第七話の4

4


 たしかに過去形だ。

 麻の葉をひとが吸うようになってから、繊維としての麻の人気は落ちた。

 いまではこの地方にも、ほとんど麻畑などない。

 大麻畑で戯れていて、玉藻の前の加勢に間にあわなかった九尾族の記憶をもつ美麻はしみじみといった。

「麻耶にも会ってきた。あいかわらず感動させる小説を書いていたわ。学オジサンもがんばれ、がんばれって伝えてだって。ほんとおもしろい子だわ」

 わたしはなんてうかつだったのだ。麻耶にも……にも……ということは神代寺の父たち、姪や甥たちとも美麻はあってきた。

 わかれの気持ちをこめてあってきた。長いことこの那須野が原に住み、玉藻の前の霊とともに孤独に生きてきた。そして、わたしとの10年。

 美麻すべてに、決着をつけるきでいる。……と学は悟った。

 静かにシソ餃子を食べている。

 じっと見つめていると美麻と遇ったころのことが思い出された。

 あたりまえのことだが、美麻はあのころとほとんど体型に変化がない。

 顔だって顎のあたりに少ししわがふえたくらいだ。

「攻める気なんだな」

 美麻は声を低めた。

「そうよ」

 涼しい顔で美麻が応えた。

「あいてが犬飼のひとたちでなくってよかった。武の一族と和解できてよかった。ベルゼブブがまだわたしたちにまとわりついていたとはね」

 美麻が目で玲加を呼ぶ。玲加がいちはやく美麻の気配を感じる。

「なぁに? おばさま」

「ベルゼブブもわたしたちも、武さんの一族もみんな天使だったのよ。だから悪魔になっても、あいつは翅にこだわって、蝿をじぶんのまわりに置いておくの。そのベルゼブブとこれから戦いにいく。覚悟はいいわね」

「そんな気がしていた。おばさまが、食事にみんなを誘ってくれたときから、そんな気がしていた。武たちもわかっているみたい。ハシャギかたがいつもとちがうもの……。わかっているのよ」

「玲加は肩の傷は痛まないの」

「武が湿布はってくれたからもう痛まない」

「じゃ、そろそろいきますか」

「どこへ? 人狼の若者もつれていくのか」

「かれらは戦わなくてもいい。じぶんたちの周りには、ごく身近に敵がいるということを教えておきたいの」 

「化沼のAモールにいってみましょう」

 美麻は何か考えている。

 学はワンボックスカーのハンドルをにぎった。

 玲加と武は仲間のバイクのうしろにのった。

 ふたりは再会した美麻と学をふたりだけにしてやろうとした。

 美麻にはその配慮がうれしかった。

「いいのか? 神代寺に帰るのなら、いまのうちだとおもう」

「これでいいのよ。最期までいっしょにいようと誓いあったじゃないの。わたしだけ生き長らえようなんて、まちがっていた。ごめんなさい」

「一族の掟に背くことになるのだろう」

「一か所に長く住み続けると、正体が暴露してしまうからできた掟よ。いまではパソコンの中でも吸血鬼の情報がワンサカあるわ。この世には人間いがいの亞人間もいる。そんなこと常識にっているから……」

 Aモールになにがあるのだ。

人狼の大麻ファクトリーは壊滅した。

玲加や武を襲ったフトッチョ集団があの地下に住みついている。


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