第2話


少し、肌寒い。

店から出て思ったのはまずそれだ。

熱を持った体に当たる風でそう感じるのだから酒を飲まなければもっと寒いのだろう。

フラフラとした足どりで居酒屋を出る。


やっと家族が待つ家へ、2ヶ月振りに帰れると安堵していた

探していた大物を捕まえ、昇進の話もあり、全てが順調に進んでいた。

『浮かれている場合じゃない、』

今までの疲れもあるが酒も回っていたため、久しぶりに通る道をゆっくりと歩いた。だが、2人に早く会いたいので気持ちは急ぐ。


『酌なんか受けてる場合じゃなかったんだ、早く、帰れ』


しばらく歩いているとよく妻と誕生日や結婚記念日に利用していたケーキ屋が見えてくる。久々に帰るんだ、なにか手土産でもあった方が娘も喜ぶだろう。


『ケーキなんかいつでも買えるだろう!早く帰れ!!』


親子というのは顔立ちの他に性格も似るものらしく、二人の好物の苺のショートケーキの入った箱を手に、妻と娘の嬉しそうな顔を思いながら再びゆっくりと歩く。


『そんなのは要らないんだ、早く……!!』


柔らかな色の光がこれからくぐる玄関を照らしている。鍵はかかっていなかった。抵抗も無くこちらに引けた。

ただいま、と声を出してもしん、と静まっている。久々に帰るものだから二人は自分を驚かそうとしているのだろう、そう期待していた。


『……てくれ』


靴下越しに伝わる冷たい床、人の気配すら感じない家、ドアの隙間から漏れる蛍光灯の白さ。

二人が居るであろうリビングのドアを開けて、妻の用意してくれる食事をーーーーー


『もう、見せないでくれ、』


湯気の立つスープ、ソファに横たわる娘、机上の自分が買ったものと同じケーキ、その机の下に倒れている妻、二人の服や下に出来ている赤いーーーー


『お前は無力だ、二人をここでも救えやしない』



「……!エル!!」

鮮明に覚えているのはここまでだ。

何が起きていたのかは、長年就いていた仕事の経験が体と脳に染み付いていたためすぐに現状を理解した。


俺の家族は、


ーーーーーーーーーーー



「ねぇ!!」

誰かの声で悪夢から引き寄せられた。

あぁ、お前か。

目の前、いや上にいるコイツの声が俺を起こしたらしい。どけ、と言って天使を視界から退かせて上体を起こす。

やけに額付近が涼しい、そう思い顔に触れるとペタリと柔らかい感触、

今まで風呂以外取ることなく付けていた仮面が外れていたせいだった。


「へぇー、あんたの顔初めて見た」

奴を見ればニヤニヤして奴もこちらを見ていた。

「なんかー、思ったより怖くないんだね」

「ほっとけ」

額の汗を袖で拭いながら体をひねり、ベット付近に落ちていた仮面を見つけて拾い、付け直す。

「そのまま、無い方がいいのに」

いつものように彼女の言葉は無視した。

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天使が降りた部屋 カラカラとる子 @karakaratoruko11

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