第7話の2

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「古い歌をしってるのだな」

「オババの愛唱歌でしたから」

 この間。玲加は必死で念をこらしている。

 空はますます暗く、稲妻がきらめきだした。

 車ばクリンセンターのごみ収集車の出入り口を通過した。

 その先には、ごみの集積プールがある。

 地下十メートルくらいまである巨大なコンクリートの空間。

 その底には異臭を放つ黒いごみの山。

「あそこに……ぼくらを落とす気だ。ドアも開かない。学どうします」

 落とされたらただではすまない。気絶でもしているうちに、自動的に焼却炉におしこまれてしまうだろう。

「しやあないな」

 学ハンドルから手を離す。

 どうせ、運転できないのだ。

 いや、学の手には拳銃がにぎられていた。

「こんなもの使いたくはなかったのだが」

 窓カラスが粉々に砕けた。トチビ散ったガラスの破片に注意しながら武が玲加を車からつれだす。そして学。車は暗い穴の淵でとまった。

 玲加はまだ念をこらしている。

「くるは。あいつら、くるわよ」

 グワーンというような音が穴の底がわきあがった。

 蝿の群れが黒い噴火のように虚空に吹きあがった。

「車の脇にかたまれ」

 すこしでも蝿からかくれる。

 かくしてくれる場所がほしかった。

「耳と鼻をふさげ」

 黒いうずが一本の線となって三人におそいがかる。

 ソノ瞬時、ばさばさとした羽音。

「きてくれた。昼間でも暗いからこんどは安心してきてくれた」

 玲加がうれしそうに叫ぶ。

「いまのうちに車をもどす」

 いや、車はじりじりと穴へのガードレールから後退をはじめている。

「美麻だ。美麻ホースだ。美麻の力だ」

「玲加! 玲加!! どうした。気をたしかにもて」

 玲加が武の腕の中でゲンナリしてとまった。肩に傷がある身で、forceを使いすぎてしまったのだ。武がおろおろしている。

「学どうしたらいいですか」

「心配いらない。休めば体力は回復するから。……それに……」

 二人は玲加を抱えて車に乗り込む。

「たしかにフォースの消耗が原因だとわたしもおもう」

 PCは双方性のニュータイプだ。

「PCの前によこたえて」

 二人は顔面蒼白の玲加をシートに寝かせた。冷や汗がふきだしていた。からだが小刻みに震えている。

「武さんと学を守るために、かなりムリをしたの、かわいそうに。責任感の強い子だから」

 美麻は慈愛に満ちた声で話しながら玲加にむかって念をこらしている。美麻の額のチャクラから黄金色の光が放射されて玲加の体をつつみこんでいる。

 玲加の指がピクっと動いた。

「玲加。聞こえるか。玲加」

 うなずいている。玲加に武の声がとどいたのだ。

「車をスタートさせるからな」

 窓ガラスが学の発砲で砕けている。

 冷たい風がはいってくる。

 でも、それがかきえってよかったようだ。

 玲加には涼風がいい刺激になった。

「あら、わたしどうしたの……? コウモリさんたちは……?? どこ」

「使命をはたして巣にもどっていったよ。玲加の能力はすごいや」

「武や学の役にたててうれしい」

「玲加。わたしも化沼にもどるから」

「そんなことをしたら、一族の掟をやぶることになる。美麻やめて」

「もう遅い。そちらに向かっているの」

「結婚してから10年しか、同じ場所には住めない掟を破るのですか」

 西の空に白くかかっていた月が夕暮れとともに冴えた光をおびてきた。

 武にエスコートされて玲加は薔薇園をあるいている。

 B級グルメなどとカラカワレルがアブラアゲ好きだ。

 だから、稲荷ずしが好きだ。

 この地方の特産物であるカンピョウをまいたオーソドックスな稲荷ずし。

 たらふく食べた。

 太るよ。と武にからかわれながらも大食い競争の女王になれるほど食べまくった。


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