俺のユニバーサルライフは要するにあまりいいものではなく青春的な展開などあり得ない

ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ

第1章  大学生活は現実を壊す

001  大学生活は現実を壊す Ⅰ

 高校生活は青春を謳歌おうかするところ、大学生活は一体何なのだろうか。それは現代の社会ではそれは未だ解明されていない。

 本当に大学生活は何のためにあるのだろうか。そんなことを世の中の大学生は思っているのかもしれない。例えば、キャンパスライフを送る。バイトに精を出す。特別なカルキュラムを受けるとかだろうか。しかし、俺にはそのどれにも当てはまらない。大学生活はニートへとなりかけるところではないのだろうか。

 時刻は午後三時を過ぎた頃、研究室では、教授の藤原洋文ふじわらひろふみが溜息をつきながら、俺のレポートに目を通していた。

 こうやって、目の前で自分のレポートを見られると少し、緊張してしまう。思えば、そう、作文を提出して、その中から良かった作品を全校生徒の前で発表させられる気持ちだ。

 レポート言うのは、どうも面倒めんどう代物しろもので、きれい事の言葉を並べなければならない。政治家がいい例だろう。訳の分からない言葉を並べて、全く、中身の内容を明かさない。

 ま、それはいいとして、この状況、何とかならないのか?

 俺、そんなにおかしいレポート書いていたか?

 確か、レポート用紙十枚分はパソコンで文字を打って、それを印刷しただけだから問題ないはずだ。自分を信じろ。

 藤原先生は読み終えると立ち上がって、机に置いてあるコーヒーポットを手に取り、コップに注ぐ。

「天道。コーヒーでも飲むか?」

「……いただきます。あの、それで一体、何でここに呼ばれたのでしょうか?」

「それじゃあ、このレポートはなんだよ。自分のことについて書いてあって、お前は自信過剰か? 『天の道を信じ、司る男。それが天道信司てんどうしんじ』あほか! こんなレポート受け取れるかどこぞの仮面のライダーかお前は……。」

 藤原先生は、頭をかきながら、レポートを机の上に投げ捨てた。

 頂いたコーヒーをちびちび飲みながら、一息つくと、藤原先生はこちらを睨んできた。

「聞いているのか?なんでこんなレポートしか書けないのかと聞いているんだ」

「それは……俺がひねくれているからじゃないんですか」

「はぁ、お前に聞いた俺が間違えだった」

「そうですか? 俺はここに入学してきて、何も問題を起こしていない優秀な生徒だと思うんですけど……」

「まあ、それはいいとして、これ、再提出な。こんなふざけたものを出されたら評価のしようがないだろ」

 先生が眼鏡をかけていても、こちらを睨んでいるのが伝わってくる。それでこれでまだ、三十代は若すぎるだろう。ああー、怖い。人間見た目じゃないな。

「いや、他に何を書けばいいと? 言っては何ですが、俺、これ以外、何も思いつきませんよ。それに俺にとっては渾身の力を振り絞って書いたものなのですが……」

 一つ、一つ、言葉をかみしめながら、考えながら、言葉を口にする。目上の人にはそれが友好的なものだ。

「あ、そ。言っておくが俺にはお世辞せじとかあまり効かないからな。大体、ガキが考えそうなこともなんとなくわかるからな」

「先生はエスパーですか? それとも地球外生命体ですか?」

「一応、遠回しに言っているようだがどちらとも同じようなものだからな」

「分かりました。では、改めて提出に来ますので今日の所はここら辺でいいですか」

 俺は立ち上がって、目の前に置かれたレポートの束を手に取る。

「分かった。なら、明日の午後まで待ってやるからしっかりと書き直して来いよ」

 藤原先生はニヤッと笑いながら言ってくる。目がそう言っていた。

 鞄の中にレポートを入れ、研究室を後にした。

 夕日が差し、薄暗く見えにくくなるうちに自転車で帰宅しようとした俺は進学して一ヶ月、この大学、あまりにも山奥で行きは登り、帰りは下りと偉い目に遭っている。バスは運行しているが、一時間に二本しかなく、結構不便である。だから、バイクや車での通学者が多いのだがもちろん、俺は免許すら取っていない。これから四年間もこの地獄の坂を行き来しようと思うとやる気をなくしてしまう。お陰で、大学に着いた後と家に帰宅した時は、すぐさま睡魔すいまが襲って寝てしまう自信がある。

 春風が山なりに沿って、どんどん吹いて来る。

 冷たい。空気に触れるたびに凍えてしまいそうだ。これでもかというぐらいにドンドン続けてやってくる。

 俺は震える足をどうにか動かそうと必死になって漕ぎ続ける。右足、左足を交互にしながら山を下り、街に出るとそれからが長かった。俺の家は大学とは反対方向にあり、これから東に残り三十分かけて帰らなければならない。

 ……春休み中、免許めんきょを取りに行くべきだったな。

 でも、免許を取ったら取ったで、色々と金がかかるし、親に言うと「うちにそんなお金はありません」としか返ってはこないだろうな。

 家に帰ると、俺は部屋にこもってパソコンの電源を立ち上げて、レポートの再提出の書き直しに取り掛かった。

 あくびをしながら、長い間画面と向き合っていたのか、時計を見ると日にちを跨いで、朝の三時になっていた。

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