002  大学生活は現実を壊すⅡ

 次の日の午後、又もや研究室で藤原ふじわら先生は額に手を当てて、溜息をついた。

「ダメだ。もう一度やり直し」

「はぁ、またですか。どこがいけないんですか?」

「すべてだ。天道てんどう、お前、ここに入学して一か月経ったが、未だに友人とかできていないだろう」

 藤原先生は俺に向かって指をさしてきた。

「ええ、俺には友人とか必要ないんで、そもそも、友人をなんて作ってどうするんですか。ケンカとか面倒だし、関わる事態、俺は好みません」

「お前はどこか、俺の学生の頃と似ているな」

「そうですか。先生ってもしかして、一人ぼっちで寂しいから毎回、レポートとかで俺を呼び出して、話し相手をしてもらおうかと思っているんですか。結婚けっこんもしていなければ、この大学でも隅っこにいる存在では……」

 一瞬、俺の横を何かが飛んで行った。

 シャープペンだ。後ろを振り向くと、壁に突き刺さっていた。顔にはり傷が出来、そこから血が少し流れた。

「天道。大人の世界には言ってもいいことと、言ってはならないことがあるから気を付けろよ」

 眼鏡で見えないが、目は本気で言っているんだろうな。と、言うことは本人曰く、大体当たっていると言うことなのだろう。

「先生、レポート内容を少し変えてくれませんか。たぶん、このままじゃ、俺、同じものを書いてくるかもしれませんよ」

 ふて腐れながらもレポートの内容に対する撤回てっかいを求めた。

 その言葉を聞いた藤原先生は、ニヤニヤしながら何かを企んでいるよう。もしかして、単位を不可にするのではなかろうか。俺はごくりと息を飲む。

「今、何でもやるって言ったな……」

 うわー、人の言葉を勝手に理解したような言い癖、そういや、高校時代にもそう言うややこしい先生。居たわ——。同級生にもまれにみるあれだ。心の友よ。どこかのガキ大将がやっているやつだよ。

「先生、俺はただ、レポートの内容を変えてほしいとしか言っていないんですけど」

 しかし、藤原先生は聞く耳を持とうとはしない。これが長年、鍛えられた独身の影なる努力なのだろう。俺は何回も訴えかけだが、その度にスルーされてしまう。

 藤原先生は、机に肘をつけ、何処どこかの司令官のポーズを取りながら、そのまま動かず、口だけが開いた。

「天道。お前のレポートの内容について、変更してやる。その代わり、俺の研究に協力してくれ」

「はい? 言っている意味が理解できないのですが」

「言葉、通りだよ。俺の研究に協力してくれるなら変更を認めるって言っているんだ。但し、内容はこちらで決めさせてもらう」

 それって、つまり、俺にメリットとなる要素がどこにも見渡らないんだが……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る