察し合うってわけだな」

 先生が俺たち二人の目を見て言った。彼女は溜息をついて、面倒くさそうに口を開いた。

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