天使が降りた部屋
カラカラとる子
第1話
とある一室で軋む椅子に腰掛けている男がいた。
男は仮面を付け、傷んだ机に銃やナイフを並べ、その付近にあるブラシや布で手入れをしている。
そしてその男の上を白い布に身を包みふわふわと浮いている……、体つきは女性のものなので彼女と呼ぶこととしておく。
1人は雲のように宙へ浮かび、もう1人は地に着き傷だらけの手で武器のクリーニングを、という異様な空間だった。
空を泳ぐこの女性は不満を抱いているため怒りの表情を見せていた。
「ねぇ、きーいーてーるー?」
「……」
男は彼女の言葉に反応を示さずただバラバラの金属片にブラシをあてがっている。
女性は無視されていることを気にもしていないのか、もしくは無視されたことによる更なる怒りのためか、話を続ける。
「だーかーら、もうそんなお仕事辞めてさー、別のことしようよ」
「……例えば?」これまで彼女を邪魔でうるさいものだと無視していた男がめずらしく反応し、返した。
久しぶりの返答で嬉しかったのだろう。女性は笑顔を作って答える。
「んーと、銃の腕前はかなり良いから狩人とかー」
「免許を持っていないし取る気もない」
「じゃあじゃあ、お肉を的確に切り分けたりするの上手だからご飯屋さんとかー」
「この手で作ったものを誰が食べたいと思うか」
「お客さんには黙っとけばわかんないってー。だからさ、ね?」
コレに何を言っても無駄だ、そう分かっていながら言葉を返した自分に「やらかしたな、なぜ反応した?」と男は後悔していた。あまりにも鬱陶しい。
「ねー、だからさあ……」
彼女の言葉を遮るようにピロピロピロという電子音が部屋に反響する。
男の持つ携帯にメールが届いたようで、しばらくその機械を操作していた。
携帯を閉じ、上着のポケットにしまうと突然ギシリと背を逆撫でるような音をさせながら椅子から立ち上がり、調整や掃除をしていた道具を片付けて「仕事だ」
と彼女へ一言でどこへ行くかを済ませ、黒く古い机の横に置いてあったトランクを手にこの寂しい建物から出ていく
えー、と言いながら取り残された女性も慌てて空を泳ぎその後を追いかけていた。
ーーーーーーー
「……」
所変わって高層ビルの上に男は立っていた。
「ねーえ、こんな暗いのに見えるの?」
「黙ってろ、気が散る」
騒がしいのを一瞥し、そろそろだと呟いて柵に足をかけて向かいのビルに対して狙撃銃を構える。
「わ、かっこいい銃。なんて種類?ライフル?」
銃の名前なんて知らない、こんなのは使えればいい。
心の中でそう返し、息を吐いてスコープの真ん中で相手の頭を捉えて引き金を引いた。
サイレンサーを付けていたため、銃声は殆ど無かったが腕に走る衝撃が撃ったという事実を伝えていた。
ガラスの崩れる音を聞き、その向こうに立っていたターゲットを確認する。
差し込んだ月明かりは地面に伏せ、その周りに黒いシミが出来ているのを見せている。
よし、と目撃者がいないかもう一度周りを確認し、2発目に込めた弾を銃身から抜いてその場を速やかに去った。
「ねぇ、凄いんだけどさ……もう辞めようよこんなこと」
「……」
車に乗り、キーを回すまで黙っていた彼女が口を開く。
「他に楽しいこととかいっぱいあるって!本を読んだりとか、音楽を聞いたりとか、さ。」
仕事を終えて帰る最中はいつもこうだ。
自分に殺しを辞めろと訴えてくる。
放っておけ、お前には関係ないだろう。と何度か言ったことがあるがその度に下手な言葉で辞めろと促して来るため鬱陶しい。
何を言ってきても無視をしている。
せまい車内の助手席で大きく身振り手振りをする彼女は……自称天使はいつごろからか自分に付き纏っていた。
当初はなぜ自分の周りをウロウロするのか不思議でなかった。他にも、どこにでも人間はいるのに疑問だった。
なぜだと問うたこともある。
返ってきたのは「私があなたを救う天使だから」という答えになっていない答えだった。
その時の彼女の顔はなぜか今でも覚えている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます